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第四章
「太平洋艦隊司令長官の上に」
「アメリカ海軍艦隊司令長官もいてね」
「それで作戦部長も兼任していた」
「キングっていう元帥がいたよ」
「そうですよね、あの人の名前は空母に冠されないんですか」
「そのことを言うんだ」
「はい、どうしてですか?」
大学生は中尉に怪訝な顔で尋ねた。
「キングはニミッツの上官で海軍のトップでかなり活躍もしたのに」
「嫌われているからね」
中尉は大学生に答えた。
「何かと」
「今もですか」
「とにかく生前からね」
「嫌われていて」
「だからね、昔は駆逐艦の名前になっていたけれど」
「今は、ですか」
「名前が冠せられた船はね」
アメリカ海軍にはというのだ。
「ないよ」
「空母にもですね」
「ないよ」
「ニミッツはあってもですか」
彼の部下で太平洋艦隊を率いて戦った人物だ。
「それでもですか」
「そう、キングはないよ」
「彼を見出したカール=ヴィンソン議員の名前は空母になっていますね」
「そうなったよ、けれどね」
「それでもですか」
「キングはね」
「空母にはですか」
今のアメリカ海軍の象徴だ、自他共に世界最強の海軍と認めている。
「ないんですね」
「他の船にもね」
「名前が冠せられることはですか」
「ないかもね、日本の佐世保には名前が付いた施設があるそうだけれど」
「日本にはですか」
「私のご先祖様の祖国にはね」
中尉は大学生に笑って話した。
「それでもね」
「とにかくですね」
「あまりにも性格に問題があって」
「それで、ですか」
「人間としての評判は悪いから」
今も尚、というのだ。
「だから彼の名前はね」
「空母にもなくて」
「施設にあるのもそれ位だよ」
「そうした人ですか」
「能力は確かにあったけれど」
しかしという言葉だった。
「人間性がね」
「あんまりにもだったので」
「そうだよ、退任時誰も引き止めなかったし」
中尉は大学生にこの話もした。
「とかく評判が悪くて」
「元帥にまでなって功績があっても」
「今は船の名前にもなっていないよ」
施設としても僅かにしかない。
「世の中そうした人もいるんだよ」
「そういうことですか」
大学生は港にあるニミッツを見つつ中尉の言葉に頷いた、ニミッツは空母の名前になっている。だが彼の上官であるキングは確かに空母はおろか彼の名前を冠している軍艦は一隻もない。その理由を中尉から聞いて頷くのだった。
名前 完
2016・9・14
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