提督はBarにいる。
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お節もいいけどカレーもね?・その3
「さぁ、お次はいよいよ姉妹唯一のケッコン艦である夕立ちゃんの登場です!」
なんて、調子の良いことを言って青葉は煽っているが、正直不安しかない。……だって、あの夕立だぞ?戦闘中とトレーニングの間は脳内がお花畑してそうなあの夕立に、料理が出来んのか?
「むー、何か提督さんが失礼な事考えてるっぽい……」
表情に出ていたのか、俺の顔を見て膨れっ面になる夕立。こりゃマズイ、ポーカーフェイスに徹しておこう。
「それで、夕立ちゃんはどんなカレーを?」
「んふふー、シーフードカレーっぽい!」
《夕立:秘密の隠し味入りシーフードカレー》※分量4人前
・海老:8尾
・イカ(無ければ冷凍ロールイカ):200g位
・茹でタコ:100g
・赤パプリカ:1個
・玉ねぎ:1/2個
・にんにく:2片
・サラダ油:大さじ2
・バター:大さじ1
・水:400cc
・サフラン:2つまみ
・生クリーム:200cc
・カレー粉:大さじ1.5
・秘密の隠し味:20g
まずは海老の下拵えだな。殻を剥いて背開きにして、背ワタを取っておく。殻は何かに使うのか、取って置くようだ。予想以上に手際がいいぞ。
「ふふ~ん、皆に隠れて特訓してたっぽい!」
夕立はどや顔で自慢気だ。続いてフライパンにバターとサラダ油大さじ1を入れて熱し、水気を拭き取った海老の殻を投入、炒めていく。
「提督、あれはどういった意味があるんでしょうか?食べるんですか?」
「いや、違うな。海老や蟹のような甲殻類の殻ってなぁ良い出汁が取れるからな。炒めて香ばしさを出しつつ、カレー用のスープを取るんだろう」
「成る程!おウチで出来るワンポイントですね!」
俺の予想通り、殻に軽く焦げ目が付いた所で夕立はサフランと水を投入。灰汁を取りながら弱めの中火で煮込んでいくようだ。
その間にも具材の準備を進めていく夕立。イカは皮を剥いて、5cmの長さに切り揃えたら1cm幅に切っていく。タコは小さめのぶつ切り、赤パプリカは2cm角に、玉ねぎは繊維に沿って薄切り、にんにくはみじん切りにする。……と、ここで海老のスープが出来たらしい。大体煮込んでいた時間は15分位か。ザルに濾して、海老の殻は取り除いておく。
スープを取ったフライパンを一度洗い、乾いたらサラダ油を熱する。
「おっと、ここで夕立ちゃん冷蔵庫から何か取り出しましたね?え、イカの塩辛!?」
そう、青葉が驚くのも無理はない。夕立が取り出したのは紛れもなくイカの塩辛。おおよそカレーには入れないだろうと思われる食材だった。
「コレが夕立カレーの隠し味っぽい!」
「……提督、カレーに塩辛はどうなんでしょうか?生臭くなっちゃいそうですけど」
「あ~……俺も入れた事は無いから解らんが、確りと炒めれば臭い自体は薄くなるハズだ。それに発酵食品は旨味の塊だからな、カレーにコクを出すにはいいかも知れん。いやぁ盲点だった」
「提督ですら予想できないカレーに塩辛!一体どんな仕上がりとなるのでしょうか!?」
夕立は塩辛を細かく刻んで、熱したフライパンににんにくと一緒に入れて中火で炒めていく。そこに薄切りにした玉ねぎを加えて更に炒める。玉ねぎがしんなりしてきたら水気を拭いた海老とイカを加えて強火に。海老が赤くなったらタコとパプリカを加えて全体をかき混ぜながら炒める。
全体が炒まったらカレー粉を加え、ザッと炒める。カレー粉の香りが立ってきたら生クリームと海老殻スープを加えて強めの中火にして5分程煮込む。海老の出汁がたっぷり出てるので、そんなに煮込まなくてもカレーには旨味がたっぷりだ。煮込み過ぎるとシーフードは固くなっちまうしな。味を見て、塩、胡椒で調整すれば完成だ。
「さぁ、召し上がれ!」
まず気になったのは臭い。スプーンで掬い上げてスンスンと匂いを嗅ぐが、塩辛独特のあの臭いは全くない。口に入れると、短い煮込み時間とは思えない位に旨味が深い。海老の旨味もあるが、それ以外にも別の旨味も感じる。これならシーフードに限らず、普通のカレーに入れても臭いは気にならないだろう……まぁ、確りと炒める、という前提での話だが。具材も味が抜けすぎているという事もなく、むしろカレーのスパイスが利いて良い感じだ。
「どうどう?提督さん」
「うん、夕立の手料理は初めて食ったが……中々美味いじゃないか」
「はぁ~……安心したっぽい」
何をそんなに力む必要があるのか?俺に料理を食わせる位で。
「提督、自分より力量が上の相手に料理を振る舞うというのは意外と緊張する物ですよ」
という大淀のフォローが入る。そんなモンかねぇ?俺ぁ別にプロのコックでも何でも無いんだから、そこまで緊張する必要は無いと思うんだが。
「さぁてお次はぁ~……五月雨ちゃんと涼風ちゃんの2人が、1つの料理を作ってくれました~!」
うん、妥当な判断だろう。五月雨一人に任せておくと、下手すりゃ料理が出来ないどころかキッチンが破壊されていた可能性すらある。
「それで、お2人はどんな料理を?」
「へへっ、アタイ等は目先を変えたのさ。カレーライスに拘らなくても良いよな?ってなもんさ!」
「わ、私達が作ったのはカレーうどんです!」
「おぉ、良いですねぇ!それでは調理の模様をどうぞ」
《五月雨&涼風:目指せ蕎麦屋のカレーうどん》※分量2人前
・うどん:2玉
・牛小間切れ肉(豚でもOK):100g
・玉ねぎ:1/2個
・水:450ml
・めんつゆ(ざるそば用の濃さに薄めた物):150ml
・カレールー:2~3かけ
・水溶き片栗粉:大さじ2(1:1で混ぜた物)
さて、調理が始まった。2人並んで玉ねぎと牛肉を刻んでいる。玉ねぎを刻んでいる五月雨が涙でぐしゃぐしゃになってしまっている……ベタだなぁ、オイ。
「提督、お蕎麦屋さんのカレーうどんだとあんまり玉ねぎが入っているのを見ませんが、このレシピには入ってます。何故でしょう?」
「恐らくだが、甘味をプラスする為だろうな。蕎麦屋のつゆにはかえしが入っていて甘味が強いが、市販のめんつゆにゃ入ってねぇからな。それで玉ねぎを使って足してるんだろう」
会話を交わしている間に、具材が刻み終わったらしい。鍋に水とめんつゆを張り、火にかける。沸騰してきたら玉ねぎと牛肉を入れて灰汁取りをしながら煮る。
具材に火が通ったら、カレールーを入れる。少なく感じるかもしれんが、ルーを入れすぎるとドロドロになってしまう。足りないとろみは仕上げに水溶き片栗粉で付けるからな、問題ない。ルーが溶けたら水溶き片栗粉を回し入れてとろみを付ければつゆは完成だ。
後はうどんを湯がいて湯切りをし、器に盛ったらカレーつゆをかける。仕上げにお好みで刻みネギを散らせば完成だ。
「カレーうどんお待ちぃ!」
ズルズルと啜ると、玉ねぎから染み出した甘味がカレーにマッチしていい塩梅だ。そこに和風だしの味も合わさって、まさに蕎麦屋のカレーうどんと言っても差し支えない。
「あ、はねちゃいました……」
大淀がしょんぼりとしている。白い制服にカレーの染みは目立つからなぁ。まぁ、ウチのクリーニングスタッフは優秀だから、任せておけば安心だとは思うがな。ま、俺は気にせず普通に食うけどな?
「あ、生卵貰える?」
カレーうどんを2/3程残した所に、生卵を落とす。黄身を崩すようにかき混ぜて、麺と絡めればまた違う味が楽しめる。うん、美味い。奇をてらったカレーもいいが、こういう落ち着く味のもいいな。
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