世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
なのはStrikerS ~さらなる脅威~
地上本部跡地
起動六課ライトニング隊副隊長、烈火の将シグナムは、リィンフォースⅡを従えて、ある人物の背後に立っていた。
その人物の名は、レジアス・ゲイズ。
二人の秘書を連れて、崩れた自分の部屋のデスクに手を当てながら、何かに思いを馳せていた。
「・・・・・何か用か?」
と、そこでレジアスがシグナムに振り返らずに聞いた。
別段隠れていたわけでもなく、シグナムは普通に後を付けて姿を見ていただけだったので、気づかれるのはおかしなことではない。
「・・・・・・いいえ、特には」
「そうか・・・・・貴様はゆりかごの方に行かなくていいのか?」
「頼れる仲間が、いますので」
シグナムが答える。
そこで今度はリィンがレジアスに質問した。
「公開意見陳述会の時、私とヴィータ副隊長はここの空で一人の騎士と交戦しました。騎士の名は、ゼスト・グランガイツ。書類上、既に故人とされている人でした」
リィンの言葉に、二人いる秘書の内の一人が「え?」と驚愕の表情を浮かべる。
それに対し、レジアスは静かに振り返って聞いた。
「・・・・・それで?なんだというのだ?」
「そして、彼が死亡した事件に、あなたが少なからずかかわっている情報がありました。もしかして、あなたはあの騎士を、・・・・」
そこまで言ったリィンに、レジアスが何かを諦めたかのように天を仰いで言った。
「それは貴様にではなく、あいつに言わねばならんことだ・・・・・みっともない、言い訳をな」
「それは一体・・・・」
「言ってもわからん。理想だけを追い続けられる、貴様らのような若い者にはな・・・・だが、それをあいつに話し終えたとき、おそらくわしは・・・・」
「オレがお前に復讐すると?そんな風に思われていたとは、心外だな。レジアス」
「!!!!」
いきなり聞こえてきたその声に驚いて、シグナムが振り返る。
一方、特に驚きもせず、レジアスもゆっくりとそちらの方に振り返る。
そこには先日、ヴィータを落とした騎士がいた。
瓦礫の中を歩いて進み、ここまでやってきたのだろう。
傍らには融合機・アギトを従えている。
ゼスト・グランガイツ
表向きだけとはいえスカリエッティの協力者にして、レジアスの親友だった男が、黄泉より戻りて、ここに立つ。
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「デアボリックエミッション!!!!」
ドズォ!!!!
はやての空間攻撃魔法が、迦桜羅に向かって放たれる。
だが相手は空中を自由に飛び回す怪鳥。その攻撃範囲から悠々と逃げのび、旋回してから再びはやてに向かって突進してきた。
それをはやてはバリアを張って受け流し、息を荒くしてぐらりと揺れた。
もうこのような攻防を幾度となく続けている。
はやてはチャンスさえあればすぐさま攻撃魔法を向けるが、機動力ではあちらが完全に上だ。
なのはのように砲撃に優れていたり、フェイトのように高速戦ができるならばまだ違ったろうが、はやての主力魔法はあくまで空間魔法での殲滅攻撃。
まさに後方から指揮を飛ばし、止めの一撃を叩き込む司令官の立ち位置なのだ。
だが今はそうも言ってられない。
現状全局員はガジェットと交戦していて手一杯だし、そもそもこの迦桜羅とまともに交戦できる者などいないだろう。
だから自分がやるしかないのだ。
そうはやては思ってこの怪物を引き受けたのだが・・・・・
「あかん・・・・動きが速すぎる・・・・うちの魔法じゃ狙いきれん」
先ほども言った通り、やはりすべてはそこだった。
速い
ただそれだけのことなのに、あの大きな的に当てることすらできないのだ。
一方、あちらからの突進は、直撃こそしていないものの、魔法陣のバリアで受けて流すという対処しかできないはやては、徐々にその魔力と体力を削られていった。
「どうすればいいんや・・・・・このままじゃ・・・・・」
このままではこちらが墜ちる。
そうなってしまってはこちらの隊は総崩れだ。
指揮官の自分が落ちるわけにはいかないし、この怪物を、他の局員に向けてはならない。
その意地が、未だにはやてが墜ちないための柱だった。
「絶対に墜としたる。皆が踏ん張っているってぇのに、うちだけここでのらりくらりとやってられへんもんなぁ!!!!」
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「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
「ッ!?キャロッ!!!準備は!?」
「出来てる!!!行くよ、エリオ君、危ないから下がってて!!!!」
――天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者。竜騎招来、天地轟鳴、来よ、ヴォルテール!!―――
キャロの召喚に応じ、地面に現れた巨大な魔法陣から、彼女の最強の召喚、アルザスの守護竜「ヴォルテール」が召喚される。
しかし、なぜいきなりこんな状況になっているのか。
簡単である。相手もまた、究極召喚をしてきたからだ。
究極召喚「白天王」
それこそが彼女、ルーテシア・アルピーノの最強の召喚だ。
出てきた姿は・・・そう、ヴォルテールが「古竜」というならば、こちらはさしずめ「蟲竜」とでも言うべきか。
名前の通りに白い体躯、硬質な外骨格、それを支える筋肉、半透明の膜状羽は昆虫を思わせ、人型に近い体であり、ヴォルテールと肩を並べるほど大きい。
そして召喚から数秒が経ち
二竜が一気に激突した。
大地を打ち鳴らし、大気を揺らし、遠いゆりかごまで響いてるのではないかというほどに大きな咆哮をあげて、地上に立つ巨竜二体は拳をぶつけ、衝突した。
その一撃で地割れが起き、胸部からの砲撃や、口部からの火炎で周囲のビル群がなぎ倒されていく。
蒔風が言ったことは正しかった。
これは災害である。
これはただの大きな力ではなく、自然の猛威なのだ。
いくら大きな力を持とうとも、星の息吹にかなうはずはなく、それに対抗しうるのは、同じく星の力を受けしモノだけ。
しかし、その白天王の動きがどうにも荒い。
と言うのも、動作がいちいち大きいのだ。
殴る際には無駄に振りかぶり、魔力砲を撃つ際にはわざわざ最大まで溜めてくる。
明らかに常軌を逸した攻撃。
ただ「白天王」という巨大な力を使っているだけの動作。
武器を持った人間が、むやみやたらとそれをぶん回しているようなものだ。
もしこれが、ルーテシア本人による召喚で、本人による意思疎通だったならば、こうはならなかっただろう。
的確な攻撃、適度な威力を以って、ヴォルテールを押し込み、そして勝利していたに違いない。
あまりにもあっけなく、絶望的なほどに。
しかし今の彼女は「ルーテシア」ではないのだ。
洗脳による司令塔。ただそれだけの存在となっている彼女に、白天王を操りきることなど不可能に決まっていた。
絶大な信頼を寄せ、常時自立行動を許可しているガリューであればまだ大丈夫であっても、白天王などという、切札にしか召喚しない物は、暴走させてしまうのがオチである。
むしろ逆に、白天王からルーテシアに対する警告やエラー、力の逆流で、ルーテシアの脳がパンクし、回路が焼き切れ廃人になってしまうかもしれない可能性まである。
「エリオ君!!このままじゃ!!!」
「くっ・・・・一体どこまで・・・・・・誰かを利用すれば気が済むんだ、スカリエッティ!!!!!」
ドゴォ!!!!
エリオの渾身の斬り払いに、ガリューがその装甲にひびを受けながらビルの屋上に激突して埋まる。
ガリュー自身も当然、強化されている。
しかも今は白天王から受ける負荷で暴走したルーテシアによって、過大な強化までされているのだ。
全身からは血を流しながらも棘が生え、全身の武装を強制解除されていた。
それにもかかわらず、エリオはガリューに肉薄、否、それどころか善戦していた。
全身から電流を迸らせ、総ての身体能力を底上げするという、模擬選の時に蒔風すらをも一時的に焦らせたエリオオリジナルの強化魔法で、此処まで追いつめてきていたのだ。
「ガリュー、君はそれでいいのか!!!??君の主が、あそこで苦しんでいて、それを助けられなくて悔しくないのか!?」
そのエリオが、ガリューの落ちたビルに着地し、全身の力を込めて叫んだ。
主を救ってやらないのかと、苦しんでるあの子を、助けてはあげないのかと。
無論、今ガリューを動かしているのは強制的なルーテシアからの命令で、それに逆らう事は、簡単に出来るものじゃないという事を、エリオはよく理解している。
だが、それでも彼は言った。
思いのままに、その胸に想ったその言葉を。
「ルーテシアのことを想うなら、時には主の命にも逆らうんだ!!!あらゆる手段を使ってでも助けるんだ!!命を懸けても助けたいんだろ!?だったら、ここで僕と戦ってる暇はないはずだ。あの子を助けたいのなら、僕らに力を貸してくれ、ガリュー!!!!」
自分よりも小さなその少年の言葉。
その言葉に、ガリューが今までの攻撃すべてよりも、身体の奥に何か一撃を叩き込まれた気がした。
そして、咆哮を上げる。
全身の関節の節々から血が噴き出し、腕を掻き毟ってその武装をはぎ落とす。
そうして眼の色は赤く、一つの意志と、使命に灯った。
「・・・・・・行くよ、ガリュー。白天王はキャロが押さえてくれている。その間に僕らでルーテシアを捕まえて、まずは一旦の落ち着かせるんだ!!!」
「ガアァ!!!!」
ダンッ!!と地面を抉って二人が跳躍し、ルーテシアへと向かう。
二竜の嵐を掻い潜り、ひとりの少女を助け出すために。
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「ヴォルテール!!抑え込んで!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
低いうなり声をあげて、ヴォルテールが暴走している白天王を、力任せに抑え込む。
白天王からは絶えず魔力砲や拳、蹴りなどが放たれてくるが、ヴォルテールはそれに耐え忍んでいた。
主の指示に従って、その全身全霊を以って押さえつけている。
彼もまた、目の前の少女を救うために。
そうして、ガリューとエリオがルーテシアもとにたどり着く。
場所はまた別のビルの屋上。そこでルーテシアは叫び声をあげていた。
「う、うあ・・・・・・アアアアアアア!!!」
そのルーテシアは今、頭を押さえて暴れまわっている。
全身からは魔力を吹き出し、額には青筋が浮き、頭を抱えて振り続けているのだ。
おそらく、全身に激痛が走っており、それをやめようとも洗脳によってやめられず、延々と苦しんでいる状況なのだろう。
そのルーテシアを見て、エリオがつらそうな顔をする。
と、その隣にキャロが降りてきた。
「ヴォルテールは?」
「白天王を押さえてくれてる。あんまり時間はないよ」
「うん・・・・」
そう言って、手をつないでルーテシアのほうへと歩いていく。
魔力の渦が襲いかかり、時折魔法弾となって飛んで来もしたが、それはガリューがすべて弾いてくれた。
しかし、その魔力の渦で二人は横から押されたようによろめき、更には薄い切れ込みが足や腕、頬にも入り、うっすらと出血していく。
それでも二人は止まらなかった。
まるでそんな障害など、何一つとしてないというように。
そうして、二人がルーテシアのもとへとたどりつく。
世界に置き去りにされてしまった少女を助けるために、二人はその手を取って、強く握りしめた。
「大丈夫・・・大丈夫だから。私が制御を受け持ってあげる。あの子をこれ以上、苦しめないであげて・・・・」
「今まで一人で何もかも背負い込んで、大変だったと思う。でも大丈夫。君のお母さんも、友達も、全部一緒に、守ってあげるから!!」
「う、ああああああ!!!あああ!!あああああああああああ!!!あ・・・・ああ・・・・」
キャロがルーテシアのデバイス「アスクレピオス」に触れて、白天王の制御の補助を始める。
こうすることでルーテシアの負荷を下げ、彼女の暴走を止めていくのだ。
それと同時に、彼女の洗脳も解いていく。
早くから封印魔法などの才覚を発揮していた彼女なら、この程度の洗脳を解くことなど、造作もないことだった。
癒しの魔法
キャロの魔法は、最後まで優しい魔法だった。
そしてエリオが、身を以ってここまで来てくれたのだ。
自分のために動いてきてくれる人がいる。今までそんなのは虫たちしかいなかった。
徐々に正気を取り戻していくルーテシアは、それを何というかわからなかった。
いったいどうして、彼らは自分のために涙して、怒って、ここまで身を賭してくれるのか。
「そんなの、簡単なことだよ」
「友達に、なりたいからですよ。ルーテシアちゃん」
「とも・・・だち・・・・・・」
「相手の目を見て、しっかりと名前を呼べば、その時から友達だって、教えてくれた人がいるんです」
「僕たちは、逃げない。そんな弱いことはしない。ここまで強くなったのは、誰かを助けてあげたかったから。だから、助けに来たよ」
「う・・・・うあ・・・・・でも・・・・・おかあさんが・・・・・」
「大丈夫。今、その人を助けに、私たちのとっても頼もしい人が戦っているはずだから」
気づいたら、白天王はすでに召喚を解かれていなくなっていた。
それに伴い、ルーテシアも緊張の糸が切れたのか、はたまた体力と魔力切れによる疲れか、パタリと倒れこんでしまった。
「お、終わったぁ~~~~」
「本当にヴォルテール級とは思わなかったよ・・・・・」
「あとはティアナさんたちだけだね。すぐに行こう、キャロ!!」
「うん!!あ、でもルーテシアちゃんどうし・・・・・・・」
フシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
「!?」
「な、なに!?」
「まずい!!二人とも、逃げんよ!!!!」
と、そこで今まで黙っていた白虎が人型に現れ、二人を担いでそのビルから跳んで逃げる。
ルーテシアのほうはガリューが抱えて行った。
そうして、少し離れたビルの上で、声のした方を向く。
そこには紅蓮に燃え上がる断罪者の姿があった。
最初からすでに立ち上がり、その尾を手に持ち炎剣として振るう者。
サラマンドラが、二人を視界に収め、殺気を炎とともに放ってきた。
「あ、あれは!!!」
「確か、地上本部を切り倒した怪物・・・・」
「ヴォルテール!!!お願い!!!!」
その化け物に一瞬引きながらも、キャロがヴォルテールに指示を飛ばす。
彼ならば、いかなる敵であろうとも負けるわけがない。そういった考えで、キャロは信頼を以ってヴォルテールを、向かわせた。
が
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ギャアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
サラマンドラのふるった炎剣が、ヴォルテールの胸を横一文字に切ったのだ。
幸いにして切り込みは浅く、まだ戦闘不能というわけではないが、あのヴォルテールにいきなり一撃を入れてきたのはどういうことなのか。
それはサラマンドラの有り方に所以がある。
サラマンドラの役目は「断罪者」である。
そして、命あるものはどんなに小さくとも「罪」を持って生きているものだ。
それはヴォルテールとて同じこと。
元が自然だろうとなんだろうと、命があれば罪があり、罪があるならば、サラマンドラは切り裂くことが可能なのである。
「ッ!!ガリュー!!今から言う場所に、僕たちをここまで運んできたヘリがあるから、ルーテシアをそこまで運んで!!」
「ヴォルテール!!大丈夫!?いける!?」
キャロの声に、高々と咆哮を上げるヴォルテール。
いまだ戦意は衰えず、眼前の断罪者をにらみつけている。
ガリューがエリオの教えたポイントに向かい、ルーテシアを運んでいき、キャロがヘリに連絡して彼女の保護を頼んだ。
それを見届けてから、獣神体と変わった白虎にエリオが、フリードの背中にキャロが乗って、ヴォルテールと並んでサラマンドラと対峙する。
「二人とも!!準備はいい!?」」
「はい!!行くよ!!キャロ!!!」
「うん!!」
敵は紅蓮の断罪者。
白虎は前回戦って、朱雀とともになんとか勝った。
しかし、その朱雀は今はいない。
代わりにいるのは、頼もしい力を持った、一人の騎士と、竜召喚士。そして彼女のしたがえる二竜。
ならばよかろう、十分だ。
相手にとって不足なし。
今度は余裕で、勝たせてもらおう!!!
「余裕で勝って、みんなのところに行こうか!!」
「「はい!!!」」
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「スバル!!そこッ!!!」
「振動破砕、振動拳ッッ!!!!」
ドォン!!!
スバルの一撃に、ついにチンク・レプリカが沈黙する。
ティアナが合流してから五分後には追い詰め、こうして残りはセイン・レプリカ一体のみ。
しかし、朱雀が言うには、ここからが大変だという。
「そういえば・・・どうしてあれには触れちゃいけなかったんですか?」
「ええ・・・・・それはですね・・・・・」
朱雀が説明し始めた。
それはティアナがまだ応援に来ておらず、最初にセインと戦っていたとき。
三体がスバルに向かい、自分のところに一体のみ。
朱雀は当然、まずいと思っていた。
しかし、最初こそ突破するのは簡単だと思っていた。
相手は一体だし、最悪、いや、最善ここで倒していってしまってもいい。
それに相手はセインだ。攻撃は五体による徒手空拳のみ。
いったいそれであそこまで手こずるなんて思う者がいただろうか?
朱雀は軽くあしらってからセインをまいていこうと考えていた。
だが、そんなことは簡単にいかないと、瞬間一発で悟った。
朱雀が人神体状態で、朱雀槍をを突き出し、セインに牽制してからそこを通過しようとする。
しかし、セインは全く動かなかった。
そして槍がズプリとその胸に「入っていった」
「刺さった」のではない。「入った」のだ。
IS「ディープダイバー」
それをこのように使用してくることなど、セインはしてなど来なかった。
こんなことをしてもあっちの攻撃は通らないが、こちらの攻撃も通らないからだ。
いや、そもそもこのスキルは、無機物にしか通じないものだ。
つまりはしても無意味だということ。
しかし、こいつは違う。
そのままスッ、と腕を朱雀の胸に突き出して、通過させるセイン。
「?・・・・・ッッッ!?オオオオオオオオオッッッッ!!!!!」
そして直後、朱雀が悲鳴にも似た雄たけびをあげて、弾かれたようにセインから後退した。
胸を見るとその部分の服は千切れており、まるで無理やり何かを突っ込んで破れたようになっていたのだ。
「これは・・・・・・かなり厄介ですね・・・・・」
セイン・レプリカがしたこと。
それは自分のいた場所の物質を押しのける、ということだ。
もしオリジナルのセインが壁に潜っているときにISを切って出現したらどうなるか。
そうすればおそらくは壁に押しつぶされて、セインは壁の中で圧殺という面白い死体になっていただろう。
だが、このレプリカは「欠片」が元だ。その強度はオリジナルよりも上。
つまりこいつならば、壁の強度の負けることなく、逆に壁という物質を押しのけて破壊することが可能なのだ。
これが朱雀が手こずった理由。
決して触れてはいけないという理由だった。
「相手は近づいてくるだけです。そして体が重なった瞬間、実体化するだけでその部分を抉り取る。そんな相手に、肉弾戦ができますか?」
「そんなの・・・・反則じゃん・・・・・」
「しかもこちらの攻撃はすべて素通りなんですよね?いったいどうすれば・・・・・」
だがそこで朱雀が人差し指をあげて策を言う。
「方法が・・・・ないわけではありません」
「ホントですか!?」
「はい。最初はティアナさんにとどめを刺してもらおうと考えてましたから」
「私にですか?」
「はい。ですが、ティアナさんはまだあれを一発で殲滅するほどの砲撃魔法は持ち合わせていません。ですから最初に考えた案はなしになりました」
「最初の・・・ですか?」
「・・・・・私が獣神体で突貫し、あいつが体内で実体化した瞬間をお二人に攻撃してお任せする、というものです」
「そんな!!!」
「しかし、それは言った通りの理由でできません。いや、こういうのもなんですが、助かりましたよ」
「そんな笑いながら言われても・・・・」
「ですので、第二案です。まあ、これも変わらないのですが・・・・」
「ど、どんな・・・・・ですか?」
「あいつが実体化するタイミングは・・・・・・一回食らっただけですが何とかわかります。だから」
「あえて体を素通りさせて、攻撃の一瞬を回避してその隙に攻撃・・・・・ですか?」
「そのとおり」
その提案に、ティアナもスバルも血の気が引ける。
一瞬間違えば、間違いなく致命傷。良くても戦闘続行は不可能だろう。
しかし、反論しようにも、今はその手しかないのも事実。
さらにそれを実行する朱雀のプレッシャーはいかほどのものか。
「いきますよ・・・・なぁに、ティアナさんの先読みと、スバルさんの一撃があれば、すぐに終わります」
そう言って無理やりにでも笑いかける朱雀。
正念場は、ここからだ。
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ゆりかご内の前方。
そこに向かって、なのはと蒔風は進撃していた。
その過程でガジェット群が飛び出してくるが、正直言って話にならない。
AMFが働いていても、それはなのはに聞くというだけのもので、蒔風には何の縛りにもなっていないからだ。
蒔風が剣を投げ、薙ぎ、突き、ガジェットを鉄クズにしながら、その後をなのはが追う。
「うっとーしいな!!こいつらは!!!」
「舜君!!一人でやってて大丈夫なの!?身体の方は・・・・」
「ここでお前が砲撃撃っていく方がややこしくなるっての。ただえさえ魔力食う場所なのに、そんなことに力注いでる場合じゃないだろうが」
蒔風が後ろから聞こえるなのはの言葉に応えながら、なおもガジェットを撃破して先に進む。
そうしていて、どれだけのガジェットを倒したか。
ついに、到達した。
「ヴィヴィオッ!!!!」
「大丈夫か!?」
聖王の間
そう呼ばれる場所の最奥に、玉座が一つこしらえられていた。
そこにしばりつけられて座っているのは、幼き少女。
なのはと蒔風が助けに来たヴィヴィオは、ぐったりとしてそこにいた。
「・・・・・・なるほど・・・・あそこに鍵となる人物が座る事で「ゆりかご」は聖王を認識し、行動を起こしているのか」
「でも・・・ヴィヴィオは意識がないみたいだし・・・・」
「おそらく狡すっからい奴が指示だけをどっかから出してんだろ?車のキーと運転手みたいなもんだ。ほれ、とにかくあそこから引っぺがして、玉座を落とすぞ」
「うん!!今行くよ、ヴィヴィオ!!!」
そう言って走り出す二人。
しかし、玉座まで残り三メートルというところで、謎の衝撃に二人が打ち払われて弾き飛ばされる。
なのはには何が起きたのかわからないが、蒔風は肌に残る感覚で分かった。
「奴」の「欠片」だ。
だが何故ここにいる?
あれらはすべて地上本部に向かったはずではなかったのか!?
その疑問を残したまま、黒い影が玉座の裏から飛び出し、蒔風をひっつかんで玉座の間の後方まで連れて行った。
「舜君!!!!」
なのはが連れていかれる蒔風に手を伸ばすが、その瞬間、二人の目の前に巨大な壁が上下から出てきて、重い音を打ち鳴らして、二人を寸断した。
こうして、玉座の間は二部屋に分けられた。
後部に蒔風、前部になのは。
間には分厚い壁がそびえ立つ。
「くそっ!!後ろの扉も閉められてやがる・・・・・このまま俺らを各個撃破するつもりか?」
後部の蒔風が悪態をついて壁を殴る。
その音や力の浸透から、厚さは一メートルほどもある鉄板である事と解り、更に力を込めてそれを破ろうとする。
『あ~~らあらあら。そんなことをして、ここの敵をあっちになだれ込ませるきですかぁ?』
「!?・・・・・おまえは・・・・・」
と、そこに声が聞こえてきて、振りかえるとそこにはモニターに映ったナンバーズ04、クアットロがいた。
そこに映る彼女は眼鏡をかけておらず、目もつり上がってなんともキツイ顔に変わっていた。
「お~、怖い顔してんなぁ。でも付き合ってる暇はないんよ、元メガネちゃん。こっから先に進ませてもらうとするよ」
『それはいけませんわね。聞いてなかったんですか?「敵をあっちに送ってもいいんですか?」って』
「なに?」
クアットロのその言葉に呼応するように、床からズルズルと黒い影か現れてきた。
それは壁の方からも現れ、蒔風がバックステップで部屋の真ん中にまで下がる。
そうして最終的に、取り囲むように八体も出てきたのだ。
「・・・敵ってこれか?」
『ええ、そうです。あなたの足止めにこれ以上有効的な物はないでしょう?』
「・・・・・・随分と安く見られたものだな、クアットロ」
『あら?』
「この程度の「欠片」で、俺を止めるつもりだったとは、浅はかなこった」
蒔風が鼻で笑いながら嘲笑する。
だがそれをもってしても、クアットロは余裕の表情を崩さない。
それどころか、より恍惚な表情を浮かべ始めたのだ。
『キャははははは!!!そう思います!?思い上がってますね、翼人!!!これを見てもそう言えますか!!?』
クアットロがモニターの向こうで指を鳴らす。
すると「欠片」が姿を変え、一つ一つがヒトの形を取っていく。
黒いままのそのシルエットは、蒔風にとてもよく見覚えのあるものだった。
一体は小さな姿で小竜を従え
一体は槍を振るう少年の姿
一体は拳を構える少女で
一体は二丁拳銃のガンナーだ。
更に一体はポニーテールに剣を構え
一体はハンマーを肩に担ぎ
一体は鎌を手に握り
一体は魔導師の杖を蒔風に向けていた。
機動六課スターズ、ライトニング両隊の前線メンバー総勢八人。
その姿を模した「欠片」が、蒔風を取り囲んでいた。
『「あのお方」は愚かな妹たちの昔の記憶とやらを埋め込んで再現してましてね?だったら私が集めた機動六課のデータを埋め込んでもできるんじゃないかな~って思ったんですよぉ。あは♪やっぱぁり私ってばなんて天才でしょう♪』
「・・・・・・・・・三流が」
『ウフフフフフ・・・なんとでもいいなさい!!!今あなたを取り囲んで、追い詰めているのは間違いなく私!!!ドクターではなく、この私!!!あっはははははは!!このまま捻り潰して、ホルマリン漬けにして研究材料にして上げますよ!!!銀白の翼人!!』
クアットロがうっとりするような顔をして、蒔風に言い放つ。
そうして、そのすべての影が蒔風に向かって攻撃を仕掛けてきた。
to be continued
後書き
アリス
「にしてもまたヤバそうな展開ですね」
ええ。
迦桜羅に押されぎみ、サラマンドラは出てくるは、なんとセイン最強だったり、クアットロが「欠片」を利用してくるともりだくさん。
そんな中でついに旦那がこの小説に登場した!!!!
アリス
「いままで出てきてませんでしたよね?」
ええ、あくまでヴィータが交戦した相手としか出してませんでした。
だからもしかしたらわけわかんない人もいるかもしれません。
アリス
「どうするんですか?・・・・まさか・・・・」
アニメや情報をどうぞ!!!
Wikiなんかは結構詳しいよ!!!!
アリス
「来た作者得意の丸投げだーーーーーーーーーーーーー!!!!」
アリス
「次回、三流のレプリカ」
ではまた次回
ずっと心配してくれてたこと…よく知ってる。だから、今日もちゃんと帰ってくる。ヴィヴィオを連れて一緒に元気に帰ってくる!
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