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機動戦士ガンダム・インフィニットG

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第九話「ユーマ・ライトニング」

 
前書き
大方ユーマとジョニーの話です。

やべッ、ちょっと腐系になっちゃったかも……
 

 
これは、「彼」がこの施設から逃げ去る数週間前の出来事である。

ジオン公国、シャングリラやグリーン・ノアなどの有名な反IS主義国家のなかで最も反IS感情が強い場所である。そのためか、ジオン公国ではかつてのようにやや男尊女卑の風習がわずかながらあるのだという。
とはいえ、外の女尊男卑と比べればジオンの男尊女卑などシンデレラ系女子が喜ぶ天国のような場所である。一様……
男性は皆、かなりの愛妻家たちであり、家族のゆとりを大事にする漢たちが大半だ。離婚するケースとならば、妻がIS被れになったが全般だ。
また、多国籍国家のため日本人などのアジア民族も少なからず暮らしているのであった。
IS社会から追い出された大半の男性たちは前者のシャングリラかグリーン・ノア、そしてこのジオン公国へ住み着くという。
そして、ジオン公国はMSの発祥の地でもあるのだ。連邦軍のGMシリーズに後れを取らない汎用性合わせた高性能な傑作機を次々に開発している。

ジオン公国軍、軍事研究施設にて

施設周囲には公国軍の第三世代の量産型主力MS「ギラ・ドーガ」が多数配備されていた。
近頃、篠ノ之束によるハッキングが少なからず起こっている。
しかし、ジオン公国の技術は侮れず、束はこれまで数百回もハッキングに失敗しているというのだそうだ。
そして、この基地にはタイトル通り、軍事兵器の研究を続ける施設であるが、とくにジオン公国が開発を進めているのは「強化人間」とよばれる戦うために生み出されたMSのパイロットたちである。非人道的という見方も取られるが、無人兵器とは違って人間であるゆえに、戦闘以外での善悪の判断力はそれなりに区別されるよう感情に組み込んであるとのことだ。しかし、生み出された強化人間が全て「良品」となることはない。欠点が出れば、試験管に入れて記憶を消したりと調整が必要なのだ。こうして、改良に改良を重ねて、強化人間たちは立派な先鋭として公国に尽くすこととなる。
そんな中、ここにとある強化人間の青年が誕生した……

「はぁ? 俺に強化人間の坊主のお守りをしろってか!?」
施設内の通路を歩きながら金髪の前髪が揺れる。公国軍のMS部隊「キマイラ隊」の隊長を務めるエースパイロット、ジョニー・ライデンが嫌そうな顔をして隣を歩く研究員の主任に叫んだ。
「そこを、どうにか御願いします少佐……」
「俺は、今いる部下達のお守りで手一杯なんだよ? 悪いが、ほかを当たってくれねぇか?」
「相手は、まだ19歳とはいえMSの操縦技術はそこそこなモノなんです。多少は幼児性が目立つものの、懐けば必ず少佐のよき忠実な部下になるかと……」
「幼児性……ねぇ?」
「ま、まぁ無邪気と言いますか……趣味が子供っぽいと言いますか……態度が幼く感じるなど、御見苦しいところはありますが、MSでの操縦に関しては……」
しかし、研究員の必死な説得を、ジョニーは一蹴りで言い返した。
「……んなの、小さいガキがゲームやって上手くなるようなもんだろうが? ガキっぽい奴ゆえに感情が抑えられなくなって、歯止がきかなくなったらどうすんだよ? 正直、俺はその辺までの面倒なことに首、突っ込みたくねぇんだよ」
「し、しかしですねぇ……」
「ましてや、19とはいえまだ中身が子供のまんまなんだろ? いくらMSの操縦技術が高いとは言え、そんな奴はIS飛ばして楽しんでる『IS学園』の小娘達と何ら変わりねぇってーの」
「ですけどそこを……」
その時、壁際の部屋のドアが開いて、激しく取っ組み合う男二人が目の前に現れた。分厚い単行本らしき本を片手に持つ軍人の中年男と、それを奪い返そうと暴れる軍服を着た若い青年の姿である。
「俺のマンガかえせー!」
「お、大人しくしないか!?」
「こ、今度は何事だ?」
呆れた顔で、ジョニーの隣の主任が問うと、中年の軍人の男は青年を壁に押さえつけたところで、汗だくになりながらこう話した。
「ブリーフィング中、度の過ぎた態度に呆れて私物を没収しようとしたんですが、暴れだしてしまって……!」
「何だと? あれほど刺激するなと言ったではないか?」
「す、すみません主任。しかし、聞く態度がどうしても……」
「……わかった、あとで注意しておく」
「おいオッサン! 俺のガンガルのマンガかえせよー!!」
「うるさい! 誰がオッサンだ……!!」
「おい、オッサン?」
と、見兼ねたジョニーは中年の軍人へ言う。
「誰がオッサン……しょ、少佐!」
すると、中年の軍人は青年を押さえつけたままながらもジョニーに向けて敬礼をした。これでも彼は軍の中では有名であり、人気者だ。
「そのコミック、ソイツに返してやんな?」
「し、しかし……!」
「命令だ」
「は、ハッ!」
すると、中年の兵士は青年にしぶしぶとマンガ本を返した。青年は、やっと自分の元へ戻ってきたことに安心して、漫画を胸に抱きしめた。
「それ、好きなんだな?」
ジョニーは青年に問うと、青年は静かに頷いた。そして、ジョニーはそんな青年が大事に抱えている漫画の表紙を目にした。
「ほ~? そいつは『ガンガル』か? 確か日本のアニメだよな? 懐いな~……俺もガキの頃よくアニメとか見てたぜ? お前の持ってるのは……『ガンガルSEED?』っていうのか?」
「あ、ああ……そうだけど?」
「ふぅん……ま、今度は隠れて読むことだ。それと、ポケットの中のパッキーも、見つかる前に食っちまいな?」
と、ジョニーは青年のズボンのポケットに入っている菓子箱の膨らみも指摘した。
「……」
青年は、そんな軍人であるジョニーに対して、厳格者が多い公国軍軍人の連中とは違った印象を感じた。何やら、とてもな親近感を感じたのである。

その後、ジョニーは施設を一通り見終えると、缶コーヒー片手に休憩室のソファーに座っていた。
――強化人間、か……
正直、公国が人間をも兵器にする行為に対して彼はやや反対的な思考を持っていた。
もちろん、公国はかつて独裁国家の歴史を持つも、今では列記とした民主主義をとなえる国として栄えている。発想の自由とその責任を担う国だ。市街地へ行けば左右思考の連中がプラカード掲げてデモ行進する姿も珍しくない。
そして、先ほどの少年は恐らく強化人間だろう。
「哀れっちゃ哀れだが……俺が何かしてできるもんじゃねぇしな?」
俺に何ができるんだ? そう、彼は自分に言い聞かせて止まっていた缶を持つ手を口へ持ってくる。
「あっ! アンタ……確かあんときのオッちゃんだよな?」
「あぁ……?」
その声は先ほど聞いた声であった。あのときの、確かガンガルの漫画を持っていたあの青年だ。もしや、ジョニーを探しに現れたのか……?
「お、お前は……」
苦手そうな顔をして目をそらすジョニーは苦笑いした。
「さっきは、ありがとな! おかげでマンガ全部読めたよ?」
「そ、そうか。そいつは何よりだ……っていうか、俺はまだ34……オッちゃんか」
そう、気が付けば自分はとっくに三十路を過ぎた中年間近の軍人であった。皮肉にも心だけが若いままなのである。
「なぁ? アンタ、何てんだ?」
「はぁ?」
「俺、ユーマ。ユーマ・ライトニングってんだ! アンタは?」
「……ジョニーだ。ジョニー・ライデン」
「ジョニーか! よろしくな?」
と、ユーマと名乗る先ほどの青年は、二カッと笑って彼に握手を求めた。
「あ、ああ……」
ジョニーは、そんなユーマの手を握り返す。
「あ、ここに居られたのですか?」
先ほどの主任が、こちらへ歩み寄ってきた。主任は、そんな二人を見ると眼鏡が光ってニタッとほくそ笑んだ。
「これは少佐……よくぞ決意してくださいました!」
「はぁ~? 何言って……」
「こちらは、貴方のキマイラ隊に配属予定であった例の強化人間です!」
「は、はぁ!?」
ジョニーは、絡む様に主任の胸倉をつかんで静かに問う。
「おいテメ―……まさか、アイツが例の幼児性が何たらっていう強化人間じゃあるめぇな?」
「は、はい……仰る通り、彼が少佐にお頼みしました例の強化人間です」
「ふ、ふざけんな! 俺は、引き受けることなんて一言も言ってねぇぞ!?」
「しかし……あのように懐いていては、少佐以外に他ありませんよ?」
「うぅ……」
「ジョニー! 早く戻ってきてくれよ~?」
「……」
正直、あの青年はやや面倒である。幼児性以前に面倒な性格だということをジョニーは予想した。
「あ、何でしたら……少佐には特別手当をお送りしようかと思います。何せ、あの青年こと、ユーマ・ライトニングはこれまで多くの部隊長にお願いしても、どの隊長もすぐに根を上げるほどでしたし、ユーマ自身もこれまでの相手に対して全く懐きませんでした。軍人ゆえの厳格さが裏目に出たのでありましょう」
「だ、だからって! 俺は……」
「その分、少佐はユーマ・ライトニングを扱うに大変適した人材かと私としては思うのですが……?」
「だ、だからって……!」
「わかりました! 手当の支給金を『三倍』にしましょう? 赤いだけに!」
「ッ!?」
ふと、ジョニーの表情は変わりだした。ちなみに、彼は少佐とはいえ決して高給取りではない。いろいろと始末書まみれの生活を送っており、軍の中では有名な暴れん坊でもある。幸いにも、腕前は認められているゆえに厳罰に値していないのだが、かわりに給料は随分と減らされているし、謹慎処分も毎度のことだ。現在は、築五十年のアパートにすんでいるとのこと……
「……」
「今月の御家賃、大丈夫ですか? 真っ赤な愛車のバイクもまだローン残ってましたよね? 携帯費だって……」
「て、テメェ! 勝手にプライベート探ってんじゃねぇ!!」
「兎に角も、少佐? 悪い話ではないですよ? 支給手当を三倍ですよ? 赤いだけに、手当も三倍! ああ、カジノでも……」
「わ、わかった! う、うむ……」
顎を抱えてジョニーは悩んだ挙句、彼はしぶしぶと承認した。恥ずかしながらも、ジョニーは金遣いの荒い癖がある。
「……わかった。とりあえず一様、引き受けよう。そのかわり、約束は守れよ?」
「はいはい! わかってますよ!! いやぁ~少佐はやはりジオン軍切手の兄貴分キャラですね~!!」
「ったく、調子がいいなぁ……」
何はともあれ、ジョニーはため息を漏らしつつもユーマをお持ち帰りすることになった。
「……そういや、キマイラ隊の宿舎も満員だったよな? 部下共の根城になってるし、こいつの寝床、どうすりゃいいんだよ~!?」
研究所を出たところで、真っ先に悩んでしまうジョニー。しかし、引き受けてしまった以上引き受けなければ目当ての至急手当(三倍)はもらえない。今さら戻って主任に相談しても、また何か無理なことを言ってくるだろうし……だが。
『ああ、それでしたら……少佐のご自宅で引き取っていただけませんか?』
案の定、気になって相談してみたら、携帯越しからそのようなことを言ってきたのでジョニーは顔を真っ赤にした。
「冗談じゃねぇ! 大切なプライベートも、このガキと一緒に居ろってのか!?」
携帯を握りしめながら、後ろで不安げに首をかしげるユーマに目を向けるジョニー。
『まぁまぁ……でしたら、彼の生活費として三倍の手当を……』
「本当だろうな? 本当なんだろうな!?」
『もちろんでございますよ! 全てにおいて必要な費用は「三倍」にして支給させていただきましょう! 赤いだけに!!』
「……!」
不満度マックスだが、それでもやむを得ずユーマを自分のやや散らかった? 部屋へ招くことにした。
「うわぁ~……ここが、ジョニーの部屋なのか?」
興味津々な目で年上の男の部屋を見渡すユーマにジョニーはやや顔を赤くした。
「お、おい……あんまジロジロ見ないでくれよ?」
しかし、そんなジョニーのことなどお構いなしにユーマは彼の自室を見まくった。
1LDKの室内には煙草の紙箱と酒瓶が森のように置かれた卓袱台と洗濯物が散乱している居間……寝室のベッドの上には脱ぎ捨てられた寝間着のパジャマ、さらにキッチンは油まみれ、となりの流しはため込んだ汚れ食器の数々……
「すげ~! なぁ、ゲームとかある?」
「いや……過去にPS2あったけど、壊れて捨てたな」
「マンガは……あれ、これ全部最近の大人系のマンガだ。ジョニーもガンガル読んでるかと思ったのに……」
「ああ、ガキの頃持ってたけど、今じゃ全部捨てちまったんだよ……」
「つまんねぇの~!」
「小学生かお前は! つうか、ここは俺んちだぞ!?」
「じゃあさ? 俺はどうすりゃいいんだよー?」
「とにかく、今夜はもう遅いから明日に備えて寝るぞ?」
「明日?」
「そうだ。明日、俺と一緒に施設でMSのレッスンやるぞ?」
「じょ、ジョニーと!?」
ユーマは目を輝かせている……
「な、なんだよ……?」
「おっし! じゃあ、明日は早起きしないとな!? 俺、待ちきれねーぜ!!」
「ん? もう寝るのか? さっきはああ言ったけど、晩飯まだだろ?」
「いい、明日に備えて寝るよ!」
というなり、ユーマは早速その場へ寝転がった。
「って、おい! ったく……布団敷いてねぇだろ?」
「ZZz……」
しかし、すでにユーマは熟睡していた。
――いきなり来て、いきなり寝やがったよ、コイツ……
そんなユーマの図々しさにあきれるジョニーだが、そこは仕方ないとして彼に毛布を掛けて、自分は隣の寝室のベッドへ向かった。

翌日、ジョニーは配属先の基地やキマイラ隊らにも新人育成だと伝えてしばらく施設へ通い続けることになった。
「なぁ、ジョニー!」
「……」
「ジョニー! ジョニーってば!?」
「うるせぇな! 何なんだよ!?」
先ほどから、彼の背後をはしゃぎながらユーマが言う。
「なぁ? ジョニーって、やっぱMSの操縦スゲーの!?」
「あぁ?」
「ジョニーって、MSになったらスゲー強いの!?」
「ああ……」
そのことかと、するとジョニーはやや得意げになって自慢した。
「フッフッフ……自慢じゃねぇが、これでも俺は軍の連中から『真紅の稲妻』って異名で呼ばれてんだぜ?」
「す……スンゲェ~!! 『真紅の稲妻』!? マジでカッコいいよ!?」
「なになに~……ほめ過ぎだぜ? ユーマ」
「ふ~む……じゃあさ! ジョニー? アンタが『真紅の稲妻』ってんならさ? 俺のことは『青き雷光』って呼んでくれよ!?」
「はぁ?」
「紅い稲妻に蒼い雷光! カッコいいコンビ名だろ!?」
「おいおい? そういうのは、撃墜王なみのエースにならねぇと……」
しかし、ジョニーはユーマの桁並み外れた操縦センスを知らずにそう言えたのだ……

「は、はえぇ……!」
専用の紅いギラ・ドーガとなったジョニーは、目の前の蒼いイフリートに苦戦を強いられていた。
ユーマの専用MSは、接近戦に手向けたイフリートといわれる機体である。元は第二世代のMSであるが、それを第三世代へ改良したイフリート改であるのだ。
双方の腰回りに主力武器である二刀の刀が取り付けられ、いかにも二刀流で戦う侍をイメージした戦闘スタイルから、連邦軍からは『サムライ擬き』、『MSムサシ』とも呼ばれている。
「おりゃー!」
二刀の刀が容赦なく、ジョニーの融合したギラ・ドーガへ襲い掛かる。
「あっぶね……!」
それをビームソードで受け止めるジョニーのギラ・ドーガ。高い機動力を生かした隙を与えぬ接近戦。さすがにジョニーもユーマの操縦センスを認めざるを得なくなった。
「コイツは、凄すぎる。人間業とは思えないな。これが『強化人間』ってやつなのか?」
模擬戦を終えて、MSを解除した彼は休憩室でドリンクを飲んでいると、そこに息を切らしてユーマが駆け寄ってくる。
「ジョニー! どうだった!? 俺の腕は!?」
「あ、ああ……悪かねぇ。つうか、スゲェな?」
「マジ!? ヨッシャ~! ジョニーに褒められた!!」
「はは、だが油断は禁物だぜ? ジオンの中にはお前よりも強い奴らがゴロゴロしてっからな? あの……『赤い彗星』っていうのもね」
「赤い彗星? 何だ、ジョニーのかぶるな?」
「そうなんだよ!? 俺がいくら『真紅の稲妻』をアピールしたって、絶対に『赤い彗星』だって第一印象を間違えられるんだぜ!? マツナガのオッサンや黒い三連トリオ、マのキザ野郎からも間違えられるんだよ! 俺は『真紅』! あっちはただの『赤』! つうか、ぶっちゃけ言って赤い彗星っていうけど、色が俺よりも薄いじゃん? ありゃ赤っつうより『ピンク』なんですけど~!?」
「ジョニー……さっきから何言ってんだ?」
感情的に愚痴をこぼし続けるジョニーに、ユーマは苦笑いを浮かべた。
「とにかくも、俺は『真紅の稲妻』、よ~く覚えておけよ?」
「うん、何だかわからないけど……わかった!」
かくして、これを機に二人の奇妙ながらも凸凹な生活が始まったのである。
家につけばレトルトや適当に飯を作り、特にユーマが率先して家事全般と飯炊きをする。
寝るときはユーマに毛布を与えて床に寝かせるが、たまにベッドに寝ようとすることもある。そんな、男同士で共同生活をしていれば、オペレーターの女子らからホモの疑いをかけられたり、腐女子系のオペ娘達からは萌える目で見られたりもした。特に中里優紀がいい例題だ。ジョニーはそのとき、彼女が腐った存在だということを改めて知った……
そしてユーマ自身も、ジョニーと生活を共にするにつれて、外から興味ある知識を覚えていき、用語、娯楽、感動というものを次々に会得していった。
ジョニーも最初は面倒奴だと苦手な態度をとっていたが、とても懐いてくるユーマを見るたびに、弟のように思うようになっていき、次第に彼を受け入れていくのであった。
だが、ジョニーとの生活を共にするにつれてユーマは強化人間らしかぬ感情に溢れすぎた人材へと変わり果ててしまったことに軍は不満を持った。

その日、主任は施設の応対室へ呼び出された。机の向こうには数人の軍の士官らが険しい目で彼を睨んでいた。それも、士官らは軍の上層部である。
「強化人間とは、戦うために生み出された生体兵器だ。それ以外に感情というものは無用だ。我々が要求する育成というのは、感情を高めるのではなく、戦闘能力を高めるためにしているものなのだぞ? 主任……」
「も、申し訳ございません……」
軍の上層部より、そういった知らせを受けて主任は深々と頭を下げた。
「し、しかし! 強化人間と言えども戦闘以外の任務などにも適用できるのではないかと思いまして……」
「ハッ! くだらん……強化人間は戦闘が主な任務だ。感情があまりにも豊かになりすぎれば、敵に対しても情けをかけてしまい、先頭に支障をきたしかねないのだぞ?」
「で、ですが……」
「主任! 即刻、ジョニー・ライデン少佐からユーマ・ライトニングの育成実習の任を取り外すのだ。メモリーを新たにリセットして元に書き直せ。さもなければ、ユーマ・ライトニングを……」
軍の上層部からして、強化人間など「兵器」、「物」としか捉えていないのだった。
「……殺処分に処す」
「……!」
主任の目が見開いた。上層部の士官らは言いたいことをだけ言うと、主任に背を向けて応対室を出ていった。
「……」
主任としては、これまで生み出してきた強化人間たちに対して愛着を抱いていた。
オーストラリアのシドニーを旅行中に起きたISのテロにより、妻子を失った彼にとって、兵器とはいえ生み出した強化人間は家族のように大切な存在に見えてしまい、また優しく接する主任のことを、周囲の強化人間らは無表情な顔越しでマスターと言って寄り添ってくることもある。
中でも、ユーマ・ライトニングは主任にとって最も心配を寄せていた存在でもある。
強化人間とは言え、せめて無邪気な彼だけは人間としての感情を与えたかったのである。そこで、軍で最も気さくで人間くさいと人気のジョニー少佐に預けることを頼んだのだ。
――命に代えても、ユーマを守らなくては……!
「えらいことになったな?」
「!?」
背後からの声に振り向くと、そこにはいつから居たかは定かではないが、ジョニーの姿が見えた。
「少佐……」
「悪いが、盗み聞きしちまったよ……アイツ、ユーマのやつはどうなんだ?」
「……ええ、強化人間にしては感情を持ち過ぎたという批判が軍の上層部から来て、今後ユーマの記憶を一からすべて消し去るようによ命じられました」
「ったく! 非道な連中だ。人をどう思ってんだか……」
「少佐……」
すると、主任は決心したかのようにジョニーへこう言った。
「今から、私は死を覚悟でやり遂げます……」
「お、おい! まさか……」
「私は、これまで愛情をもって強化人間たちを作り出してきました。そのなかで、取り分け感情の深いユーマだけは、どうしても強化人間の道へ歩ませたくはないんです。だから、私は……」
「主任……」
と、ジョニーは彼の肩を叩いた。
「……?」
「そんなら、俺にいい案がある。アイツが居なくなっちまうのは寂しいが、それでもあいつが戦いだけの人生を歩まなくなる方がマシだ」
「少佐……」
「ハハッ……最初は、あんなガキ預かるなんて嫌だったが、次第に弟みたいに可愛く見えちまってな? 俺も、協力させてもらえねぇか? もし、なんかあったときは俺がカバーしてやる」

その夜、ジョニーはユーマにそのことを話した。
「嫌だ! ジョニーと離れるなんて……俺はジョニーといたいんだ!!」
「だが、グズグズしてっと記憶を消されちまうんだぞ? いやだろ? 俺のこと忘れちまうのなんて……」
「そ、そうだけど……!」
「ユーマ? 事態が収まったら、迎えに来てやる。それまで、奴らから逃げ延びるんだ。お前は、俺以上にスゲェんだ。追手なんて簡単に退けちまうって?」
笑いながら、悲しむユーマを慰めるジョニーだが、ユーマはそんな彼を目にこう言い残した。
アパートを出ると、ジョニーはユーマを連れて外の大型のスーパーマーケットへ
「……絶対だぞ? 絶対、来てくれよ! 俺、ジョニーの言葉、信じてっから」
「ああ、約束だ。ほれ、こいつ持ってけ?」
「これは……?」
「お前のイフリート改だ」
ジョニーは、彼に青いヨーヨーを手渡した。これが、ユーマ専用のイフリート改の待機状態である。主任が施設からユーマの専用イフリート改を待機状態にして持ち出し、それをジョニーに渡したのだ。
「いいか? ユーマ……」
ジョニーは監視官を欺かせるためのやり取りを説明した。
そして、二人はアパートを出た。夕飯の買い出しのために近くのマーケットへ行くためだ。
数時間かけてマーケットでの買い物を済ませて、帰り道を歩く。この時間だと人通りの少ない路地になっており、周囲の自宅は夕飯のために家族が囲う灯りがちらりほらりと見える。
そして、後ろ数百メートルからデジタルスコープで二人を監視する軍の監視官らだが、その突如だった。
「……!」
監視官は一瞬、状況を窺う目を険しくさせた。ジョニーとユーマとが突然取っ組み合いを始めたのである。
しかし、激しい格闘の末にユーマはジョニーを投げ飛ばしてそのまま暗闇の路地へ疾走したのである。これには、監視官もとっさに本部に連絡をする。
しかし、増援が来る頃には既にユーマはイフリート改となって夜の上空へ飛びだっていったのだ。
「ユーマ、うまく逃げろよ? ……つーか、アイツ本気で投げ飛ばしていきやがった! いってぇ~!!」
ジョニーは、腰を摩りながら立ち上がると、頭上の空を見上げた……
今宵を栄に、ユーマはジオン公国を抜けて外国という未知なる領域へと足を踏み入れるのだった。
幸いにも主任は、死罪は逃れられたものの、代わりに無期限の謹慎処分を与えられた。恐らく、もう施設での勤務はできないだろう。

そして、現在……

「その、別動隊とは? 国防連合企業団の強化人間ですか? もしや、例のブーステッドマンのガンダム三機を? ……彼らは異常なまでの戦闘狂ですよ? なりふり構わず周囲を巻き込む可能性だって……しかし、だからとはいえそれは非情です。パリ市民を巻き込むつもりですか!?」
主任は受話器を汗と共に握りしめた。
そして連邦軍の空母ドミニオンからは企業団が開発した三機のガンダムが甲板に現れた。

「クロト! レイダー行くよぉ!!」
「シャニ、フォビドゥン出る……」
「オルガ、カラミティ行くぜッ!」
三機のガンダムが向かうはフランス首都パリであった……
 
 

 
後書き
次回
「少女が見た青き雷光」 
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