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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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171部分:三頭の竜その四


三頭の竜その四

「この戦いは侵略者から祖国トラキアを護る戦いだ。それ以外に何の意味があるというのだ」
「そんな・・・・・・」
「話はそれだけか?ならば私と御前は敵同士、手合わせ願おうか」
「うっ・・・・・・」
 一度決めた事は決して変えない、兄のそのような性格を知るアルテナは槍を構えた。その槍は父より授かった自らの分身とも言うべきあの槍であった。
 空中で二本の槍がぶつかり合った。その音は哀しい音色となってトラキアの空に響いた。
 アリオーンとアルテナの一騎打ちが行なわれている間に戦局は次第に解放軍に傾きつつあった。解放軍はその圧倒的な兵力と堅固な防御陣をもってトラキア軍を防ぎその数を消耗させていった。
「ミーズ方面から来た部隊の将ソノーラ、ロベルト殿が討ち取りました」
「ロナン殿から報告です。敵将シャープレスを倒したとのこと」
「セルフィナ殿が敵の高名な騎士スポレッタを討ち取りました。またファバル殿はまた敵将を一人倒したとのことです」
 次々と解放軍の戦果を伝える報告がセリスの下に入って来る。だがまだセリスの顔は晴れない。
「アリオーン王子はどうしてるんだい?」
 側に控える若い騎士に問うた。
「ハッ、今だアルテナ王女と交戦中であります」
 若い騎士は敬礼してセリスに報告した。
「そうか・・・・・・。アルテナ王女にはゲイボルグがある。アリオーン王子の相手も出来るだろう。彼女が王子を引き付けている間に我々は戦局を有利に進めよう」
「ハッ」
 セリスの言葉通り解放軍はトラキア軍の執拗な攻撃を防ぎ戦いの流れを徐々に引き寄せていった。被害は次第に少なくなり逆にトラキア軍の被害は増えていった。
 夕刻になった。両軍は引き揚げ戦いは幕を降ろした。参加兵力は解放軍五十万トラキア軍八万。兵力差はかなりの開きがあったが機動力を駆使したトラキア軍の決死の攻撃に思わぬ損害を被った。損害はトラキア軍三万に対し解放軍のそれは五万に達した。今までは数で優位に立つ敵をその裏をかく知略と個々の超人的な武力で圧倒的な勝利を収めてきた解放軍にとってこの損害は大きな衝撃であった。諸将にも戦死者こそいなかったが負傷者が多くこのことは今後の戦い、すなわち来るべきグランベル帝国との決戦を考えるにあたり深刻なものとなった。
 対するトラキア軍は事実上敗北した。損害こそ解放軍のそれを下回ったが壊滅状態になりこれ以上の戦闘は不可能となった。解放軍に投降した兵は二万に達し残る三万程の兵がアリオーンと共にトラキア城西に撤退した。
「残ったのはこれだけか」
 夜の闇が迫ろうとする中アリオーンは生き残りこの場に集結した自軍を見て言った。
「ハッ、残念ながら・・・・・・」
 壮年の騎士が敬礼して答えた。その間アリオーンは表情を変えず冷静なままである。
「・・・・・・これ以上の戦いは無理だな。我々の敗北だ」
「・・・・・・・・・」
 騎士は何も言わなかった。否、言えなかった。アリオーンが次に何をするか彼にはよくわかっていた。そしてそれを止める事が出来ない事も。
「皆今までご苦労だった。私のような愚かな者に仕えてくれて真に感謝している。・・・・・・後はそなた達の好きにするがいい」
 そう言うと腰から剣を抜き首に当てた。一気に掻き切ろうとしたその時だった。
 アリオーンの目の前に淡い緑の光が生じた。そしてその中から一人の壮年の男が現われた。
 長く紅い髪とルビーの如き瞳を持っている引き締まった長身を黒と金の軍服、そして司祭達が身に着けるようなトーガに似た形のマントを着ている。やつれた感じはするが端正な顔立ちと全身から発せられる気品と威厳、アリオーンは彼をよく知っていた。
「アルヴィス皇帝、何故ここに・・・・・・」
アルヴィスはアリオーンの問いに答えた。
「卿のことが気になってな。来てみれば自害しようとしているとは。間に合って良かった」
「・・・・・・・・・」
「卿はまだ死んではならぬ。その力、ユグドラルの為に役立てるのはこれからなのだ」
「・・・・・・・・・」
「私と共に来るのだ。そしてダインの志を正しき場所に導くのだ」
 アリオーンにはそれがどういうことなのかわからなかった。だがアルヴィスが自分を利用するつもりではないこともよく
わかっていた。
「はい・・・・・・」
 そのうえで頷いた。アルヴィスが僅かに唇の端を綻ばせたように見えた。
「ならば来るが良い。そして星々の中に卿も入るのだ」
 そう言うと右手をゆっくりと上げた。アリオーンだけでなくトラキア軍全てが緑の光の中へ消えていった。
 明朝解放軍はトラキア城へ進軍をはじめた。途中アルヴィスがアリオーンと彼の軍を何処かへ連れ去ったという報がセリス達にも入った。その報にセリス達、とりわけアルテナは顔を暗くした。だが解放軍の進軍は順調でありセリス達は何事もなくトラキア城に入城した。歓呼の声こそ少なかったがこれでトラキアでの戦いが終わり、そして長きに渡ったレンスターとトラキアの抗争の歴史に終止符が打たれる時が来たのを彼等は感じていた。
 
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