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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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198部分:聖杖その三


聖杖その三

 かってはヴェルダンのスリであった。本人の言葉によると親はオーガヒルの海賊らしいが詳細は不明である。ヴェルダンの第三王子ジャムカの財布をすろうとして捕まったが縁で彼と知己になり付き合いがはじまった。そして成り行きでシグルと共に戦う事となった。
 当初は素早さのみが取り柄の小僧っ子だったが何時しか剣の腕を上げシーフファイターに昇格した。
 先の大戦後レンスターにいたがこの時にジャムカとブリギットの娘パティやディジー、また仲の悪さでは解放軍一のリフィスとパーンに盗賊のイロハを教えた。意外と教え上手であったのだ。
 ジャムカ達と共にアグストリアに移ってからは彼等と共に帝国と戦った。彼が得意としたのはゲリラ戦や後方撹乱でありこれによりアグストリア及びヴェルダンの帝国軍と大いに悩ませた。今はアグストリアの仲間達と共にラドスに上陸しこのゴート砦を奇襲した。だが砦はもぬけの殻だったのだ。
「御頭、やっぱり猫の子一匹残っちゃいやせん」
 口の周りに髭を生やし黄色がかったシャツとズボンのいかにも、という感じの男がデューのところへやって来た。彼は嫌そうな顔をした。
「その言い方は止めろって言ってるだろ。もう一回」
「へ、へい」
 男はペコリ、と頭を下げた。
「ドン、やっぱり猫の子一匹残っちゃいやせん」
 殆ど変わっていない気もする。だが当のデューは満足そうだ。
「そうか・・・・・・。ひょっとしてもうミレトスに引払っちまったのかもしれないな」
「だとすると・・・・・・」
「ミレトスには敵さんの切り札があるんだろうよ。それもスペードのエース、とびっきりのやつがな」
「やばいですかね」
「まあ今は大丈夫さ。それよりももうすぐセリス皇子の軍が来るんだろう?出迎えて驚かせてやろうぜ」
 彼はそう言うと悪戯っぽく笑って片目を瞑る。それを見て男は頭を下げ喜んで階段を降りて行った。
「良い奴なんだがなあ。間の抜けたところがあるのが玉に瑕だな」
 デューは少し溜息混じりに呟いた。
 解放軍の別働隊がゴート砦に入ってから数日後セリス達本軍も砦に入城した。門をくぐるセリスを将兵達は轟く様な歓声で迎えた。
「よし、次はいよいよミレトスだね」
 セリスは歓声の中少し後ろにいるオイフェに言った。
「はい、そしてそれからはシアルフィ、ひいてはグランベル本土へ行くのです。シグルド様の果たし得なかった御自身の潔白の証明、そしてグランベルの解放・・・・・・。それ等がいよいよ目前に迫っているのです」
 我を忘れたかのように堰を切って話すオイフェ。セリスはそれに目を細め頷いていた。
「そうだね。よし、すぐに行こう。目標はミレトス城だ!」
 だが事は容易にいかなかった。すぐに敵が来たとの報告が入って来た。
「やはりそう簡単に事は運ばないね。そして敵は何処から?」
「北東からです。全軍飛竜に乗っております。兵力は二万程です」
「飛竜・・・・・・まさか!?」
 セリスは伝令の言葉に何かを悟った。だが彼はすぐに動けなかった。しかしすぐに動いた者がいたのであった。
「くっ・・・・・・!」
 アルテナはその報告を聞き部屋を飛び出した。そしてそのまま廊下を駆けて行った。
「あっ、待ってアルテナ王女、今動くと・・・・・・」
 セリスはそこで言葉を止めた。それ以上言っても何もならないと悟ったからだ。
「セリス皇子、わかっておられるでしょう。アルテナ王女は今二つの血脈の因縁を断ち切りに行かれたのです。グングニルとゲイボルグ、二本の槍の悲しき運命を」
 クロードが左手をセリスの右肩に当てながら言った。その手は優しい温もりに満ち温かかった。
 城壁の上から一騎飛び立ち天高く上がっていくアルテナの後ろ姿が見えた。その右手にはあの槍が握られている。
「今までアルテナ王女は戦いから、障害から、そして運命から逃げた事はありませぬ。そしてこれからも・・・・・・。その様な王女であられるからこそ二本の槍の運命を必ずや断ち切られます。心配はご無用です」
 ハンニバルが力強い声で言った。その言葉に一同は頷いた。
 アルテナの手にあるゲイボルグ、その槍は何も語ろうとしない。ただ槍に埋め込まれている紅の宝珠が彼女の身体を包むかのように輝いていた。
 
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