世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
■■■■■■■■■■ ~世界がどれだけ苦痛に満ちていても~
「奴」が笑う。
世界がゆがむ。
崩壊、接点を分解、再構築、繋ぎ合せて一つとせよ。
すでに消えかかっていた「奴」の体が徐々に戻っていき、最盛期のものへと回復していく。
「お前・・・・いったい何を!?」
「なぁに・・・ただ、一つに戻しただけだ」
「!?」
「奴」が笑う。
黒い「欠片」が次々と「奴」に集まっていき、その体を元に戻していっていた。
まるで襟の立った黒いコートを羽織っているかのような外見へと変わり、顔は陰で隠れているものの、その眼光は冷徹に燃え上がっている。
WORLD LINKがかき消された。
「世界をめぐって回って・・・・俺が何もしていなかったとでも思っていたのか?お前、とんだおめでただな」
「どういう・・・・ことだ!!!」
「奴」が笑う。
その「奴」に、蒔風が息も絶え絶えに聞き返した。
戦闘の負傷、WORLD LINKの発動による体力消耗。
蒔風はもはや戦闘を続行できるような、万全のコンディションではない。
「世界においてきていた俺の「欠片」。それを一つにまとめ上げただけだ」
「・・・・・・なん・・・・・・・」
「ま・・・・余計なもんも引っ張って来たみたいだけどな」
「奴」の「欠片」
それは「奴」から切り離された力の断片。
「奴」の力は元が「世界」だったと言うだけあって、その適応性は無類だ。
無機、有機にとどまらず、「記憶」などといった無実体のものまでと結合しての使用も可能である。
その「欠片」を、「奴」は今までめぐってきた世界すべてに一つずつばらまいてきた。
もちろん、そんなに強いものではない。
ただそこにあるだけのものであり、最小限の自己防衛はするものの、下手をすれば銃を持った人間だけでも消されてしまうような弱いものだ。
「まあ、一つの世界では見つかって消されちまったし、単発でしかいなかった世界にはおいてこれなかったけどな」
そうであっても、ほぼすべての世界には、「欠片」が残っていたことになる。
そして、「奴」はその「欠片」をすべて、自分の体に戻したのだ。
するとどうなるか。
当然、「欠片」は本体である「奴」に戻っていく。
だが、それだけにはとどまらない。
いかに「奴」の「欠片」も、「欠片」だけでは世界を超えることはできない。
それにもかかわらず、「奴」の元には今、「欠片」が集結しつつある。
つまり
「世界ごと・・・引っ張って来たってのか・・・・・!?」
「そのとぉり!!もはやこの世界は「the days」ではない!!!名もなき世界よ・・・・そんな世界で、どうする?蒔風!!!!」
そういって、「奴」の体が完全に再生した。
体力は万全、傷は完全修復、さらに言うなら、「欠片」を戻したことでパワーも上がっている。
その状態で、「奴」は笑う。
これで勝ったと。
その姿に、蒔風は肩で息をし、冷や汗を垂らした。
だが、それでもまだ勝機はある。
世界が新しくなったのなら、その世界でのWORLD LINKがあるはずだ。
さらに、世界を一つにしたと言うならば、仲間たちが来てくれるかもしれない。
その希望を胸に、まだ立ち上がろうとする蒔風に対し、「奴」がそれを見越して言った。
「WORLD LINKを発動させるか?その体力で?そもそも、この世界の最主要って、誰なんだ?そんなもんいるのかねェ?」
「!! くっそ・・・・そういうことか・・・」
「そう!!この世界は、正規に誕生したものではない。俺が強引に、無理やりにつなぎ合わせてできた世界だ。ゆえに、まだ不安定なんだよ。そんなところで、WORLD LINKが発動するわけがない!!」
「ッ・・・・だが、まだ!!」
「仲間か?ああ、あいつらもこの世界にいるだろうなぁ。一つにしたんだし。だけど、思い出してみろ。様々な世界で、お前が最初にこの世界で見たあの光景が起こってんだぜ?しかも今回は接合だ。モンスターのいない世界にモンスターが出たかもな。特定の力でないと倒せない敵が、別の場所に現れたかもな。いや、そうじゃなくったって、この衝撃での災害にてんてこ舞いだろうさ。こっちにくる余力などないさ!!」
「奴」が、笑う。
すべて、「奴」の言うとおりだ。
この世界は、たった今できたばかりと言ってもおかしくないのだ。
この状況では、WORLD LINKが発動できるわけがなかった。
さらに、仲間も来れない。
そもそも、この状況を理解している人がいるのだろうか?
蒔風はこの場にいる当事者だからわかっているものの、ほかの世界だったところではこの現状を理解することなどできないだろう。
だた、大変なことが起こっているという認識のみで、まさか他世界と結合してしまったなどとは露とも思わない。
多重世界である世界ならばどうにかできるのかもしれないが、その解析には時間がかかるだろうし、そのころには蒔風は倒されている。
それに、わかったところでここにはこれない。
各場所で、世界の無茶な接合による余波が起こっているのだから。
「奴」の言うとおり、敵が出てきたのかもしれないし、地面が割れたり、火焔が噴き出したりもしているかもしれない。
そんな状況をどうにか解決して、そしてここまで来て助けに入るなどといったことができる人間は、蒔風を含めて存在しない。出来ないのだ。
それがわかって、「奴」はここまでやってのけた。
切り札中の切り札。
世界を巻き込む、禁断のジョーカー。
それを「奴」が切ったのだ。
ぬかりなど、ありはしなかった。
「この・・・・」
「おぉっと・・・怖い怖い・・・・・・今のお前は、疲弊していて、俺は万全。万が一つにも負けはない。だが・・・・」
ボゴッ!!!!
「げっ、バッッ!?」
「それでも俺は、油断しねぇ。万全のお前を相手にしているつもりで、ブチのめす!!!」
「奴」の蹴りで宙に浮く蒔風の腹に、下からの拳をめり込ませ、身体がくの字になった蒔風の後頭部を振り降ろしのチョップで殴り、大地に落とす。
その一撃で、蒔風が地面に直撃、めり込んで、それでも軸になっている左足をガクガクと揺らしながらも立ち上がった。
その目はいまだ諦めてはいないものの、この現状をどう打破すればいいのか、本人ですらもわからない。
だが、そんな状態でも立ち上がった蒔風を見て、「奴」は確信した。
「やはりお前は、ここで潰す。万が一にも負けはないが、その確率を跳ね上げてくるのがお前ら翼人だからな。それに・・・・お前はどんな状況でも立ち上がってくる男だ。油断など、出来るはずもなかろう?」
「ッ・・・・・龍虎雀武ッ!!!」
上空の「奴」に向かって、蒔風が解放されていない龍虎雀武を円盤状に組み上げ、それを「奴」に向かって投げつける。
そしてその円盤は、「奴」に向かって行く途中で次々に分身し、何十枚もの円盤刃となって「奴」に向かって行った。
そのすべてが回りこんだり、潜り抜けたりして、「奴」へと向かって行っている。
だが、今の「奴」にその攻撃が効くわけもない。
バラした魔導八天のうち、四本を胸、四本を腰の位置に、自分を中心として浮かせる。
そしてそれがプロペラのように「奴」の身体を回り出し、その円盤刃をすべてはじいていった。
「奴」はそっと剣に手を添えるだけで、掴んでもいない。
舞うように動き、その分身を一つ残らず掻き消していく。
その動作、実に二十秒もかからず。
そして最後の一つを弾き落としてところで、蒔風が追撃を仕掛ける。
蒔風は地面から翼で羽ばたいて上空の「奴」へと向かった。
そして地面に向かって落とされた円盤刃をすれ違いざまに左手で掴み、「奴」に斬りかかった後にそのまま一回転して右手の武器で攻撃した。
それをスウェーでかわした「奴」だったが、ボッ!!という音と共に、その襟が削ぎ消されていた。
「ほう・・・・やはりまだ動けるか、蒔風」
蒔風から距離を取って、「奴」がそれを見て笑う。
蒔風の右手には天地陰陽を組み合わせた「風斬車」が握られていた。
左手には、円盤刃。右手には風斬車。
その両方を腕を振っての遠心力で、高速回転させて蒔風は構えている。
それに触れれば、おそらく「奴」でもその部分が刃に削られて消えることだろう。
しかし、それを見ても「奴」は油断もしなかったし、焦りもしなかった。
「行くぞ」
ただ、そう一言言った後に魔導八天を構えて蒔風へと飛んで行く。
魔導八天すべての重量の乗った重撃に、蒔風は右手の風斬車で応戦。
その刃を少し角度を加えて魔導八天にぶつける事で、ガチッとかみ合わせてその動きを奪い、左の円盤刃で首をかっ切ろうとする。
だが、風斬車はうまく噛み合ったものの、その重量に右腕ごと引っ張られて右肩がガクンと落ち、それでも円盤刃で斬りかかろうとしたが、こちらは上から蒔風の手首を掴まれて防がれてしまった。
「アがっ・・・・」
「ふンッ!!!」
「奴」がその掴んだ蒔風を地面に投げつけ、叩きつける。
蒔風の身体はアスファルトの地面に直撃し、その地面を波立たせてヒビを入れた。
さらに、そこからバウンドして「奴」の目の前まで戻ってきてしまい、蹴りの一撃で横へとすっとばされた。
このままではビルに衝突する。
その衝撃を青龍が獣神体で顕現して受け止めようとするが、その青龍をケルベロスが噛み砕かんと言わんばかりに組みかかってきて、連れ去って行ってしまう。
その青龍を助太刀に入ろうとして、他の者も獣神体で飛び出して行ったが、そこに「奴」のサラマンダー、迦桜羅までもが参戦し、同じように離れていってしまった。
よって、蒔風はそのまま障害物であるビルの壁に衝突し、コンクリートにしっかりとをその体をめり込ませていた。
「がほっ・・・・は・・・・ぁ・・・・・」
ガコッ・・・という音と共に蒔風の身体がはがれるようにビルの壁から倒れて離れ、落ちていこうとする。
が、ぐらりとよろけたその体を、「奴」の手が蒔風の首を掴んで再度叩きつけ、さらなる衝撃をその体に与えた。
瓦礫が地面に落ち、パラパラと小石を落とすビルの壁に叩きつけられた蒔風。
その身体はすでにボロボロであるにもかかわらず、いまだに息をしている。
だが、「奴」はそれを見ても焦らない、驕らない。
そのまま蒔風を見続ける。
「・・・・ぁ・・・・・」
「む・・・」
蒔風の口から、弱々しい声が漏れ出てきた。
いや、それはもはや声などではなく、何かの音としか聞こえない。
だが、おそらくその音には何らかの意味があったのだろう。
蒔風の腕が、ガクガクと、ヨロヨロと、ユルユルと振るえながら、「奴」の首元へと伸びていっていた。
それを見た「奴」が再び蒔風をビルに押しつけて叩きつける。
ガゴン!!という音を立てて、ビルの壁が完全に崩れて室内の様子がはっきりと見えた。
もうもうと煙が上がってくる中、「奴」は握っている蒔風の首から、徐々に力が抜けていって行くのを感じた。
だが、それでも
その煙の中からさっきと同じように、蒔風の腕が「奴」の方へと伸びていった。
それを見て、「奴」は再び蒔風を叩きつける。
その首を掴んで地面へと垂直落下していき、地面に蒔風を叩きつけたのだ。
塗装されたアスファルトの地面にクレーターができて、その中心に蒔風と、その首をいまだに掴んで叩きつけ、押しつけている「奴」がいた。
蒔風の身体はすでに地面にめり込んで、もはやその姿は砂煙もあって見えなくなっている。
だが、それでも
蒔風の腕は、「奴」に向かって伸びていき
その額にピンっ、とデコピンをかましていた。
その攻撃に、「奴」は今までと変わらず、更に息の根を止めようと一撃をブチかました。
クレーターがさらに窪む。
しかし、今度はさっきと違う。
蒔風の腕が、上にのびたまま倒れない。
それをみて、「奴」が哀れむような声を出して、蒔風に語りかけた。
「お前と俺の実力は歴然。ただ、いままで世界の援助があったから勝ってきただけだ。見ろ、援助の無いお前は、今こうして力なく腕を伸ばすだけだ。それでどうする?力のないデコピンを何百発も当てて、オレに額でも割ってみるか?できないだろう。お前に助けは来ない。翼人は、人の想いを糧に戦うもの。つまり、こうして一人のお前は・・・・・」
ブンッ・・・・
「無力だ」
バガァッ!!!!
「奴」が蒔風の身体を放り投げ、それに向かって波動砲を撃つ。
その砲撃に蒔風の身体が宙を舞い、放物線を描いて落ちていく。
「奴」は思った。
これで終わりだと。
蒔風がいなければ、あとはどうにでもんある連中ばかりだ。
翼人もいたが、蒔風ほどではない。
世界がしっかり成り立つまで待ち、主人公を殺すとしよう。
そう思いながら、落ちていく蒔風を見ていた。
だが、こちらの男は違った。
まだ終わらない。
終わらないさ。
世界は、祈っても力はくれないし
助けてといくら叫んでも手などは差し延べてくれない
いくらボロボロでも戦えと言ってくるし、死にそうになっても知らん顔だった。
でも・・・・・
俺は・・・・・・・・
それでもこの世界には、救いがあると思うんだ。
だって・・・・・
ほら、助けに来てくれたじゃないか。
そう思った蒔風の視界に、数人の人影が映り込む。
翼人の救い手がやってきた。
to be continued
後書き
「奴」による世界の結合。
しかし、仲間は来れない!?どうする蒔風!?
これに関してはずっとこう行こうと考えていました。
「奴」が「欠片」を引っ張り込む事で、世界ごとぴったりと寄せて、一つにまとめてしまおうと。
ちなみに「奴」の言ってた結合できなかった世界というのは「クウガ」と「仮面ライダーSPIRITS」です。
その後の世界の構図なんかは・・・・最後になりますね。
さてさて、これからどうなってしまうのか・・・・・
次回、救い、来たる
ではまた次回
救えるものは根こそぎ救う!
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