ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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167部分:聖斧その五
聖斧その五
先にミーズで行なわれたリーフとトラバント王、レンスター=アルスター間の戦いにおけるアレスとラインハルト、メルゲンでのシャナンとイシュトーといった数々の激しい一騎打ちと比べても全く見劣りしない凄まじい闘いとなった。ブリアンがスワンチカを竜巻のような唸りとともに投げればセリスは流星の如きつきを矢次早に繰り出す。焔虎が吠え天狼が駆け星燕が乱れ飛ぶーーーー。後世の詩人達はこの時の死闘をこう書き写している。両者共に五分と五分で撃ち合いそれは数百合にも達していた。セリスもブリアンも疲れは全く見せず陽が落ち周りに篝火が焚かれてもそれは何時終わるともなく続いた。それはさながらヴァルハラで闘い続けるエインヘリャルのようであった。
ブリアンがスワンチカを投げる。セリスはまたもやそれをかわす。剣撃を出すがブリアンはそれを受ける。その時だった。
一瞬だがブリアンの目が動いた。その動きはセリスも見た。
(む!?)
同時に後ろから轟音が轟く。咄嗟に身を屈めスワンチカをかわす。斧はブリアンの右手に帰った。ブリアンの目はスワンチカを見ている。
(まさか・・・・・・)
かってヨハンやヨハルヴァ等解放軍の斧使い達に聞いた事を思い出した。手斧を扱ううえで最も難しいのは投げてから戻って来る斧を掴む時なのだと。その時一瞬でも油断すれば命にかかわる、だからこそ斧使いはこの瞬間全神経を集中させるのだと。
(それならば・・・・・・)
十二神器の一つスワンチカならばその扱いの難しさは手斧などとは比べ物にならない。ブリアンはその常識外れの膂力と人並みはずれた反射神経で完璧なまでに使いこなしているが受け止める瞬間には全神経をそこに集中させる筈だ。セリスの脳裏にある事が閃いた。
(やってみる価値はある)
激しい応酬の後ブリアンは再びスワンチカを放った身を捻ってかわしたセリスの後ろを台風のように回転しながら飛んで行く。
セリスは剣を突き出す。数合程撃ち合うとブリアンの目がピクリ、と動いたのを見た。
(今だ・・・・・・!)
セリスは前に飛び出した。そして左手でブリアンの胴を掴むと渾身の力をもって馬上から引き摺り落とした。
「むぅっ!?」
そのすぐ上をスワンチカが唸り声をあげ飛び去って行く。スワンチカが地面に突き刺さった時ブリアンの喉下にはセリスの剣が突き付けられていた。
「勝負あり、ですね」
セリスはクスリ、と笑って言った。
「見事だ。しかしよくあそこで投げ技を使ったな」
「目、ですよ」
「目!?」
ブリアンはその言葉にいささか面喰らった。
「はい、斧使いは投げた手斧を受け取る時最も神経を集中させると聞きます。スワンチカでもそうだと思いその隙を衝いたのです。その隙は斧を見る目の動きから読み取りました」
「そうか・・・・・・。流石だな、これだけの軍を率いるだけはある」
ブリアンは立ち上がるとスワンチカの方へ歩み寄るとそれを大地から引き抜きセリスの方へ戻り左手に持っていた剣と共に馬から降りていたセリスに手渡した。
「完敗だ。約束どおりこのブリアン、我が軍と聖斧スワンチカと共に解放軍の末席に加えさせて頂こう」
夜の闇の中歓声が鳴り響いた。解放軍にまた新たな勇者が加わったのである。
ダーナを奇襲せんとした帝国軍十万は主将ブリアンと共に解放軍に入った。同時にイードの諸都市に駐留していたシレジア軍、斧騎士団からなる四万の兵も解放軍に入った。セリスはその四万の兵をそのままイードに駐留させ帝国への守りに当たらせた。そして自身は新しく入った兵とダーナの守備兵合わせて二十三万の兵を連れトラキアへ戻った。途中イザークやレンスターの兵とも合流しルテキアに残してきた兵と合流した時には五十五万に達していた。そして帝国から派遣されている将軍スカパフチーレが守るグルティア城へと駒を進めた。トラキアにおける戦いもいよいよ最後の段階へ入ろうとしていた。
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