Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
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第五六話 つけるべきけじめ
「如何でしょう?彼らの再教育、あの方に任せてみては。」
「―――確かに、日本の戦術機に通じていない俺が再教育プログラムを組んでも適切である可能性は低い。……良いだろう、その申し出をありがたく受けるとしよう。」
アルゴス小隊の指揮であるトルコ陸軍イブラヒム。
彼に忠亮からの申し出を伝えると彼はその内容に一考し、やがて同意する。
「ではtype94-cの建造はそのままに習熟訓練の日程の変更を後ほど衛士に通達しておきます。」
XFJ計画専属オペレーターの一人が引き継ぐ。それに頷くイブラヒム。
「頼む。―――しかし、驚きの連続だな。斯衛の介入に、それがまさか中尉の婚約者とは。」
「私も驚きました……あの方がここにいるとは思いもよりませんでしたから。」
複雑な表情を見せる唯依、なんというかずっと逢いたかったのに驚きのほうが大きくて聊か以上に微妙な心境だった。
「……それにしても、あの機体の挙動。……妙だったな。」
首を捻るイブラヒム。―――それは唯依も感じていた内容だった。
あの忠亮の機体。技量のある衛士では不可能ではないだろうが――――まるで練達の兵士が行うような生身のそれに近い挙動が幾度となく見られた。
清十郎が駆っていた赤の瑞鶴も何度か回避不可能と思われる場面での攻撃を回避している光景が見られたが―――そちらの方はおおよその推察はつく。
本土で忠亮と研究していた新OSの試作機能の一つだ。
「…………」
「ああ、すまない。そんなことを言われても反応に困るな。」
「いえ…確かに、私にも気になる点があったもので……」
イブラヒムに首を横に振る唯依。
おそらく、忠亮の機体のほうは彼が受けた手術に起因する特異性だろう……しかし、このシステムにはその施術のためのリスクを差し置いても――――何か、重大な落とし穴があるような気がしてならない。
(……なんだ、この見えているのに気づけない。気持ち悪い違和感は)
根拠なんてない、ただの直感だ。しかし、どうにも引っかかる。
―――しかし、目下の問題は別にある。
「しかし、それよりも‥‥ブリッジスが素直に従うのか、それが心配です。」
「む、確かにそうだな―――正直、難しい問題だ。」
「ええ、本当に……私としては、無礼の一つ二つで我を忘れる人ではないのですが――――ブリッジスがどこまでついていけるのか、という事のほうが心配です。」
階級が上の唯依に対してもあの態度。それが外交的にどんな悪影響を及ぼすか、そしてそれがXFJ計画に齎す影響に頭を悩ますイブラヒム。
それは忠亮の人柄や出自を知らぬが故と知っているため、杞憂ではあるとは思うが――それよりもユウヤがどんな反応を示すのかが未知数過ぎることが心配なのだ。
……いや、むしろユウヤの無礼な態度が逆に忠亮に火をつける可能性もある。
水と油か、火と油か……どっちに転んでもすんなりとは行かない。
「……正直、早まったかもしれない。」
「どちらも良い大人なのですから、信じましょう。」
両者、一抹の不安を抱えたまま項垂れるのだった。――他の選択肢も脳内に列挙するが、何れも何らかの問題を含み、確実にXFJ計画が良き方向に動くという確信を持てない。
その中では最も無難なのがこの選択だ。
(……あれ、確か忠亮さんとブリッジスって同じ歳だったはず。)
嫌な予感がまた一つ増えた。だが、ここは忠亮を信じて任せるしか無いだろうと結論付ける。
すると“コンコン”―――と間を割って乾いた扉をたたく音が響く。
「どうぞ」
「失礼する。」
イブラヒムの応答に矢次にドアが開かれ、見知った青い軍服を纏う忠亮が甲斐を伴い入室してきた。
「斑鳩大尉……!」
「そんな驚かれては聊か傷つくぞ。」
予想外の人物の登場に目を見開く唯依に苦笑する忠亮。
「さて、貴方がイブラヒム・ドゥール中尉か……許嫁と我が国の未来、貴方のような歴戦の勇士であれば憂いが一つと消えるというものだ。よろしく頼む。」
「こちらこそ……む」
そういって人工皮膚に覆われた機械仕掛けの右腕を差し出す。その手を取るイブラヒム―――即座にその違和感に気づく。
「ああ、義手でな。こういう時に一々面倒だ。」
「……なるほど。」
何がなるほどなのか、勝手に得心が行ったイブラヒム―――だが、忠亮にはこの男に一言いいたいことが在った。
「時に、ドゥール中尉。貴官がロードスで部下の命と引き換えにした人間がどうしているか――――聞いておきたくはないか。」
「何……?」
忠亮の言葉にイブラヒムの表情に緊張が走る――――。
「彼らは道を違えた、決して踏み入れてはならぬ外道へと落ちた―――部下の死に責を持つのが上官の務めならば、その結果に対し引導を渡すこともまた責務の内になるのではないだろうか。」
真剣、まさに抜身の刀のような視線でイブラヒムを射抜く忠亮。
「かつて、己もあなたと同じ選択をした―――切り捨てるべき命を救うために部下を死に追いやった。
その時、救った命がその死を無下にするのなら――己はこの手で引導を渡す、必ずだ。」
――まるで業火を纏った刀剣のような人間だ。イブラヒムはそんな感想を抱く。
彼は生と死を尊重している、それは一つしかない命を燃焼させて疾走したが故の煌めきで掛け替えのないものだからだ。
だから、それを無にする存在を決して許さない。何があっても許さない、必ず斬刑に処す。
「難民解放戦線(RFF)とキリスト恭順派………貴方が救った人間はそれらに所属している。そして、貴方が奴らと見える日は――――そう、遠くはないぞ。」
「……私の選択は、間違いだったのか。」
恐れていた答えを躊躇なく明かす忠亮。
血を絞るように言うイブラヒム、BETAと必死に戦い守った人間があろうことか人類に弓引く存在となり果てた―――それは結果として自らの選択が過ちだったということだ。
しかし、それに対して忠亮は肯否どちらもつかぬことを言う。
「それは知らん、全員が全員それに所属しているわけでもない。また亡国の民が苦境に立たされ、汚職が蔓延し無用な悲劇が多数生まれているのもまた事実……貴方だけに責があるわけではない。
だが……けじめはつけなくてはならんだろう。部下に死を命じたものとして、その死を無下にする行いは決して許してはならないと己は考えている。」
事の是非は善悪の両面を持つ。故、いくら論じても水掛け論にしかならない。
ならば、筋を通すだけ……神様にしかわからないような判断を下す必要なんぞない。
「けじめ・‥‥か」
「貴方がけじめをつけるというのならば、然るべき時―――己は力を貸そう。」
「忠亮さん!?」
忠亮の言葉に唯依が驚愕する。だが、それを超える内容が忠亮の口からもたらされた。
「先ほども言ったが、そう遠くはない未来に――――奴らは大規模なテロを起こす。実際は欧州連合の諜報部に踊らされてるだけの鉄砲玉だがな。」
「なんだと……!!」
「舞台は此処だ。」
床を指で指し示す忠亮、驚きが戦慄に変わった瞬間だ。
「―――だから、あいつらが使い物にならん状態では困るのだ。」
「なるほど‥‥そういう事か。」
テロによる被害を最小限に抑えるには当事者の戦闘技量が高い方がいい。また、それによって自身の婚約者である唯依の危険もある程度緩和することが出来る、
―――そのために、ユウヤたちの訓練を口にしたのだと得心が行く。
「己としては貴方の存在は奴らの存在意義さえも打ち砕く強力な武器になると踏んでいる。―――あなたの決断は十二分、己の利益になる。」
ロードスの英雄は四劫を幾度も超えてきた男に運命との対峙を言い渡されたのだった。
後書き
ふと思いついたオリジナル戦術機
F-4JE 晴嵐
老朽化・旧式化するF-4Jを再利用する目的で、支援戦術機……準攻撃機としてコンセプト転換による改修が行われた機体である。
残存F-4Jのうち、比較的状態の良い個体が改修対象となり両腕に36mm突撃砲2問内蔵したシールドを装備する。
更に両肩は高精度大型ミサイルを片側二発の計4発を装備する。
このミサイルは従来では74式大型トラックを用いて使用されていたミサイルのマイナーチェンジモデルであり要塞級・重光線級を一撃で破壊する大威力を秘めており、大まかな誘導は戦術機搭載レーダーからの誘導ではあるが目視距離になると赤外線センサーによる自律誘導を行い高精度な命中を行う。
ソフトウェア変更で対艦ミサイルとしても使用可能なため沿岸警備にも向いている。
更に、搭載レーダーを大幅に強化しており多目的ミサイルコンテナユニットを追加レーダーユニットの搭載無で運用可能となっている。
火力はA-6に、戦車級掃討能力・防御力ではA-10に及ばないなど攻撃機に対し劣る部分は決して少なくはないものの、機動力や中距離攻撃力に於いては上回り何より母体が戦術機であるため汎用性により秀でているなど総合力では決して劣っていない機体である。
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