ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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63部分:ターラの花その八
ターラの花その八
「安心しろ。みね打ちだ」
剣を鞘に納めた。
「これぞ十二神器の一つ神剣バルムンク、流石だな」
男は得意げに語る。ミーシャとアズベルは男に歩み寄ってきた。
「あの、すいません」
アズベルが声をかけた。
「ん、何かな?悪いがサインなら勘弁してくれ給え」
「そうじゃなくて・・・・・・」
「ん?」
「・・・私達解放軍なんだけど」
ミーシャが前にでてきた。
「何ィ!?」
かくして男は二人に捕まりシャナンの前に突き出された。
「私も有名になったものだな」
シャナンはクックック、と笑いながら言った。特に怒っているわけではないようだ。
「シャナン様、笑い事ではありませんぞ。この男貴方様の名を騙り何かとつまらぬ事をしていたらしいのです」
オイフェが縛られて小さくなっている男を前にシャナンをたしなめる。
「まあそう言うな。どうやら悪い奴ではなさそうだしな。そうだ、名は何というのだ?」
「・・・・・・シャナムです」
男は俯いたまま答えた。しゅんとしている。
「そうか、シャナムか。名前まで似ているな。何だか気に入ったぞ。おい、我が軍に入るつもりはないか」
「え!?」
今度はシャナムの方が驚いた。てっきり斬り捨てられるとばかり思っていたのにまさか解放軍に入るよう勧められるとは。しかも名を騙った当の本人から。
「嘘・・・・・・でしょ!?」
「嘘なものか。話を聞いたらそこそこ腕はたつし正義感もある。是非うちに入って欲しい。どうだ?」
「よ、喜んで!」
二つ返事で承諾した。元々シャナンに憧れて名を騙っていたのだし。
「しかし、私の物真似だけは止めてくれよ」
シャナンは悪戯っぽくウィンクして言った。
ターラ城とその外の無数の篝火をトラバント王は竜の背から忌々しげに見ていた。
「おのれっ、わざわざ我が軍に対して敷いておるわ。シアルフィの小僧っ子が」
「どう為されますか。夜襲を仕掛けますか?」
「無駄だな。兵力差がありすぎる。それに夜襲を察して守りをしかと固めておるわ。見よ、あの陣を」
王は暫し考えていたがやがて傍らの騎士の方へ振り向いた。
「シアルフィの小僧に伝えよ。会見の場を設けたいとな」
王は笑っていた。何か良からぬ策を計っている、それを感じさせるふてぶてしい笑みだった。
「どうしよう、オイフェ」
トラバント王の申し出はすぐにセリス達の下へ届いた。それを聞いたセリスは側に控えていたオイフェに問うた。
オイフェは暫し考え込んだ。トラバント王の奸計はよく知っているつもりだ。全く信用出来ない。だが会見の場での交渉次第ではトラキア軍をターラから撤退させ軍をレンスターに向けられる。悪い話ではない。しかしリスクも大きい。どうすべきか、オイフェは思案を巡らせた。
「場所は?」
シャナンが問うた。
「我が軍の陣中です」
使者は素っ気無く答えた。絶対何か企んでいる、オイフェは直感した。だがそれを破る策はある、決断した。
「セリス様、お受け致しましょう。トラバント王は大陸にその名を知られた御方、一度お会いしてみるのもよろしいかと存じます」
セリスはその言葉に頷いた。
「よし。使者殿」
セリスは騎士の方へ向き直った。
「トラバント王にお伝え下さい。この申し出謹んでお受け致します、と。明日の正午にはそちらへ向かいます」
「我が君の申し出お受け頂き有り難く存じます。それでは」
使者はトラキア式の敬礼をし自軍へ帰っていった。部屋を出る時微かに笑ったのをオイフェは見逃さなかった。
「オイフェ、おそらくトラバント王は何か良からぬ事を考えているね」
セリスは使者が去った後オイフェに言った。
「おそらく。あの男のやりそうな事です」
「けれども僕に会見の申し出を受けるように言ったのは何か考えがあっての事なんだろう?それは・・・・・・」
「はい、それは・・・・・・」
オイフェはセリスだけでなく諸将も集めて言った。夜が更けた。運命の陽が明けた。
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