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kissはいつでも無責任!

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えっ、ハーレムですって? ナニソレウマイノー?

 相変わらず温度は高く暑苦しさも健在だ。しかし家の近くで訴えるかのようにミンミンと鳴く蝉の声はこの頃減った。秋へのカウントダウンは既にスタートしているのだろうか。

 9月1日。小学・中学・高校の夏休みは昨日をもって終了。どこの学校にせよ、ここから新学期が運営を開始していく。かくして僕もまた――編入先の学校が決まったので、本日より高校生復帰である。

 だが……。

「AHAHAHAHA!」

 もう笑うしかない。結論から述べると、僕の新たな学舎は――ここ、浦の星女学院だ。想定外すぎた。受けたら編入試験を合格(パス)できてしまうとは。男子だからって優遇ですか、えぇ?
 そういうワケで、僕は今日からここの正式な生徒となる。なんてこったい。

 初日というのもあり、警戒してかなり早めに登校した僕は今……理事長室目指して学院内の廊下を歩いている。配属されるという教室に出向いて様子見しておきたいのはやまやまだが、まずは先にそっちへ行ってからだ。入学手続きは夏休み終盤に済ませてあるが、まだ直接伝えなければならない細かい説明があるそうで、僕は呼び出しを受けている。『始業式当日、登校したら理事長へ』という伝達はあらかじめ合格をもらった時に通知されていたので、特に戸惑うことはなかった。

 そんなことより。その辺にいる女子たちが僕を目にして、

「誰だろ、不審者かな……」
「さぁ?」

 みたいなことを呟く方がよっぽど気になるのだが!? 僕泣いちゃうぞ? 人生こんなハズじゃなかったのに。
 ちなみに格好はちゃーんと男子生徒用の特注制服を着ているので安心。いやいや、そのまま女学院の制服着たら確実に不審者でしょうよ。すでにそういう扱いにされつつあるけど!

 (悲しくなる)視姦のせいで延々と長く感じた廊下を進み、僕はやっとこさ目的の理事長室に到着した。

「ったく、理事長がどんな人なのか楽しみだぜ……どうせエロおやじっぽい容貌なんだろうなぁ」

 無礼にも程がある偏見をこっそり吐露し、僕はドアをノックする。

「どうぞ~」

 少しの間を置いて女性の声がドア越しから返ってきた。どうやら理事長は女性のようだ。

「失礼します」

 僕はドアノブを回して中に入った。さすがは理事長室、ちょっと広い。たくさんの書類がずらりとおさめてある大きな戸棚が左右に並んでおり、その上にはいくらかの賞状がある。そして目の先にかまえられている横長の木製机に、当の本人が――って!!

「なぜこんなところに生徒さんが!? 怒られるぞ!」

 焦ったために突っ込まずにはいられなかった。なんと理事長のが着席する場所に、ハーフっぽい外見の金髪の生徒が堂々と座っていたからだ。だが彼女は動じることなく微笑むと、こう言った。

「私が理事長よ」
「はい?」

 この娘は何を言っているんだ。閉口して僕は首を傾げる。

「だから私!」
「え、もしやあなたが理事長と?」
「そう!」
「マジかッ……す、すみませんでした!」

 正直生徒が学校の長なんて聞いたことないが、瞬時に頭を下げる。切り替え大事。理事長は全く気に留めない様子で「いいのいいの」と僕を制止した。なるほど、寛大な人なのかもしれない。

「じゃあ改めて……私は小原鞠莉、気軽にマリーと呼んでちょうだい!」
「あっ、はい……」

 ……あと、底抜けに明るくて行動が読めない人でもありそうだ。



●○●○●○



 その後、諸注意も含め理事長(マリー)より説明をしてもらった。ちょくちょくいじられたりもしたが……まあ楽しかった。時々発音の良い英語が彼女の口から不意に飛び出すものだから、思わず笑ってしまいそうで堪えるのが大変だった。

あれから結局教室ではなく、僕は体育館の幕間にいる。さあさあ勝負どころ……ただいまから全体集会のお時間だぜ!
 というのも。僕は編入生しかも学院始まって以来初の男子生徒なので、理事長いわく体育館で軽く自己紹介して欲しいとのこと。そんな話は本日まで全く聞いてなかったので準備は全く無いのだが、あまり緊張はしていない。僕は僕なのだ。この場で殺されるわけでもあるまいし、そう考えれば恐れるに値しない。ただ静かに待機するまでである。

『それでは編入生の旗口大颯君、よろしくお願いします』

 今日のおやつは何を食べようかと考えるうち、アナウンスがかかった。向こう側でパチパチと多数の手による拍手が鳴っている。

僕は幕を抜けて進む。よし、帰ったらおやつはせんべいにしよう。

 そうして講演台の前に立った。台は触りたくなるぐらいピカピカに磨いてあってわりと感動した。でも最も驚いたのは目の前の風景。存在する生徒が実際に女子しかいないことだった。春から募集はしていたのだろうが、本当に男子が居ないなんて……。なお、生徒数も明らかに少ない。1年生は特にだ。

 ――浦の星(ここ)、下手したら廃校寸前だったり?

 動揺したが、僕は気を取り直してマイクを取る。黙りっぱなしでは集会が成り立たない。

『あー、あー。マイクよし! ハイ皆さん、おっはようございまーす!!』

 ひとまず陽気な調子で挨拶してみる。マイクで拡張した声量が館内全体に響き渡り、案の定、シーンとした静寂が起こった。
 ところが暫くの間を置いて、口々におはようございますがreturnしてきた。地味に嬉しいことである。おっといけない、無意識に理事長のクセがうつっていたぜ。とにかく演説続行だ。

『この2学期より編入することになりました――旗口大颯といいます。さっき廊下ですれ違った人もいることでしょう。さっきヒソヒソと変質者とか噂していたあなた、僕はそうじゃありませんからねーっ!! 』

 ハイテンションではっちゃけてみると、おそらくその犯人であろう娘が吹き出した。やがて感染するように笑いが広がっていき、館内が和やかムードに包まれた。完全に予想外である。掴みは悪くなさそうだ。見たか! 変質者でもやれば出来るんだぜ!!

『まだまだ右も左もわかっていない新参者ですが、色々教えてくれたら嬉しいです。これからどうぞよろしくお願い致します!』

 シメのセリフを紡ぎ、一礼する。喝采が巻き起こった。控えめに言って大成功だ。これで残るは集会があろうとなかろうと元々から皆に伝えようと思っていたことを告げるのみである。

 マイクを戻す前に、僕はできる限りの笑顔で宣言した。









『あと――僕には、惚れないでくださいね?』


 体育館が凍りついた。




○●○●○●




「女の子ばっかりで緊張しない?」
「しますけど……じきに慣れますよ」
「頼もしいわね」

 集会は終わり、僕は担任となる先生と他愛もない話を交わしながら、自分が配属される教室へ向かっていた。各教室の前を通るたび、中から女子の視線が刺さってくる。決してあたたかいものではない。

 演説の結末はどうなったかというと……そりゃもうしらけたとも。あの発言をした途端、だいたいの人が『きもっ、ナルシスト?』とか『この人頭大丈夫?』みたいな表情をした。幕間へ消える僕を見守る反応は他にも様々だったが、構うことはない。

 発動すれば厄介極まりないこの能力がある以上、意地でもああ言っておく必要があった。距離を作っておくのだ。所詮僕は平凡なビジュアル、青春への発展はきっと薄い。それでも、万が一女の子が僕に興味を持ったりなんかしたら――どうしても迷惑をかけてしまうだろう。だから皆に「なんなのこの人」という認識を植えつける。こうしておいて……学院の女の子と親密になる可能性をぐっと狭くする。言うなればリスク潰し。

 おかげで足取りが軽い。不安要素は取り除けた。昔はこういうことをする自分が打算的だとかよく嫌悪に陥ったりもしたけれど、被害者が出ないなら儲けもの。恋なんて二の次、いいや三の次。

「あなたのクラスはここね。それと……集会でしたばっかりで悪いけど、クラスでも一度自己紹介してくれるかな?」

 と、先生が立ち止まったと思ったらこんな断りをいれてきた。見上げるとクラスを示すプレートには『2-A』とあった。もう着いたのか、早いものだ。僕は少し反応に遅れつつ首肯した。

「ありがとう。じゃあちょっとここで待ってて」

 先生は扉を開けて教室に入っていった。暇なので再自己紹介用のネタでも考えることにする。

「はーい皆静かに。編入生の旗口君はここのクラスに所属することなりましたので、今から彼に少しお話ししてもらいます」

 ……時間切れ。そこそこ練った末、特に話のタネは思い付かなかった。集会時と似たり寄ったりの紹介になりそうだが、さほど難しいことは喋らなくてもいいだろう。こういう時はフィーリングでいけばいいのだ。

「旗口君、入ってきてください」

 先生の合図を確認し、僕は比較的余裕な気持ちで教室に入り込む。慌てることもない。もう気儘に高校ライフを過ごせばいいだけなのだから。


「さっきぶりで――すねっ!?」


 ――しかしながら程よく力の抜けた僕の切り出しは、教室の面々を目にするなり、まるでマシュマロが鉄に一瞬で変わったかのようにその柔らかさを失なった。

 まさかのだった。後列の方に、居たのだ。
 演説の際は集中していて気付かなかった。幸か不幸か――よりによってここ、浦の星女学院で再会してしまった。

 蒼く輝く瞳に、可愛らしい顔立ち。まだまだ成長を予感させるも、出るとこは出て引き締まったスタイルをした少女……夏休み、たまたま僕と不本意の縁を結ぶことになってしまった、あの少女(能力の被害者)――。


 渡辺曜に。
 
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