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Three Roses

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第三十二話 太子の焦燥その三

「いいな」
「はい、わかりました」
「それではです」
「ここま諦めずにです」
「ことを進めましょう」
「そうする、またこのことはだ」
 王室の儀礼、それはというと。
「実は挽回出来るしな」
「はい、今新教徒達の思うまま進めても」
「そうしてもですね」
「それでも尚ですね」
「我々には手がありますね」
「その仕込みは行い続けている」
 太子は己の傍にある杯、自身の豪奢なそれを手に取ってだった。深紅の葡萄酒を口に含み飲んでから言った。
「今もな」
「はい、そうですね」
「だからこそですね」
「この度の儀礼のことで好きにされても」
「挽回が出来ますね」
「だからまだいい、しかしな」
 ここでまた言った太子だった。今度はこうしたことを言った。
「どうも日増しにだな」
「はい、お妃様は」
「肝心のあの方が」
「どうにもですね」
「お元気がなくなってきていますね」
「そうなっていきていますね」
「そう思うな、余もだ」
 太子自身もというのだ。
「そう思えて仕方がないが」
「はい、我々もです」
「そう思います」
「近頃のお妃様はです」
「お身体が優れず」
「それが日増しに出て来ています」
「そうだな、滋養のものを口にさせてだ」
 そしてというのだ。
「薬も飲ませているが」
「それでもですね」
「どうにもですね」
「どれも効き目がないですね」
「そう思えますね」
「そうだ、大丈夫なのか」
 太子は不安も口にした。
「果たして」
「どうでしょうか」
「若しかして、ですが」
「病であれば」
「それも重いものであれば」
「その場合は」
「うむ、若しもだが」
 太子も言った。
「妃が死に至る病ならな」
「その場合はですね」
「お妃様がおられなくなれば」
「もう我々はこの国にはいられませんね」
「そうなりますね」
「そうだ」
 まさにとだ、太子は彼の側近達に言った。
「そうなってしまうとだ」
「我々がこの国にいる理由がなくなり」
「去るしかないですね」
「この国に何も出来なくなりますね」
「留まったうえでは」
「そうだ、どうしようもなくなる」
 太子はその場合を考えてだ、深刻な顔で述べた。
「そうならないことを祈るがな」
「こればかりは、ですね」
「どうしようもないですね」
「人の寿命はどうにもなりません」
「ある程度は医学で出来ても」
「それでも」
「そうだ、新教徒の中で王国にいた者が言っていたな」
 太子は敢えて新教を話に出した、旧教でありながらも。 
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