暁ラブライブ!アンソロジー~ご注文は愛の重たい女の子ですか?~
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ヤンデレアイドル七変化 【ウォール】
前書き
主催者のウォールです。
今回は10割ギャグのフルコースをお伝えしていきます。ぜひ、まったりとくつろぎながらお楽しみください。
「───ということでマイハニー。愛しのダーリンの為に、この箱に手をぶち込んでくだされな。あ、この箱に、じゃなくて『にこの鮑に』でもいいんだよ?」
「開始早々に下ネタ言ってるんじゃないわよ!!!にこはアンタのハニーでも無いし、アンタはダーリンでも無いんだから!!」
見事なキレっぷりを露わにしている、頭のてっぺんから足のつま先まで高校の時と何ら変化していない我が悪友、矢澤にこ様は今日も今日とてご機嫌斜めだ。強いて言うならツインテールを止めて下ろしている、といったぐらいだろう。日本人形みたいだな、と感想を述べた事があるが、彼女にとってそれは禁句らしく、以降触れていない。割と褒め言葉だった、という言い訳はさておき。
「でもまた、なんで急にそんなこと言い出すのよ。アンタのやること突拍子もないんだから」
「モチのロン、俺はヤンデレたるものが大好物だからさ。ほら、よくアニメとかマンガで『誰にも渡したくないわ!』とか、『他の女を見ないで!!』とか、『にっこにっこに〜!!』とか言って想い人を束縛する女の子達を見かけるだろ?憧れてるんだよなぁ、そういう女子に愛されるの」
「待って。少し考えさせて」
そう言って顎に手を置いて考える仕草を数秒間見せた後、答えが出なかったのか、
「『にっこにっこに〜!!』って言って束縛する女の子って誰よ」
「お前だよ」
間髪入れずに答える。
「......した覚え無いわよ」
「だってされた覚えないから」
「......どうやってするのよ」
「それをこれから決めるのさ。この箱で」
彼女の視線は箱へと移る。中身が見えないように作ったソレを凝視している彼女に、僅かながらの汗と引き攣った笑みが見えた。
そんなこんなで始まる元スクールアイドル"μ's"メンバー、現在俺の彼女、矢澤にこのヤンデレ七変化。我が家にて開幕。
─── ヤンデレアイドル七変化 ───
其ノ壱、攻撃型
「まぁ物は試し。引いてみろって、変なのは入ってないから」
「まずこの状況が変だってことに気づきなさいよ......、て何よコレ、"攻撃型ヤンデレ"?」
手始めににこは”攻撃型”と書かれた紙切れを取り出した。いきなり肉体的にキツイものが来たと思うのと同時に、愛する我が彼女だからこそ、普段は痛いであろう事が快感に変わるのでは?、としょうもない事を考えた。
そしたらドMへの道は免れない。
俺は机の引き出しにある、今日という日の為に一週間かけて準備したセリフ集を取り出して、そのままにこに差し出す。
「攻撃型ヤンデレを簡単に纏めると、"自分の愛を想い人にわからせようとして体に暴力をふるう"形のヤンデレなんだよ。」
「ふーん。つまりはアンタの体を痛めつけていいってこと?」
「まぁ、まぁあながち間違いではないけど...ちょっと違う」
ヤンデレというのは如何に相手を愛しすぎて情緒不安定になるかがポイントだ。ここは論理的に、わかりやすく話すにも難しいところがある。自分と相手以外要らない、2人きりの世界が───という感情が、心の片隅に少しでもあれば、感覚的にできそうな気がするのだが。
「にこは、俺とにこ以外誰も要らない、或いは二人きりの世界でいい、とか考えた事ある?」
「はぁ?アンタ何言ってるの?そんな事あるわけないでしょ」
......まぁ、こういうことである。ヤンデレを感覚的に理解しろ、はコイツには通用しない。
「じゃあとりあえず今渡した台本を要所要所でいいから頭に入れて、実践してみよう。それしか、理解してもらえない気がする」
「わかったわ。ええとまずは...」
手順1.想い人(彼氏)を押し倒す
記載されている通り、にこは実践する。注意事項に"遠慮はいらない"と書いてある為、容赦なく押し倒してくると思う。が、一応確認の為に口頭でも伝える。
「な、なぁにこ。遠慮は───」
視界が揺らぐ。遠慮は要らないぞ、と言い終わる前に彼女は俺を押し倒し、自覚した時にはもうにこの顔が眼前にあった。
「ひっ!?」
手順2.キスするギリギリの所まで顔を寄せてセリフを言う。
「ねぇ?なんでアンタは真姫ちゃんと喋ってるのよ?にこ、この前キツくお仕置きしたわよね?『にこ以外の子と話したらゆ る さ な い』って」
そのままセリフを、というわけでは無かった。アドリブ効かせて、プラスで俺の顔に吐息がかかってるのでそれっぽい雰囲気である。ただ、まだ"演技"を感じるので本物になり切れなさはあった。
にこの甘い香りがする、と考えられる余裕があった。
「にこ、知ってるわ。この前喫茶店で真姫ちゃんと楽しそうに会話しているのを。その時、真姫ちゃんから手を握られたことも当然」
「っ!?ちょ、おま!何言ってるんだ?」
アドリブどころか、実際あった事を知らないであろうにこの口から言われた。崩さずにはいられない俺の表情を見て、薄く微笑む。
3.身近のモノで想い人に攻撃してみる
確か、3番目はこうだった気がする。なんだろう、自分で考えた展開なのに先が読めない恐怖を感じる。にこのアドリブの弱さはμ`s随一だったはずなのに、今回に限ってはやたらめったら冴えている気がする。にこは台本を右手に視線は部屋を彷徨わせ、何かしようとしている。鈍器か何か、そういう類のものを探しているのだろうか。
「...ねぇ、何で攻撃すればいいのよ」
「準備わりぃなおいっ!?雰囲気ぶち壊しじゃねぇか!!」
「台本考えたアンタが準備しなさいよ!!」
これでは、いつものやりとりと何ら変わらない。にこのマジヤンデレを見たかったのではあるが、こうもテンポが宜しくないと気分が覚めてしまうのは言うまでもない。
「じゃ、じゃあもうこの際蹴りとかグーパンチでいいや。とりあえずさっさとそれっぽくやって次行こう」
「アンタ……もうめんどくさくなってるわね」
「まー攻撃型はにこには合わなかった、という結論でよろしく」
ふくれっ面の彼女を脇目に置いて、殴られるのを覚悟に態勢をうつ伏せにしてその時、その瞬間が訪れるのを待つことにする。程なくして、背後でにこが動く気配がした。殴られるのは嫌いだが、にこだったら…まぁ、後で飯を奢ってもらうことで許してやるか、と自分でも理不尽だと思えることを呑気に考えていた。
「っ!?」
ゴスッ、という鈍い音の後に感じる尻らへんの痛み。蹴られた。そう自覚するまでに彼女から何度も蹴られ続けている。ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ、と間髪入れずに容赦なく蹴られ続けて数十秒。
「ちょっ!?おまっ!?やめっ!!ふぁっ!!」
「............」
ゴスゴスゴスと尻一点に彼女の足の形を覚えさせられ続けて、なんとなくそれが快感になるまでそう時間はかからなかった。知ってはいたがにこの足は小さくて、なのに重い。中学か、その前の小学校の理科でなんとなく学んだ『面積が小さければ小さいほど、その物体にかかる圧力は大きい』というルールが浮かんだ。
「あっ!うっ!…くっ、にこ…ストップ。それ…いっじょう…はぁ!?」
「......アンタが浮気したから。オシオキしなくちゃね。スーパーアイドルの心をつかんでおきながら他の女に目移りするなんて悪いにこ」
楽しんでる。この女、絶対楽しんでる。言葉の隅から隅まではヤンデレ感強めなのだが、声のトーンが楽しい時に出てくるソレとまんま同じだった。蹴られ続けながらも首を動かして彼女の表情を見る。蹴られるのが快感となっている今、流石に止めなければならない。建前は止める。本音はそのまま蹴ってくださいお願いしますだけど。
「にこ……スト—――」
その瞬間、俺は見てしまった。特に幽霊を見たとか、そういう事ではない。いや、この際幽霊を見てしまった方が楽だったのかもしれないが。ただ、それに近い相手に遭遇してしまった俺はただ苦笑いを浮かべるしかできない。現に俺の彼女、矢澤にこは無表情、無感情で俺の尻を明確に蹴っていた。その姿が恐ろしくて、同時に『これが…ヤンデレなのか?』と、ヤンデレ好きな俺ですら疑問を抱くほどだった。
(ヤンデレというか、これは...!?)
瞬間、俺の体内からゾクゾクとした震えが伝わり、そのまま脳を直撃した…気がする。まずい、と直感した。さっきから蹴られていることに妙な快感を感じているなと自覚はあった。が、ここまで来ると思考回路が思うように定まらず、且つなにか来そうな気配がする。止められない。
「あ…♡いたっ!ちょっ!!やめぇ…」
「……」
「あ…んくぅ…!ひぃっ!」
「……」
そして…
「あ……あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ♂♂」
頂点まで来てしまった俺は言わずもがな涎を垂らしながら痙攣を起こし、そのまま突っ伏してしまった。まさかここまで俺は変態だったのか、と自負する。流石に踏まれて興奮するとかありえない、とつい先日にこに堂々と話をしていたはずなんだが...これ如何に。
「......ねぇ、何よコレ」
…そんなこと俺に聞くな。
其の弐 妄想型
「えーこほん、では気を取り直して。はい、引いて」
「もう十分引いたわよ、アンタにね」
「誰が上手いこと言えと。いいからはよ引け」
気を取り直して、にこは渋々箱に手を突っ込んでガサゴソと中身を漁る。そして手にしたのは”妄想型”と書かれた紙きれで、さっきの攻撃型以上にわからないといった顔つきでしかめていた。
「今度はなによ。何を妄想すればいいのよ」
「そりゃもちろん俺との将来で、子供は何人作るかっていう———ぶぎぃぃぃ!!!!」
「御託はいいから早くしなさい!にこは忙しいの、レポートとか家事もやらなきゃいけないのにアンタに仕方なく付き合ってあげてるんだから」
「っつつー…とか言って、ほんとは俺とこうしてぎゃいぎゃいするの好きなんだろ?照れるなって……あぁごめん今のなし。悪かった前言撤回するからそのハサミしまってくれ。というか失くしてたはさみどこから持ってきたんだよ」
そこからよ、と彼女が指さした先には机と壁の隙間。どうやらそこに落ちて挟まっていたらしい。よく見つけられたな、と感心する。だけど自分の身が危険にさらされているには変わりないので、にこからハサミを無理やり没収し、そこから簡単な”妄想型”の説明をする。
「まぁさっくり簡単に説明すると、妄想型のヤンデレというのは頭の中がお花畑の人が多数存在するんだよ」
「随分大雑把ね。ごめん全然わかんないわ」
「んー…じゃあ、すべての物事を自分のいいように解釈し、相手から否定拒絶されても自分に都合いいように脳内で改変する厄介なヤンデレ型なんすよ」
「ふ~ん?じゃあ相手から嫌いって言われても『誰かにそう言われたんだ』とか…そういうこと?」
「ご名答~!相手に”こうであるべき姿”という概念を押し付けるようなもんさ」
台本を片手にうーんうーんと唸るにこは、イマイチそれがどういう形なのかピンときていない。
「習うより慣れよ。まずはやってみて感覚を掴んでみようか」
「そうね…スーパーアイドルにこにーにとってできないことは何もないんだから」
「数学は?」
「…今は関係ないでしょ。数学とにこは生きる世界が違うの。コインの裏表みたいなものね」
「つまり似た者同士ってこと?」
直後、ごりっと頭に抉られるような痛みが走り、にこがこぶしを握ってわなわなしているのを見て、ようやく殴られたことに気づく。ふんすと鼻を鳴らしているも気持ちは既に台本に向けられていて大まかな流れを掴んでいるようだ。
「ってて…なにも殴ることは無いだろう!平気で暴力振るう女の子は嫌われるぞ。でも安心しろ。俺は君にぞっこんしてるから嫌いにならないから」
「うるさいわね、少し黙ってて」
「…あ、はい」
マジトーンだったので流石に口を紡ぐ。流石元アイドルか。元々キャラづくりに拘る子だったからこういったなにかしらの情熱があるのだろう。
「これは…難しいわね。ポイントとかある?」
「ポイント?そうだな…とりあえず実際に無かったことを捏造してあたかも、実際合った出来事として話せればいいんじゃないかな?」
「捏造、ねぇ~」
顎に手をあてて、だけど視線は上を向いていて脳内で整理しているのだろう。
「…それじゃあやってみるわ。にこのヤンデレとくとご覧あれってね♪」
期待せず楽しみにしているよ、と口には出さず無言で頷く。すぅっと小さく息を吐いてゆっくり首を上げた彼女は、
「そういえば、今日アンタお昼ご飯食べたの?食べてないなら昨日アンタと作った夕飯の残り物をして少し詰めてきたし、他にもチーズハンバーグとか入ってる弁当持ってきてるから食べるといいわ。アンタチーズハンバーグ大好物だし、一昨日も美味しそうににこが作ったハンバーグ食べてたもんね」
「お、おぉ......確かに捏造されててそれっぽいぞ」
滑舌良くペラペラ話す内容に、『昨日アンタと作った』とか、『一昨日も美味しそうに』だとか捏造されてて味が出ていた。僅かに目が泳いでいたが、この際そこには目を瞑り、必死になり切ろうとしている姿を素直に俺は嬉しいと思った。
「そういえばにこ達ってこういう関係になって早2年が経つんだよね。あの時はこうなると思ってもみなかったけど、よく良く考えればにこ達の前世って幼い頃から幼馴染みで、その関係が発展して恋人に、そして結婚という2人組だったのよ。だから生まれ変わったにこ達がこういう関係にならないわけが無かったんだわ。」
「お......おう?」
前世の話題になるのは妄想型の、まぁ典型的な流れといえば流れだ。いきなり話が変わったから動揺したけど台本に無い内容をアドリブきかせるのは難しいらしい。
そこで俺はふと、違和感を感じる。なんというか......デジャヴ?既視感?そんな感覚が脳裏を掠めて一瞬反応が遅れてしまったのを彼女は見逃さなかった。
「まちがって......た?」
「や、いいんだ......全然いい」
ここまで、にこにアドリブできただろうか?
「アンタは覚えてる?」
「なに、を?」
「にこが......μ'sに入る前の、みんなに嫉妬していた時の。アンタはにこにこう言ってくれたわよね?"憧れてるなら、自分を変えたいなら......進みたい道を進めばいい。余所見してるこの時間こそ、君の選択肢を狭めているんだよ"って」
「......え、あ、あぁそうだね。そんなこと......あったね」
にこの言った言葉は確かに俺が放った言葉で、あの時の情景が鮮明によみがえってくる。夕焼けの神田明神で、俺はμ`sに入るか、”こんな私が”アイドルできるのか悩んでいたにこに俺は言った。俺の言葉が相当響いたのか。次に日には加入していて…。
だけど、何か違う。それが俺には何なのかわからなかった。
「どうしたの?顔色が悪いわよ?」
「そ、そうか?昨日あまり寝てないせいなのかもな」
「一度…寝たらどう?ほら、私の太もも枕にしていいから」
そう言われて遠慮しないわけがない。急激な眠気に耐えられなくなった俺は、欠伸を噛み殺して正座して誘ってくるにこに近づき、ゆっくりその太ももに頭をゆだねる。
にこの甘い匂いや、ほっそりした太ももの割には柔らかすぎる感触。あれ?にこってこんなにご飯みたいな匂いのする女の子だっけ?、という思考を最後に、俺の意識は泥の奥深くに沈んでいった。
俺は......何も気づいていなかった
後書き
まさかのタイトル詐欺アンド前書き詐欺。七変化しなかったのはお話や文字数の都合により大幅カットです。残りは是非、みなさんが妄想して補って下さい。
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