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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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221部分:闇の血脈その四


闇の血脈その四

「シアルフィ軍の待つユングヴィへ向かわれるおつもりでしょう。我々も御供させて下さい」
 フォードが言った。
「そなた達・・・・・・。軍は解散したと言った筈だが」
「何を冷たい事を言われるんですか」
 ザッカリアは主君の言葉を笑い飛ばして言った。
「我等炎騎士団は陛下に忠誠を誓ったのです。陛下ご自身に」
 ラダメスも言った。
「私に・・・・・・?主君を暗殺しその罪を無実の罪に着せた簒奪者の私にか?聖戦士の血を引きながら暗黒教団と手を結び大陸を血の天幕で覆った私にか?」
 アルヴィスは半ば自嘲するように言った。
「守護神にまで見放され神器も使えず暗黒神の血脈しか残っていない私にか?」
「それが一体どうしたというのです」
 ジェルモンは主の言葉を打ち消した。
「陛下は他の大陸より流れ着いた者や奴隷の者であろうとも暖かく迎えられ重く用いて下さいました。奴隷を解放し貴族の横暴を抑え弱き者達に生き方と力を活かす道を示して下さいました。今の我等があるのも陛下の御力あってのことです。その御恩を忘れたことは一日たりともありませぬ」
 キンボイスが言った。彼は元々はヴェルトマーの闘技場に売り飛ばされた剣奴隷であった。
「ここにいる者は皆陛下と共に生き共に死ぬ事を望んでいる者達ばかりです。炎騎士団三十三万ヴァルハラまで陛下の剣となり盾となりましょう。そうであろう、皆の者!」
 アイーダの声に三十三万の将兵が一斉に応えた。その声が夜のシアルフィに木霊する。
「そなた達・・・・・・」
 アルヴィスはこの時ようやく悟った。自分を信じついてきてくれる者がこれだけいるという事の幸福と有り難さを。そして今までそれに気付こうとしなかった己の独りよがりと思い上がりを。
(本当に愚かな男だな、私は。今まで側にこれだけ私を信じついてきてくれる者達がいたというのに気付くこともなく生きてきたのだからな)
 顔を上げた。目の前には瞳を輝かせアルヴィスを見る将兵達がいる。彼の口から命令が発せられるのを今かと待ち望んでいるのが解かった。
「全軍すぐに出撃の準備に取り掛かれ。我がグランベル帝国に反旗を翻す反逆の輩達を殲滅する」
「進撃する場所は?」
 アルヴィスはフェリペの問いに対し会心の笑みで答えた。
「決まっていよう、ユングヴィだ。あの地に集結しこのシアルフィを奪わんとするシアルフィ軍を撃破し帝国千年の礎を築くのだ!」
 アルヴィスの言葉に帝国軍の将兵達が地を揺るがさんばかりの大歓声で応えた。やがてその歓声は皇帝万歳、皇帝万歳の合唱となっていった。
ーユングヴィ北東解放軍野営地ー
 帝国軍動く、の報はユングヴィ北東において陣を張る解放軍の許にすぐに届いた。セリスはその報を本陣に置かれた大天幕の中で受けた。
 大天幕の中には解放軍の諸将が集まっていた。その中には円卓や椅子は置かれてはいなかった。燭台に照らされた中には端々に解放軍の旗が立てられ諸将はその中で武装したまま立っている。これといって整然と並んでいるわけではない。だが盟主であるセリスは後ろに掛けられたシアルフィの軍旗を背に解放軍の中心であるシャナン、オイフェ、そしてレヴィン等と共に上座といってよい場所に立っていた。
 諸将はセリスの口から来るべき時が来た事が告げられるのを固唾を飲んで待っていた。そしてセリスの口がゆっくりと開かれた。
「皆、心して聞いて欲しい。たった今帝国軍がこのユングヴィに向けて進軍してきているとの報告が入った」
 場がさらに静まり緊迫し、空気がその度合いを一層高めた。セリスは一同を見渡した後話を再開した。
「兵力は三十三万、全ての兵力を投入してきた。そしてヴェルトマーの大軍旗が掲げられている」
 それが何を意味するか、解らぬ者はいなかった。
「帝国軍は我が軍の奇襲に警戒しつつ進撃してきている。あと数日でこのユングヴィに達するだろう」
 さらに続ける。
「我が軍としてはこのまま手をこまねいているわけにはいかない。全軍をもって帝国軍を迎撃する」
 そこまで言うと一息つき目を閉じた。そして目を開くと声量を高めて言った。
「出撃は明朝、皆今日はゆっくりと休んで英気を養ってくれ」
 腰に吊り下げているティルフィングに手を掛けた。そしてそのままサッと引き抜き右手で高々と掲げた。白銀の光が辺りを照らす。
「この戦いでユグドラルの運命が決する。皆、持っている力を全て出し切るつもりでこの戦いに挑んでくれ!」
「おおーーーーーーっ!」
 一同その手にする武器や拳を掲げ叫ぶ。それは勝利を手にせんと奮い立つエインヘリャルの雄叫びのようであった。
 翌日日の出と共に解放軍は陣を発った。黄金色の光がその進軍を照らす。戦史に永遠にその名を残し後世の多くの芸術家達に描かれてきた『シアルフィ平原の戦い』がいよいよ幕を開けようとしていた。
 
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