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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic25-B航空空母アンドレアルフス攻略戦~Alpine Family~

†††Sideキャロ†††

私とエリオ君とシグナム副隊長のライトニング、それにすずかさんとシャルさんとトーレ一尉の6人は、“聖王のゆりかご”の無防備な後方を護る護衛艦・“アンドレアルフス”の攻略を任された。そして今、艦内に突入するべく滑走路に向かってる途中。

――レイストーム――

そんな中、本当の姿に戻ってるフリードの鞍に跨ってる私とエリオ君へと敵の光線が向かって来た。光線を避けるために手綱を握るエリオ君(今ではすっかりフリードと仲良しだ)が、フリードに回避行動を取らせようとした時・・・

――光牙烈閃刃――

真紅色の砲撃が私たちと光線の間を通り抜けて、光線を全て掻き消してくれて行った。砲撃で私たちを護ってくれたシャルさんが「エリオ、キャロ、そのまま往って!」そう言ってくれたから、私とエリオ君は「はいっ!」頷き返した。

「エリオ君!」

「うん!」

先に滑走路に降り立ってたシグナム副隊長とすずかさんに続いて、私たちも滑走路に降り立つことが出来た。私は「ありがとう、フリード」って首筋を撫でて、いつもの小さな姿に戻してあげる。

「スノーホワイト。艦内ヘ入るための入り口を探して」

≪かしこまりましたわ≫

すずかさんが両手にはめたグローブ型のブーストデバイス・“スノーホワイト”に指示を出した。滑走路は全長1km後半、幅は800m、高さは10mくらいあるから、入口を探すのも一苦労しそう。

「イレギュラリティソナー!」

滑走路の床に両手を付いたすずかさんを中心にして魔力波が円形状に這うように放たれて、滑走路内すべてを通過した。そして「こっちです!」すずかさんが駆け出したから私たちも追った。すずかさんが滑走路の中央部で立ち止まるとしゃがみ込んで、「ここにハッチがあります」床に手を這わせた。するとプシュッと音を出しながらハッチが開いた。

「内部には防衛戦力が控えていると思われる。シャルやトーレが揃うのを待っていたいが・・・」

シグナム副隊長が艦体後方を見やった。さっきの光線が空を縦横無尽に通過して行ってて、すごく激しい戦闘だって判る。エリオ君が「どうしましょう?」って訊ねたところで、「我々もご一緒します!」滑走路の前方から、20人くらいの武装隊員が来てくれてた。

「第2003航空武装隊、2班と3班です」

「よかったです。通信や念話を入れてたんですけど繋がらなかったので、何かあったのかと不安でしたが・・・」

ある隊員さんにそう言われてシグナム副隊長も「なるほど。これは妨害が働いているのか」確認したみたい。外部との通信や念話が妨害されてるって。

「本局や教会騎士団から新しく援軍が来てくれましたので、少し戦力に空きが出て来たんです」

「そうか。ではよろしく頼む!」

シグナム副隊長の敬礼に「お願いします!」武装隊のみなさんも敬礼した。そうして私たちはハッチから艦内に突入。通路は大人が5人が横に並んで歩けるほどで、5人ずつに分かれて艦内を探索開始。私たちはもちろん、シグナム副隊長とエリオ君とすずかさん、それにフリード。

「一先ず我々はブリッジへ向かおう。アンドレアルフスを操っている何者かが必ず居るはずだ」

出撃前に“アンドレアルフス”の生命反応探査で、ブリッジ周辺に生命反応が固まってるのは判明してる。メガーヌ准陸尉とルーテシアちゃん、リヴィアちゃん、融合騎のアギトの4つ、そしてあと1つがブリッジから。その1つがきっとこの艦を動かしてる人・・・。

(ルーちゃん、リヴィーちゃん・・・)

私たちの最優先任務は艦の制圧。防衛戦力は可能な限り後回しにすることになってる。だから私やエリオ君と年の近いあの2人とは、ちゃんとお話しが出来ないかもしれないっていうのがちょっと心配。

(助けてあげたい。洗脳されて戦わされてるんなら・・・!)

入り組んだ通路内を走りながら私はギュッと両手を握りしめる。隣を走るエリオ君をチラッと見ようとしたところで、「きゃ・・・?」目の前が真っ白に光って、一瞬の浮遊感に襲われた。そして気が付けば「ここは・・・?」さっきまで走ってた通路じゃなくて大きな空間。

「キャロ!」

「エリオ君!」

側にはエリオ君が居て、1人じゃないことに心底ホッとした。でもシグナム副隊長とすずかさんの姿はなかった。不安になりそうな私たちに「侵入者はやっぱりあなた達だったんだ~」そう声を掛けて来たのは・・・

「ルーちゃん・・・!」

「リヴィー・・・!」

私とエリオ君で助けてあげたいって考えてた双子の姉妹、ルーちゃんとリヴィーちゃんの2人だった。2人は私たちのところにまでゆっくり歩いて来てから、「お話しがしたいの!」って話しかける。

「話? どうする? お姉ちゃん」

「うーん。私たちの目的は、侵入者の撃退だから・・・」

ルーちゃんとリヴィーちゃんは同時に腕を組んで唸った。双子なんだな~って思えるほどにシンクロしてる。でも言ってることは物騒で、黙ってたらそのまま戦闘開始に陥りそうだったから「あのね!」慌てて声を掛ける。

「ぼ、僕たちは、君たちを助けてあげたいんだ!」

「私たちを助ける?」

「何を助けるの? 私たちは何も困ってないけど・・・」

洗脳されてるから当然の返答なんだろうけど、だからこそ私たちが止めてあげたい。こんな今の状況に何の疑問を持たずに戦いを強いられてるなんて、いくらなんでも酷過ぎる。

「話っていうのがそれだけなら・・・」

≪Mode Combat≫

リヴィーちゃんのグローブ型デバイスからそんな声が発せられると、ツインテールのセーラー服からポニーテールのロングコートに変わった。その形態は解析からして近接格闘戦に優れてるって判明してる。エリオ君もその・・・コテンパンにされちゃったし。

――トーデスドルヒ――

ルーちゃんの側に短剣型射撃魔法が8つと展開された。

「じゃ、リヴィア・アルピーノと――」

「ルーテシア・アルピーノが――」

「「お相手するよ♪」」

†††Sideキャロ⇒シグナム†††

「エリオ、キャロ、すずか!」

私は独り通路を駆け、突如として姿を消した3人の名前を呼ぶ。魔力やエネルギー、それに物理系の奇襲やトラップには警戒していたが、こうも容易く私の警戒を抜いてくるとは。入り組んだ迷路の如き通路には、迎撃戦力が何1つとして設けられていないのが救いだ。さらに言えばAMFも無い。

(それはメガーヌ准陸尉たち魔導師が居るからだろうが・・・)

ガジェットも居ないのが引っ掛かる。それ程の防衛戦力がこの艦に居るということなのだろうか。アルピーノ家とは別の戦力が居ると考えるのが妥当なのだが。やはりこの艦を操っている何者か・・・。

「スライドドア・・・」

目の前に見えて来たのはスライドドア。“レヴァンティン”を収めている鞘を握る力を強く握りしめ、自然と開いたドアを潜る。50m四方の広い部屋の中央に彼女たち、「メガーヌ准陸尉、アギト・・・!」の2人が佇んでいた。

「そう。私たちの相手は、古代ベルカ式の騎士であるあなたなのね」

「メガーヌ、メガーヌ! さっさとコイツを片付けて、ガキンチョ2人を相手にしてるルールーとリヴィーのところに行こうよ♪」

「なに・・・?」

ルーテシアとリヴィアが相手にしている子供2人。エリオとキャロで間違いないだろう。

――私、ルーちゃんとリヴィーちゃんとお話ししたいんです!――

――僕がリヴィーと戦っても勝てないかも知れません。それでも僕が、僕とキャロが、あの2人を止めないといけないような気がするんです――

――たとえ洗脳されていると言っても、言葉はちゃんと通じると思うから!――

誰がどの戦力と交戦するかを決める会議でのエリオとキャロの発言。2人の親とも言えるフェイトだけでなく、我々も最初は考え直すように言ったのだが2人の熱望から、私の動向という形で決まった。だと言うのに不覚を取ってしまって離れ離れ。

(ランクで言えばエリオはB~A、キャロはC+~B。対するルーテシアとリヴィアは推定S。アギトの言うように、早々にメガーヌ准陸尉とアギトを確保して、エリオとキャロの元へ急がねば・・・!)

私は居合抜きの構えを取り、「武装を解除し、投降してください」そう語りかける。そう、無駄なものだとしても。

「ごめんなさいね。これが私たちの仕事なの」

――フォーゲルケーフィヒ――

「というわけで、お前はここで終わりだ!」

メガーヌ准尉の体の周囲に魔力発射体10基による円環が3つと展開され、アギトの側には炎熱の短剣が10基と展開された。共に射撃系を得意としている。近接戦主体の私にとっては、相手のレベルによっては苦労する羽目になるが・・・。

(あなたの魔法は心得ている!)

無論アギトの魔法もだ。お前との付き合いは1年と満たなかったが、共に過ごした時間は濃いものだったと・・・。“レヴァンティン”の柄を右手で握りしめ・・・

「時空管理局本局、古代遺失物管理部・機動六課、八神シグナム。いざ!」

「チーム・シコラクス、メガーヌ・アルピーノと――」

――グリッツェンラヴィーネ――

「烈火の剣精アギト!」

――フランメ・ドルヒ――

メガーヌ准尉の発射体のリング3つから何十発という魔力弾を発射される。雪崩のように横広がりに迫り、その中にアギトの短剣紛れ込んでいる。的にならないように足を止めることなく駆け回りつつ・・・

「空牙!」

――シュヴァルムシュパッツェン――

魔力斬撃をメガーヌ准尉へと向けて飛ばすが、准尉の魔力弾連射がこれを迎撃した。あの3つのリングがかなり厄介だな。魔力スフィアは魔力弾を5発撃つと消滅するが、即座に新しいスフィアが生成される。終わりの無いサイクルだ。

(それにしても、准尉は射撃が得意とは言えその術式体系は近代ベルカ式だ。戦闘データを見て重々承知していたが、直に相対すれば魔力的にも魔導師ランク的にもその異質さを改めて実感できる。これは何かしらのドーピングをしているな)

――パンツァーシルト――

体の側面にシールドを展開し、准尉とアギトの周囲を時計回りに駆けて少しずつ距離を詰めて行く。アギトの火炎弾「ブレネンクリューガー!」は、私をしっかりと捉えられておらず走り去ったところに撃ち込まれ続けるが、准尉の魔力弾連射は私の速度にしっかりと合わせてシールドに着弾し続ける。それでも耐えつつ徐々に距離を詰める。

「シュトルムヴィンデ!」

一瞬だが弾幕が途切れたところで“レヴァンティン”を振るって衝撃波を放ち、魔力弾を打ち消しながら准尉へと向かう。

「こんな魔法もあるのね・・・!」

准尉が距離を空けようとトントンっと床を蹴って後退し、1つのリングを形作っている10基のスフィアを一纏めに集束して、人間の頭部大のスフィアへと変えた。

――エッケザックス――

ソレを砲撃として発射し衝撃波を打ち消した。魔力弾程度なら粉砕できるが、砲撃は無理なようだな。准尉は残りのリング2つを集束させ、大きくしたスフィア2基を側に控えさせた。

「これだけの猛攻に耐えて、さらには接近する。素直に称賛するわ。だけど・・・」

アギトが准尉の頭上へと移動して、「スターレンゲホイル!」魔力弾を床に向けて発射した。お前の魔法は知っている。准尉やアギトの気配と魔力をしっかりと脳裏に刻み込み、2人に背を向けることなく目を閉じて即座に後退する。直後、まぶたの裏からでも判るほどの閃光が爆ぜ、鼓膜が破れてしまいそうな爆音が襲って来た。

――エッケザックス――

「っ!」

その場から右へ向かって駆け出すと、爆音に紛れて爆発音と衝撃が背後から伝わる。直後に反転して体を向け直し、右斜め前に向かって一足飛びで移動。その直後に先程と同じ爆発音と衝撃波が背後に伝わった。砲撃の2連撃だな。

(2発目!)

――パンツァーシルト――

二連砲撃をやり過ごしたところで、即座に前面にシールドを展開したうえで准尉へ向かって突進する。この時にアギトの繰り出した魔法による閃光と爆音は治まるが、耳鳴りはまだ続き、まぶたを開けるも光が強烈過ぎたこともあって未だに鮮明とは言えない。

――フラッターハフト・シュパッツ――

――フランメ・ドルヒ――

研ぎ澄ませた感覚に引っ掛かる複数の魔力反応。両脚に魔力を込め、床を蹴って天井へと跳ぶ。脳裏にこの部屋のイメージを浮かべて、どこで反転し、天井に足裏を付け、膝を曲げればいいか、などというタイミングを計る。

(いくつかの魔力は通り過ぎ、残りの8つの魔力はそのまま追って来るか・・・)

准尉の誘導射撃だな。准尉――大きな魔力反応の居るところに検討を付け、「パンツァーガイスト」を発動して全身を魔力で覆って、天井を強く蹴ってその場へと突っ込む。6つの魔力反応が下方から向かって来るのが判った。

――ブレネンクリューガー――

ようやく視力が正常に機能したところで、感知していた魔力反応通りにアギトの火炎弾6発が四方八方から迫って来ていた。直下に居る准尉は笑顔を浮かべつつ私を見上げ、デコピン状態にした右手を私へと向けていた。折り曲げられた中指の爪の辺りには小さな魔力スフィアが1基とある。

――シルト・ドゥルヒシーセン――

まずはアギトの火炎弾が私に着弾するが、全身を覆う魔力膜の防御力は突破できない。爆炎と黒煙で僅かに視界が黒に満ちるが、私は急降下中。すぐに視界は鮮明になる。とここで、准尉が魔力スフィアを爪弾きで射出。ビー玉サイズの魔力弾だが、ここでその攻撃となると見た目通りというわけではあるまい。

――パンツァーシルト――

念のために前方にシールドを展開した直後に着弾し・・・

「っ!?・・・くっ!」

シールドやバリアを貫通し、私の生身にダメージを与えてきた。とは言ってもギリギリで顔を逸らしたことで頬を掠っただけだったが、その効果はかなりまずい。防御魔法としての抵抗感が一切感じられないところを見ると、直撃だけは確実に避けねばなるまい。

「穿空牙!」

突進から繋げる零距離の空牙を准尉に打ち込む。咄嗟に両腕を掲げてバリアを張ってガードされたが准尉は耐えきれずに「きゃああああ!」悲鳴を上げ、20mほど先の壁へと向かって吹き飛び、そして壁に激突した。

「メガーヌ!」

(准尉の反撃が再開される前に、アギトだけでも墜とす!)

少し痛いかも知れないが、これもお前の為だ。こういう場合のためにバインドなりを修得していれば良いんだが、恥ずかしながらそこまで器用ではない。“レヴァンティン”を反転させ、准尉に気を取られていることで私に背を向けているアギトへ一足飛びで接近し、そのまま峰打ちを繰り出そうとした時・・・

――アドラーフリーゲン――

ピンポイントで“レヴァンティン”の腹に魔力弾が着弾し、その軌道を逸らされてしまったことで空振ってしまう。そのやり取りでアギトに「いつの間に!」気付かれてしまった。振り降ろした勢いのまま前方に向かって跳ぶと同時・・・

――アドラーフリーゲン――

「この・・・!」

――フランメ・ドルヒ――

准尉とアギトの射撃魔法が私の後を追って撃ち込まれ続ける。バリアも解除され、再発動するのにも僅かな時間を有するために「はっ!」“レヴァンティン”で斬り払って迎撃する。攻撃が止んだところで足を止め、防護服を両手で払っている准尉へと目をやる。

「メガーヌ。アイツ、思った以上にやるよ」

「そうね~。じゃあ、アレをやってみようかしら」

「おう! レーゼフェアにいろいろと調整してもらって、メガーヌともユニゾン出来るようになったしな!」

アギトはそんな准尉の元へ向かい、そして手を繋いだ。ユニゾンという単語以上に「レーゼフェア・・・!」の名前に反応する。ルシル以外には無闇に手を出さないとは聞いてはいても、背筋にどうしても嫌な汗が流れる。

――今度は貴様だけでなく下僕共も逃がさん・・・!――

――面白な、そのジョーク。じゃあ、俺と一対一で闘ってもらおうじゃないか――

「「ユニゾン・イン!」」

脳裏に過っていたバンへルドとシュヴァリエルの言葉と存在感に思いだし気圧されてしまっていた私は、准尉とアギトのユニゾンを許してしまった。准尉の紫色の長髪は赤紫色になり、赤い瞳もまた赤紫色へと変わり、背中より翼とは言えない崩れた形状の炎が一対噴き上がっている。そして床より1mほど浮き上がっていることから、飛行能力も得ているようだ。

「大した魔力を放つではないですか・・・!」

肌にビリビリと感じる強い魔力。いくらユニゾンしたと言ってもこれ程までに魔力が増大するなど有り得ん。准尉とアギトがユニゾン出来るようにレーゼフェアが調整したという話だったが、それだけではないようだが・・・。

(これはこれでいい流れとも言えるか)

准尉とアギトを纏めて戦闘不能にする好機でもあり、あれほどの魔力なら手加減も無用だろう。手加減なく攻撃を打ち込めるのは助かるしな。

――フランメラート――

12個の火の輪が時計の数字と同じような位置に展開された。ソレらが高速で回転を始めると「ロックオン!」准尉が私を指差した。

――フォイアフォーゲル・フルーク――

回転している12個の火の輪から舞い上がる火の粉が火炎弾となったのを見、私は即座に行動開始。まずはその場から離れるために駆け出し、“レヴァンティン”の給弾口に弾頭の蒼いカートリッジを2発と装填する。出撃前にルシルから渡された物で、アイツの魔力が込められている。

(オーディンの事を思い出してしまうな)

私に向かって殺到して来る火炎弾を駆け回って回避しつつ、「レヴァンティン!」カートリッジをロード。ドクンと跳ねる心臓、そしてリンカーコア。荒れ狂う魔力を抑え込み、准尉への攻撃を仕掛けるタイミングを計る。

(アギト。お前と共に組んだこの魔法で、お前の目を覚まさせてやろう!)

お前とのユニゾンをすることではじめて扱える魔法だったが、ルシルの魔力のおかげで私ひとりでも発動できる。しかし准尉の猛攻は途切れることを知らんな。12個の火の輪は消失する様子も無く、准尉の表情も余裕に満ちている。ならば・・・。

――パンツァーガイスト――

もう一度、全身に魔力の膜を覆って防御態勢に入る。そして足を止めて「いざ!」攻撃態勢に移った。

「アギト!」

准尉の背後に展開されていた12個の火の輪が前方へと回り込み、砲塔のように1列に並んだ。おそらくこれが互いに最後の一撃だろう。さらにもう1発のカートリッジをロードし、私の魔力を高める。

「火竜・・・!」

私は左手に炎の剣を創り出し・・・

「ドラッヘン・・・」

准尉の前にある火の輪が連結し、まさしく砲塔と化した。

「一閃!」

「ゲブリュル!」

准尉へと向けて左腕を振るって放つは、炎熱の斬撃であり砲撃たる火竜一閃。准尉が放つは炎熱の砲塔自体を攻撃へと変えた砲撃。私と准尉の砲撃が真っ向から激突し、室内を容易く満たすほどの爆炎となった。

†††Sideシグナム⇒エリオ†††

「リヴィー!」

「さっきから馴れ馴れしいと思う!」

――トイフェルフース――

桁違いの魔力が込められた右足の上段蹴りをしゃがみ込んで躱す。僕はそのままリヴィーの軸足になってる左脚を“ストラーダ”で払うと、リヴィーはバランスを崩して「おわわっ!」後退する。正直言うと、転ばせるつもりだったんだけど。リヴィーのバランス力も凄過ぎる。それでも僕はすぐに立ち上がりながら振り上げた“ストラーダ”を、「えいっ!」浮いてた右足を床に付けたばかりのリヴィーに向けて振り降ろす。

「この・・・!」

リヴィーは体勢を立て直すんじゃなくてそのままバック転。そして蹴り上げた左足の爪先蹴りで“ストラーダ”を迎撃して来た。“ストラーダ”が蹴り弾かれたことで僕は「ぅく・・・!」万歳状態の隙だらけに。

――トーデスドルヒ――

そんな僕の懐へ向かって飛来するのは、ルーの短剣型射撃魔法12発。今の僕には避ける術も防ぐ術もない。だけど僕ひとりじゃない。

「プロテクション!」

桃色の魔力で作られたバリアが僕の前面に展開されて、ルーの攻撃を全弾防いでくれた。僕はその場から離れたところで、リヴィーの双子のお姉さんだっていうルーと相対してる「ありがとう、キャロ!」にお礼を伝える。キャロだってルーっていう強敵相手に大変なのに。

(これ以上は迷惑を掛けられない・・・!)

とは言ってもリヴィーの強さは本当に尋常じゃない。さっきから一方的に攻められて、殴られて、蹴られてばかりいる。相手が女の子だから、なんて甘い事なんて言ってる暇も余裕もない。

「なんて弱音を吐いてる暇もない・・・!」

体勢を立て直し終えたリヴィーへと「スピーアアングリフ!」突撃する。今の“ストラーダ”は第二形態のデューゼンフォルムで、第一形態のスピーアフォルムよりさらにブースターの数を増やしてる。穂と柄の間にあるヘッド部分の側面に2つずつの計4つはサイドブースター、石突部分の1つはリアブースター、元からある2つはヘッドブースター。大まかに分けて3つあるブースターを駆使すれば限定的だけど空戦が出来るし、それに斬撃力や刺突力もグンッと上がる。

「そんな直線的な動きしか出来ないなら、いくら早くてもカウンターの的だよ!」

そんなことくらい嫌と言うほど理解してるよ。この戦いが始まってからというもの、一体どれだけ殴られ蹴られたか。右拳に魔力を付加して待ち構えるリヴィーにそのまま向かって行く。

「ハーツイーズストライク!」

突き出された右拳から放たれる砲撃。“ストラーダ”の向きを上方に修正することで、砲撃の真上を乗り越える。足元ギリギリを通り過ぎてった砲撃はもう脅威じゃない。見据えるのはただリヴィー1人のみ。砲撃を撃ち終えたばかりのリヴィーに“ストラーダ”の穂先を向けて突っ込み直す。

――ケレリタース・ルーキス――

穂先がリヴィーに当たるかどうかっていうところで、彼女の姿が一瞬で消えた。リヴィーの瞬間転移スキルだ。“ストラーダ”のブースターをすべて解除した僕は、着地した瞬間に「ソニックムーブ!」を発動。その場からすぐに離れる。

――トイフェルファオスト――

さっきまで居たところに突き刺さるのはレヴィーの魔力の込められた左拳。床に大きな亀裂を入れるほどの威力だ。リヴィーは陸戦限定での高速移動魔法「ボーデンドンナー!」を発動して、僕の元へ突進して来た。柄を両手で握った“ストラーダ”を横に構えてカウンターを狙う。

――ラケーテンホルン――

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

――スピーアシュナイデン――

リヴィーは突進から繋げる飛び蹴りを、僕はサイドブースターの片方を点火することで速度と威力を底上げした斬撃を繰り出した。リヴィーの両足の裏が激突する。“ストラーダ”からズンッと両腕に伝わる衝撃に歯噛みする。それでも負けじと振り抜いた“ストラーダ”の勢いのままにリヴィーは跳んで・・・

――ヒンメルブリッツ――

今度は空戦用の高速移動魔法を発動して、瞬時に僕の真後ろへと移動して来た。僕は回避じゃなくて迎撃に打って出る。振り払ったばかりの“ストラーダ”のサイドブースターを再点火。ヴィータ副隊長のラケーテンハンマーと同じ遠心力を加えた一撃(僕の場合は斬撃だ)を背後に立つリヴィーに繰り出す。

「っく!」

「いったた・・・。あのね、だからね? わたしを相手に近接戦すること自体が間違ってるの。OK?」

以前みたく“ストラーダ”の柄を掴み取ることで、僕の攻撃を無力化してきたリヴィー。でも今日は一味違うよ。サイドブースターの推進力にものを言わせて「はあああああッ!」“ストラーダ”をリヴィーごと振り抜いた。振り回されるリヴィーは自分から柄を手放して宙を滑空、数m先で両足と右手を床に付くようにして着地した。

(やっぱり強い。でもここで折れるわけにはいかない!)

カートリッジを新しくロードしたところで、連続する爆発音と「きゃあ!」キャロの悲鳴が聞こえた。思わずレヴィーからキャロの方へと目をやった瞬間・・・

――ボーデンドンナー――

「優しいね」

耳元でそう言われた気がした。

「だから手加減したげる!」

――トイフェルフース――

背中に強烈な蹴りを入れられた僕は「うぐっ!」どうすることもなく蹴り飛ばされて、床に伏せてしまってるキャロやフリードの側に落ちた。僕は痛みに悶えつつ体を起こしながら「キャロ、フリード・・・!」って呼ぶ。

「大丈夫・・・。直撃は受けてないから・・・」

「きゅくるー!」

キャロもすぐに体を起こして、フリードも翼を羽ばたかせて飛んだ。先に僕が立ち上ってキャロに手を差し出すと、「ありがとう、エリオ君」キャロは僕の手を取ってくれて、少しふらつきながらも立った。

「お姉ちゃん。なんか攻撃しちゃいけない雰囲気・・・」

「もうこのまま大人しく帰ってもらおうっか・・・」

ルーとリヴィーも合流していて、僕とキャロが臨戦態勢に入るのを待ってくれてた。やっぱり優しい子たちなんだ。だから「どうして!」改めて僕は話しかける。

「どうしてプライソンのこんな狂った計画を手伝っているんだ! プライソンの所為でどれだけの犠牲者や被害が出るって・・・!」

「そうだよ! この前の本部の襲撃で、多くの人が亡くなったんだよ・・・!」

それに今もおそらく外じゃ多くの人が亡くなってるかもしれない。僕たちがここ“アンドレアルフス”に突入する前、すでに20名近くの航空武装隊員が撃墜されて亡くなってしまっていた。

「だってママがプライソンを手伝ってるんだし」

「娘として一緒に手伝うのはおかしくない」

「あなた達だって、お母さん代わりの隊長さんの言うこと聴いて戦ってるし」

「それと同じだよ。代わりのお母さんの言うことを聴いてるあなた達、ママの言うことを聴いてる私たち。大切な人が願ってるから、少しでも力になりたくて手伝う。どこかおかしい?」

ルーとリヴィーが交互にそう言って、最後にルーが小首を傾げた。大切な人のため。ソレは理解できる。僕だって最初はフェイトさんやアリシアさんのために、この魔法の力を使おうとしてた。でも今はそれ以上に・・・。

「僕は、僕とキャロの意志でここに立ってる! 大切な人たちの考えを振り切って! ルーとリヴィー、君たちと話をして、戦わずに止めたかったから!」

「ルーちゃん、リヴィーちゃん! お母さんのためだって言うなら、こんな事をしてちゃダメだよ! 今やってるのは悪い事なんだよ! だからもうやめて!」

いくら洗脳されているからって、もう無罪放免で済まされるようなレベルじゃない罪を犯してしまってる。だからこれ以上の罪を重ねさせないようにしたい。キャロの思いを聴いたルーとリヴィーはギュッと拳を握りしめた。

「悪い事をしてるってことは判ってる、私たちだって・・・!」

――トーデス・ドルヒ――

「でもそうしないとママが生きていけないんだもん!」

――マナクル――

僕たちの足元にベルカ魔法陣が展開されたから、僕はキャロの腰に左腕を回して抱きかかえた上で「ソニックムーブ!」を発動。すぐに魔法陣の上から逃れた直後に、魔法陣から帯状のバインドが複数と伸びて来て、僕たちの元へと殺到して来た。さらにルーの射撃魔法8発も続けて発射された。

「リヴィーちゃん! メガーヌ准陸尉が生きていけないってどういう意味か教えてほしい!」

「僕たちに何か出来ることがあるなら、全力で力になるから!」

僕はキャロを抱えたまま“ストラーダ”のブースターを利用して室内を跳び回る。リヴィーのバインドは解除されたのかすぐに消えて、ルーの攻撃も全弾が外れた。ソレを確認してブースターを停止して、僕たちは改めて2人と相対する。

「無理だし。・・・プライソンが居て初めて私たち家族はこうして居られる」

「だから負けるわけにはいかない。これが悪い事だとしても・・・!」

これまで余裕に満ちてた2人の表情が悔しげなものになった。プライソンにメガーヌ准陸尉の命を握られていて、死なされないために戦わされていることを強いられてるっていうなら、それこそ助けてあげたい。キャロが「それでも!」って言い縋ったけど、2人はもう話を聴くつもりも無いみたい。

(ルシルさん・・・! 力を貸してください!」

ルシルさんから出撃前に渡されたカートリッジを装填して「カートリッジロード!」する。荒れ狂うリンカーコアと魔力に、一瞬だけど意識を持って行かれそうになった。でも必至に耐える。

「ストラーダ。ウンヴェッターフォルム!」

ヘッドブースターとリアブースターの代わりに突起物が出現する“ストラーダ”。僕の電気変換資質を最大限に発揮できる形態だ。速さでも近接戦でも敵わないなら広域攻撃でリヴィーを止めるしかない。

「キャロ。止めよう、僕たちで」

「・・・うん。ルーちゃん、レヴィーちゃん! 私たちはあなた達を助けたいから! だから勝つよ!・・・蒼穹を走る白き閃光・我が翼となり、天を駆けよ。来よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!」

フリードを真の姿へと戻す呪文を詠唱したキャロ。そしてキャロはフリードの鞍に乗って、「ブースト行くよ、エリオ君!」僕にブースト魔法を掛けてくれた。攻撃力と防御力と機動力のブーストだ。

「お姉ちゃん。まずは竜から墜とそう」

「うん。サポートは任せて、リヴィア」

「させない!」

――ソニックムーブ――

リヴィーへと突進しつつ攻撃魔法をスタンバイ。フリードの方を見てたリヴィーが僕へと視線を戻した。狙い通りって風に口端を釣り上げた。それでも構わない。僕は“ストラーダ”の穂先に電気を纏わる。

――トーデス・ドルヒ――

リヴィーの背後に立つルーが放つ射撃魔法。時々だけど自主練を手伝ってくれてたアイリさんの同系統の魔法での練習を思い出す。射線をしっかりと見据えて、最小限の動きで全弾を躱す。いくつかが掠って行ったけど、直撃だけは免れた。

「アインファッハクリンゲ!」

手刀にした両手に魔力刃を展開したリヴィー。振るわれる左手の初撃は、キャロの「ラウンドシールド!」で防御できたけど、一瞬で寸断された。次いで右の手刀が繰り出される。

「サンダーレイジ!」

そして僕も“ストラーダ”を振るって、リヴィーの右手の小指側の側面――小指球と穂先が激突。そして発生する電撃に「ぐぅぅ・・・!」リヴィーと「うああ・・・!」ルーが初めて苦悶の声を漏らした。

「キャロぉぉぉーーーー!」

「フリード! ブラストレイ!」

僕たちの直上から落ちて来るフリードの火炎砲撃(ドラゴンブレス)。僕はギリギリまでサンダーレイジの効果を持続させて、ルーとリヴィーの足止めをする。そして僕は着弾ギリギリで後退して、砲撃に呑み込まれる2人の姿をしっかりと見届けた。着弾時の衝撃と爆発の衝撃で「くぅ・・・!」僕は吹き飛ばされて、床を転がった。

「カートリッジロード!」

すぐに起き上がって新しくカートリッジをロードして反撃に備える。直後に黒煙が晴らされて、「ひょっとして・・・今のが、切り札だったり・・・する?」そう余裕そうに言ってはいるけど、息も絶え絶えって感じで大きく肩で息をしてる姿を晒すリヴィーとルー。

「まだまだだよ!」

「うん!」

2人が膝を折ってくれるまで、もしくは話をしてくれるまで、僕たちは何度でも立ち上がろう。それが作戦だ。

――ボーデンドンナー――

リヴィーがジグザグに突っ込んで来た。僕は“ストラーダ”を「サンダーレイジ!」足元へと突き立てた。半球状に爆ぜる電撃の膜にリヴィーは構わずに侵入して来た。通用しないのかなって心が折れそうになったけど「痛っ・・・!」しっかりダメージは入ってる。

「この・・・!」

――トイフェルファオスト――

繰り出される右拳を床から貫いた“ストラーダ”の柄で受け止めたら「ぐっ!」その威力と衝撃に思わず柄を手放してしまった。即座に振るわれる魔力付加してない左拳を「えいっ!」僕は額で受けた。

「いっ・・・!」

リヴィーの表情が痛み一色に染まったところで、電撃を纏わせた右拳「紫電一閃!」をリヴィーのお腹に打ち込んだ。“ストラーダ”を失っても攻撃の手段を失さないよう、シグナム副隊長とアイリさんから学んだ魔法だ。

「ぐふっ・・・!」

電撃は炸裂して僕の左腕の袖と、リヴィーの防護服のお腹付近を焼いて素肌を晒した。殴り飛ばされたリヴィーの姿に、ルーの「リヴィー!」って叫び声が耳に届いた。僕はすぐにソニックムーブを発動して、宙で体勢を立て直して着地したリヴィーの懐深くへ入り込む。

「紫電・・・一閃!」

「トイフェル・・・ファオスト!」

ほぼ同時。僕の右拳はリヴィーの左頬に、リヴィーの左拳は僕の右頬に打ち込まれた。意識が途切れる直前、目に映ったのは、僕の一撃を受けてとうとう両膝を付いたリヴィーと、リヴィーに駆け寄るルーの姿だった。
 
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