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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第71話 暁

 
前書き
遅くなって申し訳ないです 

 
真っ白な空間を係の人がリモコンで操作ると湘南の風が吹きわたる白浜と広大な海原が拡がる。
「凄っ!?」
御坂が思わず目を擦ってもう一度見てみるがやはり白浜のビーチに変わりない。
「どういう原理だ?幻術みたいだが違うようだが」
「ガオガオー」
サソリが真っ黒な海パンのポケットに手を突っ込みながら怪訝そうに首を横に傾ける。
足元ではフウエイが出現した砂に狐の口のようにした指で砂を食べるように進んでいき指の隙間からサラサラと砂が流れていくのを楽しんでいた。

「うわぁ......この木も本物みたいですよ」
初春が関心したようにヤシの木の幹を軽く撫でる。
「本当?うわ、本当じゃん」
佐天もコンコンと叩いているが跳ね返ってくる弾性力は本物の樹木と相違ない。

普段のサソリは分厚い外套を身に付けているのでほぼ裸に近いサソリの姿を見るのは一部のサソリと前から知り合いだった御坂達や弟子兼娘のフウエイはあまり気にしていない様子だが、初めて見た湾内を始めとする麦野達はサソリの想像を絶する痛々しい傷痕に絶句してしまう。

「どうかしましたの?」
白井が相変わらずの際どい水着でツインテールを搔きあげながら言葉を失っている集団に声を掛けた。
「い、いえ......そのですわ」
「どういう事よ?」
「見ているだけで超痛いです」
「サソリさんには昔何があったのですの?」
心臓部に二つの刺し傷から放射状に伸びる傷痕と関節に球体をはめ込んだような悲惨な傷痕に木山だけは全てを悟ったように視点をズラした。

前に観てしまった彼の過去。
安住の地などないかのように戦場を渡り歩く半生に木山は静かに憤った。

サソリ君も時代の被害者か......
比べて良いか分からないが、私の生徒のように自分の意思とは関係なしに外部の力によって捻じ曲げられる苦しみと哀しみ
身体は心の外側とは云ったが、まさにサソリの身体は彼の精神と呼応するかのように達観した心境を生み出しているようだ

「私にもわかりませんの......ただ虐待を受けていたんじゃないかって話ですわよ」
「ぎゃ、虐待!?それにしたってかなりヤバくない!?」
「あ、あの傷は酷すぎますわ!」
お嬢様として耐性のない泡浮が目を真っ赤にしながら、行き場のない気持ちを吐露する。
いや耐性のある暗部組織の麦野達でさえたじろぐ程の痕だ。

御坂が腕をバーチャルの青空に広げて軽く伸びをすると頭の後ろで組んで少しだけ昔の事を思い出した。
「そういえば血だらけで倒れているのを発見してからの付き合いよね」

「普通だったら死んでいるような出血量みたいでしたけどね」
全てはあの路地裏で倒れているサソリを見つけてから始まっていた。

怒涛のように過ごした日々
楽しみあったり、悪ふざけをしたり
喧嘩したり......数え切れない失敗をしたり
その中でサソリを中心に回っていく今の瞬間はかけがえのないものになっていた

サソリは出現した『海』を見つめていた。
空のようにどこまでも青く、どこまでも拡がる初めて見た風景に微かに目元を動かした。

「......おい、白井」
「な、なんですの?」
「あれが海という奴か?」
「映像に近いですが......そうですわよ」


書籍や人伝てに聴き想像していた場所
全ての生命を育んだ壮大なる存在
乾いた砂だらけの黄色の絵の具で彩られた世界に青色が加わり水が混じりマーブリングされていく
乾いた絵筆では描けなかった絵が水に浸す事で滑らかに動きだし、重々しい絵が軽くなる。

「ふふ......そうか初めて見たな」
サソリの不意打ちに近い少しだけの柔和な表情に白井の身体が何かに打ち抜かれて砂浜で悶絶した。
「!?ひ、卑怯ですわ」
「は?!何がだ?」
「こうしてやりますわ!」
白井がテレポートをしてサソリの頭上に来ると、脚を掛けてサソリの首を挟むように肩車の体勢になりグリグリと頭に拳をめり込ませる。

「あだだ!何しやがる」
サソリが後ろ手で白井の腕を掴むとグリグリを完全に腕力で止めた。
「あっ!」
「ったく野生動物じゃねーだろ。文句があるなら口で言え」

白井は止められているサソリの力強い握力に病室の時を重ねていた。
痩せっぽちで腕力など無いに等しかったあね頃のか弱い少年の姿は今はなく、幾多の戦いを超えてきた逞しい彼の姿があった。

「白井?」
力が入っていない白井の腕を握りながらサソリが首を傾けて俯いている白井を端目で確認する。
「や、やっぱり卑怯ですわ......」
掴んでいるサソリの腕はレベルアッパー事件でAIMバーストから放たれた光球から白井と初春を守った時に付いた傷が今の残っている。

ぎゅむ
「ん?!」
白井はサソリの頭を覆うように身体全体で抱き締めた。
「やっぱり大好きですわ......」
「「「!?」」」

サソリを除くメンバーに緊張が走る。
そうこれはサソリとの一夏の想い出を作る戦いの場であることを思い知った。
「し、白井さん!ずるいですわ!」
「は、ハレンチですわよ!白井さん」
婚后が扇子で赤髪コンビを指差すと顔を真っ赤にして抗議をした。

「こりゃあ、私達も肩車してもらわ......」
「えっ!?」
麦野が艶やかに前へと出ようとするが普段見ないような動揺が走り、バランスを崩して白井を振り落としながら砂浜に尻餅を付いた。
「いたた......ですわ」
「ちょ、ちょっと待て!?し、白井がオレの事をか!?」
今までに見た事がないように顔を真っ赤にしてサソリが焦りながら後退りをし始める。

「えっ?えっ......オレに」
その様子に白井はしこたまぶつけた頭を撫でながらムスッとした顔で四つん這いのままサソリに這い寄る。

「そうですわよ。やっとお気づきで?」
「ま、待てよ......だって最初の時は嫌っていたじゃねーか?」

「そんな時もありましたわね。男と聴くだけで嫌な気持ちになりますが......貴方は別ですのよ」

「し、知らんかった......」
困ったように御坂達に助けを求めるが......

今更かーい!!
何この学園都市にはモテる奴にだけ特別な鈍感エキスでも飲んでいるのかと疑問に思うわ!

「ってか旦那」
「あ?」
「ここにいるほとんどの奴は旦那に好意を持っているわよ」
「は?は?お前と湾内だけじゃ」
「だったら私達以外来るわけないでしょ」
「いっ!?」

「どんだけ超鈍感野郎なの?」
絹旗が初めて『超』の正解の使い方をして顔をしかめた。
「まあ、想像してた通りね」
「そうですね。そこがサソリの魅力だったりしちゃうかなー」
佐天が屈託のない笑顔でそう言って白い綺麗な葉を見せた。

******

「出来たー!」
フウエイが砂で拙い家を作って満足気に額を拭った。
手についた砂が付いていく。
「良い感じですね」
「えへへ」
「砂付いているよ」
滝壺が手に持っていたフウエイの額を擦って綺麗にした。
「うん、ありがと」

軽く自由時間にして各々でバーチャルな砂浜を満喫する。
ビーチバレーをするものやビーチベッドで横になったりと楽しむ中でサソリだけはヤシの木の下で物思いに耽っていた。

何もかもが想定外か......

「うじうじ悩んでいましても何も解決しませんのよ」
ひょっこり顔を出したのはまだサソリと知り合ったばかりの婚后だ。頭の上からつま先までどの角度から見ても自信たっぷりといった感じに歩いている。

「......」
「なっ!?何ですの?」
サソリがまじまじと見始めると、婚后は腕を前にして防御の体勢を取る。

「んー、お前はオレに好意を持っているんじゃねーよな?」

「あ、当たり前ですわ!今回も御坂さん達が行くって事で仕方なく」

「だよなー。普通そうだよな......オレなんかに」
その言葉に婚后は少しだけイラついたように口を尖らせた。
「そういう言葉は相手に失礼ですわよ!自分を卑下するのも大概にしなさいですわ..,...っ!」

卑下をするなと啖呵を切ったが、サソリの筆舌に尽くした難い傷の数々に目が覚めたようにオロオロとしだした。
「い、いえ......あまり自分を責めないでく、くださいという意味ですの」

「......クク、ガキのクセに気を遣わなくて良い」
「んな!?ガキですって!貴方よりも充分に大人ですわ」
「はいはい......分かったよ。ありがとうな」
いつもの調子に戻ったサソリは背中を丸めて猫背のまま婚后に背中を向けると海とは反対側の砂浜に歩みを進めた。
「!?」
猫背により歪んでいるが非自然的な規則正しい幾何学型の傷痕に言葉を失う。
それは過失や虐待による傷痕とは明らかに違う何かの作為を感ずるような傷に見えた。

まるで取り付けていた部品を無理矢理外した人形のような姿だ。

婚后が好んでいた西洋人形に付随していた部品をある時不注意で外してしまった時と重なる痕。

心がざわく
気持ちが揺さぶられる

婚后は今まで会った事のないタイプ少年にどのように声を掛けたら良いか考えあぐねている。

あまりに深い哀しさ
あまりに理不尽な無情感
そして強い罪悪感

見つからない......
わたくしの生涯で彼の生き方を捉える最適解は見つからず、扇子を口に当てた。

ただ行き着いた答えに近いのは
『人間の尊厳を踏み躙った』という事だ。


「おい、起きろ」
サソリがビーチベッドで寛いでいるテレスティーナを覗き込みながら、声を掛けた。
「ん?は、はい!サソリ様」
「例の物持ってきたか?」
「もちろんです。少々お待ちを」
めっきりサソリから声が掛からなくて不貞腐れていたテレスティーナが嬉々としてビーチベッドから飛び起きて更衣室に走っていった。

「どうかしたのかい?」
木山が用意されたメロンソーダをストローで飲みながらサソリを見ていた。
「少し、オレの過去を話する」
「!?だ、大丈夫なのか?」
「全部じゃねーが......少しだけだ。これからあいつらに頼み事をするからそれ位はな」
「お前ら少し集まれ」

今まで独りで背負い込み孤軍奮闘をしてきたサソリが解けたような表情になると焔のついた鋭い眼で呼び掛けた。

頼る事は弱さではない
助けを借りるのは恥ではない

「木山」
「ん?」
「ありがとうな」
「?あ、ああ......」

ここに来てからか
お礼を言う機会が増えた気がした
間違っていたのはオレの考えだ
間違いそいになったら周りが指摘し修正して前に進んでいく
前の自分が聞いたら一蹴する文言だ
だからこそ間違いを指摘してくれたコイツらをアイツらから護ってやりたい


テレスティーナが鞄を持って来たのを確認するとサソリは全員を集めて車座のように砂浜に腰を下ろした。
テレスティーナが鞄から取り出したのはバッジのような物だった。

「?!」
受け取った御坂がバッジの裏側にある針を見ながら首を傾げて裏返すと何かの絵柄がプリントアウトされている。
「げ、ゲコ太!?」
「な、なんですの?これ」
そこには御坂がご執心のゲコ太のようなカエルが真ん中に立ち、その周囲には巴紋が浮かんでおり真っ赤な水溜りに漂っているように見えるデザインだった。

「お前......このデザインは?」
「渡されたバッジに描かれていましたし、写輪眼こそサソリ様の真骨頂ですから」
にこやかテレスティーナは頭を掻くと軽くため息を吐き出しながら、御坂達の前に出して説明を始めた。

「何かあったらこれに力を流し込め。オレに伝わるようになっている」
「こ、これを身に付けるには超勇気がいります」
「さすがにこのデザインはないわ」
「文句ならコイツに言え」
と言ってテレスティーナを指差した。

口々にカッコイイデザインが良いだとか、付けていて可愛いのが良いだとかの文句が出てくるが、御坂だけは反応が違って立ち上がるとサソリの肩を掴んだ。

「グッジョブよ!サソリ。凄く良いわ!」
爛々と煌めく無邪気な子供のように親指を立てて喜びを表現する御坂。
「あ、ああ」
「お姉様......」
予想以上にはしゃぐ御坂に若干サソリは引いた。
「パパ〜?これフウエイの?」
「ん?そうだな。大切に持っていろよ。別に身に付けなくて良いから常に携帯していろよ」

配られたバッジにはサソリの今は亡き三代目 風影の傀儡人形が使用していた砂鉄が練りこまれていた。
かつて初春や御坂達に渡した砂鉄と同じ効果を発揮する。

「なんかこれで派閥感が出てきたしたね。暁派閥?」
「暁って何ですの?」
「サソリが前に入っていた組織の名前らしいですよ」
湾内の質問に佐天が答えた。

「そういえばサソリが前に居た組織ってどんな人達が居たの」
「?」
「それは気になるな」
「?そんなに大した組織じゃねーんだが」
「前の組織?」

サソリと出会ってから壮大な勘違いをした苦い思い出の大蛇丸ちゃん(最近大塚明夫さんも良いなぁと思います)
を思い出して目を細めた。

ふふ、世の中には知らなくて良い事がたくさんあるのよねぇ

「何でだ?」
「ん〜、一応今の暁派閥の先輩になるから......かな?」
「そこから説明で良いんじゃないか」
木山がサソリにそう促すと死んだ魚のような目になって俯いた。

「分かった。とりあえず『暁』は『犯罪請負組織』の事だ」
「は、犯罪?」
「こことは違ってオレの所じゃあ、武力による衝突が多かったからな。まともな戦闘よりは要人暗殺や襲撃をしたりと工作員みたいなこともやらされたし」

「私らの暗部組織みたいな感じね」
「ああそうか......お前らも似たような事をしていたな。基本金を払えば何でもやる感じだ」

「サソリさんはそこの代表を?」
「違う違う。オレはスカウトされた身だ。リーダーとはあまり直接会話した事が少ないな」
「へぇ〜。サソリよりも凄いのがいるんだ」
「全部何人くらいでした?」
「入れ替わりが激しかったからな......10人くらいか」
「だいたい私達と同じくらいですね!」
「本当にメンバー紹介するのか?」
「ここまで聞いたら聞きたいわ」

という訳で暁メンバーの紹介をすることになったサソリは砂に数字を描き込みながら思い出すように説明をし始めた。


1.デイダラ
サソリとコンビを組んでいたメンバー最年少。
粘土と自分のチャクラを練り混ぜた起爆粘土を使い爆撃を得意とする忍
爆発に美を見出し、サソリとは異なる美的感覚を持っていたがそれなりに理解をしていた人物

2.うちはイタチ
なぜかサソリも開眼している写輪眼の究極体である『万華鏡写輪眼』を有する忍。
あらゆる術を使いこなし、高いレベルを誇る中で殺傷能力の高い幻術を得意とする。

3.干柿鬼鮫
上記のイタチとコンビを組んでいた忍。
チャクラを吸う『鮫肌』を所有者を殺して奪い、冷酷に目的を果たす性格。
チャクラ量はリーダーに次ぐ圧倒的な量を誇る。

4.飛段
不死身の肉体を持つ忍。
メンバーの中では1番の新人。
殺戮をモットーとする新興宗教『ジャシン教』を信仰しており、長い時間を儀式に費やす。

5.角都
古参メンバーの1人
上記の飛段とコンビを組み『不死身コンビ』として知られている。
普段は冷静沈着だが、一度キレると平気で仲間を手にかける癖がある。
金銭に対する執着心が強い。

6.小南
メンバー唯一の女性
リーダーと行動を共にする側近に近い役割。
紙を使った忍術を得意とする。

7.ペイン
暁のリーダー
三大瞳術『輪廻眼』を有し、圧倒的なチャクラとカリスマ性を持つ。


そこまで語り終えるとサソリは一息ついた。
少しだけ頭の整理をしているかのようだった。
サソリの知る限りの情報を聞いた御坂達は互いに顔を見合わせる。
「な、なんか凄いメンバーね......」
嘘のように聞こえるがサソリの淀みなく出てくるメンバーの特徴に肉付けされて本当だと実感する。

「ってかサソリの方が普通に見えてきたのは私だけ?」
フレンダが指を口元に当てて、ぶりっ子のように振舞ってみる。

うーむ
確かに、『人形使いです』って言ったけどもこの濃いメンバーの中では霞む勢いだ。

人形使いとして木山が思い出したのは昔盛んに流れていたCMを思い出した。

♪カステイラ1番〜
テレフォン2番〜

白い猫のようなキャラクターが一列に並んでダンスをしているCMだ。
最初は意味が分からないが妙に頭に残るメロディーと人形の動き。

メンバーの中ではサソリ君が癒し系かな

そして、サソリの口から忌まわしき人物の名前が飛び出す。
「後はゼツという奴だ」
「!?待って!それって」
「私達とやりあったキモい奴ね」

ゼツの名前を聞いた御坂達に緊張が走った。
一連の事件を引き起こした黒幕であり暁派閥が倒すべき真の相手。

8.ゼツ
暁メンバー最古参
人間離れした思考と容姿をしている。
今回の一連の騒動を引き起こした張本人。

「??」
何も事情を知らない婚后がフリーズをしていれと御坂が後ろを振り返りながら、ニコリと笑った。
「大丈夫よ。婚后さんには手を出させないから」
「は、はいですわ!」
険しくなる発足したばかりの暁派閥の代表であるサソリが静かに本題を切り出した。
「恐らくゼツの攻撃は激しくなるだろう。この話を踏まえた上で聞いてくれ」

「な、なんですの?」

サソリは静かに一呼吸置くと。
「......オレと口寄せの契約を結んで欲しい」
と頼むように言った。 
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