真剣で私に恋しなさい!S~それでも世界は回ってる~
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24部分:第二十話 由紀江の恩返し
第二十話です
ではどうぞ〜
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第二十話 由紀江の恩返し
2009年4月27日(日)
その日の夕方、大和達から連絡があって昨日の焼き肉のお礼に島津寮の一年が料理を振る舞いたいという連絡があった。バイク便で疲れた俺をモモとワン子が引っ張って連れて行かれた。
島津寮に行くと、既に料理は出来上がっていて、テーブルの上には旅館の食事のように様々な料理が並んでいて、小鉢まであった。
「お、お口に合うといいのですが……」
料理を作ってくれた一年生の黛さんは引きつった顔で言ってきた。顔怖いよ……
「……うまい」
「ほ、本当ですか!?」
「魚も新鮮だし、料理も手がこんでていいな」
「花造りも綺麗だな。なかなかの腕だ」
「はい、小さい頃から母上に教えられまして」
黛さんの料理はみんなに好評で、全員残すことなく食べた。食べ終えると、全員はお茶を飲んで一息着く。その一方でワン子はテーブルに頭を傾けて寝ていた。
「よく動いてよく食べ、眠くなったか」
「まさにワンコだね……」
その様子をモモは優しい笑みを浮かべて、モロは呆れながら見ていた。そんな和やかな雰囲気の中、キャップが話を切り出した。
「んで、俺達に話があるんだろ?後輩」
「は、はい……!」
「そういう目してるもんな。何か決意してる」
突然話しかけられて、自分の考えを見抜かれた黛さんは驚いた顔をする。
そしてその直後、また顔が強張ってしまう。
「不眠症か?寝られるようにしてやろうか?」
「そ、そ、そーいうのではなくですね」
「!そうか、すまねぇな」
「え?」
「彼氏が欲しいってなら俺様は年下専門外なんだ」
「いきなり何勘違い発言してるんだお前バカか」
「バカでしょ」
「元からな」
「そうだった、ははは」
「辛い世の中になってきたな……」
ガクトは俺とモモと京の言葉に打ちひしがれた。そして俺の横ではワン子がうつらうつらと眠そうにしていた。
「おい、人の話は聞かないとダメだぞ」
「!?わ、ちょ、やっ、スースーするっ…」
大和がリップクリームを取り出してワン子の目の下に塗って起こす。
「容赦ないなお前達は」
「友達だから何を言っても、何をやっても許すのさ」
「大和わりぃ、借りた携帯ゲーム、データ消えた」
「ははは、俺の労力分を賠償してくれればいいよ」
「おい!全然友達な風に見えないぞ!」
「や、やっぱりいいな!」
俺達が色々話している中、黛さんが突然叫んだ。俺達は『何が?』と、黛さんを見る。
「……その空気が、凄く、いいですっ……あの、あの……あぅ……」
「まゆっちGO!ここは天下分け目だぜ!」
「うん、石田三成みたいな気分で行くね」
なんで負ける側?てか、腹話術か?
「この一年生大丈夫?1人でブツブツ言ってるよ」
「いつもの事ではある」
「マジマジ見ると面白いな。しばらく観察しようぜ」
キャップがそう言うのでとりあえず観察する。
「ああ、なんか小さい動物を見てる気分だ。めんこいかつ、それをこうムチャクチャにしたい」
「危険だなぁ」
「他人事を。お前にもそう思う事あるぞー弟よー」
「恐ろしい事を言われてしまった」
頑張れ大和……
「……すぅーはー……よし、言います……お願いします!!!」
いきなり黛さんは頭を下げた。あまりに突然だから、俺達は驚いてしまった。
「私も、皆さんの仲間にいれてくださいっ!!皆さんと一緒に遊びたいんです!あの、私、ずっと友達いなくて……それで……それで……今度こそ友達をって思ってこっちに出てきて……それでも作れなくて……そこで、皆さんが楽しそうにされていて……私も、仲間に入れたらどんなに楽しいだろうって……だからお願いします、仲間に入れてください!私、食事作れます!掃除も自信あります!体力も人並にはあります!だから……だか……ら……私を……仲間に入れてはくださいませんかっ!!!」
黛さんこと、黛由紀江は一気にまくし立てた。不器用だけど思いは伝わった。目の輝きは真剣そのものだ。皆が顔を合わせて視線で会議する。
(どうするの?)
(入れてやれば?こんなに頼んでるし)
(私は反対。これじゃ際限なく人が増える)
(とりあえずここは俺に任せてくれ)
というわけでキャップに委ねることにした。
「黛由紀江さんだったっけ」
「は……はい!」
「今のままじゃ、仲間には入れられない」
「……あ」
「仲間ってのは基本的に対等なもんだろ?土下座みたいな真似して、何でもするから入れて!とかでも入るもんじゃないよな。普通に“面白そうだから私もいれて”で、いいぜ」
「あ……!お、面白そうだから私も入れてください!」
「断る」
「はぁぁぁうっ!?ばたり」
バッサリと断った黛さんはそのまま倒れてしまった。
「鬼かアンタは!」
「ハハハ冗談だよ。冗談。これかr」
ガシッ
突如、キャップは顔を悠里の手で掴まれる。
「ゆ、悠里……?この手は一体……」
「言っていい冗談と……」
メキメキメキ!
「悪い冗談があるだろうがボケェ!!」
「イデデデデ!?割れる割れる!!」
バタバタとキャップは暴れるが、その力は一向に弱まらなかった。天城悠里お得意のお仕置き技『アイアンクロー』は今まで百代やワン子ならず、メンバー全員がその威力を体験済みだ。特に川神姉妹は後ろでガタガタ震えていた。
一分後……
「ふう……マジでやばかったぜ……」
「でも今回はキャップが悪いよ」
「冗談だって。大体、悠里は……」
「あ゛?」
「スンマセンでした!!」
ガバッ!とキャップは土下座する。もはやファミリーのキャップの威厳はないが、これは日常的なものだ。力でも百代より強いし、なにより常識もきちんとわきまえている悠里はファミリーの矯正には適任であった。故に兄貴分なわけだが……
「で、では、その…私も仲間で……い、いいのですね」
「ああ!いいぜ!」
「……うぅぅぅ〜〜……嬉しい…ありが”とうござ”ま”す”っ」
「なんてオーバーな……」
そんなに泣かんでもいいだろ。
その後、由紀江のあだ名は『まゆっち』ということに決まった。それと、モモの拳を全て避けてみせた辺りは流石は剣聖黛十一段の娘だな。
「あ、あの……悠里さんのお父上は天城琉聖さんでは……?」
「あ……そうか。俺の父さん黛十一段と戦って引き分けたんだよな」
「はい……父上から常々伺っていました。とても才能に満ちた良い青年だったと……」
「ん……?悠里の父上はそんなに凄いのか?」
俺の父さんを知らないクリスが聞いてきた。
「凄かったらしいぞ。腕は川神院の師範代クラスの実力を持ち、さらには黛十一段と同等の剣の腕までもっていたそうだ」
「そうなのか……ん?『だった』……?」
「父さんは死んだよ、俺が三歳の時の脱線事故でな。母さんも一緒に」
「……!すまない……また余計なことを……」
「いいよ。もう昔の話だからな」
俺は特に気にせずに話を打ち切った。この日は解散し、新しい仲間としてまゆっちが加入することになった。
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最近ハマった「銀の匙」が漫画賞を受賞。
さすがは荒川先生。おめでとうございます
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