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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第25話 武神は魔術を知る

 藤村組にてフランクが到着した昼頃。
 食堂で昼食を食べ終えたモロは、友人のスグルと喋りながら教室に戻っていた。

 「昨夜のアニメを見逃しただと!?」
 「うん。昨日はどうにも眠たくてすぐ寝たんだけど・・・・・・もしかして神ってたの?」
 「いや、その逆だ。運が良いなモロ。あんな作画崩壊ってレベルのモノを見てたら俺達の裏切り確実故、憤激に駆られたくなるものだったぞ・・・!」
 「そ、そんなに・・・?」
 「ああ、今期は外れが多いなぁ・・・」

 それを気配を消して窃視している百代とシーマがいた。

 「元気そうで良かったではないか?」
 「ああ・・・」

 言葉とは裏腹に複雑そうな目でモロを見る百代。

 「納得いかないのか?」
 「いや・・・・・・そう、なのかもしれないな」
 「この様な言の葉を使いたくはないが、仕方ない。処置を施さなければ彼の人生は大きく変貌していた。そもそも、陽の下で生きる者達が我らの世界を知る必要はないのだから」
 「それは――――私も含めての言葉か?」

 今日の放課後に説明を約束されている自分にとっての含みを感じた。
 恐らく嫌味では無いだろうが。

 「否定はしない。シロウは腹を括ったからこそ約束をしたのだろうが、本心は今でも話したくないに違いない」
 「む!」
 「勘違いしてもらっては困るが、裏の世界にはあの少女を裏から人形のように動かしていた外道など珍しくない。そんな人種に関わらせたくないからこその葛藤だと察して欲しいな」
 「――――なら、尚更私は知るべきだろう?」
 「何?!」

 百代の思わぬ言葉に耳を疑うシーマ。

 「そう言う外道がお前の言う陽の下で生きる人間を襲わない保証があるのか?」
 「それは・・・・・・」
 「だったら事前に知る事で、備えられるか否かが命運を分ける重要な要因になるんじゃないか?だったら私は尚更知るべきだ」

 約束の事情説明を反故にさせないように、自分に知る権利がある正論を主張した。
 しかし矢張り巻き込みたくないと言う想いが強いシーマが反論する。

 「そうさせない為に余も士郎らも戦っているのだぞ?」
 「お前たちの実力は疑う余地は無いが、人手足りてないんじゃないか?」
 「む!何を言」
 「それにこれは私の勘だが、何かしらの原因で本気が出せてないんじゃないか?」
 「何ィ!?何故それを・・・!」
 「やっぱりか。何か体の動かし方と言い、もどかしそうにしてたから、何かおかしいと睨んでいたが――――全力が出せない状態のお前を本気で頼りにしていいのか疑問が湧いて来るな?」
 「ぐぬぬぬ!」

 百代の言葉に悔しそうに歯噛みするシーマ。
 その態度に満足したのか、百代は笑顔で聞く――――いや、主張する。

 「言い返せないなら、私に事情を聴く権利は出来たよな?」

 しかしシーマは一通り悔しがったあと、冷静になって疑問を呈する。

 「本音は?どうせ、シロウに守られているだけなのが気にくわないとかじゃないのか?」
 「何故それを!?」
 「お主の思考を読んだまでだったが、矢張りか」
 「だ、大事な事だろ!」
 「見た目は間違いなく美少女と言う奴なのに、中身がこれでは色々残念だな」
 「なんだと!」

 ぎゃあぎゃあと言い合う2人は、いつの間にか周囲への気遣いなど忘れて白熱している。
 おかげで気配を消していたのも無意味になり、通り過ぎる生徒達に存在を認識されていた。

 「―――――兎に角!私は絶対に聞きに行くからな!」
 「分かった、分かった。余はもう何も言わぬ。あー、それと、放課後と告げたが来る必要はないぞ?寧ろすぐに来ても対応できぬ。時間帯は夜の八時頃だと言っておったな。そうでないとメンツが集まらぬとも」
 「その時間外に内緒で集まって約束を反故にしたら、許さないからな!」

 予鈴が鳴るのと同時に去って行く百代。
 それを見送るシーマは溜息をつく。

 「シロウも厄介なのに懐かれたものだな」

 そう言って自分の教室の戻って行った。


 -Interlude-


 夕方(放課後)
 何時もの様にスカサハのスパルタ鍛錬を受けに来ていた一子が、生まれたての小鹿の様に足をガクガクと振るわせていた。

 「良し、今日はこれ位でよかろう」
 「あ、ありがとうございました(りゃ、りゃりりゅれぇぉおろふぁいふぁふぃはぁ)・・・・・・」

 そこで漸く崩れるように倒れ込む一子。
 あまりの鍛錬ぶりに、今日も何時もの様に気を失っている。

 「ヤレヤレこの程度で気絶とは・・・・・・まあ最初の頃に比べればマシにはなっておるか」
 「クゥン」

 口では辛口評価ではあるが、気絶した一子を持ち上げて優しく抱き上げるスカサハ。
 そこへ藤村組の若衆が、これまた何時も通りにやって来る。

 「こやつを頼むぞ」
 「はい、お任せを」

 気絶した一子を川神院に送り届けるのが彼らの役目だ。

 「ああ、そう言えば聞いておるか?九鬼を呼び出す日程が決まった事を」
 「はい。何でも来月の上旬に呼び出すと・・・五日辺りだとも聞いております」
 「一子殿を送り届けるついでに、言いつけてやる予定です」
 「そうか」

 聞いているならばいいと、縁側に戻る彼女は憂鬱そうに溜息をつく。

 「後もうすぐで時間か・・・。面倒な」

 百代への説明への時間に対して、億劫な態度で夕焼け空を見上げるのだった。


 -Interlude-


 時刻は夜の八時を回るところに、百代は衛宮邸の近くまで来ていた。
 ただし、途中から鉄心と共に。

 「なんでさっきから付いて来るんだ」
 「進行方向が同じ何じゃから、仕方あるまい」
 「雷画さんに用でもあるのか?」
 「さて、あ奴が出席するかは知らぬよ」
 「?」

 鉄心のよく解らない回答に首を傾げる百代。
 そうこうしている内に衛宮邸の前に揃って到着してしまった。

 「おい、爺ぃ。藤村組は隣だぞ?」
 「分かっておるわい。そこまでボケちゃおらん」
 「だったら」
 「お待ちしていました御二方」

 百代の疑問が解消される前に衛宮邸の門から姿を出したのは、藤村組の剣術におけるマスタークラスの石蕗和成であった。

 「石蕗さん!?何で貴方が・・・」
 「私も関係者(・・・)だからです。百代お嬢さん」
 「なっ・・・」
 「お主が迎えると言う事は・・・?」
 「はい。御二方が最後です」

 百代の軽い驚きに構いもせず、2人は話を進めて行く。

 「そうか。ところで・・・・・・」
 「組長でしたら出席されていませんので、御懸念されている事には成らないかと」
 「う、うむ、ならば急ぐとしようかのぉ」

 石蕗和成に促されて衛宮邸の中へ入っていく鉄心。
 それをポカンと見ていた百代も慌ててついて行く。
 そうして中に入り衛宮邸で一番広い部屋である居間に付いた時、予想外の顔ぶれが3人もいて驚く。

 「何でいるんだ、お前達」

 3人とは冬馬達の事だ。

 「それはこっちのセリフすっよ」
 「そうだそうだ!ボク達はシロ兄の家族なんだよ!最近朝だけ一緒に過ごすようになったモモ先輩とは、年季が違うんだから!」

 いきなり我が物顔でテリトリーに侵入してきたよそ者を追い払うかのように、小雪は百代に反感を見せる。
 百代としてはそんな気は無かった。それに似た反応を見せる仲間を1人抱えている為、どうしても理解も出来てしまう為に気を悪くしたりせずに、3人の中のリーダー格に説明を求める視線を当てる。

 「私達は本日の夜に重要な話がある。強制では無いが参加するか?と、アルバさんから昼間の内に連絡を受けていたんですよ」

 小雪とは真逆に笑顔で百代の求める回答をする冬馬。
 但し表面上ではあるが。
 だが百代が気になったのは冬馬の本心では無く、彼を呼び出した者の名前だ。

 「アルバ?誰だそれ?」

 早朝だけとはいえ共に過ごすようになった百代からすれば、初めて聞く名前だからだ。
 だがその疑問に答えたのは冬馬では無く、当人だった。

 「私だ、娘」
 「は?」

 廊下から居間に入って来たスカサハを見て固まる百代。
 女性の美しさとして完成された圧倒的美貌に、面を喰らって固まった――――のだが。

 「って!あの時土手から消えた超絶美人じゃないかっ!?」
 「うむ、覚えておったか。ならば話も早い。久しいな娘よ」
 「あっ、はい。どうも・・・・・・・・・じゃなくて!私は一度もこの人を衛宮邸(此処)で見なかったぞ!」
 「当然だな。意図して遭遇を避けたのじゃから」
 「その理由を聞いても・・・?」

 目の前に居る絶世の美女から避けられる理由に思い当たる節が無い百代は、聞かずにはいられなかった。

 「面倒な上に気安いと思ってな」
 「私の何所がっ!」
 「初対面の時、いきなり抱き着こうとした分際で何を言う」
 「うぐっ!?」

 スカサハの言葉にぐうの音も出せなくなる百代だった。
 しかしそこである事に気付く。

 「ん?ホントは今までずっと衛宮邸(此処)に居たと言う事は、一つ屋根の下で暮らしてたって事?」
 「ん?・・・・・・・・・それはそうだろう」
 「ッ!?」
 「如何したんですか師匠?」

 百代の疑問に際して、悪戯心が湧き上がったスカサハは士郎の腕に自分の腕を絡めるようにして抱き寄った。
 士郎と言えば今まで何度も揶揄われる度に受けている事なので、今さら動揺も無く平然としている。
 それを見せつけられた百代は殺気を送る。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 「な、何で睨むんだよ百代」
 「べっ、つに・・・!」

 但し士郎に。
 百代と言えば、士郎を汚物の様に見ながら吐き捨てた。
 そんな2人に満足したスカサハは、上機嫌に士郎から離れる。

 「さて、無駄話もこの辺にして、まず百代()よ。この場でお主しか知らない事からまず話そうか」
 「私しか知らない事?それは爺もそこの3人も知ってる事なの・・・・・・ですか?と言うか士郎が説明するんじゃないのか?」
 「俺から説明しても構わないんだが――――師匠の方が比べものにならない位熟知しているから頼む事にしたんだ」
 「そう言う事だ。さて、納得したかはさて置き、今度こそ説明しよう。今回お主が経験した裏世界の事情は“魔術”が関わっておるのだ」
 「・・・・・・・・・・・・」

 百代はスカサハの言葉に一瞬キョトンとする。
 だがすぐに復活する。

 「魔術って、ファンタジーや漫画やゲームに出て来るアレ?」
 「基本的な概念(コンセプト)は異なるが、ほぼ同じとみていいだろう。違いの説明など面倒なので、話が速くて助かるな」
 「説明役をシロ兄から奪い取ったのに!?」

 躊躇なく突っ込む小雪だがスカサハはそれを黙殺する。

 「それにしても予想通り直に復帰したな。流石は川神院と言う事か?」
 「それは嫌味かのぉ?」
 「受け取り手次第だろう」
 「ぬぅ」
 「私を置いて話を進めるな!それよか爺は如何して魔術何かのこと知ってるんだ?」

 ある意味自分が主役なので注目を自分に再び集める為に、敢えて一番最初に聞きたかったことを口にした。

 「理由なら簡単じゃ。我ら川神一族も昔は魔術師の家系じゃったんじゃよ?もっと言えば日本各地の名だたる寺院を治める一族全て魔術師の家系じゃったからな」
 「知名度のある全国の寺院、全部だと!?・・・いや、待て!今、だったと言わなかったか?」
 「ほぉ?そこに気付くとはなかなか鋭い・・・・・・。いや、そうでもないか」
 「どっちだっていい!それで過去形と言う事は川神院(うち)ほかの寺院(他所)も魔術を止めたのか?」

 これ以上話を逸らされたくないので、自分への不名誉な評価を我慢して促す。

 「止めたのではなく使えなくなっただけだ。魔術を使うには魔力を生成する魔術回路が必要であり、それが有るか無いかで使用できるかどうかも決まる。だがその魔術回路――――お主の知っている知識で言うなら魔力発生器官が体内で死滅すれば、当然一切の魔術を行使不能となる」

 故意に話を逸らしたワケじゃないが、あくまで説明を進めろと言うならそれに応じる。
 そして今はその説明を鉄心が引き継ぐ。

 「だが川神院や他の寺院も代わりに多くの気を得るに至ったのじゃ。勿論川神院が他の追随を許さぬほどの莫大な気を得たのは言うまでも無い事じゃがな」
 「じゃあ、この世から魔術師はいなくなったのか?」
 「いや、魔術師の数は寧ろ日本の方が少ないくらいでのぉ。減少傾向にはあるが居るにはいるらしいぞい。日本も含めた世界中にのぉ」
 「それに私は勿論、士郎も魔術師だと言う事を忘れてはおらぬか?」
 「忘れてるも何も聞いてない・・・ですよ!」
 「今話しているのだから、それ位察せるだろうに・・・・・・矢張りお主の孫は何処かぬけておるな」
 「余計なお世話です!」
 「一言余計じゃい!」

 祖父孫揃って目の前の机を壊さない加減で思い切りたたきかつ、近所迷惑にならない程度で怒鳴ると言う、地味に器用な芸当を披露する。
 それにより少し留飲を押さえられたのか、自制させながら士郎に聞く。

 「それじゃあ、士郎は本当に魔術師なんだな?」
 「ああ。とは言っても俺は投影と言う魔術以外、基本的な魔術のほとんどが三流以下のそれ何だよ」

 投影と言う魔術が何なのか分からない百代だったが、昨夜の戦闘時に大量の剣などを何所からともなく出現させていた事、それに投影と言う意味を思い出して連動させると――――。

 「士郎は投影とやらで剣をの偽物を作り出せるって事か?」
 「・・・・・・すごいな。昨日の俺の戦い方と投影と言うキーワードだけでその解にまで至るなんて」
 「合ってたのか!?凄いな私」
 「ああ、本当にすごい。単に勉強嫌いなだけでやっぱり頭良いんだな百代は」
 「喧しい!」

 またも余計な事を言われて、先と同じように以下同文。
 日頃の行い故、仕方ないが。
 その百代を見てスカサハが説明を再開させる。

 「さて、此処までがお前だけが知らない事だったが、次は冬馬達も知らせなかった事――――即ち、そこの二人について教えよう」
 「ふむ。如何やら余たちの正体を遂に教える時が来たのか!」
 「シーマ・・・・・・お主何時の間にその様な無駄な知識を身に着けた?ハッキリ言って似合って無いぞ」
 「むむ!」

 また話が逸れそうな感じに溜息をつくスカサハ。
 話を長引かせないために引き受けた説明役だと言うのにと、心の中で独り言ちる。
 それに気づいた士郎が話を引き継ぐ。

 「シーマには悪いが夜も遅いし話を進めるぞ?」
 「御二人の正体ですか」
 「その前に四人は“英霊”と言う言葉を聞いた事があるか?」

 士郎に問いかけられた四人は自分たちの記憶の中に在るその知識が有るか思い出そうとする。
 その中で誰よりも早く思い出せたのが当然の様に冬馬である。

 「名だたる武人や軍人への死後に敬った上でのの総称ですか?」
 「一瞬で思い出せるなんて、流石は冬馬だな。兄貴分として嬉しいが称え続けるとまた話が止まるので悪いが続けるな?」
 「はい」
 「冬馬の言った通り、意味だけで言えばそれだが、魔術世界ではそれだけでは終わらない。魔術世界では古くから信仰の対象とされた彼らは死後、祭り上げられた上で“英霊の座”に行きつくんだ。そこは英霊達と言う存在の管理倉庫みたいなものでな。特殊な術式を使うと召喚する事も可能なんだが――――偽りなく言うと二人ともその“英霊”なんだよ」
 「「「「うんうん・・・・・・ん?―――――えぇえええ!!?」」」」
 「まあ、驚くよな?」

 士郎の説明による四人の反応に、実に楽しそうな笑顔で見守る当事者二人。

 「トーマスさんとシーマが英霊なのーーーー!?」
 「信じられませんが嘘や悪い冗談では無いようですね」
 「ああ」
 「じゃあ、二人は一体・・・・・・もしかしてなんですが、トーマスさんって発明王だったりします?」

 準はロリコンなので、比較的四人の中で衝撃が一番低くて冷静に考えられることが出来た。
 それ故に今までの日常を思い出した上での勘に近い推理を口にした。
 その言葉に対してエジソンは――――。

 「素晴らしいッッ!!!まさか一発で私を言い当てるとは、以前から思っていたが準は中々目聡いな!」
 「ど、どもっす・・・」
 (まさか本当に当たるとは・・・・・・)

 エジソンの絶賛の圧力に、ヒキながら愛想笑いを浮かべる準。
 それを驚きながら見る残りの三人だが、復帰した百代がエジソンを問いただすように詰め寄った。

 「ちょっと待ってください!昨夜の時姿格好が色々アレだったんですが、生前そんな趣味があったんですか・・・?」
 「いや、違うのだよ。士郎に召喚された時は既にあの格好でね。だから私を変態扱いするような目で見るのは止してもらいたい!」
 「わ、わかりましたけど、あの時と違って全然外見が違いません?」
 「あの格好で街を出歩けば、エジソンが職質を受けて任意か否かはさておき同行を求められるのは確実だ。故に偽装の魔術を掛けておるのだ」
 「なるほどなー」

 百代の誤解を解いている最中、立ち会っていた石蕗和成が三人に説明している。
 その中で聞き終えた小雪が一言目に発したのが――――。

 「じゃあ、あのトーマスさんは本当に発明王エジソン何だよね!?」
 「うむ!」
 「あの二コ」
 「バッドステイト!」

 エジソンが小雪の言おうとした言葉を大声と大きな手で遮った。

 「あの“すっとんきょう”の名前を私の前で口にしないで貰いたい!断じて、断じてだ!!」

 特にこだわる理由も無いので、小雪はエジソンの言葉に素直に従う意思表示として首を何度か降った。

 「分かって貰えて何よりだ。そしてすまないな、口を塞いでしまって」
 「ううん、いいよ!だってトマ・・・エジソンの嫌な事言おうとしたボクが悪いんだもん」
 「いやいや、それでも可憐な少女の口を塞ぐなど米国紳士として恥ずべき行為だ。だからこれからはお互いに気を付けると言う事で良いだろうか?」
 「うん!」
 「・・・・・・それでシーマ君はどの様な偉人なのですか?」

 2人の仲直り?ぶりを見届けた冬馬が、理由は不明だがやや興奮気味に話を促す。

 「舐めずりながらシーマを猛禽類のような目で狙うのやめなさい、若。後ずさりしてるでしょ?」
 「うぅ・・・」

 如何やらシーマを狙っていたので正体が気になっている様子だったらしく、準がストッパーで冬馬の抑えをする。
 だがシーマが後ずさりしたり俯いているのはそれだけが理由では無い。
 その理由は勿論――――。

 「実はシーマの真名が俺達は勿論、シーマ自身も解らないんだ」
 「「「「え゛」」」」
 「むぅ・・・」
 「エジソンの外見同様確かな理由は判明していないんだよ」

 士郎は事実のみを伝えたが、推測による見当が付いていないとも言わなかった。
 少なくともこの場でそれを説明する必要性に駆られなかったからだ。

 「じゃあ、私が学校で指摘した事は正解だった訳か」
 「・・・・・・不本意ながらナ」
 「でもシーマの主語って“余”だよね?」
 「と言う事は王か王族だったのですか?」
 「無意識で出た主語だったからな。恐らくそうなんだろう」
 「ほぉ・・・!」
 「だから若、狙うのは止しなさい」

 魔術について説明しているのも拘わらず和やかな空気の中まま進行していた。
 その時、百代が昨夜の件である事に気付く。

 「なあ、昨日戦った敵・・・」
 「ああ、角持ちの大男の事だろ?あいつもサーヴァントだ。だからこそ判るだろ?魔術が関わる戦闘の危険」
 「そうじゃなくて!アイツに私の攻撃が全く通じなかったんだが・・・。アレは何でだ?」
 「あー、アレか?サーヴァントにダメージを与えるには同類であるサーヴァントか、最低でも魔術を使えないと駄目だな」
 「なっ!?それじゃあ、私はこれからもお前達に守られているしかないって言うのか!」
 「いや、そうとも限らん」
 「え?」

 戦力外通知を受けたにも等しい事実にショックを受ける百代だが、スカサハの言葉で俯かせた顔を上げる。

 「いいな、士郎。川神鉄心」
 「此処まで暴露したんです。もう引き返せないでしょう」
 「本当は良くないんじゃが・・・・・・仕方あるまい」
 「何の話です?」
 「以前まではお前の中に無かった事実の件だ」
 「私の中?」
 「話を長引かせるのも面倒だからなハッキリ言うぞ?死滅した筈の川神一族の魔術回路がお前の中で復活している」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 スカサハの言葉に最初キョトンとした後、右を向いたり顔を下げたりと色々な方向へ顔を向きながら考える仕草をしてから――――。

 「ホントにッッ!!?」
 「長引かせたくないと告げたろう?ある時期を境に復活したと思われるな」
 「ある時、期・・・?」
 「お前が」
 「説明無用だ鉄心。今、あの夜の記憶操作を解いた」

 百代に説明しようとした鉄心を言葉だけで制する。
 当の本人は、頭の中でいきなり自分の記憶の一部分が氷解した事に頭を押さえながら呆然とする。

 「・・・・・・あ?ああ・・・・・・・・・」

 目からでも無く耳からでも無く口からでもない、内側からの多くの情報を脳へダイレクトに受け取った百代の頭の中は、常人なら混乱必死だったが百代はそうはならなかった。
 いや、これが勉強などの計算式や偉人や年表なら百代も混乱必死の例に漏れなかったが、こと戦闘であれば幾等でも冷静に受け止めることが出来ると言うモノ。
 そうして全ての記憶を冷静に受け止め終えると――――。

 「私はあの日、昨夜とは別の角持ちの大男に斬られたところで記憶が無いな」
 「その時だ。誰もその時を境にお前の中で魔術回路が目覚めたなんて思いもしなかったがな」
 「それだけが原因ではあるまい?」
 「他にも?」

 意味ありげなスカサハの笑顔に百代は首を傾かせるだけしたが、それだけで済ませられないのは当然士郎だ。

 「師しょ」
 「昨夜と同じようのパスを通したのがトドメだろうさ」
 「昨夜と同・・・・・・!!!??」

 容赦なく言い放たれた言葉に、百代は士郎と口付けした事を思い出した瞬間、一気に顔を真っ赤に染め上げた。

 「断っておくが、あの時士郎がパスを通さねばお前は死んでいた。それ故、責めるのは筋違いぞ?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 今だ頬から朱色が解けない百代を見る。
 本来であればガイアの抑止力にも狙われていることを話そうとも思ったが、星の意思から危険視されていると知れば、今後百代がどの様に振る舞うかの予想を士郎と鉄心の3人で話し合った上で伏せておくことに決めたのだ。

 「兎も角、お前にも魔術回路が備わっているが、如何する川神百代?運用方法を知りたいと言うのなら教えてやるぞ?士郎がな」
 「俺ですか!?」
 「原因はこの娘自身の迂闊さとは言え、きっかけはお前がパスを繋げたからだろう?ならば最後まで責任(・・)を取れ」
 「分かりましたよ・・・・・・・・・ん?なんでニヤついてるんですか?」
 「・・・・・・・・・はぁ、いや、お前に期待した私がバカだったというだけだから、気にするな」

 なんなんだと言う士郎のつぶやきを黙殺するスカサハだが、その裏で士郎×百代のカップリング?に露骨に焼きもちを焼く小雪と表面上は兎も角腸はどのような感情が渦巻いているか分らない冬馬のことを見逃していた。
 まあ、対極に何の影響も出さないであろう余談なのだが。

 「さて、話もこれで終わりだから全員送るよ」
 「若、鉄心殿と百代殿は私がお送りします」
 「頼みます」

 そうして帰り支度をしているところでスカサハが思い出したように手を打つ。

 「まだ一つ言い忘れていたことがあったな」
 「何です?」
 「私の本名はアルバではなく、ケルトにて影の国を治めてきた不死の神殺しスカサハだ」
 「「「「え?」」」」
 「と言う事でこれからは好きに呼べ」
 「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 「「「「えぇぇぇぇええええええええええ~~~~~~~!!?」」」」

 最後の最後に、さらっと爆弾付きの投擲槍を放り投げるのだった。


 -Interlude-


 翌日の夕方、藤村組主導で天谷ヒカルと父親の天谷猛の葬儀が執り行われた。
 天谷猛は娘のヒカルの後を追うように、過労死で同日に亡くなったという。
 余談だが、ヒカル達を虐めていた子供たちとその家は逮捕にはならないものの、厳しい社会的制裁を与えられて、二度と栄光の日のもとに出ることはない人生を歩ませることになったという。
 自業自得の彼らとは違い、親子三人仲良く同じ墓に入った天谷家の墓石には、初夏の光が当たっていた。 
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