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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督はBarにいる×神薙改式編・その1

 
前書き
こちらのコラボストーリーは、ハーメルン時代の読者さんが考案したオリジナルキャラクターが出演する形となっております。考案者の方のお名前(ハーメルンでの登録名)をタイトルにしておりますが、悪しからず。 

 

 その日、『Bar Admiral』は並々ならぬ盛況ぶりだった。炎天下の中演習やら護衛任務やらの依頼が殺到して、その喉の渇きと空腹を満たそうと、仕事終わりの艦娘達が大挙して押し寄せてきたのだ。ビールや日本酒、ウィスキー等それぞれの好みの酒が飛ぶように売れ、また料理の注文もひっきりなしだ。その忙しさをどうにか切り抜け、一息ついた頃に残っているのは数名の常連と金剛、それにアシスタントの早霜だけだ。

「ねぇdarling、そろそろ種明かししてヨ~」

「あん?何の事だ」

 ギネスのグラスを一気に干した金剛が早霜にお代わりを要求しながらこちらに尋ねてきた。

「どぼけないでヨ~、darlingの前の席、誰も来ないのにリザーブになってるネ」

 ほぼ満員に混みあっていた店内で、俺の定位置の真ん前の席には『予約席』の札が。

「あぁ、こりゃ今晩来る予定の客人用の席でな」

「客人?珍しいな、軍の関係者か?」

 『出羽桜』の一升瓶を片手に持ち、グラスに注ぎながら武蔵が会話に割り込んできた。肴は『ジャガイモの酒盗マヨ焼き』で、瓶の中身は残り少ない。また仕入れにゃ……。

「いや、なんでも広報が依頼した民間の記者だかライターらしいんだが……」

 どうやらジジィの企画した『鎮守府の繋がり強化月間』って奴の中には、鎮守府……というか海軍全体のイメージアップ戦略も含まれていたらしく、来訪予定のリストの中には民間の記者やら現役モデルやらの予定まであった。一体何をさせる気なんだよ、あのタヌキめ。

「え~、じゃあアタシらもインタビューとかされちゃうワケ!?どうすっかなぁ、照れちゃうよ~♪」

 顔を真っ赤にしながら『菊正宗』を煽る隼鷹。……というか、お前のその赤い顔は照れてるのか?それとも飲み過ぎで赤いのか?……多分後者だろうな。







 ワイワイガヤガヤと会話を交わしていると、ドアが遠慮がちにコンコン、とノックされた。刹那、水を打ったように静まり返る店内。噂の民間人がやって来たらしい。

「あの~……ここって食事出来ます?」

 ひょっこりと顔を覗かせたのは、良くも悪くも『普通』な青年だった。黒髪黒目の醤油顔。服装も黒のTシャツに藍色の作業ズボンと、ウチで使われている作業服と同じ色だったら、うっかり整備員か何かと間違えてしまいそうだ。今時の若者らしい装飾品は着けておらず、厚手のフレームの黒縁眼鏡が一層彼を地味に見せている。旅慣れているのか、持ち物はショルダーバッグ1つだけ。

「あぁ、ウチはBarだが飯も出してるよ」

「あぁ良かった、この鎮守府結構広くて。迷ってあちこち歩き回ってたらお腹空いちゃって」

 そう言いながら流れるように、予約席へと腰を下ろした。……しかし、何か引っ掛かる。確か客人の出迎えの為に、正門には比叡を立たせてあったハズだが。

「なぁ兄ちゃん、ちっと悪いが荷物を改めさせて貰ってもいいか?」

「えぇ、構いませんよ?」

 存外すんなり応じたな、俺の気にしすぎか……。まぁ、念のためにチェックしておこう。カバンの中身は財布にスマホ、折り畳み傘に単行本サイズの本が10冊。中身は旅行記風のファンタジー小説で、作者はどれも”ナギー“とある。

「あぁそれ、僕の本なんですよ」

「これ全部、兄ちゃんが書いたのかい?中々どうして大した量だな」

「えぇ、大手の出版社じゃなくて自費出版ですけど」

 それでもまぁまぁ売れてます、と謙遜気味にその青年は語る。このナギーというのがペンネーム、という訳だ。しかしまぁ極端に荷物が少ない所を除けば、怪しい所は特にない。

「すまんな、疑ったりして」

「いやいや、民間人を軍の施設に入れるんですから当然の処置でしょう」

 疑いの目を向けられたというのに、青年・ナギーは朗らかに応対している。こういう誠実さってのは一朝一夕で身に付く物じゃない。これだけでも好印象だ。

「さてと、今回はウチの取材をしたいって事だったな」

「え?えぇまぁ。施設内にBarが併設されてる鎮守府なんて、珍しいですからね」

 俺の問いに答えるのに僅かなタイムラグがある。何だろうな、この取り除かれた筈なのに、無くならない違和感は。

「あの~……お腹すいてるんで、注文いいですか?」

「あ?あぁ、すまんすまん。さぁご注文は?」





 俺がそう言うとナギーと名乗る青年はキョロキョロと店内を見回す。

「注文しようにもメニューが見当たらないんですが……」

「あれ、ジジィから聞いてねぇのか?ウチはメニュー無いんだよ」

 ウチはメニュー無しがデフォルトなんだが、そんな重要な情報まで言ってないのか?あのジジィめ。

「あぁいや、これ僕の取材スタイルなんです。余計な情報はシャットダウンして、自分の見聞きした物だけで書きたいので……」

 少し焦り気味で弁明する彼の言い分は解る。事前に色々と聞いていると、その先入観から抜け出せないなんてのはよくある話だ。

「でもメニューが無い定食屋……っていうかここはBarですけど、なんだか漫画の世界みたいですね」

「漫画の世界……あぁ、『深夜食堂』か。初めて来た客にはよく言われるよ」

 あの漫画も読んでいて腹が減るし、何より出てくる客のエピソードが多彩で読ませてくれる。俺も好きな一作だ。影響を全く受けていないかと言われれば、ウソになるだろうな。

「まぁそういう訳だから、ウチの店にメニューは無い。材料があって作れる物なら何でも作るぜ?」

「え~っと……オススメって何ですかね?」

 ナギーは座っている席の右隣に腰掛けていた、那智に尋ねている。

「オススメ?オススメか……改めて問われると困る質問だな」

「確かにな。料理を頼んで出てこなかった事が無い」

 クックッと喉を鳴らしながら笑う武蔵。

「和食、洋食、中華にスイーツまで。大体何でも作っちゃうものね提督は」

 苦笑いしながら応じる足柄。改めてそうやって解説されると、何やら恥ずかしい物がある。

「あら、イタリアやドイツの料理も美味しいわよ?」

 そう返して来たのはカリーヴルストを肴にヴァイツェンを飲んでいたビス子。

「ま、要するに自分の好きな物を頼めばOKネ!」

 最終的に纏めたのは我が嫁金剛。その通りの事を言ってるんだが、そのまんま過ぎてお前が言う必要あったのか?とツッコミを入れたくなった。

「ん~……そう言われると余計に悩むなぁ」

「なら、嫌いな物は無いのか?」

 好きな物が有りすぎるなら、嫌いな物を除外したメニューをってのは安直だが、サッと決めやすいだろう。

「う~ん、僕基本的に肉食なんですよねぇ。嫌いなのは……茄子にピーマンにキャベツに…」

「おいおい、随分と子供っぽいなぁ」

 ん?子供っぽい、か。なら『アレ』にするかね。

「あ~、OKOK。こっちで適当に作るよ。飲み物はどうする?」

「一応取材なんで、アルコールはNGで。なんか適当に炭酸でも下さい」

 それじゃあ味気ないだろう。折角Barに来たんだ、その雰囲気だけでも味わってもらわにゃ。俺が早霜に目配せすると、お任せくださいと頷いた。

「ではお客様、ノンアルコールのカクテルなどいかがでしょう?」

「あ、いいですね!じゃあそれで」

 早霜に相手を任せて、こちらは調理に取り掛かろう。何せワンプレートだが品数は多いからな。 
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