四葉の双璧
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一年生
横浜騒乱編
其ノ壹/再来
前書き
あまりにも酷かったんで、書き直しました。
最初からです。
[00]
魔法。
それが伝説や御伽噺の産物では無くなったのはいつのことだっただろうか。
確認されている最初の記録は、一九九九年に人類滅亡という預言を実現しようとした狂信者集団の核兵器テロを特別な力を持った警官が阻止したという、あの事件だ。
当時、その力は『超能力』と呼ばれていた。純粋に、先天的な、突然変異によって備わる能力であり、それの共有、及び普及可能な技術体系化は不可能である、と。
が、その認識は間違えだった。
東西の有力国家が、『超能力』の研究を進めていく内に、『魔法』を伝える者達が少しずつだが、現れてきた。
彼らの手によって、『超能力』は『魔法』で再現可能となった。
超能力は魔法によって技術体系化され、魔法は技能となった。『超能力者』は『魔法技能士』———通称『魔法師』となった。
核兵器すら、いとも簡単にねじ伏せてしまう強力な魔法師は、国家にとって平気であり、力そのものだ。
二一世紀末———西暦二〇九五年を迎えても未だ統一される気配すら見せぬ世界の各国は、魔法師の育成に挙って取り組んでいる。
そして。
公的な記録は残されていないが、二〇八〇年四月五日。
日本に、世界最強の魔法師は、産まれた。
彼は、世界で最も強く、世界で最も恐れられ、世界で最も狂っている人間———最強最恐最狂の魔法師だった。
産まれは四葉家。
現当主、四葉真夜の息子。
二種類の戦略級魔法を使いこなす彼は、三年の空白の後、再び動き出す。
彼の名前は、四葉貴将。
さあ、伝説が幕を開ける。
[01]
二〇九五年十月三十日。
開催地の横浜には、多くの魔法師が集まっている。
その中でも二人、異色の人間が居た。
リムジンで迎えられ、横浜の魔法協会支部に入って行く女性の名前は、四葉真夜、四葉深夜。
秘密主義の四葉家の現当主と前当主であり、表に姿を見せる事は殆どないと呼ばれた彼女たちが、今回のコンペを見に来ていた。
なぜか。
その理由は、彼女たちと、とある秘密を知る、極々少数の人物しか、知らない。
「全く、これほど間近に迫ってから、メンバーチェンジなんて…。やめてほしいわね」
「全くよ。おかげで、こんなにも堂々と来なきゃ行けなくなったじゃない」
そんな会話をしながら、彼女たちは協会内に入ったという。
達也と深雪は、特段トラブルもなく、予定通りに会場に着いた。
道路が空いていたのか、舞台装置を乗せたトレーラーは既に機材を降ろした後の様だ。
五十里や花音も先に到着している。
唯一心配すべき事と言えば、達也の家族がバカな事をしないかだけだろう。
そんな風に目の前の現実から目を背けているが、それも長くは続かなかった。
「お兄様、そろそろなんとかしたほうがいいのでは…?」
達也に遠慮せずに話しかけられる数少ない人間の一人である深雪がおずおずとだが、達也に現実を突きつけてきたのだ。
「あぁ…。めんどくさいな…」
ボソッと呟きながらも、達也は現場に近づいていく。
その現場では何が起こっているのか。
エリカと花音が啀み合っていた。
「どうしたんですか?」
「「コイツが!!」」
二人が同時に達也を見て、声を張り上げる。
そしてその同時もいらただしいのか、また啀み合う。
はあ、と達也が息を吐くのも、仕方のない事かもしれない。
[02]
コンペ会場の通信ブースでは、藤林が会場の襲撃が「あり得る」では済まされない報せを受け取っていた。
風間からの緊急コールを受け、空きのブースを探し、他人に聞かれる心配が無くなってコールバックした彼女の音声通信ユニットから伝えられた言葉は。
「呂剛虎に逃げられた!?失礼ながら、確かな情報ですか?」
『信じたくない気持ちはわかるが、確かだ』
回線越しの声は、冗談を言っている声ではない。そもそも、風間はこんな質の悪い冗談は言わない。
『横須賀に向かっている途中の護送車が襲撃を受けた。生存者はいない』
「そして呂剛虎の死体も無かったという事ですね…。協会内の十師族には連絡を?」
『四葉には。特尉の参戦許可と、最悪、彼にも出張ってもらわなければならないからな。だが、それ以外はまだだ』
「それでは、小官が、連絡を…」
『ああ、頼んだぞ、少尉』
風間の指示に、見えないとは知りながら、藤林は敬礼した。
協会内。
真夜と深夜は、風間からの通信を受けて、悩んでいた。
原因は、最悪の場合、自らの力で枷を破って出てくるであろう、四葉貴将についてだった。
「どうしましょうかね…」
「もう、早めにきーくんを呼んでおく?」
真夜の提案に、深夜は反対する。
「ダメよ。貴将はまだ外に出すべきじゃないわ。…でも、準備くらいはしててもいいかもね」
最後に、深夜が意見を曲げたのは、真夜が一瞬でシュン、と落ち込んだからだ。
姉として、妹が落ち込むのは見れないらしい。こういうところは、人間らしい。
「じゃあ、葉山さんに準備だけ、させとくわね」
深夜の言葉を聞き、一瞬で表情が反転した真夜は、深夜の気分が変わらない内に、と急いで電話するのだった。
時刻は午前三時。第一高代表チームのプレゼンテーションは予定通りに始まった。
テーマは、「重力制御型核熱融合炉」。
リーダーは鈴音。達也は、補助。
発表は淡々と進んでいき、そしてこう締めくくられた。
「現時点では、この実験機を動かし続ける為に高ランクの魔法師が必要ですが、エネルギー回収効率の向上と設置型魔法による代替で、いずれは点火に魔法師を必要とするだけの重力制御型核熱融合炉が実現できると確信します」
そして、割れんばかりの拍手が送られる。
鈴音も、五十里も、達也も、真由美も、一高生も。全員が、笑顔だった。
論文コンペの発表時間は三十分、交代時間は十分。その十分間という僅かな時間で、前の組はデモ装置を片付け、次の組は舞台のセッティングを終わらせなければならない。各校に代表とサポーターは、発表よりも寧ろ、この入れ替えの作業の方が忙しい。
そんな忙しい十分間、吉祥寺は、達也の方にやってきて、高らかに宣言する。
「僕たちも負けないよ。いや、今度こそ君に勝つ」
ふっ、と達也が珍しく笑い、言葉を返そうとする。
その時。
轟音と振動が、会場を揺るがした。
[03]
『サ゛サ゛…警告…、サ゛…対象ノ、拘束…サ゛…失敗…』
音声機能が壊れたのか、四葉特製の拘束用ロボットから、ノイズが混じった音が聞こえる。そのロボットは、半壊していた。寧ろ、その状態で音声機能が完全に壊れていない事について、驚いてもいい程に。
そんな状態のロボットを、少年———四葉貴将が、蹴り上げる。
「邪魔しやがって…」
そして、落ちてきたところを、踏み潰した。臓器の代わりに部品が。血液の代わりにオイルが飛び散る。しかし、そんな事には気を向けず、意識を魔法式の展開に向ける。
貴将の体の周りの想子が、ブワリと巻き上がり、尋常じゃないほどの量になる。
「さて、粗方掃除も終わったし…」
そう呟いた少年の頭上が、マグマの様に、光と熱を帯び出す。
そして、溶け出し、上に向けて押されていき。
少年は、呟く。
「往こうか」
旧長野県に近い、旧山梨県の山。
その奥、人里離れた村の中心で、街中で起これば大被害待った無しの大爆発が起きた。
現時刻、西暦二〇九五年十月三十日午後三時三十分。
後世において、人類史の転換期とされる「灼熱のハロウィン」。その発端となった「横浜事変」は、この時刻に発生したとされている。
また、同刻、四葉家最高機密、四葉家所属戦略級魔法師の、戦略級魔法師用監獄『ナルヴィ』からの脱走が確認された。
[04]
爆音が響きわたる中、一高の論文コンペを聴きに来た真夜と深夜は、最悪の報せを葉山から受けた。
「なっ!?きーくんが脱走!?」
「それは本当!?…は?擬似瞬間移動で高速移動中!?」
四葉の最高機密を大声でばら撒く程動揺している二人の声を聞き、達也と深雪、真由美の目の色が変わる。
「な…、貴将が?」
「貴将お兄様が…!?」
「貴将くんが!?」
三者三様に、驚愕の表情を浮かべ、慌て出す。テロの心配を差し置いて。
達也は自分のCADをチェックしだし、深雪と真由美は服装の乱れを直し始めた。
そんな三人を見ながら、一高の生徒は困惑の表情を浮かべる。
それは仕方のないことだろう。常に余裕を持って物事に接している風な三人が挙って慌てだしたのだから。
と、客席から真夜と深夜が慌ただしく降りてきた。
「たーくん、まーちゃん、真由美ちゃん!きーくんが来るわ!移動手段は擬似瞬間移動、天井からここに突撃してくると思うから、万が一周りに被害が出ない様に———」
一高の生徒の驚愕が、真夜が達也たちに話しかけた事で上書きされる前に、そして真夜の言葉を遮る形で、銃声が轟く。
銃弾がステージの後壁に食い込んだ。
その威力から、達也が推定するに対魔法師用ハイパワーライフル。
たかだかチンピラが持つものとは考え難い。故に大亜連合だろう、と達也は一瞬で考える。さっきまで慌ててたくせに。
「大人しくしろっ!」
その怒声は何処か辿辿しさを感じさせた。外国人であるとしても、入国してきたのは最近の事であると素人目でもわかるほどだった。
それを聞き、達也は、やはり大陸の人間か、と思った。つまり確信したのだ。
「お義母様、貴将の到着まで、後どれくらいですか?」
小声で、彼は深夜に聞く。
意図は、自分で始末した方が早いか、貴将を待つ方が早いかを見極めるためだった。
「待ってね。…え、ちょ、え!?」
それに対する答えは、最初は小声、後の方は叫び声であった。
当然、それを聞き、テロリストはそちらに注目する。
「おい、そこのオマ———」
と。
天井が突如蒸発し、膨大な、想子の嵐が降ってきて。
「呼ばれて飛び出てどんどこどーん」
貴将の声と共に、音を伴わず、閃光が会場を埋め尽くした。
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