英雄伝説~灰の軌跡~
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第4話
~ケルディック~
「雷よ―――あたしに力を!ハァァァァァァッ!!」
エリオット達と共に戦闘を開始したサラは紫電を身に纏わせて一時的に身体能力を爆発的に上昇させるクラフト―――雷神功で自分自身を強化し
「排除する。」
フィーは双銃剣で牽制射撃を放つクラフト―――クリアランスで先制攻撃をした。
「……………」
襲い掛かる銃弾に対し、レーヴェは動じることなく最小限の動きで攻撃範囲外へと跳躍して回避した後フィーとの距離を詰めようとした。
「させません―――エイミング・デバイス!!」
「リミットブレイク!喰らえ―――ブレイクショット!!」
「アークス駆動………」
そこにレーヴェの動きを止める為にクレア大尉は正確無比なレーザー射撃を、マキアスは装甲をも貫く強力なマグナム弾をレーヴェへと放ち、エリオットはアーツを放つ為に戦術オーブメントを駆動させた。
「セイッ!」
襲い掛かるレーザーとマグナム弾をレーヴェは魔剣を一振りして斬り伏せ
「甘い!」
「うわあっ!?」
続けて剣の一振りで衝撃波の竜巻を発生させるクラフト―――零ストームをエリオット目がけて放ち、敵の溜め行動やオーブメント駆動を妨害するクラフトを受けたエリオットはダメージを受けると共に戦術オーブメントの駆動を止められてしまった。
「行くよ―――シュッ!」
「…………」
フィーが放った急所を狙い、凄まじい速さで強襲するクラフト―――スカッドリッパーに対してレーヴェは魔剣で受け流し
「セイッ!」
「!」
「これはオマケよ!」
「空を断つ!」
跳躍して敵の頭上から襲い掛かり、続けて怒涛の銃撃を放つサラのクラフト―――電光石火に対しては頭上からの強襲は側面へと跳躍して回避し、続けて放たれた銃弾は凄まじい勢いで剣を振り下ろして発生させた衝撃波―――空波斬で斬り伏せると共にサラへと反撃した。
「チッ……!ヤァァァァァ……!」
襲い掛かる衝撃波を見たサラは舌打ちをして側面へと跳躍して回避した後反撃に雷を発生させる弾丸を放つクラフト―――鳴神をレーヴェへと放ったが
「疾風突!!」
「ッ!?」
レーヴェは疾風のような速さでサラ目がけて突進して強力な突きで襲い掛かる銃弾を吹き飛ばすと共にサラへと反撃し、サラは咄嗟に強化ブレードで突きを防いだがレーヴェの攻撃の威力があまりにも高かった為攻撃を防いだ瞬間そのまま後ろへと吹き飛ばされた。
「行きなさい―――αオンワン!!」
サラが吹き飛ばされるとクレア大尉は横へと走りながら銃を連射した。すると追尾性のあるエネルギー弾が広範囲に広がった後レーヴェ目がけて襲い掛かったが
「旋風斬!!」
レーヴェは旋風のごとく魔剣で弧を描くように斬りつけて襲い掛かったエネルギー弾を一撃で消滅させた。
「アークス駆動………」
「時の結界よ、砕け散れっ!」
「アルテアカノン!!」
エリオットが再び戦術オーブメントを駆動させたその時マキアスが時間法則を司る結界を具現化して破壊してオーブメントの駆動時間を早めたり連続攻撃をさせる事ができるクラフト―――バーストドライブをエリオットに放ち、マキアスのクラフトによって駆動時間を短縮したエリオットは上空より無数の裁きの光を呼び寄せる空属性の最高位アーツを放った!
「………………」
上空より襲い掛かるアーツに対してレーヴェはまるでエネルギーが落ちる場所がわかっているかのように、次々とエネルギーを回避しながらエリオット達に詰め寄り
「ええっ!?ア、アーツを……それも最高位のアーツを避けている!?」
「クッ、”怪盗B”といい”執行者”はどこまで非常識になれば気がすむんだ!?―――って、今はそれどころじゃないだろう!喰らえっ!」
アーツを回避するという常識で考えれば信じられない行動をしたレーヴェにエリオットと共に驚いていたマキアスだったが自分達に詰め寄ってくるレーヴェを見て慌ててショットガンでレーヴェ目がけて銃撃したが
「甘い!」
レーヴェは襲い掛かる銃弾を魔剣で斬り伏せながら二人に詰め寄った。
「ポイっと。」
「!」
その時フィーが投擲したFグレネードがレーヴェの目の前の地面で炸裂し、投擲されたグレネードに気づいたレーヴェは人間業とは思えない動きで大きく後ろに跳躍してグレネードの爆発と閃光の範囲外へと逃れた。
「ミッションスタート。」
一方グレネードでレーヴェに距離を取らせたフィーは爆発と閃光が起こっている間に自身の気配を完全に消すクラフト―――エリアルハイドで奇襲の機会を窺い始めた。
「さっきはよくもやってくれたわね……!切り刻め――――紫電一閃!!」
その時サラが強化ブレードを振るって吸引効果がある回転する紫電の刃をレーヴェへと放ち
「!」
襲い掛かる刃に気づいたレーヴェは側面へと跳躍して回避した。
「目標補足!フリジットレイン!!」
「ッ!?チッ………」
そこにライフルを構えたクレア大尉がレーヴェの頭上に発生させた巨大な氷塊を撃ち抜いて砕くと氷の破片が雨のように降り注いでレーヴェにダメージを与えると共にレーヴェの足元を氷漬けにさせてレーヴェの動きを一時的に制限させた。
「アークス駆動―――ハイドロカノン!!」
「させん!」
クレア大尉がレーヴェの動きを止めるとオーブメントの駆動を終えたエリオットが凄まじい勢いの水流を発生させるアーツをレーヴェ目がけて放ったがレーヴェはクラフト―――零ストームで相殺した。
「覚悟してもらおう!うおおお………!」
レーヴェがエリオットのアーツを相殺するとマキアスがショットガンを連射してレーヴェに攻撃し
「セイッ!エニグマ駆動――――」
襲い掛かる銃弾をレーヴェは次々と魔剣で斬り伏せた後オーブメントを駆動させ
「これで―――終わりだ!」
マキアスは白銀のショットガンを構え、大爆発を起こす特製のマグナム弾をレーヴェ目がけて放った!
「ハアッ!アダマスガード!!」
レーヴェに襲い掛かったマグナム弾はレーヴェが発動した物理防壁に阻まれた為、レーヴェはダメージを受けなかった。
「なっ!?あれを防いだだって……!?」
「ぜ、前衛の剣士なのに後衛の僕よりもオーブメントの駆動時間が短いなんて……」
自分のSクラフト―――マキシマムショットが防がれた事にマキアスは驚き、前衛であるレーヴェがアーツによる攻撃を主体としている後衛である自分よりもアーツの発動が早かった事にエリオットは信じられない表情をしていた。
「せーの……!」
その時気配を完全に消して奇襲の機会を窺っていたフィーがレーヴェの背後から強襲したが
「甘い!」
フィーの気配を既に悟っていたレーヴェは振り向いて魔剣を振るってフィーを弾き飛ばした。
「っと。ヤァァァァ……!」
「そこだっ!」
「ッ!?」
弾き飛ばされたフィーは空中で受け身を取って着地すると続けてレーヴェに怒涛の銃撃を放ったがレーヴェはクラフト―――零ストームで襲い掛かる銃弾を吹き飛ばすと共にフィーに反撃を叩き込んだ。
「ミラーデバイス、セットオン!!」
フィーのクラフト―――リミットサイクロンが無効化されるとクレア大尉はミラーデバイスをレーヴェの周囲に展開し
「オーバルレーザー照射!!」
続けて銃口からレーザーを放ち、放たれたレーザーはミラーデバイス達によって何度も跳ね返った後魔法陣を展開した。
「!ハアッ!」
魔方陣に気づいたレーヴェは剣を地面に叩き込んで衝撃波を発生させて足元を凍り付かせている氷を吹き飛ばした後側面へと跳躍した。するとレーヴェがその場から跳躍した瞬間魔方陣から凄まじい衝撃波が発生した!
「久々に行くわよ……!ハァァァァァ…………ッ!!」
クレア大尉のSクラフト―――カレイドフォースが終わると全身に紫電を纏わせたサラがレーヴェに稲妻の如くの速さで強襲して銃と強化ブレードの連携攻撃を放ち
「ほう………まさに異名通り”紫電”だな。」
サラの強襲攻撃に対してレーヴェは感心した様子で魔剣を振るってサラの稲妻のような速さの強襲連携攻撃を防ぎ
「これで終わりよっ!ノーザン――――イクシード!!」
「荒ぶる炎の渦よ―――鬼炎斬!!」
サラが止めの一撃である全力の斬撃を放つ為に自分目がけて突撃してくるとレーヴェは闘気によって発生した膨大な炎を纏わせた魔剣を震わせて炎の斬撃波を放った!
「な――――クッ……!?」
「あうっ!?」
「うわあっ!?」
「ぐあっ!?」
「キャッ!?」
レーヴェが放ったSクラフト―――鬼炎斬による炎の斬撃波によってレーヴェ目がけて突撃したサラは吹き飛ばされ、斬撃波はエリオット達にも襲い掛かり、エリオット達に大ダメージを与えた!
「つ、強すぎるよ……」
「クッ……”剣帝”の強さは情報局を通して理解していたつもりでしたが、どうやら”情報局”の推定脅威度を大きく上回っているようですね……!」
「ったく、よくエステル達は”剣帝”を2度も退けられたわね……!」
「戦闘能力不明……!しかも”剣帝”はまだ”本気”を出していない……!」
「う、嘘だろう!?たった一人で5人相手に……しかも教官とクレア大尉までいるのに本気を出していない状態で互角以上に戦うなんて、化物か!?」
レーヴェの圧倒的な強さに勝ち目が見いだせないエリオットは不安そうな表情をし、クレア大尉とサラは唇を噛みしめて厳しい表情をし、フィーの話を聞いたマキアスは表情を引き攣らせて声を上げた。
「”紫電”達がいるとはいえ、まさか学生が俺相手にここまで粘るとは………あの放蕩皇子が”悪あがき”にエレボニアに”新たな風”を巻き起こす為に選ばれた実力は兼ね備えているという事か、トールズ士官学院”特科クラスⅦ組”。」
「ええっ!?ど、どうして僕達の事を……!」
「しかも何で”Ⅶ組”の設立の理由やオリヴァルト殿下がⅦ組設立に関わっている事とかも知っているんだ!?」
「大方メンフィルの諜報部隊みたいな所が”敵国”に所属しているわたし達の事も調べたんだと思うよ。」
レーヴェは予想以上に粘るエリオット達に感心するかのように口元に笑みを浮かべ、レーヴェが自分達の事を知っている事に驚いているエリオットとマキアスにフィーはレーヴェを警戒しながら自分の推測を答えた。するとその時魔剣を構えて闘気を溜め込み始めたレーヴェだったが何かに気づくと、溜め込み始めた闘気を霧散させ、そして魔剣を鞘に収めてエリオット達に背を向けた。
「へ………」
「………何の真似よ?」
レーヴェの予想外の行動にエリオットは呆け、サラはレーヴェを警戒しながら問いかけた。
「―――”時間切れ”だ。お前達と戯れる時間はここまでと言う事だ。」
「そ、それってどういう事だ!?」
「!皆さん、メンフィル軍が……!」
レーヴェの口から出た不穏な言葉を聞いたマキアスは不安そうな表情で声を上げ、何かに気づいたクレア大尉が街道へと視線を向けると街道には領邦軍との戦闘を終えたメンフィル軍がケルディックに向かっていた!
「か、街道からメンフィル軍が来ているって事は……!」
「街道で戦っていた領邦軍は間違いなくメンフィル軍に”殲滅”されたって事だね。」
領邦軍との戦いを終わらせた事を悟ったエリオットは表情を青褪めさせ、フィーは厳しい表情で呟いた。
「今ならメンフィル軍がケルディックに到着する前にメンフィル軍に見つからずケルディック地方から撤退する事も可能だろう。――――市街戦が始まる前にケルディックの民達の避難が始まるようにケルディックの民達に警告をした事に免じてここは見逃しておいてやる。さっさとケルディックから離れ、ガレリア要塞跡で陣をはっている正規軍との合流を目指すといい。」
「……ッ!すぐにケルディックから離れるわよ!」
「”第四機甲師団”が陣をはっている場所へは私達が先導しますので、皆さんは私達の後をついてきてください!」
「「は、はい!」」
「了解。」
レーヴェに情けをかけられた事に様々な思いを抱えて唇を噛みしめたサラだったがすぐに気を取り直してクレア大尉と共にエリオット達に指示を出し、二人の指示にエリオット達は頷き、ケルディックから離れ始めた。
「―――”氷の乙女”、”紅毛のクレイグ”に伝えておくといい。味方や部下達を貴族連合軍のような末路に陥らせたくなければ、今回の戦争、正規軍は全てが終わるまで静観しておけと。」
「…………その口ぶりですとメンフィル軍にとっての現在の”メンフィルが滅ぼす明確な敵”は貴族連合軍で、正規軍に危害を加えるつもりはないという事ですか?」
ケルディックから撤退しようとした時レーヴェに呼び止められたクレア大尉は真剣な表情でレーヴェに問いかけ
「フッ、俺の言葉をどう捉えるかはお前達の自由だ。」
クレア大尉の問いかけに対して静かな笑みを浮かべて答えたレーヴェはその場から去っていき
「………………」
レーヴェが去った後考え込んでいたクレア大尉だったがすぐに気を取り直してサラ達の後を追って行った。
~同時刻・オーロックス砦~
一方その頃リフィア達もオーロックス砦の占領を完了し、砦内にいる領邦軍の兵士達を殲滅し終えていた。
「―――私だ。……何?ああ……ああ……わかった。すぐに奴等の処遇を決めるから、連絡があるまで奴等の見張りを続けろ。―――殿下、少々よろしいですか?」
部下からの報告を通信機で聞いて眉を顰めたゼルギウスはリフィアに話しかけた。
「む?なんだ、ゼルギウス。」
「砦内にいる貴族連合軍の残党狩りをしている部下達が貴族連合軍に雇われていたという猟兵達が投降して来た為武装解除をし、捕縛したとの事です。」
「”猟兵”だと………?(確かユミルを襲った猟兵達もアルバレア公に雇われておったな。まさかとは思うが……)――――捕縛した猟兵達が所属している猟兵団の名は。」
ゼルギウスの報告を聞いてある事に気づいたリフィアは厳しい表情でゼルギウスに問いかけた。
「ノーザンブリア自治州所属”北の猟兵”との事です。」
「!!ユミルを襲い、父様達に危害を加えた張本人達がこの砦にいたのですか……!」
「―――やはりか。すぐに捕縛した猟兵共をここに連れて来い。――――それとリィンにも今の話を伝え、すぐにここに来るように伝えるのじゃ。」
「御意。」
ゼルギウスの答えを聞いたエリゼは血相を変えて厳しい表情をし、リフィアは厳しい表情で呟いた後ゼルギウスに指示をした。その後ゼルギウスからの指示を聞いたリィンはすぐにリフィアの元へと向かい、メンフィル軍によって捕縛された猟兵達―――ノーザンブリア自治州の民達に仕送りをする為に猟兵稼業を続けている”北の猟兵”達がリフィア達の前に連れて来られた。
「殿下!ご指示通り、捕縛した猟兵達を連れてきました!」
「「………………」」
「―――ご苦労。さて……”北の猟兵”、だったか。お主達はアルバレア公に雇われていたとの事だが、何故此度の戦で余達メンフィルと矛を交えることなく投降をしてきた?」
連れて来られた猟兵達をリィンとエリゼがそれぞれ厳しい表情で睨んでいる中リフィアは真剣な表情で猟兵達を見回して問いかけた。
「我等”北の猟兵”とアルバレア公の契約ではメンフィル軍と戦う内容は入っていない。それに祖国に仕送りをする為の報酬がいるとはいえ、幾ら何でも契約内容にも入っていない戦う相手―――ましてや”ゼムリア大陸真の覇者”と恐れられているメンフィル軍と矛を交えて、命を落とすリスクを背負う意味はないと判断し、またメンフィルに敵対するつもりがない事を証明する為にも今回の戦いに参加しなかった。」
「ユミルを襲撃しておいて、よくもぬけぬけと自分達はメンフィルと敵対するつもりはないと――――」
北の猟兵達の隊長の主張を聞いたエリゼは怒りの表情で猟兵達を睨んで声をあげかけたが
「―――エリゼ、殿下は発言の許可はしていないから今は黙っておくんだ。」
「兄様………―――発言の許可の確認もせずに勝手に発言をしてしまい、誠に申し訳ございません、リフィア殿下。」
自分を制するかのように左腕を自分の顔の前まで上げたリィンの指摘を聞くとすぐに落ち着き、リフィアに謝罪し
「よい。お主の反応はユミル領主の娘として……そして故郷の民や家族を傷つけられた者として当然の反応だから、余は気にしていない。」
「寛大なお心遣い、ありがとうございます。」
リフィアの許しの言葉を聞くとリフィアに会釈をした。
「我等がユミルを襲撃しただと……?――――!まさか……アルフィン皇女捕縛作戦の件か……!?」
「あの時は肝心の皇女はいなく、徒労に終わったが……」
「そ、それよりも……そこのメイドが”ユミル領主の娘”だと言っていたが、まさかその娘は……!」
一方エリゼの発言を聞いて何かに気づいた北の猟兵達は驚きの表情でエリゼを見つめ
「そうじゃ、そこにいる余の忠臣の一人―――エリゼ・シュバルツァーはお主達が襲撃したユミル領主の娘にして、お主達に重傷を負わされたシュバルツァー卿の娘じゃ!」
「更にエリゼの隣にいる私の部下―――リィンはエリゼの兄にして、シュバルツァー卿のご子息だ。」
「なあっ!?」
「ユミルの領主夫妻の子供達が何故この場に……!?」
「ま、まさか我等をこの場に連行した理由は……!」
リフィアとゼルギウスの説明を聞いた猟兵達は驚き、そしてある事を察した猟兵は表情を青褪めさせてリィンとエリゼを見つめた。
「―――リィン、エリゼ。そ奴等の処遇はお主達に任せる。」
「え………」
「まさか俺をこの場に呼んで頂けたのはそれが理由なのでしょうか?」
リフィアの突然の言葉にエリゼが呆けている中リィンは真剣な表情でリフィアに訊ねた。
「うむ、そ奴等はユミルを襲撃し、シュバルツァー男爵夫妻に危害を加えた。よって、この場でそ奴等を裁く権利が一番あるのは余ではなくユミル領主の家族であるお主達だけじゃ。」
「リフィア………」
「…………本当に俺とエリゼの判断だけで決めてよろしいのですか、殿下?」
リフィアの説明を聞いたエリゼは驚き、リィンはリフィアに確認した。
「よい。殺すなり拷問するなり、お主達の好きにするがいい。」
「――――わかりました。エリゼ、お前はどうしたい?」
そしてリフィアの許可を聞くと迷う事無く神剣アイドスではなく、普段使っている太刀を鞘から抜いたリィンはエリゼに問いかけ
「―――私も兄様と同じ気持ちです。ユミル領主の娘として……父様と母様の娘として、彼らが犯した罪は絶対に許せません。」
問いかけられたエリゼもリィンに続くように鞘から連接剣を抜いた!
「クッ……やはりユミル襲撃に対する”報復”か………!」」
「俺達が死ねば故郷にいる家族が餓えて死んでしまうんだ……!頼む、命だけは………!」
「俺達はアルバレア公に命じられてアルフィン皇女を確保する為にユミルを襲撃しただけだ!抵抗さえしなければ、ユミルの民達や領主夫妻に危害を加えるつもりはなかったんだ……!」
「どうか慈悲を……!」
「お、俺達はユミル襲撃には関わっていない!殺すならその3人だけを殺してくれ!」
リィンとエリゼの行動を見て自分達を処刑するつもりである事を悟った猟兵達の隊長は唇を噛みしめ、隊長以外の猟兵達は命乞いを始めた。
「金の為に郷を襲い……父さん達を傷つけておいて、そんな身勝手な命乞いが通じる訳がないだろう!」
「例えユミル襲撃に関わっていなくても、彼らと同じ穴の狢である貴方達も同罪です!」
「ギャアアアアアァァァ―――ッ!?」
「グアアアアアアアアァァァ――――ッ!?」
そしてリィンとエリゼは太刀と連接剣を振るって次々と猟兵達を処刑し
「がふっ!?む、無念………」
次々と猟兵達が処刑され、最後に残された猟兵達の隊長はリィンの太刀に心臓を貫かれると口から大量の血を吐いて苦悶の表情を浮かべて絶命した!
「……………セレーネがこの場にいなくて本当によかったですね……」
「ああ……例え頭で理解はしていても、俺達が処刑している所なんて見たくないだろうしな………」
猟兵達を殺し終えた後それぞれの武器を一振りして武器についている血を振るい落として鞘に収めたエリゼの言葉に重々しい様子を纏ったリィンは頷いた後エリゼのように太刀を鞘に収めた。
「――――リフィア殿下、俺達にユミル襲撃を行った者達の処遇を任せて頂いた事、心より感謝します。」
「この御恩は一生忘れません。」
「うむ。じゃが肝心の”元凶”はまだ生きておる。――――ゼルギウス、明日の”バリアハート制圧作戦”の際シグルーン率いる突入隊にリィンとエリゼ、それとセレーネも入れてやれ。」
それぞれ地面に跪いて頭を下げたリィンとエリゼの感謝の言葉に頷いたリフィアはゼルギウスに指示をし
「御意。―――よかったな、リィン。明日の作戦でバリアハート市内に突入し、アルバレア公の首を直接狙う突入隊に参加できれば、”四大名門”の当主の一人にしてユミル襲撃を直接指示したアルバレア公の首を取るという手柄を立てる事も可能だ。」
指示をされたゼルギウスは会釈をした後口元に笑みを浮かべてリィンを見つめた。
「あ………」
「はい……!殿下、重ね重ね感謝致します。殿下より受けた御恩は今後の働きにて返させて頂きます。」
ゼルギウスの言葉を聞いたエリゼは呆け、リィンは力強く頷いた後リフィアに頭を下げ
「うむ、期待しているぞ、我が忠臣達よ!」
リィンの言葉にリフィアは力強く頷いた。
こうして……僅か1日でオーロックス砦とケルディックはメンフィル軍によって占領された。また、双龍橋、バリアハートに援軍の要請の為にケルディックから向かった領邦軍の兵士達は予め領邦軍の行動を予測し、それぞれ街道に潜んでいたメンフィル軍の諜報部隊によって葬られ……その為バリアハート、双龍橋にはメンフィル軍による奇襲の報告が届く事は無かった。
同日、20:00――――
~”翡翠の都”・アルバレア公爵邸~
一方その頃アルバレア公爵が侯爵邸の中で外の景色を見つめて考え込んでいた。
「―――内戦の戦況は完全に貴族連合に傾いている。ルーファスも”総参謀”として多大な功績を上げ続けておるが……あくまで主導はあの男―――カイエンであるのは変わりない。この状況……何としても覆さねばなるまいな。」
「―――それで先日、ユミルに猟兵を送り込んだというわけですか。皇女殿下を確保することで貴族連合での主導権を握る為に。」
アルバレア公爵が独り言を呟いていると金髪の男子――――ユーシス・アルバレアが近づいてきた。
「……この私に言いたい事があるようだな?”特別実習”とやらの功績を認められた礼にエレボニア皇家が用意した小旅行で世話になった辺境に手を出したのがよほど気に喰わなかったと見える。」
「……滅相もありません。ただ、あの一件については兄上からも釘を刺された筈―――今後はどうか、中立勢力への手出しは控えていただければと。それと一刻も早く父上自身がメンフィル帝国に説明と謝罪、並びに賠償をすべきです。でなければ、最悪の場合メンフィル帝国がエレボニア帝国に宣戦布告をし、そしてメンフィル帝国に宣戦布告をされた責任は全て父上……いえ、”アルバレア公爵家”が負う事になり、最悪の場合”アルバレア公爵家”は――――」
アルバレア公爵に睨まれたユーシスは静かな表情で答えた後忠告しかけたが
「―――ええい、お前ごときが口を挟むような問題ではない!お前は与えられた仕事だけを黙ってこなしていればいいのだ!」
「……出過ぎたことを言いました。」
アルバレア公爵に怒鳴られ、後ろに組んだ両手の拳を握りしめてアルバレア公爵に謝罪した。
「……とにかく手を考えねばなるまい。いつまでも、あの気取ったうつけ者に”総主宰”を名乗らせておけるものか。今後のルーファスの立ち回らせ方も改めて考えておく必要があるな……」
「…………………………」
考え込みながら独り言を呟くアルバレア公爵を目にしたくないかのようにユーシスは目を伏せて黙り込んでいた。
この夜が父と過ごす最後の夜になるとはユーシスはこの時、想像もしていなかった――――
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