ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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20部分:愚王の末路その三
愚王の末路その三
「馬鹿者が、あの様な小僧共に何を手こずっておる!」
豪奢な絹で張られた大きな天幕の中でダナン王が銀の杯をスレッダー将軍に投げ付ける。将軍はあえてそれをかわそうとしなかった。杯は将軍の額に当たり血が顔を伝う。
鹿の肉を焼き様々な香辛料で味付けしたもの、子羊の胸肉の炙り焼き、鴨のスモークや雉のテリーヌ、新鮮なフルーツに年代ものの葡萄酒、どれも宮廷ならいざ知らず戦陣ではおよそ考えられぬ程の食事である。他にも高山で特別に採れる果実で作られた菓子、生野菜、白身魚のシチュー等三十品はあろう。
「・・・・・・申し訳ありません」
額から流れる血をそのままに、膝を地に着きながらスレッダーは主君に詫びる。王はまだ何か言いたげであったがフォークでシレジアから特別に取り寄せたペガサスの生肉を口に入れその端から血を滴らせつつ言った。
「まあ良い。今は気分が良い故許してやろう」
「ははっ、有難き御言葉」
将軍は主君に応えた。
「明日こそはあの小僧の首を我が前に引き摺り出し叛徒共を一人残らず炙り殺してくれる。・・・ホプキンズ、明日は貴様が行け」
「ははっ」
そのすぐ側に控えていた男が敬礼した。ドス黒い軍服の胸に犬の首と箒といった珍妙な紋章を描いている。茶色が混ざった黄緑に染めた長くカールさせた髪に全く同じ色の八の字の口髭と三角形に切り揃えた顎鬚を生やしている。この男こそダナン王の腹心でありイザークで暴虐の限りを尽くす親衛隊の長ホプキンズである。顔付きはさながら暗黒教団狩りの審問官のようでありその荒みきった眼は汚れた濃い茶の光を発している。
「略奪も虐殺も何もかも思う存分やるが良い。わしに逆らう者がどういう末路を辿るか世に知らしめてやれ」
「御意」
「さて・・・ガルザス」
王はホプキンズの向かいに立つ深緑の髪と濃紫の瞳を持つ男に声を掛けた。
「貴様はいつもの様にわしの身辺を警護せよ。良いな」
「うむ」
解放軍のダグダに匹敵する程の長身だが全体的に筋肉質で虎か豹の様な印象を与える。尖った顎が目立ちそれが見る者に更に野性的な印象を植え付ける。胸当てもシャツもズボンも全て黒灰色であり、影の様である。
「わしは良い用心棒を持った。おかげで今まで誰もわしを傷付ける事が出来なかったのだからな」
喋りながらくちゃくちゃと下品な音を立てて肉を食べ終え王は言った。そして参軍の一人に言った。
「晒し首の台を四万程用意しろ。奴等の首を全て城の前に晒してくれるわ!」
作戦会議は終わった。スレッダー将軍はホプキンズに耳打ちした。
「くれぐれもお気を付け下さい」
だがホプキンズは将軍の言葉を小馬鹿にした眼で見て言った。
「心配御無用。我等が親衛隊は奴等に死ぬまで続く苦しみを与えてやります故」
そう言うとその場を去った。
「毒を仕込んだ武器を使うつもりか、下衆共が・・・・・・!」
ホプキンズの背を忌々しげに見ながら将軍は呻いた。夜は更けやがて新たな戦いの始まりを告げる朝日が両軍を照らし出した。
後にこの戦いはリボー会戦と称されるようになった。参加兵力は解放軍四万、イザーク軍七万、兵力において両軍には大きな隔たりがあった。だがイザーク軍には致命的な弱点が幾つかあった。まずはダナン王の余りにも感情的で場当たりな采配、親衛隊と正規軍の将兵との軋轢、王の重臣達の横流しによる軍の物資の欠如、親衛隊の暴虐による民衆の反イザーク感情・・・・・・。スレッダー将軍をはじめイザークの心ある者は皆この戦いの行く末を案じていたが王は聞く耳を持たなかった。かくして戦いの幕は開かれた。
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