Fate/PhantasmClrown
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MySword,MyMaster
Act-1
#3
「……はい。私が、我が王に聖杯を捧げるべく、あなたを召喚したマスターです、騎士の王よ」
グレーシャは自らの目の前に立つ蒼銀の騎士に向かって、そう答えた。
雄々しい。決して大柄ではないが、さりとて小柄、というワケではない。引き締まっている、と言うのか。全体的に、そんなフォルムの人物だった。
全身を覆っている白銀の鎧は、ところどころが欠けていたり、錆びていたり、挙句の果てには傷だらけ、という、遺跡か何かを想起させるような様相。しかし、それは決して『みすぼらしい』ことの証ではない。むしろその逆――傷だらけの鎧によって、この蒼銀の騎士のもつ武勲が、逆に引き立てられているかのようだった。
騎士は、ふん、と息をついた。
「騎士王、か……随分と妙な名前で俺を呼ぶモノだ。俺の時代はオマエたちが言う所の騎士などまだ存在しても居なかったろうに……とはいえ、そうであることに変わりは無いのだろうさ。いかにも、俺は騎士の王である」
若い声だった。鎧越しだからだろうか。くぐもって、どこか罅割れて聞こえる。しかしそのエフェクトが無ければ、恐らく多くの男女の憧れの的となる、最優の騎士にして王たる存在に相応しい声だったに違いない。既に想いを裕一に捧げているグレーシャには関係ないが。
騎士はがしゃり、と姿勢を正すと、続けた。
「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ、参上した。これより我が身はオマエを護る剣であり、オマエ……ああいや、違ったな。『オマエたち』を護る盾である」
「よろしくお願いします、セイバー。私は氷室雪華=グレーシャ・スノードロップ。雪華の名は我が王、束裕一に捧げるもの故に、私のことはグレーシャ、と。」
「了解した。ではそのようにしよう」
頷く騎士王。彼は立ち上がると、召喚陣の周囲を見渡した。ふと、彼の目に留まったのは、祭壇に横たえられた黄金の剣――『聖剣』。
「……これは……」
「我が王の一族に伝わる『聖剣』です。元来は貴方が所有したモノだ、と、我が王の一族には伝わっています。事実ですね?」
背後で、裕一がごくり、と唾を呑む音。当たり前だ。今、目の前に、自らの一族の家宝、その最初の持ち主が立っている。彼の発言如何によっては、束一族の正統性そのものが揺らぐ、あるいはより強固なものになるのだ。裕一自身はあまり家やそこに伝わる伝承にこだわってはいないようだが、それでもやはり、ある程度は気になるのだろう。
セイバーは『聖剣』を取ると、ぶん、と振った。
――直後。
豪風が、吹き荒れた。幹部たちの悲鳴。グレーシャは反射的に裕一を庇うために動く。しかし裕一の方が速い。グレーシャを抱きしめると、片手を前に掲げた。
――無詠唱。剣の鞘のような形状をした模様で形作られた、半透明の障壁が展開。セイバーの剣閃によって吹き荒れた突風から、グレーシャと裕一を守り通した。
「ゆ、ゆういち……? ま、護るのはわた、私の役割の筈ですが……!」
「あ……あっ、ご、ごめん雪華……」
風がおさまってから二秒ほどして、グレーシャは真っ赤になっていることが自分でもわかる顔を裕一に向けると思ったことをそのまま告げた。慌てて飛び退く裕一。ちょっとだけ名残惜しい、が、裕一の意識改善に役立つならば良い。彼は時折、このように反射的に魔術を使う。護るべきはグレーシャの方なのに、グレーシャを護る為に魔術を使うのだ。それでは本末転倒である。
――今回も、使わせてしまった。
グレーシャは少しだけ気落ちしながら、セイバーの方を向き直る。
彼は丁度残身から体勢を直したところだった。黄金の聖剣をゆらり、とした構えで右手に下げると、グレーシャと裕一の方を向いて、告げた。
「……間違いないな。これは湖の女神が鍛え、魔術師マーリンが俺に与えた『星の聖剣』だ。まさかそのままの形で残っているとは思わなかったが……これは、俺の宝具だ」
そう言って彼は……左手を突き出した。
まるで水面に腕を挿しいれたかのように、揺らめく左腕。次にその手が引き抜かれたとき――そこには、右手に握った『それ』と、全く同じ剣が握られていた。
おお……と、幹部たちがどよめく。裕一も呆気にとられているようだった。グレーシャも、また。
「なるほど、確かにオマエの主は、俺の後継者であるようだな、マスター」
セイバーは今度は裕一に向けていった。
「二本持っていたところで、同時に使えるモノでもない。片方はオマエが持っていろ、我がマスターの王よ」
「……は、はい」
裕一はセイバーから、触媒に使った『聖剣』……いや、最早その呼称は不十分だ。
『エクスカリバー』を、受け取った。
「さて……契約の確認も済んだ。オマエの王の正しさも証明した。次は、俺は何をすればいい、マスター」
もう一本、彼の宝具であるところのエクスカリバーを水面へと再びしまうと、グレーシャを見て問うた。ああ、そうだ。この騎士王は、サーヴァント。聖杯戦争を勝ち上がる為の、最上級の使い魔――
そう、グレーシャが思考した時だった。
「……む」
セイバーが、視線をずらした。グレーシャもそれを追う。隣で、裕一が息を呑んだ。
――ずれた。
世界がずれた。
歪んだ。
それは扉だ。歪みの扉。この世界と異なる世界へと人を誘う、世界の綻び。異世界への繋ぎ目。
「時間、だね」
裕一が言う。
あの門を通ったが最後、グレーシャは、この聖杯戦争で勝利を収めるまで、こちらの世界へは帰ってこれない。もしかしたら戦いの間で死んでしまって、もう二度と現実世界へと還ることは無いかもしれない――
そう思ったら。
「……裕一」
「なに?」
ちょっと、不安になってしまう。
「裕一。私――」
ああ、でも。でも。でも。
彼を心配させることなんかできない。大好きで大切な王様に、手駒を過度に心配させるようなことを言ってはいけない。
だってそう言う契約だ。それに此処で何か約束することは、なんとなく不吉だ。
だから。
「行ってきます」
そう、言うだけ。
「……うん」
裕一も、頷いてくれたから、きっとその続け方は、間違ってはいなかったのだろう。
「行ってらっしゃい」
王からの声援を受けて。
「行きましょう、セイバー。聖杯を、我が王に捧げるために」
「了承した。俺はそのためにこの剣を使おう」
グレーシャとセイバーは、時空の歪みに身を投げた。
***
――行ってしまった。
雪華。僕の騎士。蒼銀の剣士を伴って、彼女は異世界へと旅立った。
ここからは、彼女と直接話したり、向こうの様子を直接知ることは不可能だ。
できるのは、鏡面界を解析し、そこで起こっていることの概要を予測することだけ。
「局長。鏡面界に、新たなサーヴァントとマスターの出現が確認されました。グレーシャとセイバーと推測されます」
「分かった」
幹部の一人が、観測室から受け取った情報を伝えてくれた。同じ風景を見るための装置は僕の部屋にもある…グレーシャが来た時に見ていた奴だ…けど、観測室で、全員で見た方がいい気が、なんとなくして。
「いこう。聖杯戦争の行方を、出来る限り知るんだ。それで――できるなら、向こうの景色を、もっとうまく観測できる装置や、向こうと連絡を取る手段を確立させよう」
それが、僕ができる唯一の指示。
離れ離れになった僕の騎士にできる、数少ないバックアップ。
騎士王だけに頼ってはいられない。
僕も一応、『王様』だってことを、なんとかして知らしめなくちゃ。
後書き
昨日は更新できず申し訳ありませんでした!! 諸事情でPCが使えず、金曜日に「土日の投稿どーすっかなぁ。明日決めるか!」とか投稿予約渋ってた結果がこれだよ!!←
お詫びと言ってはなんですが、本日はこの後もう一本、普段と同じ18時あたりに更新しようと思います。
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