永遠の数字十五
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第三章
「私達の知らない名前ばかりだし」
「背番号まで言えるなんてね」
「控えの人達やピッチャーの人達まで」
「凄いわよ、本当に」
「神がかってる域よ」
「これ位普通でしょ」
千佳はあっさりと言い返した。
「カープファンなら」
「相当コアな、ね」
「というか凄い記憶力ね」
「千佳ちゃん確かにもの覚えいいけれど」
「今のは正直引いたわ」
「物凄いわよ」
「そうかしら、けれどお兄ちゃんのことにお話戻すけれど」
あらためてだ、千佳は彼女の兄の話に戻した。
「背番号十にこだわり過ぎよね」
「だからそれあんたが言う?って言ってるの」
「お兄さんのこと言えるのってね」
「本当に一緒じゃない」
「何処がどう違うのよ」
「だから私そこまでしないから」
千佳は自己認識を最初から忘れて発言を行った。
「験担ぎにしても」
「下着は赤でも?」
「わざわざ新品着けてきても?」
「それでもっていうの?」
「お兄さんと違うって」
「そうよ、絶対によ」
腕を組んで言い切った。
「あそこまでの験担ぎは流石にしないから」
「じゃあ鞄のアプリコット何?」
これまでとは別の友人が言ってきた、千佳の机の横にかけてある彼女の布製の鞄を見ての言葉である。
「十五って赤いの刺繍してあるけれど」
「ああ、あれ?」
「あれ千佳ちゃんが自分でやったのよね」
「ええ、そうよ」
「十五って何よ」
「決まってるじゃない、黒田博樹様の背番号よ」
千佳は何でもないといった口調で答えた。
「引退して永久欠番になった」
「何でその数字を鞄にやってるのよ」
「決まってるじゃない、黒田様のお心を常に忘れない為よ」
千佳の返事は当然といったものだった。
「あの気高いお心を、そして来年もね」
「黒田さんを忘れないで」
「カープが連覇する様にってね」
まさにというのだ。
「そう思ってるのよ」
「やっぱり一緒じゃない」
ここまで聞いてだ、この友人は千佳を呆れた目で見つつこう返した。
「お兄さんと」
「そう?」
「ええ、カープ愛が凄すぎてね」
熱狂的なトラキチの兄と、というのだ。
「もう一緒にしか思えないわ」
「そうかしら」
「もう少し自分を振り返ったら?」
遂にこうまで言われた。
「本当にね」
「何か嫌な言い方ね」
「だからお兄さんのこと言えるかって言うの」
そのトラキチぶりをというのだ。
「あんたも何処までカープ好きなのかってね」
「だから私の全てよ」
「お兄さんもそう言ってるでしょ」
「ええ、阪神こそが人生だってね」
「じゃあ一緒よ、というか優勝したのはいいとして」
このことは祝うが、というのだ。
「今年もそんな調子でいくの」
「というかカープなかったら」
それこそとだ、千佳はまた言った。
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