Fate/PhantasmClrown
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MySword,MyMaster
Act-3
#3
炸裂。
閃光。
火花が舞う。
重々しい金属音と共に、黄金の光と鈍色の闇が激突した。
「グッ……」
「……!」
弾き返されたのは両者ともに同じ。すぐさま体勢を立て直すと、再び互いの武器を構えて剣戟を交わす。
片や、蒼銀の騎士。両手で構えた得物は長剣。黄金の輝きを宿したそれは、彼の持つ【魔力放出】スキルをのせて、ジェット機もかくやという凄まじい速度で動く。セイバーの、サーヴァント……騎士王。
しかし恐るべきことに、その戦闘力は、それに対応するもう片方もほぼ同じと見えることだ。
漆黒の外套で身を隠したサーヴァント。だらりと垂らされた両腕が、構えているのは奇妙な武器。槍。鎌。長剣――あるいは、棍棒。そのどれにも見える得物を構え、セイバーを迎撃する。
接触。大気が揺れる。魔力の波動で、まるで関係ない場所がスパークを起こし、炸裂する。超常の戦い――サーヴァント同士の戦闘。
純粋な火力ではセイバーが上手と見える。当然と言えば当然で、セイバーの筋力ランクはほぼ最高となるA。これを超えるには、人ならざる出自や存在であることが求められる。
しかし黒外套のサーヴァントがこれに対応できているのは、ひとえにその技術故。両手の棍を、まるで手の延長で在るかのように自由に、変幻自在に操り、セイバーの斬撃をいなしていく。
決して、セイバーの攻撃が杜撰であるわけではない。狂ったように、破壊的に攻撃を繰り返すセイバーも、しかしまるで無秩序なわけではない。その攻撃は常に精錬にして洗練を極めた動きだ。
だが、対する相手の技量が、あまりにも上を行っているのである。まるで、己の武器でなくとも、一度手に取ればその性質から何から何までを理解し、長年の愛剣の様に扱って、怪物を討滅し得るような。
力と、技。技と、力。
拮抗する。聖剣と棍棒では明らかに聖剣の力が上なのに、しかし聖剣は標的を切り裂くことが叶わない。
さりとて、棍棒が反撃に転ずることができるか、と言えばそれも否だ。少しでもずらせば、そして体勢が崩れれば、すぐに押し切られる。
互いに動けない状況が続き、そしてやがて得物間に蓄えられたエネルギーが限界を迎える。小規模な魔力爆発。再び後退し、距離が開く両者。
圧倒しているのは、セイバーの方だ。第三者から見ても、明らかに強いのはセイバーの方である。
だが、敵サーヴァントの技術が、それを『致命的』なレベルへと至らせていないのだ。
”セイバー、大丈夫ですか”
グレーシャは思わず念話を送る。暴走状態にあるセイバーからは、しかし思ったよりも意識のしっかりした回答が返ってきた。
”問題ない。だがこのサーヴァント……強い。ステータスが、と言うよりは、技量が、だ。それにあの棍棒も一種の宝具だ……あれと打ち合っていては、恐らくいつまでたっても決着はつくまい”
ふむ、とグレーシャは考え込む。
これまでグレーシャとセイバーが出会ったサーヴァントは四基。バーサーカー、アーチャー、ランサー、アサシン。
エクストラクラス、と呼ばれる特殊事象が発生しなければ、セイバーを除けば残るクラスはサーヴァント位階第五位・ライダーと、同じく第六位・キャスター。
さほど高くもないステータス。しかし非常に高いレベルの技量と、強力な宝具。
これらの特徴から察するに、恐らく、あのサーヴァントは――
”ライダーのサーヴァント、ですか”
”だろうな……他にも宝具を隠し持っている可能性もある”
宝具、というのは、原則としては一基のサーヴァントにつき一つだ。複数の宝具を持つサーヴァントは少なくはないが、主力となるほど強力なモノを複数持つサーヴァント、というのは珍しい。
しかしライダーのクラスのサーヴァントは、例外的にこれを満たすものが多い。
ライダーの特徴の一つとして、『多彩な宝具』というのが上げられる。
ライダーのサーヴァントは、強力かつ汎用性に富んだ宝具をいくつも有している。
例えばシャルルマーニュ十二勇士と名高い英霊、アストルフォが、ライダーのクラスとして呼ばれた場合。彼は夢幻と現を行き来するこの世ならざる幻馬の他に、中華の王子アルガリアより得た魔槍や、聴いたものを恐慌させる角笛、更には魔女より与えられた、あらゆる魔術を妨害する書物などを宝具として具現化するに違いない。最も、アストルフォという英霊は理性が蒸発している、という伝承がある為、ライダーではなくバーサーカーなのでは? とも思うが。
ともかく。
一見派手さは無いが、しかし非常に強力な宝具を使い分ける――それがライダーの特徴である。
もし、今セイバーと交戦しているフードのサーヴァントがライダーなのであれば、騎士王が宝具だと推測したその棍だけでなく、更に大量の宝具を保有している可能性も捨てきれないのだ。
故に、警戒が必要だ――
そして、その時。
「――」
ライダーが、大きく飛びずさった。
「……!」
セイバーが追随する。アーチャーとの戦闘で見せた、相手との距離を開けない、奇妙な歩行方法。しかしライダーはひらり、ひらりとセイバーの追跡を躱し、そして、大きく飛び上がると――
「――『騎英の手綱』」
口遊んだ。
それは、祝詞だ。祈りを具現化させるための、祝詞。人々の祈り。祝福。願い。幻想。神代から現代にいたるまで、神秘の有無、そしてその知識の有無にかかわらず、人間たちが『かくあれ』と、英雄たちに託してきた、ユメ――
宝具。
棍棒はいつの間にか掻き消え、代わりにライダーの右手には、手綱と思しき紐が握られていた。それは、知らぬ間にそれと繋がれた、奇妙な幻影を作り出す。
馬だ。人と、竜と、それから魚。あとは、鳥。様々な生物の幻影が蠢くが、その本来の姿は馬で在るように思えた。
幻想的、しかしどこか不気味なそれに、ライダーがまたがる。
――直感的に、グレーシャは叫んでいた。
「セイバー、防御を!」
直後。セイバーが、ランサーとの初日の戦闘で見せたのと同じ、魔力放出による障壁を張るのと、ほぼ同時。
星が、啼く。
大気が、叫ぶ。
ライダーをのせた夢幻の馬は、一筋の流星の様に昇華され、戦闘の舞台となっていた公園の木々を吹き飛ばしながら、セイバーと激突した。
魔力放出の壁によるダメージの減衰と、彼の宝具たる『無窮の栄光』の効果によって、即死は免れたようだが――一瞬、凄まじいまでの破損が、彼の鎧に与えられたのを見た。
グレーシャはこの時、この聖杯戦争において最初に、セイバーの耐久ステータスがA+という非常に高いランクであったことに感謝した。
それによって、彼は何とかして宝具の直撃を受けても生き残ることができたのだから。
ライダーはそのまま、星の馬に乗って何処へと去った。後に残ったのは、これまでのように暴走の終焉による霊基の軋みではなく、戦闘ダメージによって膝をつくセイバー。
「すまない、マスター……少し、霊体化する……」
「大丈夫です。お疲れさまでした、セイバー」
「悪い……さすがに宝具直撃は、少し堪えたな――」
セイバーはグレーシャが近づくと、罅割れた声でそう言った。グレーシャが許可を出すとすぐに霊体化するセイバー。仕方あるまい。むしろ、宝具の直撃を耐えきった、という点で、セイバーの圧倒的な戦闘能力が再評価出来たレベルだ。
グレーシャは拠点へと戻りながら、今日の戦闘を回想する。
どうにもライダーは様子見、というか、セイバーとできるだけ打ち合い、あわよくば撃破――という戦法を立てていたように思う。
セイバーの戦闘能力は、間違いなくこの聖杯戦争で最強クラスだ。抗し得るのはバーサーカーとランサーだけ、と思われる。
だが、他のサーヴァントへの警戒も怠ってはならない、と、グレーシャは強く心に刻みつけた。
敗退は、許されない。というより――自分自身で、それが、許せなかった。
後書き
『最強の騎士王』がコンセプトなのに今の所あんまり活躍できてないなセイバー……。
そしてFate詳しい人なら一発で見抜けてしまいそうだなライダーの真名……。
次回の更新はやはり明日、18時からです。
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