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機動戦士ガンダム SEED C.E71 連合兵戦記(仮)

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第5話 廃都炎上

 
前書き
エレノア、ターニャ、シャノンは、この話が投稿された当時にやってたアニメのモブの名前からとりました。 

 


「全機、市内の敵地上部隊の掃討を開始する。火力を集中するため密集隊形を維持せよ」
搭乗機のコックピットで黒髪、褐色肌の女性は、部下に命令した。

彼女の乗機を含む6機のモビルスーツ ザフト軍の飛行MS ディンは、地上を這うような低空飛行で都市へと進んでいた。
紫色と黒で塗装された翼の生えた細い胴体、頭部は、仮面の様なカバーが被せられ、その隙間から覗くセンサーの赤い光は、昆虫の複眼を見る者に想起させた。

ディンは、指揮官機以下6機がV字隊形を組んでいた。
その後方には、ザフト軍の攻撃ヘリ アジャイルが同様の編隊を組んでいた。

匍匐飛行するディンの肩には部隊のエンブレム…左右にクロスしたフレイルとその棘付鉄球を受けて砲がへし折れた戦車が描かれていた。

「爆発、バルク小隊に撃破機が出たのか?!」
中央のディンの搭乗者…中隊指揮官のエレノア・チェンバースは、市内で立ち上る爆炎を見て歯噛みした。
モビルスーツに戦力の大半を依存することで物量に勝る地球連合軍を圧倒することが可能になっているザフトにとって1機でもモビルスーツは、貴重な存在だった。

飛行MS ディン6機 攻撃ヘリコブター アジャイル8機で構成されるエレノア襲撃中隊は、地面を這う様な匍匐飛行で地球連合軍部隊が潜んでいる放棄された都市へと接近していた。
襲撃隊とはザフト軍における航空支援部隊の呼称で、ザフト軍の侵攻時には地上部隊に先立って敵部隊に対して航空攻撃を行う部隊である。
航空機の傘を喪失した地球連合部隊にとって、それは、恐怖その物となっていた。
6機のディンで構成されるV字の中央、先頭を行くのは、指揮官であるエレノアのディンである。

指揮官機である彼女のディンは、重突撃機銃や対空散弾砲を装備した部下の機体と異なり、頭部センサーが大型化されていた。
その両腕には、ディンの主兵装である対空散弾砲の代わりに大口径の銃器が抱えられていた。それは、16世紀のヨーロッパの戦場で使用された火縄銃に似ていた。

多目的ランチャー アークェバス…火縄銃に似た形状のこの装備は、無人偵察ドローンの射出装置であった。
元々、砲戦MS、ザウート用に開発された弾着観測機ランチャーを手持ち式に改造した装備で現在、指揮官機を中心に前線部隊にいくつか配備されていた。

彼女等に先立って斥候として出撃したバルク小隊にもこの装備は存在していたが、途中機械故障で放棄せざる得なくなっていたのであった。
もしバルク小隊を先行させる代わりにモビルスーツや装甲車両により遠隔操作された無人偵察機を多数投入していれば、無暗にモビルスーツ部隊を逐次投入する愚を犯すことは無かっただろう。

しかしザフト軍 ウーアマン中隊は、無人偵察機を消耗することよりもモビルスーツ小隊と装甲車を突入させることを選択した。

これまでも偵察にモビルスーツ小隊を投入し、それらが地球連合軍部隊を惹きつけ、防衛線を崩したケースがあった為である。

これもザフト軍のモビルスーツ中心主義の影響であった。その犠牲としてザフト軍は、3機のモビルスーツとザフトにとって金塊よりも貴重なMSパイロット3名を失うこととなったのである。
そしてまた彼らはその犠牲を支払おうとしていた。

「エレノア隊長、信号弾です。残骸から発射されています!」

副官のターニャ・ブレモウナが報告する。

「信号弾だと?」
「警戒装置のつもりか…だが、連中に大した対空火器は無いはず…」
地上に転がる鉄屑から吐き出される黄色い煙と星の光の様な照明弾が打ち上げられる光景を頭部センサーより取り込まれ光学補正された正面モニターの画像越しに眺めながらエレノアは呟いた。
それは、自分に言い聞かせているかのようであった。

「この!」
ディンの1機が、対空散弾砲を放棄された装甲車にぶっ放した。
照明弾の煙を上げていたその鉄屑は爆砕した。

「弾の無駄だ。やめておけ」
ディン部隊の後ろを飛行するアジャイルが煙の柱をローターで蹴散らして通過した。

「ナチュラルめ、小癪な…」ニュートロンジャマー下では、中性子の運動を阻害する効果の副作用である電波の伝達阻害によりミサイルなどの誘導兵器やレーダーは、大幅な性能低下を余儀なくされ、事実上無力化される。
但し、ごく限られた範囲であれば、レーダーにより敵機を捕捉することが可能であった。

地球連合軍は放棄された友軍車両のレーダーと多目的ランチャーを利用し、敵機が付近に接近すると車体側面の信号弾を発射する様仕掛けを施していたのである。

無論、エレノア襲撃中隊の隊員たちもそれを単なる警報装置だと判断していた。
だが、それを破壊しようとは考えなかった。
なぜなら、これまでと同様制空権を失った地球連合軍は彼らに抵抗する術を持たない的も同然の存在だと推測していたからである。
戦闘機の傘を失った敵の反撃手段は、精々命中率の悪い対空ミサイル位であった。

14機の空飛ぶ騎兵は、都市に向かって進撃する。残骸の頭上を彼らが通過する度、頭上に信号弾の爆発の花が咲き乱れる。

「よし、予想通りだな」
都市の外周に構築された陣地内で、第22機甲兵中隊所属のゲーレン中尉は、指揮下の兵士達と共に迫りくる敵部隊とその上空で咲き乱れる信号弾を赤外線双眼鏡で確認していた。
地を這うようにして飛ぶ重火器で武装した勇敢なる猛禽の一群は、念入りに仕掛けられた狩人の罠へと接近しつつあった………

「予想進路出ました!やっぱりあいつらセオリー通りに突っ込んできます。」
ゲーレンの近くに座っていた三つ編みの女性オペレーターが緊張ぎみに報告した。

「そうか…花火で歓迎してやるぞ!」
ゲーレンは部下に指示を出す。

有線通信で指示を受けた陣地が行動を開始した………都市の郊外に点在する森…正確には、再構築戦争後の戦後復興、自然保護政策によって作られた自然公園、その森の2か所で爆発が巻き起こった。

次の瞬間、爆音とともに空に向かって無数の鉄の矢が放たれた。
爆発が起こった場所には、黒い鉄の箱が煙を上げて燻っていた。

その箱は、MLRSと呼ばれていた。MLRS…元は、西暦末期の超大国 アメリカ合衆国とその同盟国で採用された多連装ロケットシステムの名称であり、C.E 70年現在では、このタイプの多連装ロケットシステムの総称となっていた。

この兵器は、本来迫りくる敵地上軍にロケット弾の豪雨を浴びせることで制圧するための兵装であり、上空を飛ぶ飛行兵器に対して使用するような兵器ではない…だが、地面を進軍する地上部隊と余り変わらない高度で匍匐飛行するザフト軍飛行部隊には十分に効果が期待できた。

これまで地球軍が、ザフト軍による地上攻撃部隊による漸減戦術に手を焼かされてきたことを認識していたハンスは対策の一つとしてMLRSをこれまでのザフト軍地上攻撃部隊の侵攻パターンを参考にして予想した進路上に向けて隠蔽配置していた。
固体燃料の白煙を引いて高空へと打ち上げられたロケットは、匍匐飛行で都市に迫っていたエレノア襲撃中隊へと墜ちていった。

「罠か!」
もう遅い、そう言うかの様に空中でロケット弾頭が一斉に破裂し、内部に封入されていた子弾を撒き散らした。
それは、まるで植物の果実が中の種を放出する光景と酷似していた。
だが、その性質は真逆だ。
後者は、植物の次代に己の因子を繋ぐ為の行為だが、前者は、万物の霊長と奢る人類が敵と規定した同族とそれが操る人工物を破壊する為の行為なのである。

「総員散開!」
彼女は、咄嗟に部下に命令を下した。だが、先程まで濃密な編隊を組んでいた彼女の部下達が一斉にそれを開始したことが悲劇を生んだ。
「わぁ!」
「く、くるなぁ」
パニックを起こしたディンの腰部に直進を続けたアジャイルが衝突する。
中には、地面に突っ込んで大破する機体もあった。混乱の中、無数の子弾が驟雨の如く彼らの進路上に容赦なく降り注いだ。

「!!」
先頭のディンに乗るエレノアは、己が判断ミスと、それによって失われる部下の命を、思い唇を噛んだ。
直後、視界が紅に染まり、今まで感じたことのない強力な衝撃が、彼女を襲った。
着弾点の大地が耕され、醜い土砂色の花が咲き乱れた。
赤外線望遠鏡でその光景を目撃していたゲーレン中尉は、喜色満面に叫んだ。

「やったぞ!」
ほぼ同時に部下の兵士達の歓声が陣地を満たした。
天高く立ち上る爆炎は、市内にいるハンス大尉率いる本隊からも確認できた。

「やったか!」
高層ビルの一室に設置した監視カメラの映像を、ゴライアスの正面モニターを介してハンスは確認していた。
彼が敵を巻き込んだと判断したのは、地面に着弾しただけでは、あそこまでの爆発にはならないからである。
そしてそのことは鮮やかな炎の中に揺らめく、舞い上げられた残骸の黒い影が証明していた。

「総員!!撤収、急げ!」
MLRSの内の一つの設置地点では、先程までそれらの操作に関わっていた兵員達が撤収作業を開始していた。

彼らも指揮官のハンスもこの一撃で空を飛ぶ敵部隊を全て破壊できた等とは判断していなかった。
ゲリラ戦術は敵にその姿を晒さないことが肝心であることは、常識である。
もし圧倒的戦力差がある敵にその姿を見られた場合、ゲリラ戦術を行う側に訪れるのは、死のみであった。

黒煙に覆われた高熱で燻る大気を引き裂き、有翼の機械人形が2体黒煙の中から飛び出す。
小隊にまでその数を減らされながらもエレノア襲撃中隊は、侵攻を続けていた。

ディンは半数以下の2機に撃ち減らされ、攻撃ヘリのアジャイルは1機残らず全滅していた。
ロケット弾とその破片の直撃を受けたディンは、薄い装甲が災いし、文字通り粉々に破壊されていた。

部隊指揮官のエレノアの機体もその中には含まれていた。

「なんなの!あの攻撃は、敵の新兵器?!」
乗機の破損個所を確認しつつ、ターニャは敵の姿を求めた。
彼女のディンは、頭部カバーを喪失し、左肩部と右脚部が破損していたが、幸いなことに飛行能力を維持しており、武装も主兵装の対空散弾銃が使用可能だった。

「ターニャ無事か?」
その時通信が入った。
「畜生!エレノア隊長も、シャノンも、ピーターソンも、ウィルも、ヘリ部隊の奴らも皆やられちまった!」通信の相手は、3番機のパイロットのエルマー・アダムスだった。

「そんな!エレノア隊長が!…やられるなんて」
中隊指揮官を務めていたエレノア・チェンバースは、部隊内外からみても優れた指揮官だった。
モビルスーツの操縦技量、部下への接し方、魅力的な容姿…そのどれもがターニャの憧れであった。
そんな人物が卑劣なトラップで撃墜された等、彼女にとっては信じがたいことだったのである。
だが、現実は彼女の思いとは真逆であった。

これまでの戦いで常に隣にいた指揮官機の頼もしい機影はそこにはなかった。

「…」

彼女は遠ざかりつつある、後方を映すモニターを拡大した。背部センサーから取り込まれた映像であるそれは、中隊の機体の残骸が焼け火箸の様に黒煙を吹き上げて激しく炎上していた。

そして高温に曝される残骸の中には、指揮官機の装備していたアークェバスの残骸も転がっていた。

「………よくも隊長と皆を!許さない!」
白い頬を一筋の涙が流れた。
「ターニャ!敵機だ!俺達の右側にいる!」
エルマーが、そういうと同時に彼女のディンの正面モニターに画像が表示された。
NJの影響で画質の荒い画像、そこには市街地へと逃亡する車両の姿が映し出されていた。
ターニャのディンは、それを見逃さなかった。

「あいつか!」
「俺は攻撃してきた敵の兵器を探る!」
この時点で彼らは、戦友たちを一撃のもとに屠った兵器の正体に全く気付いて無かった。また使用される可能性を彼らは考慮していたのであった。

「わかったわ」ターニャもそれに応える。傷ついた天翔ける機械人形は、二手に別れ、行動を開始した。それぞれの任務を果たすべく…

「上空に敵機!こちらに食いついてくれました!」
接近してくる機影を双眼鏡越しに確認した連合兵はジープの荷台で叫んだ。

「よし!作戦通りだ」
口元に笑みを浮かべ、ドライバーの連合士官が言う。
その連合士官は、浅黒い肌とドレッドヘアが特徴的で、もし連合士官の衣服を着用していなければ、大西洋連邦のストリートで楽器を振り回して奇声じみた声を上げているロックミュージシャンと間違えそうだった。

直後、彼らを乗せたジープの真横で着弾の土煙が幾つも上がった。
それは、ディンの主兵装である対空散弾銃から放たれた散弾によるものであった。
土埃を舞い上げてジープは荒野の如くささくれだった道路を疾駆した。
その背後をターニャのディンは影の様に張り付いた。

「糞!烏野郎!」
後部座席に座る連合兵は、自動小銃を乱射したが、モビルスーツの装甲の前では無意味の等しい行為だった。
対するターニャのディンも中々攻撃を仕掛けることが出来なかった。
万全の状態ならば、鷹が兎を仕留めるかの如く容易く撃破できる標的…だが、損傷を受けた現状の機体では、限界があった。

一歩間違えば地面と衝突する。ディンの主兵装である対空散弾銃は、腕で保持する必要があり、その為に姿勢を空中で変える必要があったためである。

これは、飛行MS ディンの欠点の1つとも言えた。距離を取って撃とうにも照準センサーが先程の攻撃で損傷しており、更に一定以上に高度を上げることも不可能であった。
また操縦者であるターニャは、撃墜スコアの上では十分エースと呼んで差支えなかったが、射撃の技量は平均レベルだった。

またジープの様な小目標に戦車や装甲車に対してやるようなバースト射撃を行うのは、弾薬の浪費であるとターニャは、認識していたのである。やがて市内に林立する高層建築へとジープは逃げ込んだ。

ターニャのディンもそれを追う。ジープは右折した。

「次で仕留める」
獲物をしとめるべく、ターニャはディンを右折させる。彼女は勝利を確信していた。
広い平野と違い、障害物がある市内ではこちらもそうだが、ジープも速度を緩めざるを得ない、そこを仕留めることは簡単であると判断していたのだ。

右折と同時に、ターニャの視界に飛び込んできた光景は、停車したジープの姿だった。
その荷台には、対空ミサイルランチャーを抱えた兵士が立っていた。次の瞬間ランチャーが火を噴く。

「当ると思って……ぐっ!!」
ディンは、空中で機体を少し傾け、攻撃を回避する。

ミサイルは、ディンを掠めてビルの一つに着弾した。
次の瞬間、ターニャを衝撃が襲った。彼女は、周囲を見渡す。
ディンの左隣には、4門の対空機銃を載せた車両が猛火を彼女の乗機に浴びせていた。

スカイデストロイヤー 対空自走砲………この車両は、元々大西洋連邦軍欧州派遣軍第34歩兵師団所属のもので故障によって爆破放棄される予定だったものを編入したものだった。
故障の為移動不能だったが、載せられた対空火器は、弾薬の続く限り使用可能で、砲台として運用可能であった。

周囲を高層建築が聳え立つこの場所では、遮蔽物のない空間では高機動を誇るディンは、籠の中の鳥と大差なかった。高速で豪雨の如く放たれる対空機銃弾が、ディンを撃ち据える。

「こんな…ところでっ!」
ターニャは、自身が罠に誘い出されたこと、そして自身がまもなく火箭の暴雨の中で散った戦友の後を追うことになることを理解して悔しさの余り歯噛みした。
直後、対空機銃弾が胸部装甲を貫き、コックピットブロックを吹き飛ばした。
搭乗者を失ったディンは、胴体部から炎と黒煙を吹き上げながらコンクリートの地面に墜落して砕け散った。

「やったぜ!」
黒人系の連合士官、第22機甲兵中隊所属のドミンゴ・ルシエンテスは、白い歯をむき出しにして笑った。

同じ頃、エルマーのディンは、MLRSの設置地点の一つに到着していた。
ディンの目の前には、火山の噴煙の様に白煙を上げる四角形の物体とその周囲には、発射時に爆風で跳ね飛ばされたと思しき、隠蔽用の特殊迷彩塗料を塗布した黒いシートが散乱していた。

「対地ロケットだと……馬鹿な!」
誘導装置すら付いていない地上攻撃用の兵器に航空部隊である自分達が攻撃され、多大な犠牲を払ったという事実を彼は受け入れることが出来ずにいた。
追い打ちをかけるかの様に彼に更なる凶報が齎された。

直後、モニターに映っていた僚機を示す光点が消えた。
それは市内に突入したターニャのディンのものであった。

「そんな、エレノア隊長の次はターニャがやられるなんて…」
エルマーは、最初それが、IFF(敵味方識別装置)の故障だと思った。
だが、市内から立ち上る煙は、それがIFFの故障等ではなく事実であるということを雄弁に物語っていた。

「…」
エルマーはディンを反転させた。もはやエレノア襲撃中隊は、壊滅した。

戦力的にも生き残ったディン1機でバルク小隊を全滅させたと思われる市内の地球連合軍部隊を撃破することは不可能である……最後の生き残りであるエルマー自身がそれを何よりも認識していた。

現在の彼に出来ることは、後方より進軍して来るウーアマン中隊を初めとするザフト軍本隊と合流し、市内に潜伏している地球連合部隊の戦力が油断できないものであると報告することだけである。

だが、その現状認識が正しいということと彼自身の人間としての感情は異なっていた。

「くそおおおおおおおおおおおお」
エルマーは、コックピットの中で吼えた。
エレノア隊長を!皆を殺されて一人だけ逃げるのか…俺はそこまで弱虫の屑なのかよ…戦友の仇を討つことが出来ない無力さとそれを認識し、それを肯定するかのような行動を選択した自分への嫌悪感の余り、今すぐ死を選びたい心境だった。

もし彼がプラントの都市管理機構の下水処理局員としての3年の労働の経験、ザフト入隊時の訓練、そして先程まで彼の上官として存在していた指揮官 エレノアの存在によって自制心を学んでいなければ、乗機のディンを下界の雑草が繁茂した草色と土色の大地にぶつけていただろう。

「エレノア隊長…皆、俺は悔しいが、お前らの仇を討てない、だが、後ろにいるザフトの仲間がきっと仇を討ってくれる。」

両頬を涙で濡らしつつ、かすれた声で言葉を紡ぐ、彼は懺悔しているかのようだった。背を向けて単機で去っていく。
敵機に対して市内の敵は、銃弾一つ撃つこと無く沈黙していた。

恐らくNJ下で誘導兵器の信頼性が低下している今、市内から攻撃する手段がないのだろう。とエルマーは推測した。

「見ていろナチュラル共、お前らは必ず我々ザフトが殲滅する」

彼は、憎しみに燃える目で後方を一瞥した。次にふと彼が考えたことは、ターニャにとうとう自分の気持ちを伝えることが出来なかったということだった。

都市を背にし、去っていく黒い影、それを地上から覗く者達がいた…彼らは、市内にいる戦友達へと自らの得た情報を伝えた。

「偵察兵より連絡!最後のディンの後退を確認、敵襲撃機部隊は、1機を残して撃破されたようです。」「了解した。偵察活動を続けてくれと伝えてくれ」

有線通信による偵察部隊からの報告を受け取ったパドリオから報告を受けたハンスは、そういうと通信を切った。

NJ下において有線通信の信頼性は無線通信が使用不能となった今では、距離がある程高まっていた。

 
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