暁ラブライブ!アンソロジー~ご注文は愛の重たい女の子ですか?~
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溺:ジャスミンを添えて【序】 【チーズ(^O^)】
前書き
本日は知る人ぞ知る方がお送りするヤンデレです!!!ぜひごゆっくりお楽しみください!!
壁を生す大量の紙の上には、数字・記号が第三者の視点からでは何が書いてあるのか理解できないほどに敷き詰められ、その羅列のほぼ全てにバツが付いている。平日は淡々と過ごしているが、週末が来る時には木製のボロ机へと向かい、大学図書館から借りたと思われる専門書に齧り付いては寡黙を貫き、数式を完成させるも消して、それを繰り返す。
彼は、数学者の道を志した一学生であり、ほぼ年中無休でこれを続けている。実際のところ才能があるかと聞かれれば人並以上程度のものであり、それを本人も自覚しているからこそ、鬼の追い込みがあるのである。
しかしながら、想像出来ないかもしれないが、彼には恋仲にある異性が存在する。そもそも、元来の彼は愛想がよく端整であるのも相まって、年頃の女子には人気があるような青年であった。変貌の契機は高校3年生の受験勉強であり、大学に入ってから現在の生活スタイルを確立した。
彼に現在の恋人ができたのは高校1年生の頃。彼女は当然それを見ていたが、本人のやりたいことならばそれを優先すると考えているため、あまり自分に手を出して来ないことに不満を述べることはしなかった。むしろ、彼に余計な心配をかけることがないように、持ち前の明るい性格で彼を元気づけたりしている。
──ただ、そんな2人の歯車はやはり徐々に噛み合わなくなっている。お互いが今に対する疑問を抱いていないことは、さらにそれを加速させていた。
いつもの如く、学生寮の自室で数学に没頭する彼は、外界の事情など気に留めずにいた。当然、脳が理論で満ち満ちている際は、恋人ですら排除される。
彼自身、まったく彼女について考えていないわけではない。普段はキャンパスが異なるため会うことは殆どないが、平日の夜などは食事を共にすることもある。しかし、一般的な目から見れば、あまりにも配慮の差が大きすぎる。現在の彼なりに考えての行動なのだが、その程度なのかと言われても仕方ないだろう。
唐突に、ベルが部屋に響いた。思えば、大学に入ってからというもの、来客なんてなかったな──と一瞬頭に過ぎったが、留まることなくすぐに払われ、彼は玄関へ向かう。人が自分の住処に訪れる感覚も忘れてしまっていたからか、彼は恐る恐るドアスコープを覗き込んだ。
「鞠莉?」
扉の先にいたのは、自分の彼女だった。表情は伺えないが、独特の髪型と目も眩むような明るい金色で彼は彼女だと認識できた。通さない理由もないので、昨日から変えてない服を気にしつつ、ドアノブに手を掛けた。
「チャオー!!」
イタリア語の挨拶と勢いのある抱きつきにも、もう数年続いてることなので慣れが生じている。最初の頃こそ、豊満なバストが当たって心臓が高鳴ったものの、今はそれほど彼も緊張はしない。彼女はイギリス人ハーフであるのもあり、スキンシップが多い。
一度距離を取り、部屋に戻ったところで彼は片付けていない大量の紙に気がついた。彼はゴミを放置することはないが、数式の書いた紙は纏めずにいるので、床はフローリングが見えるところがほとんどない。片付けようとしたところで、背後にいた彼女が「ねぇ」と低い声で言うのが聞こえた。先程の挨拶とは違い、心に突き刺さる冷たさを含んだ声は、彼の動きを時間が止まったかのように静止させる。
「あなたって、本当に私のこと好きなの?」
歯車は、歪みを明確にし始めた。彼は、彼女から今まで言われることのなかった──いや、彼女が言うと思っていなかったことを発せられ、激しく動揺した。
──なぜ鞠莉はこんなことを問うのか?──
彼にはわからない。わかるはずもない。ただ、好きという感情に偽りはないことは確かだ。しかし、彼はここで普通に肯定したら拙い気がした。ただ、なぜそんなことを言うのかと問う方が地雷を踏むとも思えた。
振り向いた先は、目から光が消えた彼女が立ち尽くす。
「もちろんだ」
彼は言った。
仮定は誤りではなかったようで、表情は曇りのままである。
彼女は何を求めていたのか──何も求めていなかったのかもしれない。
「マリーはそうは思わないよ」
吐き捨てるように彼女は言った。彼はここで、何かは明確にはわからないが、自分と彼女に食い違いがあるであろうことを確信した。何か彼女の気に障るようなことをしたのだろうか?彼には、見当もつかなかった。
彼が思い返しているのを遮ったのは、彼女の声であった。
「あなた、大学入ってから私に見向きしてくれないじゃない」
────え?
素っ頓狂な音。あまりにもそれは軽く、部屋中に、そして彼女の心にも響き渡る。
「『え?』って何?ねぇ、私ずっと我慢してたんだよ?仮にも私たちは恋人なのよ?あなたが休日1人で引き篭って勉強してる中でも、私はもっとデートに行ったり、キスしたりとか、恋人らしいことをしたかったよ?なんでそんなことも察せないの?──って思ったこともあったけど、数学バカだから仕方ないと思ってきたし、自分の中で頑張って抑えてた。でも限界」
彼女は、激昴するわけでも、号泣するわけでも、罵倒するわけでもなかった。彼女は憤怒しているとか、そういうわけではない。ただただ、自分の欲求を抑えきれなかった──それだけなのである。
気づけば、彼は天井──いや、彼女の顔を仰いでいた。
「────好き」
「鞠莉、ちょっとま──!?」
戸惑う彼の唇を、色欲に塗れた彼女が塞ぐ。強引に舌が彼の口内へと侵入し、それを介して唾液が互いを満たしていく。
彼女の心理的欲求は、彼を独り占めしているという独占感で解消され、肉体的欲求も同様であった。
だが────足りない。もっと、もっと、もっと彼が欲しい────彼の全てが私のモノでありたい。私のモノにしたい。私のモノでなければダメなんだ。歯止めの効かない欲望は、愛を沈めば簡単には這い上がれない沼へと沈めていく────
「ねぇ──私ってそんなに魅力的じゃないかなぁ?」
「い、いや、そんなことはないぞ!だからこういうことはやめにし」
「魅力的なら、私とセックスしたいって思うわよね?」
「鞠莉、さっきから何を言って──」
「数学よりも欲しいモノ、あるわよね?それとも、マリーじゃ不足?」
有無を言わせぬ態度で彼に寄り添う彼女は、耳元で囁いた。
「────奪ってあげる」
病は、止まることを知らない。
後書き
どうも、知ってる人は知ってるチーズさんです。この度は、『溺:ジャスミンを添えて【序】』をご覧頂き、誠にありがとうございます。ジャスミンには官能的という意味がありまして。それっぽく書ければなと思いました。あ、なぜジャスミンなのかと言いますと、鞠莉の莉には、ジャスミンの花の意があるからなんですね。俺もあのおっぱ〇に包まれたい。
難しいテーマでしたが、ほかの方々はより良い作品にまとめていらっしゃると思いますので、今後とも企画を宜しくお願いします。
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