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第三章

「何でこんだけ待たないといけないのかな」
「あと四百年ね」
「それだけ待たないといけないんだね、まだ」
「長いよ」
 四百年でもです。蛟は言うのでした。
「二十年も長かったのにまだ四百年もあるなんてね」
「まあそれでも待とう」
「四百年経ったら龍になれるから」
「だからね」
「うん、待つよ」
 結局蛟は待つしかありませんでした。こうしてです。
 蛟はそのまま湖で待つのでした。あと四百年です。諦めるしかなく待つしかないからです。
 そうしてそれからも歳月が経ちました。やがてです。
 蛟は大きくなりその身体も立派になってきました。そうしてです。
 湖の皆にです。こう言うのでした。
「今三百五十年だったね」
「うん、蛟さんが生まれてね」
「それだけになったみたいだね」
 湖の皆はかなり代が替わっています。皆蛟程長生きではないからです。
 それでお魚も亀もです。皆孫どころではなく本当に何十代も重ねています。けれどです。
 蛟はそのままです。遂に三百五十年経ったのです。そうしてです。
 その大きくなった身体で。こう言うのでした。
「後百五十年なんだよね」
「もう折り返しも百年過ぎたんだって?」
「五百年だから」
「うん、それだけだよ」
 その歳月を考えてです。蛟は述べました。
「百五十年待ったら」
「いよいよ龍になれるんだね」
「それから」
「うん、なれるんだ」
 希望を感じ取っている声で、です。蛟は言いました。
「やっとね。それだけなれるんだよ」
「じゃあ待とう。いいね」
「百五十年。まだまだ長いけれど」
「それでもね」
「これまで待ったんだ」
 その三百五十年、ずっと待っていたことを感じながら。蛟は言いました。
「だからあとそれだけ待つよ」
「そうだね。あと百五十年ね」
「待ったら蛟さんは龍になれるから」
「そうだからね」
「そうだね。龍になるよ」
 強い決意で。蛟も答えます。
「絶対にね。だからね」
「待とう、本当に」
「僕達の子孫がそれを見るから」
「そうなろうね」
「ここまできたらね」
 どうするかと。蛟も言いました。
「頑張るよ。あと百五十年ね」
「何かね。それも長いんだけれど」
「僕達は絶対に生きられないし」
「けれど蛟さんは生きられるからね」
「頑張ってね」
「長いけれどね。まだね」
 その百五十年はやっぱりです。蛟にとってもそうなのです。
 ですがそれでもです。蛟は言いました。
「頑張るからね」
「それじゃあね」
「僕達も子供や孫に伝えておくから」
「だから百五十年後ね」
「龍になってね」
 湖の皆は明るい声で蛟を励まします。そうしてでした。
 蛟は湖の底でその時を待つのでした。歳月はさらに経ちます。そしてです。
 遂にその時が来ました。百五十年経ったのです。
 五百歳になった蛟は。すっかり代替わりしている湖の皆に満面の笑顔でこう言いました。
「遂にこの時になったよ」
「うん、百五十年だね」
「蛟さん五百歳になったんだね」
「じゃあいよいよだね」
「あれになれるんだね」
「龍になれるんだ」
 湖の水面を底から見上げてです。蛟は言いました。 
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