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Exhaustive justice

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-プロローグ-徹底的な正義

この世界は腐っている。
人間達は私利私欲の為に汚い思想を撒き散らす。奴ら、いや我々人間がこの世界を汚染している。

この未来には、この現代には。全ての力が収束している。それを人間は『能力』と。或いは『才能』と示す。
それは過去の言葉では『異端』、『異常』。
だがこの世界では幽かに消えた。『異常』こそが当然のことなのだ。

無論、その言葉も完全に消え去った訳では無い。『異端』の中にも『異端(バケモノ)』は存在する。
非常に極稀だが、他の『異端』を『普通』へと変化させるほどの超越した『異常(ちから)』を持つ人間も存在する。

この物語は、汚染された世界に生まれた青年が正偽(せいぎ)(かざ)し、悪を(ただ)す。
(あく)(ゆる)さぬ、正偽(せいぎ)。徹底的な正偽を(こころ)に腐った全てを変えようとする青年の。
自壊へと、改心へと、正義へと変わっていく物語である。



私立常東高校。
その学校は地元どころか日本中にも有名な進学校である。
毎年全国から多くの学生達が受験を受けに訪れる。
『学力』『体力』『精神力』『能力』…。
その全てを鍛え、卒業の頃には完全な人間が出来上がるその学校は合格したら『勝ち組』コースが決定する、とも囁かれている。

しかし同時に素行の悪い生徒等も多く存在する。そんな進学校に何故。という話は順をおって説明しよう。
表向きにはされていないが、その学校でもっとも重要視されるべきは『能力』である。
学校側が強力な能力者を推薦し、受験をせずに入学させたケースが存在する。
しかし、それによっての他者への健康の害や身の安全は『学校側』から考慮されることはない。

何故か?
『彼ら』が、いや。
『彼』がいるからである。
悪を決して許さない彼は、当然不良達にとって、時として一般生徒達にとっても『最悪』である。
この学校で能力による大きな事件が起こらない理由、それは。

『徹底的な正義』を掲げる彼ら『風紀委員会』等によって学園が護られているからである。



「あぁ…!『奴』が…!『奴』がくる!俺達全員殺されちまうんだ!!」
ピシャリと教室のドアを勢いよく閉めて、彼ら全員青ざめた表情を見せる。

「だからあそこでやめとけばよかったんだよ!」
一人が力任せに叫ぶとそれに同調するように、或いは反論するように、或いは話も聞けないほどに恐怖して身の危険を叫ぶ者もいる。
その中、一人が
「静かにしろォ!」
と叫ぶと彼らはそれぞれ恐怖の顔を見せながら黙る。

「いくら『最凶』でも相手は一人だ!そりゃ奴の能力は強大だが俺ら全員で能力を使えば奴に勝てる可能性も…いや、勝てるんだ!」
青ざめていた彼らはその言葉に希望を見出し、不安ながらも立ち上がる。
一人を除き。

「あ、アァ…無理だ…奴に勝つなんて…無理だ…!」
先ほど恐怖し、身の危険を叫んでいた男は座り込んで頭を抱えてブルブルと震える。

「そんなもんやって見なきゃ…」
「わかるんだよォ!!」
男は咄嗟に立ち上がり真っ青な顔で取り乱して叫ぶ。
「俺は二回目なんだ!!『最凶』に病院送りにされたッ!俺の連れは奴に…」
男の声はそこで途切れ、また顔を抑えて蹲る、その表情は先ほどより数段真っ青にただ廊下側を凝視している。

他の者等もそれに気づく、「カツン、カツン」と廊下から足音が響く。それはゆったりと近づいて来ている。
足音が近くなる度に男達の顔色も優れ無いものとなって行く。

やがて足音が扉の前で聞こえなくなると男達は身動きも取らずに場は静まり返る。
彼らの心臓の鼓動が挙動不審に、大きな音でリズムを取らずに響き出す。
やがて、扉側にいた男が怖気付いて後ずさった瞬間。

盛大な爆発音と共に扉が大破して吹き飛ぶ、それを合図に彼らも異能を行使する。

響き渡る銃声。「カランカラン」と響く簡素な音。轟音。教室のガラスがすべて砕ける。叫びと共に舞う血飛沫。打撃音。駆動音。悲鳴と混じって唸るチェーンソー。


数分後には、
静寂と共に煙が晴れるとそこに立っていたのは真っ白の将校服にマントをたなびかせている青年。
背景は一変しており、先ず目に飛び込むのは赤に塗り潰されたされた教室。割れながらも少量の光を漏らす蛍光灯や衝撃によって全壊した役目を成さなくなった窓。
その足下に倒れている男は頭から多量の血液を流し、身体中に切り傷や銃痕が刻まれ、傷口から骨が飛び出し、腸に深くチェーンソーが刺さっている。
他にも数人の男達が顔を潰され、腸をブチ撒けて、眼球を零して、骨が砕かれ、嘔吐と共に多量の吐血を吐き出して倒れている。
唯一、傷が浅かったらしい男が「ヒッ…」と短な嗚咽を漏らして数の足らない足を彼に向けて、千切れかけの右腕と左腕を使って後ずさる。
腰を損傷しているのか腰が抜けてしまったのか立つことは不可能なようだ。

『彼』が視線を向けると再び呻き、吐瀉物を撒き散らして後ずさる。
そんなことも気にせず、『彼』はその男の元へ無言で歩く。

「来るな…来るなぁ…、来ないでくれぇ…」
男の顔は涙でぐしょぐしょになり、血と涙と吐瀉物で汚れた顔を見て『彼』も気分を害する。
「…三年の丹代彩輝だな」

男は質問に応えずに涙を流して絞り出すように命乞いを繰り返す。
「貴様ら犯罪グループは闇サイトと詐欺サイトを利用して、脅迫。何人もの生徒から多額の金を恐喝していたそうだな」

「お、俺は!俺は手を引こうと思ったんだ!だ、だけどあいつらが…」
「…実行した時点でお前は、奴らの仲間だ。最初から止めようとしない、抜けようともしない。金の欲しさにお前も行動を起こしたのだろう?」
『彼』は帽子を深く被る。
男は顔をあげることも出来ずにただ震え上がる。

「お、俺は…!ま…魔が差しただけなんだ!俺だってそ、そんなことしたくなかったさ!だけど…しょうがないだろ!それが人間の欲なんだ!!俺達は、も、…もう反省したさ!だから…!」

「…なぁ」
男が震えながら顔をあげると同時にその震えは止まる。


「貴様は豚や牛の命乞いに耳を貸したことがあるか?」
目が合った『彼』の目つきは、軽蔑の目線でなければ怒りの目線でもない。
何も感じていない。

澄んだ一声の後には、教室だけでなく校舎中に絶叫が響きわたった。



これが『彼』の正義。
見せかけの改心など必要ない、身体に覚えさせてやるのだ。
それこそが風紀委員会長の彼の思想。
『徹底的な正義』であった。



『彼』は真っ白なスマートフォンを耳に当てて窓の外を見ている。
「こちらは完全に完了した。救急車も呼んだ。死傷者もゼロ」

「…なに?女生徒が拉致られただと?」

「…了解した。今すぐにそこへ向かう、後処理を頼む」
スマートフォンの電源を落としてポケットに入れる。

凄惨な教室を尻目に、彼はそこを離れて行った。 
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