マクロスフロンティア【YATAGARASU of the learning wing】
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黄昏
前書き
経験も無い癖にラブシーンなんか書くものじゃないな……読むに堪えない。
それでもいいぜ!という猛者はどうぞ?
「翼!」
「あ、奏……うごぉ!?」
病室に飛び込んで来た奏は、俺の姿を見るなり突進して飛び付いて来た。ベットの上にいた俺に避けれる筈もなくモロに受け止める。どうにか倒れる事は堪えると、奏は首に手を回して抱き付いてくる。
流石に心配掛け過ぎたと思ってそのままにしていたがそこでふと気付く。
「えっと……奏?」
「………何よ?」
「……絞まってるんですが?」
「絞めてるんだもん。」
いや可愛く言ったって駄目だよ??
「ちょ、ま、ガチで洒落になら……ぐっ!?あ、………ギブギブギブギブ!!」
俺の必死の懇願に、渋々ながらも解放してくれる奏。折角生き延びたのに三途の川を渡らされるとこだった………
「………心配したんだからね?」
「………済まん。」
「………………死んじゃうかと思ったんだからね?」
「………………済まん。」
「……ヤダ、許さない。」
そう言う奏の目元には僅かに涙が滲んでいた。ベットの隣にしゃがみ、潤んだ目でこちらを見上げている。ちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。
「………ホントに済まん。」
「……………バカ。」
しかし、また泣かせちゃったな………。油断した俺が悪いか。俺の命は既に俺のものじゃ無いんだからな、簡単には死ねない。もっと気を引き締めて掛からなきゃな。
「……あー、お二人さん?」
突然病室の入り口から遠慮がちな声が掛けられる。
「ラブシーンもいいけど入り難いんですけど?」
そこにいたのはからかうような笑いのミシェルと、苦笑いのルカ。そして、顔を真っ赤にして目を逸らしているアルトだった。
「しかし……姫は未だにこういう事への耐性は低いんだな?」
「うるせぇ!誰が姫だ!それに、こういう事ぐらい……その……えっと……何だ……」
「無理しなくても良いですよ、アルト先輩。」
どうやらお見舞に来てくれたらしいんだが俺と奏の雰囲気に入れなかったらしい。顔は良いのにこの手の経験の全くないアルトには厳しかった様だ。
一部の女子ではミシェルやルカとのBL説が囁かれ自作同人が出回っているとかいないとか………
まあ無いだろうが。
「ああ、翼も起きていたか。丁度良い。」
後から部屋に入ってきたのはカナリア中尉だ。この人、衛生兵でありながら腕利きのVB乗りなんだよな。
「オズマは出血はあったが傷自体はそう深く無かったからな。一週間もあれば元通りバルキリーの操縦も出来るだろう。それと翼は元々意識さえ戻れば後は精密検査だけだ。異常が無ければ二人とも明日には退院出来る。」
そりゃ良かった。リハビリってほど大袈裟じゃないがこの鈍った体をどうにかしないとな。
「それとランカの容態だが……」
ランカ?彼女がどうしたんだ?
「どうやら例の記憶障害に関係してるらしいな。気を失っただけで脳に異常は無いから今日にでも帰すつもりだ。」
トラウマ……まさか?
「オズマ少佐、見られたんですか?」
「…………らしいな。」
ランカの記憶障害はPTSDに代表される過去のストレスを反復することによって発生するものだ。ランカの過去……つまり、11年前のあの事件を連想させるものを引き金にフラッシュバックが起こる。
例えば……VFが撃墜されるシーンや、親しい者の怪我や死。
………幼い精神であの地獄を直視したのだ。障害が出ない方がおかしい。
「おい、あの子が記憶障害ってどういうことだ?一体過去に何があったんだ?」
「知らない方がいいぞ。……誰も得しない真実ってのは、この世の中には腐るほどある。」
オズマ少佐に食って掛かるアルトに一応忠告する。……言っても聞かないだろうが。
「……聞いたら戻れないぞ?」
「構わない。俺なら、傷付いてでも真実が知りたい。」
はぁ……やっぱりな。頑固と言うか話を聞かないと言うか………まあ、俺がごちゃごちゃ言わなくてもミシェル辺りが言うだろうな。
「……24時間猶予をやる。もう一度考え直して来い。」
24時間……ギリアム大尉の葬式の後まで……か。
「ねぇ翼?」
「何だ?」
人工の夕焼けが射し込むアイランド1。病院の屋上にはに誰かいる筈もなく、俺と奏の二人だけが、頭上を覆うドームの向こうの、星の大河を眺めている。
「翼はさ……怖く、ないの?」
「怖く?」
「うん………私、とっても怖かった。翼が出撃するって言った時も、アイランド1に化け物が入って来た時も………翼が怪我したって聞いた時も。」
話す奏の澄んだ声が震え、怯えるように自分の体を抱く。
「今だって……次は駄目かもしれない、次は翼が死んじゃうかもしれない!………って、とても……とても怖いの。」
普段は滅多に見せない弱気な奏。瞳に涙を溜め、消えてしまいそうな程か細い声で言葉を紡ぐ。
「ねぇ翼、翼は怖くないの?教えて……」
ゆっくりとこちらに向き直り、弱々しく俺を見上げてくる。
………後になって、自分の行動を思い出したら恥ずかしくて死にそうになったのだが、この時は不思議と、こうしたい、こうするべきだと思った。
奏に近付き、その背に腕を回す。突然の事で驚いたのか身を固くするが、それも一瞬の事だった。
「っ……翼!?いきなり……」
「……俺だって怖いさ。」
「……え?」
「バルキリー乗りは常に死と隣合わせだ。死ぬのが怖くない、死を恐れないなんて真似、俺には出来ない。」
そんな事は出来ない。それは、命を懸けるのではない、命を捨てただけだ。戦闘は、命を捨てた奴から死んでいく。それを勇敢と呼ぶのなら、俺は一生臆病者で結構だ。
「……じゃあ……何で戦えるの…?何のために……戦ってるの………?」
「……知りたい、からかな?」
「知りたい………?」
「ああ……俺、爺さんも親父もバルキリー乗りでさ。親父が空を飛んでるのを何回も見てきた。それを見る度に思ったんだ。空を飛ぶってどんなだろう。あそこから見える景色はどんなだろう……戦うって、どういう事なんだろうってさ。」
そう、俺は知りたいのだ。空の世界を、そして……きっと超えたいのだ。本気で憧れた、あの親父を。
「だから飛ぶ、戦う。バジュラの方も俺を逃がしてくれそうにないからな。」
11年前の俺は無力なガキだった。でも、今は違う。今は、戦える。
「………強いね、翼は。」
「強くなんてないさ、単純なだけで。」
「ううん……立派に強いよ。私なんかより……全然……。」
「……やけにしおらしいな。何か悪いものでも食べたか?」
「………もうっ、どうしてそういうこと言うかなぁ……普通もっと心配して慰めてくれるトコロでしょ?」
「……いや、だってさ……」
「……何よ?」
「らしくない。」
「っ………直球ね。」
なにやらダメージを受けた様だが事実だ。奏はどんな時でも真っ直ぐ前だけ向いて進む奴だ。それがこんなにもなよなよしている状況が、らしくない以外の何であろうか。
「別に怖くてもいい。弱くてもいい。誰だって最初から強くなんかない。大事なのは……強くあろうとする事だ。弱いなら、弱いのが嫌なら強くなればいい。簡単だろ?」
「……そうね、ビックリするぐらい。」
そう言って腕の中の奏は再びこちらを見上げる。その瞳には先程までとは違い、普段の、いや、それ以上の強い光が宿っている。
ようやく戻ったかと思ったのも束の間、現状を思い出す。今、俺は端的に言えば彼女を抱き寄せている状態であり、その姿勢から見上げられるとなれば当然俺の目の前に奏の顔がくる事になる。加えて、密着している状態なので彼女の目立たないが決して小さくはない二つの膨らみに触れている訳で………
「…………。」
「………………。」
「……………………。」
「……………えーっと……翼?」
「……………………何?」
「…………………そろそろ離して?今更だけど凄い恥ずかしい……。」
そう顔を真っ赤にして言う奏。恥じらいで目を逸らすその姿に不覚ながら見惚れてしまう。……ごめんなさい。ここで退けたらそいつ男じゃないです。
「………済まんな。」
「へ?何が……んん!?」
一瞬きょとんとした奏の唇に、自身の唇をそっと重ねた。
「よぉ翼!元気そう……でもねぇな。どうした、そのほっぺた。」
「………別に。」
夜、見舞いに来たのであろうクレイが俺の顔を見て尋ねてくる。が、言えるかあんなこと。
「……ははぁ~ん、さては奏ちゃんだな?何やらかしたんだよ?」
「だから別に何もねぇよ!」
「ムキになるなって。お兄さんにホントのトコロ話してみ?」
「誰がお兄さんだ!!」
「俺も気になるな。彼女と屋上行って帰ってきたらそんな腫れ作ってるんだ。何があったんだ?」
「ああ……少佐まで……分かった、分かりました。話す、話しますよ!」
くそっ、クレイだけならまだかわし切れたがオズマ少佐まで参戦してくるとは……。
あの後、半分無理矢理キスした弊害というか……簡潔に言うとグーが飛んできた。密着状態でかわせる筈もなく直撃、二メートル程吹っ飛んだかな?
ちなみに奏曰く「私からならいいけど翼がいきなりやるのは反則。」なのだそうだ。女の子というのは中々に理不尽なものである。
「へぇ……翼がねぇ……。」
「……何だよ、その意味ありげなトーンは?」
「いや……あの恋愛に関しては超奥手の翼が自分から行くとは……成長したなぁ。」
「お前は俺の親父か!」
「さっきも言ったろ?お兄さんだ。」
「まだそのネタ引っ張ってんのか!」
本当に……コイツと話してると俺の疲労が増える。因みにオズマ少佐は笑ってたら傷に響いたのかベットで悶えている。
「まあそれは置いといて、だ。」
「色々言いたいがまあいい。見舞いに来てくれただけじゃねぇんだろ?」
「アタリだ。お前の機体だけどよ、修理にまだ時間が掛かるらしいんだ。」
ああ……まあオズマ少佐の話だと左腕が無くなったらしいし、それ以外にも損傷があるだろう。だが、そんな話なら今じゃなくても良くないか?
「で、だ。コレを機にルナ御嬢が破損時のデータも採るってからな、その間の代替機をどうするかって姐さんが。」
「ああ……そういう事か。」
「だが……代替機と言ってもVF-25Aの予備機かVF-171しか無いだろ。」
確かにオズマ少佐の言う通り、S.M.Sが保有している機体はそれくらいの筈だ。あとはVBとかデストロイドぐらいしか無いが……バルキリーに随伴させるには少々以上に無理がある。
「いやー、それがですね?倉庫漁ってたら奥の方に珍しい代物見つけまして。」
そう言って自分の端末から俺とオズマ少佐の端末にデータを飛ばすクレイ。それを覗き込んだ瞬間、思わずクレイを問い質したくなった俺は悪くないだろう。
表示されてるデータ。前進翼という得意なフォルムのその機体を俺はよく知っていた。
「………VF-19!?」
後書き
主人公、いきなり機体が変わる!!?
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