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ポーリーヌ

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第二章

「そもそもそなたは何だ」
「兄上の妹です」
「フランス皇帝のな」
「皇帝の妹だからですか」
「軽挙妄動は慎め」
 絶対にとだ、ナポレオンは妹に厳しい声で言った。
「いいな」
「それは兄上が皇帝になられる前から言っておられますが」
「その頃からそなたの素行が悪いからだ」 
 だからだとだ、ナポレオンは妹を叱った。
「母上も心配されているぞ」
「お母様も」
「そうだ、しかしどうせまただな」
「ですからこれ位はいいではないですか」
「全く、反省しない奴だ」
 ナポレオンはしれっとしているどころか軽く笑ってさえいて己の前にいるポーリーヌに対してまた言った。
「そんなことでいいと思っているのか」
「はい、特に問題はないと」
「やれやれだ、しかしもういい」
「お説教は」
「去るのだ、しかしまた何かすればだ」
 その時はともだ、一応釘は刺した。
「怒るからな」
「わかりました」
「このことは、か」
「はい、よく」
「しかし遊びは続けるな」
「好きですから」
「本当に困った奴だ」
 こう言うがナポレオンは妹を己の前から去らせた、そしてだった。
 彼女が去った後でだ、侍従達にこう言ったのだった。
「仕方のない奴だ、しかしだ」
「それでもですね」
「ポーリーヌ様は」
「嫌いではない」
 ナポレオンの偽らざる本音だった。
「決してな」
「むしろ可愛がっておられますね」
「それも常に」
「そうされていますね」
「うむ」
 侍従達に否定せずに答えた。
「どうしても嫌いになれない」
「ご兄弟姉妹の中でもですね」
「ポーリーヌ様がとりわけですね」
「お好きですね」
「そうだ、一番困った者だが」
 兄弟姉妹の中でもというのだ。
「決してな」
「大事に思っておられる」
「そうなのですね」
「その通りだ、ああした者だが」
 全く反省しないがというのだ。
「嫌いではない」
「左様ですね」
「ではまた何かあれば」
「その時は、ですか」
「言われますか」
「それだけに留める、しかし余に何かあれば」
 その時のことをだ、ナポレオンはふと思って侍従達に言った。
「あいつはどうするだろうか」
「それは」
「どうでしょうか」
「決して悪い方ではないですが」
「しかしいい加減な娘だ」
 このことは事実だからだというのだ。
「余に甘えて、そして実は何も出来ない」
「そうした方だからこそ」
「陛下に何かあればですか」
「その時は」
「どうなるか、まあもっともだ」
 ここでだ、ナポレオンは少し達観した様に冷めた笑みになってだ。侍従達に対してこうしたことも言ったのだった。 
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