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サイカイのやりかた #毎週投稿

作者:銀P
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第3章 VS HERO
  8.事件の前準備

 
前書き
「7話のあらすじ」
理子に矛盾点を突きつけ、彼女自身に武偵殺しであると認めさせることに成功する。…が、思わぬ方向に話が進んでしまう。

♯ここで、修一がどうして倉庫の一直線で約80機相手に暴れることが出来たのかが判明します。

 

 
「理子と一緒に、武偵殺し、やろ♡」

俺は理子の言葉をすぐに理解することは出来なかった。
は?今こいつなんて?

「…わんもあぷりーず?」

「Let's play a Buteigoroshi with me」

「誰も英語で返せなんて言ってないわ」

一応ある程度勉強してたからわかるが。いや実際英語だけは力をいれてるのが武偵高校である。平均点英語だけやけに高いんだよ。

「ね♡」

「いや、そもそも何で俺だ。もっと凄ぇやつをフォローに入れたらいいじゃねーか」

「出来るならそうしてる。けど、今理子のことを武偵殺しだと知っている奴で動けるのはお前だけだ修一」

「武偵って確か、犯罪犯すと3倍の刑になるんじゃなかったか?」

「そーだね!もちろん国に払う金も3倍だから〜軽く100万は超えるよね」

「………いつもの俺なら速攻で断ってたんだがなぁ」

「くふ。理子の手伝いをしないと、今の支払いもできないもんね!

…で、どうするんだ修一?こっちも人出は欲しいが、やれることをやらないやつは使い物にならないぞ」

「それを言うならやっぱ俺じゃないと思うがな。年間Eランク舐めんな」

銃は撃てない、パソコンもろくに扱えない、体術もそこそこの俺が、武偵殺しの手伝い?俺の失敗でこいつが捕まる未来が見えたね。まぁ、実際金をもらえるんならなんでもやるつもりだったが…犯罪、ねぇ。

「なにするかわからんが、人殺しだけは嫌だぞ。やっぱ人間として、そこだけは踏み外しちゃいけねぇ」

「…くふ。大丈夫だよ修一。前にも言ったけど、理子人殺しはしてないしする気もないよ。
ほら覚えてるだろ?
修一が一直線の通路でその両方を塞がれたとき、あの時本当は暴れている修一を簡単に殺すことはできたんだが、あえて撃つものを減らしたんだから」

「ああ、やっぱあれそっちが手加減してくれてたんだな」

いくら全力で力だしたって、平凡な俺には到底倒せない数だった。納得いったよ。

まあ一応それも借りっちゃ借りか。

「………。はぁ」

俺は頭をかいて、最終的な結論を考えた。ま、実際はしたくないのだが、金が無いのも事実。俺に逃げ道は作らせない手口、犯罪者のやり口っぽいのう。あ、犯罪者だった。

「わーったよ、お前の手伝いしてやる。失敗しても知らんぞ」

「くふ。倉庫の戦闘で修一が意外とできるやつってのはわかってるから。大丈夫だって、『信じてるから』」

そういわれることは素直にうれしいが、そんな過度な期待して本当に大丈夫かね。

「んで、なにすりゃいいんだ?」

「後に何かしらの指令を送る。それに従ってくれればいい。作戦実行は明日の7:58。アリアとキンジに武偵殺しとしての挑戦状を渡す。修一はスムーズに進めるためのフォローを頼む」

「…そもそもどうしてお前はあの二人に執着してんだ?なにかあるのか?」

俺が気になったことを聞くと、理子は眉を寄せてちょっと機嫌を悪くした。

「…深い詮索はいずれ墓穴を掘って自分を殺すよ修一。今お前に言えることはなにもない」

「まあ人にはそれぞれなんかあるし、別にいいけどよ」

特に聞きたいとも思わなかったので簡単に終わらせると、身支度を済ませるため色々と準備し始めた。

「なにしてるの?」

「何って明日決行なんだろ?だったら今日の内にやっておくことがあるんじゃないのか?」

右手が使えない状態でいろいろとやるのは難しいな。これからしばらくこれが続くのか…辛いな。

「へー、結構やる気あるみたいじゃん」

「まあな。金をもらう以上、やれることはやってやるさ」

「くふ、今の理子的にポイント高いよ。本当に好きになっちゃいそーう♡」

「おお、そういやお前一応俺の彼女もどきになったんだよな。ほれ、身支度するから手伝え」

「はいはーい」

そうしてなぜか理子が持ってきた俺の防弾制服(聞くとわざわざ俺の部屋からとって来たらしいが、どうやって部屋に入ったんだ??)に着替え、松葉杖を持つと、病室からそさくさと逃げ出した。まあ、あとで手続きの電話でもしときゃ大丈夫だろ。たぶん。


ーーーーーーーーー

「邪魔するぞー」

「あや、岡崎くん!?どうしてここに来てるのだ!?確か一か月くらい安静にしてないとって…」

「あーなんつーか。思ったよりダメージなかったぽいぞ。体に当たった弾も貫通してなかったぽいしな」

俺は理子と別れると、真っ先に平賀文の部屋を訪れた。理子の方はいまからセグウェイもどきの最終調整と、ある機能をつけに行ったらしい。まあそれはどうでもいい。というか俺がなんとかできたくらいの性能だったからな。今のままじゃ、あの二人になんて適うわけがない。
ということで連絡が来るまで暇になった俺は、いろいろと世話になった平賀にお礼を言いに来たのだった。

俺の来訪に驚く平賀を適当に返して(実際傷は痛むが、そんなことも言ってられないし、平賀を余計に心配させるだけだし)いつもの席に座る。平賀はふーんと返すと俺の前に座って来た。

「別にいつも通り、作業しつつでいいんだぞ?」

「あやや…ま、まあ、今日はたまたま暇なのだ!岡崎くんの会話に付き合ってあげるのだ!!」

「ふーん。まあ、いいけど」

なぜか焦りながらそういう平賀。なんだ?いつも「作業ばっかで暇なんてないのだー!」とか自分から言ってくるくせ。そんな時もあんのかね。

「この前はサンキュな。お前がいなかったらやばかった」

「あや、そのことはもういいのだ。あやや的にもあの武偵殺しの兵器を解析できたし、ボタン型監視カメラもうまく使えたし、あややの方がお礼を言いたいほどなのだ!」

「…そっか。まあでも、サンクスな」

お礼を返されてしまったが、もう一度礼を言うと、平賀は顔を赤くしながら笑ってくれた。ま、平賀ならこんな感じに返してくるってのはなんとなく想像ついてたから、もうこれくらいにしとくかな。

「ねえ。岡崎くん」

「なんだ?」

「一昨日の任務はいったい何ランクの依頼を受けたのだ??あれは絶対Eランク任務なんかじゃないのだ!」

「あ、そ、それは…」

まさか武偵殺し自身に呼び出されてたから、実質Aランクくらい…とは言えないよな。こういう時すぐにうまく返すことができない俺は、口をパクパクさせることしかできなかった。

すると、平賀が近づいてきて、下を向きながら

「…もう、やめてほしいのだ」

と、小さくつぶやいた。…え?

「あの兵器のカメラから見てたのだ。岡崎くんが倒れて、血がどんどん出てきてるところ。あややにはもう、岡崎くんが死んでしまったみたいに見えたのだ。…怖かった、日ごろ頻繁に来てくれる岡崎くんがいなくなったら、ここがすごく、さみしく感じてしまう、その時思って怖くて。だから、岡崎くんにはもっと安全で、簡単な任務を受けてほしいのだ」

プルプルと震えながらそういう平賀。もしかして、むっちゃ心配かけちまった…か。
というかここに来る理由のほとんどが外だと異様に目立つからだったり。基本誰かに見つかったらヒソヒソ言われちまうし。俺のオアシスなんだよなここ。


「そっかそっか。平賀はそんなに俺を心配してくれたわけだな。もしかして俺のことすーー」

「あ、それはないのだ。友達以上、恋人皆無くらいなのだ」

「…さいですか」

ちょっと期待したんだが…むぅ。だけど、まあ心配させたってことは間違いさそうだ。ちゃかしたからかちょっとキレてる。ただ…いまから武偵殺しの手伝いするからもしかしたらそれ以上の依頼するかも、なんて言えないよな。

「ま、大丈夫だっての。Eランクの俺がこれ以上危険な事することすらないって。な?」

「…そうだったらいいのだ。でも心配だから、いいものを用意しておいたのだ!!」

そういうと平賀は近くの箱をがさがさ漁ると、セロハンテープのような真ん中に空洞の開いた何かを渡してきた。だがセロハンテープよりも、かなりの重さがあり、その巻かれたなにかもセロハンというよりか紐に近い。

「なにこれ?」

「『とべーる君 二号』なのだ!先端が吸盤になっていて、張り付いたら約150kmの速さで引っ張っても取れないようにしたのだ!!」

確かに先端には赤い何かゴム質の物が取り付けられている。これがそんなすげーものなのか…

「んで?これ何に使うんだ??」

「あや、貸してくれなのだ!ここを押すと、巻かれたロープが自動で射出されるのだ。長さは約20mほどなのだ、えい!」

平賀がセロハンもどきの内側の小さい赤いボタンを押すと、静かに飛んでいくロープ。そしてその先端の赤いゴムが壁に当たりくっつく。

「これでもう離れることはないのだ。そしてここの青いボタンを押すと…えい!」

平賀が赤いボタンの横の青いボタンを押すと平賀の手からセロハンもどきが離れ、ロープを巻き取りながら壁まで走った。ガチャンと音を立て、壁にくっついてしまった。

「…で、これ何に使うんだ?」

ふふんとドヤっている平賀にそう返す。機械が巻かれていっただけでどうしてそうドヤ顔なんだ。

「あや、ターザンごっこなのだ!!」

「…ターザン??」

ターザンってあれか?あーああーーとか言いながら森駆け回るやつ。

「これを天井に撃って、そのまま離さずに青いボタンを押せば宙に浮くことが可能なのだ!そのままブランブランして遊ぶのだ!!」

「…でもよ、これどうやって壁からバズすんだよ?一回したら終わりか?」

今も壁に宙ぶらりん状態のとべーる。絶対外れないんなら使い道が限られてくるが。

「大丈夫なのだ。青いボタンの横にもう一つ小さなボタンがあって、それを押すと」

平賀はとべーるに近づくとそのボタンを押したのだろう。とべーるはいとも簡単に外れ、平賀の手に落ちてきた。

「この中に空気を入れるボタンなのだ。これで簡単に外れるのだ!」

「なるほどね。どこでも移動できるようになるってことか」

これを使えばまるでスパイダーマンのように自由に移動することができそうだ。…まあ、スパイダーマンみたいなことしたらすぐ死にそうだが…。

「だけどよ、そのロープが切れるってことはないのか?それ空中でちぎれたら終わるぞ」

あーああーしてる最中に切れたりでもしたらそのままThe Endだ。そんな終わりは嫌だ。

「大丈夫なのだ。こう見えてかなりの強度をもっているのだ。理論上、刀で100回切っても切れないようにしてるのだ!!」

「へえ…」

これ、もしかしたらターザン以外の使い道がいろいろあるかもしれないな。確かに即戦力の機械だ。少し重いがそれだけ便利がある。だが問題は…

「んで、これいくらだよ?これだけ高性能なら、金も莫大なんだろ?」

相手はあの平賀文だぞ。これだけのものを安値で取引するわけがない。莫大な金を使うことで有名なやつだからな。


「退院祝いなのだ!タダでいいのだ!!」

「まじか!」

と、思っていたがこいつ意外と友達思いなんじゃ…。

「でも修理費は最高15万なのだ」

「………くそう」

やっぱな!さすが平賀さん。俺に使わせて金をとる気か。くそうこの平凡学生の敵め!

「でも、もらえるもんはもらっとく」

「あや!ベルトにつけれるようにしといたのだ!」

俺はもらえるもんはもらっとく主義だ。貧乏には物が少ないのだ。

それから俺はまた冷却弾を6発購入した。これ意外と使えるからな

「火炎弾はいらないのだ?」

「ありゃ不良品だったぞ。改良よろ」

「あいやー!」



それからしばらく平賀とたわいもない話をしていると携帯が鳴った。どうやら理子の指令ってやつが届いたようだ。



『17:00までに遠山キンジの部屋の時計を五分遅くしろ その後、アリアと接触、明日の朝までキンジに近づけるな。
このメールは確認しだいすぐに削除すること
PS、キンジの部屋のベランダの窓が開いてるみたいだぞー♪』



…は?武偵殺しの手伝いってことだから誰かを誘拐とかそんな感じのことをするんだと思っていたが…なんだこれキンジの部屋の時計いじってアリアと会えって?…なにしたいんだ理子のやつ??

「…また、依頼なのだ?」

平賀が心配そうにこっちをみている。こいつ、なんだかんだ言いながら、やっぱいいやつだよな。こうして友達だからって理由でいろいろとしてくれるわけだからな。

俺は笑って平賀の頭を撫で

「やっぱりそれはやめてほしいのだ」

ようとしたが本気で嫌がられたのでやめて

「大丈夫だって。今回のは思ったより簡単そうだからな。軽くやってくるよ」

「あや!前もそんなこと言ってたのだ!!だから余計に心配なのだ!こ、これも持っていくのだ!」

平賀がまたなにかをごそごそし始めたが俺はそれをやめさせる。

「いいって、もうこれ以上金ないから」

「じゃ、じゃあお金いらなー」

「平賀。俺を特別扱いしてくれるのはうれしいけど、そんなことばっかしてたらお前の評判に関わる。これだけで十分だ」

平賀は先ほども言ったようにかなり莫大な資金をもらって制作している。それを俺にだけタダにしてばっかりだとほかのとこや生徒が文句を言うのは当然だ。「Eランクにタダならこっちもタダにしろ」ってな。Eランクってのは優先されることがないんだ。それに俺はとべーるをもらっただけでかなり満足してるし

「じゃ、じゃあその依頼終わったらあややのもとに来てほしいのだ!安くて使えるものを作っておくのだ!」

「お、そりゃうれしいな。まじで頼むわ」

「あややー!!任せるのだー!!」

そうして俺は平賀と再会の約束をして別れた。

あれ、これ死亡フラグじゃ…。



ーーーーーー

「これでよしっと」

俺は自分の部屋につくと、さっそくとべーるを使って隣のベランダに侵入し(片手でもなんとかなったがなかなかキツかった)、中に誰もいないのを確認して侵入。おいてあった時計すべての時間を五分ずらした。この前隣がキンジの部屋だってわかっててよかった。知らなかったらまずそこから調べなきゃだったからな。
さて、これでどうなるのかさっぱりわからないが、とりあえずやることはやったし、キンジが帰ってくる前に退散しますか。

ーーーーーーー

「さて…次はアリアだが、どこにいるんだ?」

俺は夕暮れでオレンジに染まった道を歩きながらアリアの行きそうな場所を考える。
が、俺とアリアだって知り合ってすぐだ。行きたい場所なんてわかりっこない。
さて、どうしたものか。とりあえずもう授業終わり時間だし、教室に行ってみるか。

そう思い教室のある校舎へ向かう途中、授業が終わってそれぞれの専門科へと移動する生徒が俺の横を通っていく。今の俺は右腕を固め松葉杖をついて歩いている状況だ。まあ、武偵高ならこういう生徒はよく見かけるからべつに目立たないのだが…俺だと

「おい、あれ、Eランクの岡崎だぜ…」

「うっわ。重症じゃん。なにしやがったんだあんなクズが」

「あれだろ、銃を反対に持っちまって自分の腕に撃っちまったのさ」

「はは、流石Eランク」

辺りから俺に対していろいろと言っているようだ。そう、俺みたいなEランクがこんなに怪我するってことはなにか失敗したと捉えられバカにされる。
もちろんそれを言っているやつらに面識はない。
それに言っているやつらに、いちいちこの怪我について説明する気もない。
…かといって、こいつらにキレて喧嘩したって勝てるわけもないし。八方塞がりというやつだ。

俺は言われるがまま、バカにされるがまま、片足でうまく歩けない状態でゆっくりと、校舎まで戻って行った。



ーーーーーーーーーーーーー

しばらく教室やら図書館やらを探してみるものの見つからず、もしかしたらなにかの依頼で外にいるんじゃとも考え、いったん校舎を出ようとしたとき、ちょうどどこからか帰ってくるアリアを見つけることができた。
なぜかスキップしながら校舎の方に来ているが、なにかいい事でもあったのだろうか。

「よ、アリア」

「?あ、修一…ってどうしたのよその怪我!?」

俺は下駄箱までやって来たアリアを呼び止める。
アリアは俺を見つけるとすぐにこちらに来て怪我について聞いてきた。
…なぜだろう。普通の反応なのにやけにうれしいや。さっきまでいろいろ言われてたからメンタル弱くなってたのかもな。

「まあそのあれだ、一昨日任務でちょっと失敗しちゃってな」

「それって…もしかしてあの武偵殺しのアジトの事件!?あの大けがをした武偵って修一のことだったの!?」

ああ、どうやら調べていたみたいだな。というかあれって名前までは公開されないのか。なるほどね。


「たまたまあった依頼を選んだらビンゴひちゃってな。いやー失敗失敗」

「ということは、あの『武偵殺しの兵器を47機撃破』っていうのも修一がしたのね」

あれ47機だったのか。もうよく覚えてないんだが。んーでもあれ、理子が手加減してくれたおかげだし。
威張れないことなのだが。

「頑張ったよ俺」

「うんうん。えらいわ修一。よくがんばったわね」

なぜかつま先立ちして頭をなでなでしてくるちびっ子ピンクツインテ。…ちょっと恥ずかしいな。

っとそうだ

「アリア」

「なに?」

「さんきゅな、入学式の前の日、あれスゲー助かった」

「…あ、ああ、あれね…」

「お前、忘れてたろ」

「そ、そんなことないわよ!覚えてた!あんたが死んだ目をしてベンチに座ってたあれでしょ」

言われてパニくってる時点で確定なんだが…まあいいや。というか死んだ目って…

まあいい。

「実際のところ現状あんま変わってないんだがな、周りにはいろいろ言われるし、相変わらず銃は当たらないし」

「そりゃそうよ。気の持ちようですぐに成長するなんてことはないわ。それからのがんばりが肝心なのよ」

こいつ…こうも俺の背中を押すのがうまいのかよ。
今のもちょっと心に響いたぞこのやろ。

「でも、無理って言葉はあんまし使わなくなったぞ」

「そっか。良い心掛けよ修一!ちゃんとやれることやって、きちんとしていればいつか報われるわ!!絶対!!」

にっこりと嬉しそうに笑ってアリアが胸を張ってそういう。…まあ、チラっとその小さい(なくはない)胸に目が言ったのは仕方ないのだ。それからお互いに笑いあって、そして

「それに、あたしも修一には感謝してるのよ」

「あ?」

アリアが俺に?一体なんのことだ?俺がアリアにしたことは愚痴って、金を脅したぐらいしかないが。…うわ、俺何気に最低だな。

「あのね、あたし、友達と呼べる人がいないの。キンジもあたしから付きまとってるだけだし。
他のみんなもあたしがSランクだからって一歩引いた感じに接してくるの。
でも、修一はそんなのお構いなしに話してくれるでしょ。
ま、まあお金のことになるとせこいし、最低だけど。さっきも声かけてくれたのも実はけっこう嬉しかったのよ」

「………。」

意外だった。まさか俺と話すのがアリアにとってうれしい事だったなんて、俺ばっかが世話になってると思ってたんだが、実際はそうでもなかったのか?
まあアリアには最初からすべてさらけ出していたから、なにも考えることもなかったってのも一つの理由だが。

「そういやアリア、俺たち連絡先交換してなかったよな。ダチなら交換してもいいだろ」

「そうね。いいわよ、交換しましょ」

お互いに携帯をとりだして連絡先の交換をした。Sランク武偵とここまで仲良くなるとは前の俺からしたら考えられねぇな。


才能をもった人間と仲良くするなんて。

アリアは連絡先交換したあと、その俺の連絡先を見て微笑んだ。どうやら俺は友達第一号になれたらしい。
そんなことに自然と俺の口が吊り上がるのが分かった。


「次危険な依頼受けるんならあたしに一声かけなさい。手が空いてたら手伝ってあげるわ!」

上機嫌なアリアがそんな提案をしてくれる。
まあ正直Sランクの手を借りられるんならまた受けてもいいかもな。まじで今度あったら頼むとしよう。

「というかよ、アリアはなんでそんな楽しそうなんだ?いい事でもあった?」

ずっとニコニコなアリアにそう聞いてみると、アリアは手に持った猫のぬいぐるみを見せてきた。

「あ、そうそうそうなの聞いてよ修一!さっきキンジがね!あたしのこれくれたの!!」

「それ、なに??」

「れおぽん!かわいいでしょ!!」

アリアのもつその猫も確かにかわいいが、それを持ってキャッキャしてるピンクツインテのほうが俺的にはかわいいと思う。アリアちっこけど美人だしな。

ま、口にだして言えるわけないが。

「おお、かわいいかわいい」

「えへへー。あんたにも次手に入ったら分けてあげるわ。こんどこそあのUFOキャッチャーであたしが取ってやるんだから!」

あ、なるほどUFOキャッチャーの景品なのかそれ。ってことはキンジはアリアのために取ってやったと。やるじゃんキンジ。

「そうだな。でもあれコツとかあるから今度教えてやるよ。たくさん取ってキンジにドヤ顔して見せてやろうか」

「あ、それいいわね!よろしく頼んだわよ修一」

「おうよ。あ、そんときの金はアリア持ちで頼むぜ。俺UFOにくれてやるほど金に余裕ない」

「…あんた、レディに払わせる気?」

「レディに払っておなかが満たされるんなら俺も払うがな」

「やっぱ最低ね」

「金に関してはしょうがない。ないもんはないんだ」

「ま、もう慣れたからいいけど。修一のそういうとこ。いいわよ、あたしが自分で払って自分で手に入れる!手伝いなさい、修一!!」

「あいよ」

UFOキャッチャーごときでなにを大げさな。なんて思うかもしれないが、皆がそう思うことに一生懸命になるやつはカッコいいと思うがな。俺は。


「じゃあそろそろ行こうかな。キンジにパートナーになるように説得しなきゃ。また会いましょう修一」

「おーう、また明日なー」

「…!!う、うん!また明日!!」

俺の言葉になぜかパアアっと笑顔になって去っていくアリア。
ああ、なるほど。友達いなかったからこういうことも言い合える友達いなかったのか。
…あれ、そういや俺もこれ言うの久々だな。ったく俺もあんまりアリアに偉そうに言えないってことか。

ちょうどそのとき夕暮れの日がこちらに射した。
…もう帰るか。この状態で歩くのしんどいし。

そう思って俺もアリアの方向に歩き始めーー




…あり?なんか忘れてーー


『その後、アリアと接触、明日の朝までキンジに近づけるな』



「あ、しまった」

俺は思いだして先ほど聞いたばっかの番号を速攻かけた。

通話待ちはそうかかることなく、すぐにアリアは電話に出た。

『あら?修一どうしたの?なにか言い忘れた?』

ちょっと機嫌のいいアリアが、すぐに出てくれたってことはまだキンジと接触していないみたいだ。
あ、あぶね、理子との約束を速攻で破っちまうとこだったよ

「いやその、あれだ、その…」

『なによ?歯切れ悪いわね』

しまった。かけたはいいものの、こっちに戻す理由がない。…んー

「じつは、ちょっと頼みたいことがあるんだが、もう一度戻ってきてくれないか?」

『え、それって今じゃないとダメなの?』

「おう、できれば」

とりあえずすぐにこっちに戻そう。歩きながら通話していたらその途中でキンジに会うかもしれない

『…いいわ。今から戻るから、さっきの場所にいなさい』

ブツっと一方的に切られてしまったがなんとかなったみたいだな。俺は安心して息を吐き、アリアが来るのを待った。

さて、いまのうちに戻した理由でも考えますかね。




ーーーーーーーーーーーーーーーー

ギシッ ギシッ ギシッ

一つの柔道場から約4時間。ただ地面がきしむ音だけが聞こえる。
体育館ほどの大きさの部屋の中に二人。
日も暮れ、外が真っ暗になり、同じ道場を使っていた人もすべていなくなってもその音は鳴りやまなかった。
今も二人の人間が取っ組み合っている。男が女の蹴りを避け、こちらもと、蹴りを放つ。が

「甘い!!そこに一発入れられるわよ!!」

「…こなクソ!!」

それを避けつつ男の腹に一発入れた。…そろそろ言おう、その二人は俺とアリアだ。俺はつけていたギプスやらなんやらをすべて外してアリアと向き合っていた。

「次!きなさい!!」

「…ッ!!んにゃろ!!」

立ち上がって、痛む右腕を無理に振り舞わしアリアに当てようとするが、それをアリアはスルリと避け、俺の腹に蹴り込んだ。そこに一切の躊躇はない。だが、それでいい。

「…がっ…!?」

腹を押さえながら息を整える。口から唾液が漏れるがそれを抑えきれない。くそ、やっぱここまでの違いがあるのか、SとEは。アリアがふぅと息を吐くとこちらにしゃがみ込んだ。

「ねえ、もうやめない?武術を学びたいってのはわかったから、怪我を直してからにしましょうよ。今やってもあまり上達しないどころか、怪我が酷くなるわよ」

俺はアリアが戻って来たその瞬間までなにも要件を見つけることができず、つい「俺に武術を教えてくれないか?」なんて言ってしまった。
実際、武術も教えて欲しかったからいい案だと思ったが…たしかにアリアの言う通りいまするべきじゃないな、これ。アリアからの攻撃を受けるたびに撃たれていた腕と足に激痛が走る。
もちろん途中でやめて、そこからほかのことをすればよかったのだが…正直

(すげぇ…これがSランク。戦い方を変えて殴ってみても全然当たらねぇ…しかも俺の腕と足にはほとんど痛みがないように手加減もされてやがる…す、げえ)

俺はSランクの格闘技術に魅了されていた。
痛みももちろんあるが、それ以上にもっとこいつの力を見てみたいという好奇心に駆り立てられてしまった。
昔剣道をやっていたときもそうだった。勝てない敵の技術に魅了されたとき、俺は時間も忘れてそいつのことをじっと見てしまう。
昔、県大会に準優勝したときも、優勝したあいつの剣技を見てたっけ。懐かしいな、この感覚。

「いや、まだやろうぜアリア。もっとお前の技見せろ」

俺はそう言って、アリアの顔に向けて拳を振るう。アリアは、はぁとため息をついてその拳を避ける。

(この後、こいつは多分ーー!!)

四時間。付き合ってくれたアリアには心底感謝してるが、そのアリアの癖が、見えた…はず!

俺は避けつつ俺の懐に入ったアリアの拳を右に避けつつ、右足で蹴りを振る。ーーだがそれも一歩引いて避けられる。そしてそのままこいつは

(左に回って左フック!!)

それをわかった状態でアリアが左に回る前に逆に右に回って足を引っかける。

「ーーー!?やるわね修一!!」


だがそれですら足を寸で避け、俺の顔面に蹴りを放った。俺はそれを避けることができず、吹っ飛んでしまった。

「…はぁ…はぁ…」

俺は立ち上がることができず、そのまま寝っころがってしまう。流石に疲れた。

「最後、ああ来るとは思わなかったわよ…やるじゃない」

そこにまだ元気なアリアがやって来て俺に手を差し出してくれた。

「まあ、こんだけ付き合ってくれてんだ。あれだけ見せてくれれば動きを予想くらいはできる」

「へぇ…あたしの動きを、ね」

立たせてくれたアリアに礼を言いつつ首を鳴らす。やっぱ今のままじゃ体術でも勝てないか。

「確かにあんたは弱い。でも、観察眼は結構いけてると思うわ。IQテストでもしたらいい結果が出るんじゃないかしら」

「んなもん興味ないからいーよ。それより続きしようぜ」

「はぁ、いい加減休憩しましょう。いくらあたしでも疲れたわ」

「…ああそ、わかったよ。ただ少ししたらよろしくな」

「ええ、まだやるの?」

「あったり前だ。これハマった」

「全く、付き合うこっちの身にもなりなさいよね…」

でも付き合ってくれるらしいアリアは本当に優しいやつだと思う。まあ、理子との約束ってのもあるが…

いいね、自分も楽しめて、理子との約束も守れる。良い感じだ。

「あたしもさすがに徹夜では付き合えないわよ。24時には帰るからね」

「…どこに?」

「?あたしの部屋よ?」

よし、それなら大丈夫そうだ。キンジの部屋にさえ戻らないなら会うこともない。

「うっし。もういいぞ。やろうアリア」

「あんた一応重症なのよ?本当に大丈夫なの?」

「は!敵の心配をしてる余裕なんてすぐになくなるからな!やるぞアリア」

「…はぁ、わかったわよ」

こうして俺はアリアから武術を学んだ。…まあ結果だけ言うならアリアには一撃も与えることができなかったが学べるものはあった。と思いたい。

ーーーーーーーーーーーーーーー

こうして一晩中付き合ってくれたアリアはそのまま女子寮へと帰って行った。俺はそれを確認すると理子へ電話する。

『はーい、もっしもーし修一?アリアはどうなってるー??』

「あ、ああ…いま、女子寮の方へ入ったのを確認したぞ…はぁ」

『あ、あれ?思った以上に疲れてるっぽいけど…。そんなにアリア、激しかったの♡?』

『エロく言うな。あいつには今まで武術を教えてもらってたんだ…。ま、それはともかくちゃんとやることやっておいたぞ。時計もイジッたしアリアもおっけだ。今日はもう帰るからな」

『はいはーいお疲れー。あ、部屋にいいもの置いといたから寝る前に確認しといてね。あ、あと明日はちゃんとバスに乗ってね。じゃ、お疲れさましたー!』

い、いいもの…?嫌な予感しかしない。というか、俺の家にはもう防犯とかないのね。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「…なんじゃこら」

俺は家に帰ると机に置いてあった段ボールのなかには



携帯電話と地図。そしてーーーボイスチェンジャー?

  




 
 

 
後書き
緋弾のアリアのアニメで気になった部分を修一にやらせてみました。 
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