冷えたワイン
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第七章
「わかったわね。それじゃあね」
「お店の中じゃ我慢しろっていうんだ」
「甘いものなら何でもどれだけでもいいわよ」
酒ではなくそちらにしろというのだ。
「わかったわね。それじゃあね」
「わかったよ。仕方ないなあ」
博之は渋々だ。麻里奈の言葉に頷いた。それでだった。
若い叔母を案内してそのうえでだ。店に入った。すると。
そこには青と白のメイド服、カチューシャまで付けたあの白ビキニの女の子がいた。麻里奈から見れば彼女は白ビキニの女子高生に他ならない。
その彼女が出迎えて来てだ。一礼してから言ってきた。
「いらっしゃいませ」
「はい、約束通り来ました」
笑顔でだ。博之が彼女に応えた。そしてだ。
麻里奈を左手で指し示しながらだ。こう言うのだった。
「で、この人がお話した」
「叔母様ですね」
「そうなんです。じゃあ」
「はい、席はこちらです」
女の子がだ。博之に応えてだ。
そのうえで二人を屋外の二人用のだ。白いプラスチックの席に用意した。前は夜の海だ。
夜の海からは潮風、それに波音が聴こえる。闇の中に見えるものは店の光に照らされる砂浜と海しかない。その他には何も見えない。
それを見ながらだ。麻里奈は言うのだった。
「外の席なの」
「夏の夜なんかこっちの方がいいって思って」
「そうね。博之君もわかってるじゃない」
「いや、あの人が教えてくれたんだ」
先程のだ。女子高生がだというのだ。
「親切にね」
「あの娘がなの」
「いい人でさ。色々と教えてくれたし」
「色々とね」
「そうだよ。メアドも教えてもらったし」
「そのメアド本物?」
「だよ。まあ俺湘南にいないからもう会えないかも知れないけれど」
それでもメールアドレスを貰ったことを喜んでいる博之だった。そしてだ。
二人でその席に座って注文した。博之は巨大パフェ、麻里奈は冷やした白ワインにチーズ、それにソーセージやクラッカーを頼んだ。そのうえでだ。
博之はその巨大パフェ、フルーツやアイスにチョコレート、とにかく甘いものをこれでもかと入れたそれを満面の笑顔で食べる。そして麻里奈は。
白ワインを飲みそうしてチーズを食べてだ。こう言うのだった。
「やっとね」
「やっとって?」
「バカンスに来たって思えてきたわ」
「それまでは何だったんだよ」
「ただ憂さ晴らしに飲んでただけよ」
本当にだ。それだけだったというのだ。
「面白くとも何ともなかったわよ」
「自棄酒だったんだ」
「そうよ。けれどそれもね」
「やっとなんだ」
「ええ。バカンスになってきたわ」
白いワンピースはそのままだ。砂浜にいた時と。
だが夜の潮風を浴びながらグラスの中の透明のワインを飲みつつだ。麻里奈は言うのだった。
「ようやくね」
「じゃあこの店に来てよかったかな」
「ええ、よかったわ」
満足している顔での言葉だった。
「ワインも美味しいし」
「ああ、本当に美味しいんだ」
「言うだけはあるわ。このワインは甲州ワインね」
飲んでだ。何処のワインなのかも言う麻里奈だった。
「甘くて飲みやすいわ」
「いいなあ。飲めて」
「だからお店で飲むのは二十歳からよ」
「ちぇっ、姉ちゃんは厳しいな」
「さて。一本開けたけれど」
もう開けた。あっという間にだ。
勿論それで満足する彼女ではなくだ。ここでだった。
「もう一本もらうわ」
「また飲むんだ」
「これまで飲めなかった分飲むわ。それでね」
「まだあるのかよ」
「バカンスはまだ二日あるけれど」
この日を入れてまだ二泊分ある。つまり二人は四泊五日の国内としては中々長いバカンスを取っているのだ。全て麻里奈がニースに行く為に取った時だ。
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