夏休みが終わって
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第四章
「さもないとすぐに落ちるからな」
「野球の成績がですね」
「ああ、だからな」
「お父様も練習ですね」
「そうだ、そこは詩依のピアノと同じだ」
娘がしているものに例えても話した。
「そこはな」
「練習しないとですね」
「ああ、すぐに落ちるんだ」
「野球もですね」
「そうだ、だからな」
「お父様も頑張っていますし」
「詩依もだぞ」
娘の頭に大きなごつごつとした手をやってだ、励ましてだった。一家で朝食を食べてからだった。朋子は詩依をスクールバスに乗る場所まで連れて行った。歯磨きと顔を洗わせることも忘れなかった、そしてだった。
未森はジャージに着替えて準備体操の後でランニングに出た、九月になってもまだ暑い。だが心地よい汗をかいてだった。
ランニングの後素振りを三百してからだ、未森はシャワーを浴びた。そのうえで娘を送ってすぐに家に帰ってきていた妻に言った。
「今日も行って来るな」
「お昼御飯の後で、ですね」
「ああ、そして打って来る」
妻にも微笑んで言った。
「二学期も頑張る詩依の為にもな」
「ホームランをですね」
「ああ、しかし増えたな」
ここでだ、未森はリビングに飾ってあるトロフィー達を見た。そこには彼が今まで獲得した賞のものもあったが。
詩依がピアノで獲得した賞もあった、その娘の賞を見て言ったのだ。
「詩依のものがな」
「そうですね、本当に」
「そのうちあの娘のトロフィーの方が多くなるかもな」
笑みを浮かべて言った、娘のことを思いつつ。
「いい娘だな」
「そうですね、だからこそですね」
「今日も頑張って来る」
「あの娘も頑張ってますし」
「そうしてくるな」
こう笑顔で言うのだった、そしてだった。
未森は栄養バランスのいい大量の昼食を食べてからだった、球場に向かった。二学期のはじまりを迎えた娘の為に頑張ろうと。
だがここでだ、球場に出る時に妻にこんなことも言われた。
「夏休みにでしたね」
「ああ、あの娘もな」
「遂に」
「あれが来たな」
「もう五年ですから」
小学五年生になったからだというのだ。
「もうそろそろと思っていましたら」
「来たな」
「あの娘も成長しています」
「そうだな、女の子が女の人になるんだな」
「これからは」
「その成長も見守りたいな」
「そうですよね」
家を出る時も娘の話だった、二人にとってはかけがえのない存在であるが為に。
夏休みが終わって 完
2017・1・26
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