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とある3人のデート・ア・ライブ

作者:火雪
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第十章 仮想世界
  第12話 二人の『或守』の正体



暗い帰り道、士道は両手に重たい買い物袋をぶら下げて歩いていた。

先ほど会った鞠亜に似た少女、突然消えた上条。

分からないことは増える一方だ。まだこの世界から脱出する方法さえ見つからないのに。

士道「ただいまー」

と、士道は重たい荷物に腰を痛めながら帰路についた。

その声を聞いて、士道のもとにはありとあらゆる女の子が集まった。

十香「遅いぞシドー。もうお腹ぺこぺこなのだ!」

十香は顔を膨らませながら士道に言いつけ、

四糸乃「し、心配しました……」

四糸乃はおどおどしながらもホッとし、

狂三「あらあら、また女の子をたぶらかしていたんですの?」

狂三はニヤニヤしながらからかい、

琴里「遅い。一体何してたの?」

琴里は腕を組みながら怒り、

耶倶矢「灼熱の炎が沈みし時までうつつを抜かすとは……眷属としての自覚が足りておらんようだな」

耶倶矢はいつも通りの厨二病を発揮し、

夕弦「釈明。訳を聞きたいです」

夕弦は短く言って眼を細め、

美九「だーりん?いいわけぐらいなら許しますよぉ?」

美九はとびっきりの笑顔で言い、

折紙「士道。浮気は許さない」

折紙は真顔で士道に怒り、

佐天「あ、士道さんおかえりなさい!何かみんなお腹すかせちゃったみたいなんで残り物で軽く適当につくっちゃいましたけど大丈夫ですか?」

佐天はキラキラした笑顔で自分を出迎えてくれた。

佐天さんマジ天使。

士道が遅かったことに怒る精霊達(あと折紙も)とは大違いだ。

士道「佐天さんヘルプミー。本気で助けてください」

と士道は咄嗟に佐天に助けを求めた。

が、同時に女の子の何人かが佐天の方を向き、「お前は何もするな」と目で訴えていた。

佐天は変な汗が出ながらも答えた。

佐天「ま、まあ皆さん落ち着いてくださいよ。言いたいことはそれぞれあると思いますけどまずはご飯にしませんか?私もお腹空いちゃって……」

佐天が言うと、十香のお腹がそれに答えるかのようにグーという音を鳴らした。十香は「むぅ……」と恥ずかしがるが、それがキッカケでピリピリしていた雰囲気が少し落ち着いた。

琴里「そうね。話しは夕飯後でも出来るしね。涙子、作ってくれる?」

佐天「かしこまっ!」

琴里が言って佐天が兵隊の真似事のように手をおでこに当てて答えた。佐天がキッチンの方へ向かい、琴里はリビングのソファの方へと向かった。

すると皆は士道のことから離れ、話題は一瞬で夕飯のことになった。佐天と琴里に釣られるようにリビングに戻っていく。

士道も急いで靴を脱いで買い物袋を手にとってキッチンの方へと向かう。

士道「助かったよ佐天さん」

佐天「いえいえ。でもこれからはもう少し早く帰ってきてください。もうあの空気を味わうのは嫌ですから」

士道「あぁ、そうするよ」

軽く会話して士道もエプロンを着けた。手を洗って料理の手伝いをする。

と、士道がキャベツを切り始めたところで佐天が「あっ」と声を漏らした

士道「ん?どうしたんだ?」

佐天「あの、今日の買い物当番って上条さんですよね?なんで士道さんが持って帰ってきたんですか?」

と佐天が首を傾げながら言うので士道は「あー……」と困ったような声を出した。

士道「何か、突然消えた」

佐天「……はい?」

と佐天が呆気に取られたような声を出すが、士道にはそう答えるしか無かった。実際士道も何が起こったか分かってないからだ。

士道「(まあ、あいつのことだから大丈夫だとは思うけど……)」

それでも上条のことが心配だ。

士道は悪友の無事を祈りながらまたキャベツを切り始めた。



――――
―――
――




同時刻。

高台では一人の女の子と一人の男がベンチで腰掛けていた。

この光景だけ見ればただ男女のカップルがデート帰りによったと思うだろう。

だが、これはそんな生温いものではなかった。

上条「……緑茶でよかったのか?ジュースとかあったのに」

或守「子供扱いしないで。貴方とは違って大人だから」

……いや、まだカップルのような会話を繰り広げていた。

上条はいきなり自分一人を残して全てを話すとか言うのだから何を言われるのかと警戒していたらいきなり「自販機で何か買ってきて」とかいうもんだ。加えてジュースを買ったら自分用に買ったお茶と交換しろという我が儘を言い出す。

上条「(十香達といい、こいつといい、なんで上条さんの周りには自分勝手な女の子が多いんだ?)」

個性豊か、といえば聞こえはいいが、実際個性が強すぎてかなり苦労する。士道の負担は日に日に増えていく一方だ。

上条「(それがキッカケで凜祢が現れたからなぁ……早くこの世界から脱出しないと、また面倒なことになる。そのためには……)」

と自分に言い聞かせて或守の方を向いた。

この女の子が仮想世界の真相を握っているのはほぼほぼ間違いないだろう。だからキッチリとここで全てを聞く必要がある。

上条はジュースを一気飲みして或守に問いかけた。

上条「なあ或守、お前は――」

「その名前で呼ばないで!私にはお父様から貰った『或守鞠奈(あるす まりな)』って名前があるの!」

と黒い或守――もとい鞠奈はムスッとしながら叫んだ。

お父様とは誰だ、と言いそうになるのをグッと押さえてもう一度問うた。

上条「鞠奈、お前は或守――じゃなくて鞠亜とどういう関係なんだ?お前も人工精霊なのか?」

と上条が言うと、鞠奈はお茶を一口飲んで上条の方を向いた。

鞠奈「上条当麻、君は勘違いしている。いや君だけじゃない……五河士道や精霊達みんな、勘違いしてる」

上条「勘違い?」

鞠奈は真剣な表情で訴えかけてくるが、上条には言っている意味が分からなかった。

勘違いとは一体どういうことなのだろうか?

鞠奈は少しうっとうしそうにしながらも上条の問いの答えた。



鞠奈「まず、<フラクシナス>に侵入してきた人工精霊は私。あっちはただのAIよ」



上条「……は、え?」

鞠奈「は、じゃなくて人工精霊は私であっちはAI。まさかこの距離で聞き取れなかったとか言わないわよね?」

もちろん聞こえていた。聞き逃すはずがない。だが或守の口から告げられたことは自分の前提条件がまるっきり覆された言葉だった。鞠亜の方を人工精霊だと信じて疑わなかった上条は思わず変な声を出してしまった。

上条「え、鞠奈が人工精霊だったのか!?」

鞠奈「さっきからそう言ってるでしょ」

上条「……」

しかし、どうしても違和感が残ってしまう。こう、すんなりと事を受け入れるのには疑問が多い。

鞠奈「……その顔は信じてないでしょ。まさか私を疑ってるの?」

上条「やっぱどうも納得がいかないんだよ。お前が人工精霊だったら鞠亜はどこから来たんだ?」

上条の言葉に鞠奈は「あぁ」と声を漏らした。まろで説明し忘れたと言わんばかりに。

鞠奈「彼女はフラクシナスの管理AIよ」

上条「管理……AI。……?」

鞠奈「そう。ほら、精霊を攻略する時に選択肢が出るでしょ。あれを出しているのが彼女の本当の正体よ」

言われて、少し納得した。鞠亜が本当にフラクシナスの管理AIなのだとしたら鞠亜が愛を知りたがっていたのも辻褄が合う。

しかし、一つの疑問が解決すればまた一つの疑問が浮かんできた。彼女への質問攻めはしばらく終わりそうにない。

上条「じゃああいつは何で実体化できたんだ?AIってもただのデータだろ?」

鞠奈「それは私が与えたの。声も姿も人として存在するための情報もね」

上条「すげぇ。でも何でだ?」

上条は素直に驚いたが彼女と話を進めれば進めるほど疑問は増えていく一方だ。未だに彼女のちゃんとした目的も分かってないというのに。

と、上条の意思をくみ取ったのか、ただ単に真面目な話に飽きたのかは分からないが突然鞠奈はいたずらっ子のような悪い笑みを浮かべて言った。

鞠奈「さてここで問題です。私は何故彼女を実体化させたせしょうか?」

上条「……は、はぁ!?」

突然のクエスチョンの困惑する上条。勉強が苦手な上条にとってこのクエスチョンは嫌らしいていうレベルではない。

鞠奈「10、9、8……」

上条「しかも時間制限ありッ!?貴方は鬼ですか!?」

と言っている間にもカウントダウンは進んでいく。上条が考え出した頃にはもう5秒を切っていた。

上条「(いや焦るな俺。こんなクイズを出してきたということは俺でも解ける問題のはずだ。冷静になって考えれば――)」

鞠奈「はい、時間切れー」

冷静に考えている間に考える猶予は終わってしまったようだ。

流石に早い。

上条「……鞠奈、さては俺に答えさせる気なんてなかったな!?」

鞠奈「うーん?どうしてそう思ったのかなぁ?」

と前に出会ったときのような相手を挑発させる口調で上条の顔をしたから覗き込む。言うまでもないが鞠奈もかなりの美人だ。こんな近くに来られるとさすがの上条でもドキッとしてしまった。

それがバレないように自然な素振りで視線をそらして、鞠奈の質問に答える。

上条「だって上条さん頭悪いし!追試なんて日常茶飯事だし!!留年もしそうになったし!!!」

鞠奈「……それ、キミが真面目に勉強してないだけなんじゃないの?」

上条「……言い返す言葉もございません」

目を細めながら上条を睨み付ける。それに雰囲気で気づいたのか上条の頬には一粒の汗が流れていた。

鞠奈「まあ何でもいいけど。で、質問の答えだけどそれは私がこの世界の閉じ込められたから」

分かるわけがない、と本気でツッコミそうになったが話を脱線させるわけにはいかないので無理矢理押しとどめた。

鞠奈はそんな上条の様子に気づく様子はなく淡々と説明していく。

鞠奈「フラクシナスの強固なプロテクトの僅かな隙間をついて侵入出来たのまではよかったんだけど、そしたら彼女のAIとしての機能が働いてね、この強固な仮想世界の閉じ込められたのよ。流石の私もそれには困ったんだけど、彼女が記憶を無くしてくれたのが幸いしたわ」

上条「うーん……っと?」

鞠奈「だから私は彼女に身体も心も人間としての情報を与えた。そうすればいつか彼女自身にも……ってちゃんと聞いてる?」

上条「おお、聞いてるぞ。明日も晴れるといいな」

鞠奈「え、本当に何の話をしてるの?頭大丈夫?」

上条「あー大丈夫だ」

鞠奈「……本当?」

上条「ああそうだよどうせ上条さんの頭はおかしいですよ!!」

鞠奈「」

勝手に話しを脱線させて勝手に暴走して……突然のことに鞠奈はポカーンとなってしまった。こんな姿をまさか目の前の男に晒してしまうとは鞠奈も思ってなかっただろう。

上条「生憎だが上条さんは一方通行みたいな理解力や頭の良さは持ってないんだ。もう少し分かりやすく教えてくれませんかっていうか教えてくださいお願いします!!」

と、逆ギレしてから十秒も経たない内に鞠奈に頭を下げるという理解不能な行動。感情の起伏が激しいというか情緒不安定というか。

鞠奈「……」

上条「……ん?どうした?」

鞠奈「……大丈夫。ただ呆れているだけだから」

上条「何だろ、年下に凄くなめられてる気がする」

気がするではなく実際にそうなのだが上条はそれに全く気づいてない。それも含めて、鞠奈は一度ため息をついた。やれやれとでも言いそうな様子で鞠奈はもう一度説明する。

鞠奈「まず……私が閉じ込められた原因は何?」

上条は聞かれて少し困惑するも、なんとか自分の記憶を辿って鞠奈が言っていたことを思い出す。

上条「えっと……強力なプロテクトとかが働いたから……だったよな?」

鞠奈「そうよ。じゃあ、そのプロテクトを張ったのは誰?」

上条「それは……管理AI」

鞠奈「管理AIはこの世界でいう誰?」

上条「鞠亜だろ」

鞠奈「そう。私は彼女の強力なプロテクトによって出られなくなってる。そのプロテクトを外そうと思えば彼女の管理者権限を奪わないといけない。何故なら彼女がそのプロテクトを張った管理者だから」

上条「……そうだな」

鞠奈「ここまでは分かった?」

上条「一応な」

先ほどまでとはうって変わって丁寧な説明になる。最初からこう説明してくれればあんな馬鹿な行動をする必要もなかったのに。

鞠奈「で、ここからが問題。彼女の管理者権限を奪いたい、でもAIは人間とは違って全くと言っていいほど隙を見せない。ならどうやって奪えばいいのか」

上条「……あっ」

と、鞠奈が途中まで説明したところで上条は気づいたようだ。何故、鞠奈は鞠亜に身体、心、人間としての情報を与えたのか。

それは、子供でも思いつくような単純なことだった。







鞠奈「隙が生まれないのなら、隙を作るように仕向ければいい」






そう、先ほどの『AIは人間とは違って全くと言っていいほど隙を見せない』という言葉の裏を返せば『AIに隙を作ることは難しいが人間ならそれが簡単にできる』となる。

上条「だからお前はAIだった鞠亜を人間にしたのか……」

鞠奈「正確にはまだよ。彼女はAIから人間に進化している途中。いくら情報を与えたからといっても元はAI。そんな簡単には上手くいかないのよ」

上条「そうか。さっき言ってた『記憶が無いのが幸いした』っていうのは……」

鞠奈「なんだちゃんと聞いてるじゃない。そうよ。ただでさえ心が無いAIに心をつけようっていう無茶をしようとしてるのに、そこのAIの記憶があったらいつまでも自分はAIというコンプレックスを抱いちゃうでしょ。ま、五河士道ならそれでも何とかしてくれそうだけど……どれだけの時間が掛かるか分からないしね」

上条「確かに……あいつならやりかねん」

どこか嬉しそうに話す鞠奈とここまで説明されてやっと納得がいった上条。鞠奈はその嬉しさからか、また淡々と話しを進める。

鞠奈「だから私は心を与えた時にちょこっとだけ入れて置いたのよ、『貴方は愛を知らなければならない』ってね」

鞠奈の変化に上条もうっすら気づいたようだ。さっきまでダメ人間を構成しようとする厳しい先生のような話し方だったのに対して今は笑顔で楽しそうに話している。

それも先ほどのクイズを出したときのような人を試すような感じではなく、自然体で笑っているような感じだ。鞠奈のこんな姿を見るのは初めてだ。

この笑顔を写真に撮って士道に送りつけても士道は別人だと言い張るであろうぐらい、人工精霊を思わせない一人の女の子のようだった。

上条「(もしかしたら……)」

上条はそれらの過程を思い出して一つの仮説を立てた。実際仮説というほどでもないのだが、これが正しければ彼女の性格からして怒ってしまうだろう。

だが上条は彼女を放ってはおけなかった。だから怒られるのを覚悟して鞠奈に言う。

上条「……なあ鞠奈」

鞠奈「ん?どうしたの?」

上条「お前本当は――」

と言おうとしたところで――





――上条のお腹がグーとなった。





上条「……」

鞠奈「……」







……さて、この気まずい雰囲気をどうしようか。



 
 

 
後書き
あと数話で或守編も完結です 
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