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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督はBarにいる×プレリュード編・その2

「……執務室?」

 そう、最早お馴染みウチの執務室兼店舗。このリアクションが見たいからこそ、執務室を改造している所が無い、とは言い切れない。

「さぁ、入った入った」

 怪訝な表情の2人を室内の中央に立たせ、俺は執務机のスイッチを押す。ガシャガシャとトランスフォームしていく部屋に唖然としている帆波大佐と叢雲。やがて変形が終わった所で、着替えを終えた俺が頭を下げる。

「さて、『Bar Admiral』へようこそお客人」

「「ええええええええええええええええ!?」」

 平然としている俺と、対象的に驚きを隠せない……というか隠していない客人の2人。というかホントに仲良いな。

「なんだこれ…なんだこれ……」

「ワケが解らないわ……」

 カウンターに座った後も、青い顔をしてブツブツ呟いている2人。まぁ、普通の鎮守府じゃあ執務室が変形するなんてのは有り得ないからな。ショックなのも頷ける。ただ、いつまでもそのショックを引き摺って放心状態でも困る。そこで2人の目の前で柏手をうってみる。……そう、猫だましだ。

「うひゃっ!」

「きゃっ!」

 パァン!と目の前で破裂音がした事で、ボーッとしていた2人は驚いて小さく悲鳴を上げた。

「はいはい、呆けるのはそろそろ終いでいいだろ?そろそろ注文してほしいんだがな」

「あ、注文。注文ね」

 帆波大佐が我に返り、キョロキョロと辺りを見回す。

「あの~、注文しようにもメニューがないんですが」

「あぁ、ウチはメニューは無いんだよ。客から注文聞いて、店に材料があるモンなら何でも作る」

 へぇ……と感心したように呟いた後、幾らか思案していたが、

「実は俺、天ぷらに目がないんですよ」

「はいはい、天ぷらね」

「それで、定番のヤツもいいんですが……何と言うか、こう…」

「変わり種?」

「そう、それ!変わり種で美味しい天ぷらもお願いします」

 ふむ、天ぷらか。それであれば盛り合わせよりも揚がったそばから客に提供していくスタイルの方が良いだろう。

「ちょっと!折角Barに来たんだからお酒も頼みなさいよ!」

 叢雲がちょっとむくれたように帆波大佐に怒鳴る。

「あ~、そうだよな。んじゃ、天ぷらに合う酒を適当に」

「あいよ」

 天ぷらに合う酒か。良く聞くのは「揚げ物にはビールかハイボール!」という意見が多いが、和食の揚げ物……こと天ぷらに限ってはビールやハイボールは合わないと、個人的には思う。

 ビールやハイボールは当然ながら発泡しているし、水分量が多い。その炭酸の口当たりが口の中をリフレッシュしてくれて食べやすくなる、と思いがちだが段々と食べ進めていく内に胃の中で油と水分を吸った衣が膨らみ始めてもたれてくる。実際、俺の友人は会社の宴会でとんでもない事をやらかしてしまい、数年間呼ばれなくなってしまった。

 では何が合うのか。個人的な正解は『淡麗な辛口の日本酒』だ。キリリと冷えた辛口の日本酒は、天ぷらの油でもたついた口の中をサッパリとリセットしてくれ、次の品に手を伸ばしやすくしてくれる。辛口の日本酒は数あれど、俺が好きな1本を出すとしよう。



檜の枡を3つ用意して、そこに黒い一升瓶から注いでいく。

「『八海山 大吟醸』だ。辛口で淡麗だが、痺れる程は辛くない」

 並々と注がれた枡を持ち上げ、スンスンと香りを楽しむ。大吟醸ならではのメロンのような香気が鼻腔を抜けていく。
 チビリ。啜るように口の中へ滑り込ませると、程よく冷えた液体が口の中を覆っていく。舌先で転がすとあの甘い香りとは裏腹に甘味よりも日本酒独特の「キレ」が際立つのだが、仕込みに使われている超軟水のお陰で過度に刺激的なキレではない。寧ろその刺激が心地よい程だ。そして飲み込んでやると、喉からも伝わる清涼感。……これだ。この後を引かない辛口が天ぷらには合う。

「初めて飲んだけど、美味いっすねコレ」

「ホント、辛口の日本酒だと鼻にツンと来たりするけど、全然それが無いわ」

「さてと、それじゃあ天ぷらは順次仕込みながら揚げてくから。コレでも摘まんで待っててくれ」

 そう言って出したのは本日の小鉢『からし菜と焼きたらこの和風マヨ和え』だ。

《ちょっとしたお通しに!からし菜の焼きたらこマヨ》

・からし菜:130g

・塩(下茹で用):少々

・だし醤油(下味用):小さじ1弱

・たらこ:1本

・マヨネーズ:大さじ1.5

・砂糖:小さじ1/3

・ほんだし(顆粒の鰹だしなら何でもOK):少々

・一味か七味:お好みで

 からし菜は4~5cm位の長さにカットし、塩を入れて沸騰させたお湯で20秒ほど湯がく。お湯から上げて少し搾ったら、だし醤油で下味を付けて混ぜ合わせ、しばらく置いてから再び、今度はしっかりと搾る。

 からし菜に下味を馴染ませている間にたらこをオーブントースター等で焼く。しっかりと焼けたら皮ごと刻んで解し、ボウルに入れてマヨネーズ、砂糖、ほんだしを加えてたらこマヨネーズを作る。この時、お好みで一味か七味を加えるとピリッとして美味いぞ。

 後はしっかりと水気を搾ったからし菜を、たらこマヨネーズと和えれば完成。からし菜のツンと来る風味がマヨネーズの味とマッチするし、ちょっとした酒のアテになる。



 2人が摘まんでいる間に、俺は天ぷらの仕込み。まずは何と言っても天ぷらの衣が肝心だ。冷めてもサクサクに仕上がりやすく、野菜に魚介、色んな衣に使える万能な衣をまずは作ってしまおう。

《色々揚げちゃえ!万能天ぷら衣》※分量4人分

・小麦粉:1カップ

・片栗粉1/4カップ

・水:手順内で説明

・料理酒:大さじ1

・酢:大さじ1/2

・氷:2~3個

 まずは粉と溶き水の仕込み。小麦粉4に片栗粉1の割合でボウルに入れ、泡立て器等で混ぜたら冷蔵庫で冷やす。計量カップに酒と酢を分量通りに入れたら、そこに足す形で水を200mlまで入れる。コレも冷蔵庫で冷やす。

 サクサクカリカリの天ぷらを揚げるには、衣と油の温度差が重要だ。このまま冷やしておき、揚げる直前に出して両者と氷を混ぜ合わせる。粉はダマが残る位でOKだ。

 今回は時間短縮であまり冷やさずにいくぞ。本来なら晩飯にやるなら昼間の内に仕込んでおいて、キンキンに冷やしておくのが理想だな。

 さて、何から揚げていくか。やっぱりここは大定番、海老天からにするか。

《天ぷらの4番打者!海老の天ぷら》

・海老(中サイズ):10匹

・塩:小さじ1/2

・片栗粉:小さじ2

・さっきの天ぷら衣:1カップ

 まずは海老の下処理。殻を剥いて、背わたを取り除いた海老を片栗粉と塩で揉んでやる。すると尻尾の隙間やら身体に染み込んでいた泥汚れ等の細かい汚れが片栗粉に吸着されて、黒ずんでくる。こうなったら良く水洗い。

 洗い流して水気を切ったら、プロのように真っ直ぐな海老天を揚げる為の一手間、隠し包丁を入れる。海老の腹側、3~4ヶ所に切り込みを入れ、引っくり返して上から包丁の腹などを使って押してやる。当然ながら力をかけすぎるとぺちゃんこになるから注意な。押していると海老の筋繊維の切れるプチっという音がしたらOKだ。目安は……そうだな、海老を指の上に乗せてみて、クタッとブリッジしたらOKだ。

 こうなったら海老に衣を付けて、180℃に熱した油の中に潜らせる。手前に頭側、奥に尻尾が向くようなイメージで油に入れると結構綺麗な形になるぞ。ジュワアアアァァ……と衣の水分と油が反応していい音を立てる。揚げ物ってのは音でも食欲を刺激してくるから堪らない。早く揚がらないかと期待感が高まってきた所で、油から引き上げる。軽くこちらの油切りバットに乗せて油を切ったら、冷めない内に予め準備しておいたお一人様用のミニバットに移動。

「ハイお待ち、『海老天』だよ。好きな塩を付けて、熱いから気を付けて食べな」

 天ぷらと聞いて、準備したのはおろし天つゆ、粗塩、梅塩、カレー塩、抹茶塩。変わり種の天ぷらは、また変わった調味料が合うからその都度出していく。

 ちょんちょんと海老天の先に好みの塩を付け、ガブリ。サクサクカリカリの衣の中からは、プリっプリの海老と旨味の詰まったジュースが溢れ出す。当然ーー、

「「熱っつ!」」

 そうなるよなぁ。気を付けろ、って言ったのに。まぁ、今日の海老は良いのが入ってたから熱さを気にせず咀嚼して、そこに八海山を流し込めば堪らんだろう。見れば2人も顔を綻ばせている。……さて、どんどん揚げていこうか。 
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