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真田十勇士

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巻ノ七十八 打たれる手その十

「しかし家として、大名として残るならな」
「よいか」
「それがわしの考えじゃ、だからな」
「ここはか」
「抑えよ」
 己自身をというのだ。
「よいな」
「聞かぬ」
 石田も聞かない、それも全く。
「わしは豊臣家の天下の為に動くぞ」
「最早それが危うくともか」
「天の時は内府にあるというのか」
「そうじゃ、地の利も人の和もな」
「そんなものがどうした、これは道理じゃ」
「お拾様が太閤様のお子であられるからか」
「これは義になる、だからじゃ」
 そう思うからこそというのだ。
「義なくして何が天下じゃ」
「内府殿が簒奪者というのか」
「それ以外の何じゃ」
 あくまで引かない石田だった、大谷はその彼を必死に説得しようとするが退かない。そして遂にだ、大谷は席を立って言った。
「もうよい」
「行くのか」
「御主のこと、内府殿にお話する」
「挙兵のことをか」
「違う、改易をお願いする」
 こう言うのだった。
「そうすれば御主も力をなくしてじゃ」
「何も出来なくなるからか」
「そうじゃ、それもすぐにな」
 家康に会うと、というのだ。
「待っておれ、数日中に御主の改易の話が来るわ」
「そしてわしを助けるというのか」
「御主を死なせるつもりはない」
「わしは改易されても動くぞ」
「動けるものなら動いてみよ」
「おう、そうするわ」
「ではな」 
 大谷は踵を返してだ、石田の前から去った。そして彼の軍勢のところに戻ってこう告げたのだった。
「待たせたな、行くぞ」
「はい、それでは」
「これより」
「うむ」
 大谷は兵を進めた、そのうえで佐和山の城を見た。石田のいるその城を。
 するとだ、自然にだった。
 石田との幼い頃からの付き合い、茶会の時といい常に立ててもらってきた時をだ。石田は常に彼を立て庇ってきた。
 だが己はどうか、石田が七将に命を狙われている時は領地にいて今も振り切った。それはどうなのかとだ。
 その彼にだ、家臣も兵達も言って来た。
「殿のお好きな様に」
「そうして下され」
「我等殿と火の中水の中です」
「何処までもお供します」
 大谷に微笑んで言ってきた。
「殿と共にいられるなら」
「地獄もまた極楽です」
「どの様な相手とも戦いましょう」
「それが我等の義です」
「ですから殿もです」
「義に従われて下さい」
「そう言ってくれるか」
 大谷は彼等の言葉を受けた、そしてだった。
 一旦目を閉じてだ、そのうえでだった。
 馬首を返した、そうして家臣達にも兵達にも言った。
「また少し待っておれ」
「はい、では」
「その様に」
 彼等は笑顔でだ、大谷を送った。そして。
 大谷は城に戻ってだ、即座に石田のところに入りそして言った。
「この命に御主に預けるぞ」
「・・・・・・済まぬな」
 石田は大谷に涙を流して応えた。
「その力使わせてもらう」
「うむ、ではじゃ」
「これよりじゃな」
「お拾様の為不眠不休で働くぞ」
「ではな」
 石田は早速だった、島を呼びそのうえで動きだした。この時家康はまだそのことを知らず兵を東に進めていた。 
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