歌集「春雪花」
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細雪
隠れし月の
幽かなる
光り纏いて
舞いたるを
見なば朝に
侘び濡れし
想いそ憂きて
君なくば
春とならざる
わが道に
溶けぬ白雪
積りなば
行くも戻るも
跡もなく
佇みまどい
くずおれて
仰ぎて淡き
月影に
恋しと君の
名を呼べど
届かぬ声は
雪となり
落ちてやいづれ
消え去るを
虚しく眺む
冬景色かな
外へ出てみれば…細かな雪が降り頻る中に、薄ぼんやりと月が浮かんでいた…。
その微かな月明かりを纏って舞い落ちる雪…。
そんな幻想的な風景を明け方に一人で見ていると、どうしても彼が恋しく…会いたくなってしまう…。
心は儘ならず…彼のいない未来ばかりを映している…。
私には…春なぞ来ないと解っているが、淋しさは雪のように想いに積り…忘れることも、かと言って彼へ告げることも出来ず…彼を知らないあの頃へ戻れたら、いっそ楽だろうと思うのだ…。
空には雪の中に淡い月明かりが零れ…その光へと彼の名前を口にした。
それはどこへ届くこともなく、雪となって地へと落ちるだけ…。
春になれば消え去る雪…私が口にした想いさえ、きっと彼には届くことなく消えてゆく…。
そんな虚しさを抱えて眺める冬の景色は…ただただ…悲しく淋しいだけだ…。
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