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真剣で私に恋しなさい!S~それでも世界は回ってる~

作者:navi
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11部分:第九話 小雪を救え



第九話です
ではどうぞ〜
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第九話 小雪を救え


俺達はユキの家の前にいる。以前に送り届けた道の近くで、冬馬達から住所も調べたから間違いなかった。日曜日ということだから2人とも家だろう。


「とりあえずどうやって助けるかだな」

「まずは母親と説得できればいいけどな……恐らく無理だな」

「門前払いがオチだね。一度小雪を外に連れ出してみるのは?」

「聞く耳があるか微妙だな……とりあえず、まず会ってみるか」

そう言って俺はインターホンを鳴らした。だが反応がない。車はあるし、留守の筈は無いのだが。


「居ないのかな……?」

「悠里、気配を見てみたらどうだ?」

「ああ」


俺はタカの目を発動させ、家の中の様子を探る。すると中に2人の人の気配を見つけた。一人はユキで、もう一人は恐らく母親だろう。しかし、何故出ないのか?と思い目を凝らすと、ユキの気が弱々しくなり、消える寸前までになっていた。


「マジかよ、オイ……!」


俺は扉に手を掛けるが、扉は鍵が掛かって開かなかった。


「モモ!蹴破るぞ!」


開かないとわかると、俺はモモを呼び扉を蹴破った。





小雪side

朝起きてリビングに行くとあの人がいた。イスに座って顔をテーブルに埋めている。仕事帰りで疲れたのだろう、何も言わず私は冷蔵庫へ向かう。中から牛乳を出してコップに注ぐと、それを持って部屋に向かおうとすると、あの人は立ち上がって私の前に立った。私はそれを避けよるように行こうとすると、肩を掴まれてそのまま投げ飛ばされる。牛乳の入ったコップが割れ、中身が床へ飛び散った。頭を打った私はその場で呻くが、私の上にあの人が馬乗りになって叩いてきた。


痛い

痛い

痛い


もう何回、こんな事があったかわからない。無抵抗な私をあの人は何回も何回も叩いたり、殴ったり、蹴ったりした。いつもは少ししたら終わる筈だったが、今日は違った。
あの人は私の首を掴むと、その手に力を入れた。
息ができなくて苦しくなり、あの人の腕を掴むが、向こうは大人。力の差で負けてる私がその手を解かせる事はできない。段々と力が入らなくなり、あの人の顔が映った。光の無い目であの人は呟くように言った。


「あんたさえ……あんたさえ居なければ……」


この時、私は知った。あの人は私を愛してなんか無かった。
それを知った瞬間、私は力が抜けていくのが感じた。
苦しみも、痛みも、辛さも……
今までいい事は何もなかった。なら、このまま死んだ方が……


辛い

苦しい

痛い

死ぬ


『握手だよ、握手。友達の印』


……え?


『俺は天城悠里。君は?』

『また来ればいいよ。また来て、一緒に遊ぼうぜ?』


あの言葉を聞いたときは、本当に嬉しかった。見ず知らずの自分を認めて、友達と言ってくれた。


死ぬ

死ぬ?

嫌だ

嫌だ嫌だ

嫌だ嫌だ嫌だ!


まだ終わりたくない、まだ死にたくない!もっと話して、もっと遊んで、もっと知って、他のみんなと仲良くなって……まだやりたい事がたくさんある。
こんなところで終わりたくない!


「た、……け……う、」

助けて、悠里……


遠のく意識の中、最後に聞いたのは、扉が壊れる音だった。





悠里side

俺はモモと扉を蹴破ると、急いでリビングへ向かう。
タカの目を発動させた時に家の内部構造を把握した。迷いなくドアを開ける。
最初に目に入ったのは、女性がユキに馬乗りになり、首を締め上げている光景だった。


「やめろォォォ!!」


俺は女性を殴ると、ユキから離させる。離した後に女性を押さえつける。


「なにやってんだよ!?アンタは!!」


ユキの母親を見ると、母親は焦点の定まらない目をしていた。


「悠里、大変だ!」

「なんだよ!?」

「ユキの……息が、ない……!」

「……っ!?」


モモの言った言葉に俺の思考が一瞬停止したが、すぐにフルで活動させる。


「大和!すぐに救急車と警察に連絡しろ!キャップとガクトとモロはコイツ押さえてろ!」


俺は母親から離れると、ユキに近づく。胸の真ん中に手の付け根を添え、両手を重ねて強く押す。


「死ぬなユキ!戻ってこい!!」


一定の回数を押すと、口を開き人工呼吸で酸素を送る。それが終わると、心臓マッサージを繰り返す。


「まだ友達になったばっかりだろ!?また遊ぶって約束しただろ!?こんな所で終わるんじゃねぇよ!!」

「ユキ!私と今度は遊ぶ約束だったろ!約束をやぶるなんて許さないぞ!」

「まだアタシとの勝負もついてないんだからね!ここで逃げるなんてズルいわよ!」

「私もユキと話すことたくさんある……!だから、戻ってきて、ユキ!」


みんなが思い思いの言葉をユキに向けていく。俺は心肺蘇生を必死に続けるそして、


「……ん」


ピクッ、と指が動いた。そして俺達はユキの顔を見る。


「ユキ!俺がわかるか!?」

「う……悠里……?」


ユキは目を開くと怠そうに口を開いた。蘇生は成功したようだ。


「よかった……一時はどうなるかと……」

「あれ……?なんで…みんなが家にいるの……?」

「みんなで迎えに来たんだよ。とにかく、無事でよかった」


ユキが無事だとわかると、みんなは安堵の表情を浮かべる。まずは一安心だ。


「もうすぐ救急車が来るから、ユキは大人しくしてような」

「うん……」

「あとは……「うわ、こいつ!」」


声の方向を見ると、ユキの母親がガクト達の拘束を抜けてこっちに向かってきていた。その手には包丁が握られており、その包丁はユキではなく、モモへ。


「危ない!!」


俺は咄嗟にモモを突き飛ばし、モモのいたところに割って入る。直後、脇腹に熱い激痛が走った。





百代side


「危ない!!」


悠里の声と同時に私は突き飛ばされると、その横をユキの母親が通り過ぎる。母親は悠里と一緒に壁にぶち当たるが、悠里がそれを振りほどき床に倒れた。


「悠里、大じょ……」


そこで私は声を失った。悠里の脇腹に、包丁が刺さっていた。悠里は足に力が無くなったように膝を着く。包丁からは血が流れ出していた。それを見た私の中には、怒りが広がった。


「お前ェェェェェェェェェェ!!」


馬乗りになり、母親の顔を殴る、殴る、殴る。骨が折れようが、痣ができようが、血が出ようが、殴り続けた。


「よくも、よくも悠里を……!!」

「オイ、モモ先輩!それ以上はマズいぜ!」

「落ち着いて!お姉さま!」


流石にやり過ぎと感じたガクトとワン子が止めに入るが、止まる気にはならなかった。


「離せお前達!邪魔するなら「……モモ」!?」


今にも殴り掛かりそうな勢いのその時、悠里が私を呼び、私は慌てて駆け寄った。


「悠里!お前なんで……!」

「モモ……怪我、なかったか……?」

「私はいい!それよりお前が……!」

「そっか…なら、いいや…」


こんな状況でも悠里はモモの身を案じていた。その言葉に私は涙を流した。


「あれ……?なんで、泣いて……んだよ。モモ……?」

「う、うるさい!泣いてなんかいない!」

「そうかよ……ぐっ!」


悠里は傷口を押さえるが、血は止めどなく流れていた。私はもう一つの手を握る。


「頑張れよ悠里……!もうすぐ救急車が来るからな!」

「悠里……」

「わかってるよ……少し、寝る……だ、け……」

「寝るなバカ!きちんと起きてろ!!」

「ああ……」

「悠里!おい!!」


悠里が力無く答えると、家に救急隊や警察が大勢入ってきて、悠里とユキはそのまま病院へと搬送された。
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続いて第十話です。

ではどうぞ〜
 
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