Fate/PhantasmClrown
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MySword,MyMaster
Act-4
#2
「――■■■■のサーヴァントが、マスター不在の状態にあっても現界し続けた理由――それは至って単純だ」
にやり、と、暗殺者の英霊は笑う。
大仰に、どこか、演技めいて。両手を広げて、まるで道化師の様に。
***
聖杯戦争は終わりの七日間を迎えた。
鏡面の世界は現実を喰らい、漆黒は世界へと溢れ出す。
「どうする、マスター。『あれ』に対抗する手段は現在の所俺達にはないぞ」
騎士王はかぶりを振る。それは生前の経験からくる、本物の諦観。
「いいえそれでも。それでも私は『私の願い』をあきらめない」
――大好き。
――大好きだよ、裕一。
透明の少女騎士は、剣の英霊を伴い戦争を駆け抜ける。鏡面の虚を塞ぎ、閉じ込め、願いで『杯』を満たす。
***
手を伸ばす。
触れる。触れあう。温かい。
ガラス板一枚を隔てた向こう側に、彼女が――雪華がいる。
もう時間がない。戦争は終わる。聖杯が担い手を選定し、召し上げ、この世界から消滅するまでに、遺された刻はもはや風前の灯だ。吹けば消える。歩けば崩れる。
行ってしまう。行ってしまう。僕の大切なものが消えてしまう。
――そうはさせない。
――そうはさせるものか。
「――聖剣、抜刀」
だから、刻みつける。
どこに? この世界に。
「束ねるは星の息吹」
虚ろなる現身の世界へ、命令せよ。
「輝ける命の奔流」
――僕が、王だと。
「『約束された勝利の剣』」
***
「なぜです! どうしてですか騎士王……我らが祖王アーサー! 何故あなたが、いいえ貴方であるからこそ、あのような真似をしたのです……! 答えなさいセイバー!」
銀髪の弓兵は悲鳴を上げる。彼女が彼女で在るが故に、決して許してはならぬ精霊たちへの冒涜を、騎士王が繰り広げたその”偉業”を、否定する。
「私と同じくイングランドの英霊で在るならば――貴方にはあのような真似は出来ぬはずです!」
しかして騎士王は自らの主に問う。
「なぁマスター、大分前から気になっていたのだが――」
「――××××××というのは、誰だ?」
***
「■■■■■――――!!!」
変わり果てた異形の身を振るわせ、咆哮する狂戦士。七枚の羽を広げ、一対の剛角を振りかざしたその姿は、最早『怪物』と許容する他無かった。
「問題ない、化け物の相手には慣れている」
「クハハハ!! どうやらいい肩慣らしにはなりそうだな、バーサーカー!」
騎士王と槍の英霊は各々の得物を構える。
しかして狂い、狂い、さらに狂った大樹の祖に、英霊二基では歯などは立たぬ。
「ここは俺にまかせてくれませんかねぇ」
暗殺者、笑って。
漆黒の闇を以て、喜劇に幕を下ろさんと。
***
「ワタシは――僕は、ただ……あの少年を、助けたい、と、――――」
主無き騎兵の慟哭。
黄金の聖剣は既にその軀の半分を焼き祓い、いかなギリシアに名高き英雄と言えど、その霊基はもはや持たぬ。
金の光を振りまきながら、粒子と化して消えていく。
ライダーのサーヴァントを、セイバーとグレーシャは声もなく見送った。
***
「ふは、ふはは、ふはははははは!!!」
「ははは! クハハハハハハハハ!!!」
同じ目的を持った皇帝と王は笑う、笑う、笑う――
皇帝は自らを満足させる芸術を。
王は生前のそれを超える戦いを。
それぞれ互いに、求めるモノこそ違えども、目指すべきは同じもの――
「セイバーのサーヴァントを殺すのは私だ! 故に貴様には死を許そうランサーよ!」
「ほざけ! セイバーを仕留めるのはこの俺だ。あれ程までの逸材を、みすみす貴様などに渡すかよ!」
互いに恐れる者など何もない。
互いに竜を追い、竜と戦い、竜を打ち破った『竜殺し』。
皇帝の魔術が火を噴く。
王の槍が全てを薙ぐ。
衣を焼き。衣を引き裂き。
衣を直し。衣を治す。
世界の半分を手にした皇帝と。
世界の半分を率いた王が。
「死ね」
「それはこちらの台詞だ」
激突する。
皇帝が号令をかけた。
王は、槍を構えた。
***
「なぁに、俺の宝具は三つある。心配はいらぬさ」
槍を失ったランサーは、迫りくる漆黒と、それに浮かぶ弓兵の少女を前にする。
好敵手に向けて不遜な笑みを浮かべた彼は、その狼か獅子の鬣が如きローブ、そのフードを被った。
「俺の妻は、少々嫉妬深くてね。どうも生前から離れることを嫌っていてな――」
そしてアーチャーの漆黒の矢を肌に受け。
しかしてそれは、まるで意味をなさず弾き返された。
それどころか、漆黒の奔流さえもがランサーを避けて通る。
「このように、いつでも俺に触れていたいのだとよ!」
白銀が、瞬いた。
***
虚像の世界は連結する。
現の世界は閉鎖する。
二振りの聖剣は共鳴し、聖杯戦争を切り開く。
***
「怪物退治はこう見て専門なんでね……ッ!」
炎が、舞う。
***
「ああ、姉、さ、ま――――」
星が、堕ちる。
***
「裕一、裕一、私――私、ずっと――――」
「だめだだめだだめだ、行かせない行かせるものか!!」
塞がり行く世界の綻びで、王と騎士は再び手を取り合う。
「――大好き」
「雪華、雪華、雪華ぁぁぁぁぁ――――――!!!」
黄金の粒子、弾けて。
***
「忌まわしきことに、湖の女神は星屑の聖剣を鍛ち、悪戯好きの老人めが俺にそれを与えた。ならばこそ、それは俺の役割だったのだろうよ」
騎士王は呟く。その両腕に、二振りの星の剣を構えながら。
「拘束、解放――決議開始」
――是は。
――世界を救うための、戦いである。
「束ねるは星の息吹」
聖剣の騎士王。
精霊たちに愛され、星屑の下に生まれた、竜の子は。
「『――――――』」
今、聖剣を、抜き放つ。
***
「ねぇ……」
「はい、何ですか?」
「グレーシャは、どうして僕の命令を聞いてくれるんだい?」
彼が、私に問う。
彼はとても不安そうだった。理由は分かる。彼はとても自己評価が低いから、自分に素直に従う人間がいるということがきっと信じきれないのだろう。
無理もない。だって彼は、即位したばかり。聖杯を求める騎士たちを束ねる者になったばかりの彼だから。
――でも。
私みたいな幼い娘の言葉が、彼に届くかは分からないけれど。彼を安心させてあげられるのかは分からないけれど。
――私が彼にもらったものは、『唯一無二』だから。たくさんのものを彼に貰った。その全ては、私がその『唯一無二』であることを彼からもらったからこそ、受け取ることができたのだから。
だから私は笑顔で、彼に――裕一に、こう、答えることができる。
「あなたが――」
「私に、名前をくれたからです」
――きれいだから、と。
――君は、その……すごく、透明だから、そういう名前が、いいな。と。
私にくれたから。
「私が、氷室雪華だからです」
それが、裕一の心を支えてあげられたのかどうかは分からない。私なんかの言葉だから、もしかしたら、まるで効果をもたらさず、むしろ裕一を揺るがせてしまうのかもしれない。
けれど。
彼が私に、名前のなかった私に名前を付けて、何の価値もなかった私に価値をくれたという、その『事実』だけは。
いつまでも、変わらないから。
獅子心王は、自らの剣に『エクスカリバー』と名を付けた。
裕一もまた、騎士の王。だから私は、そのように。
彼の、剣であろう。
――本当は。
――もっと、心の支えになりたいけれど。
それはきっと、赦されて何ていないから。
***
だから。
泣かないで、裕一。
後書き
セイバーとそのマスター、グレーシャ・スノードロップを中心とする第一章、『MySword,MyMaster』はここで完結となります。
第二章以降を執筆するかはまだ未定ですので、この作品はここで一旦の完結と思ってもらってよろしいかと。以降の展開、穴の開いている部分の物語は、各々で妄想してくれるとうれしいな~、なんて(殴
また、この回から感想欄における真名考察を解禁しようと思います。相変わらず回答を求められてもどうしようもないのですが……その……気分ということで……(雑
では、また機会があればお会いしましょう。
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