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安らぎ

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第四章

 とても穏やかな顔だった。安らかな。その顔を見てヒュプノスは言った。
「眠っている様だな」
「そう見えるな」
「うむ。死んだというのにな」
「この老人は解放されたのだ」 
 タナトスはその老人の顔を見ながらヒュプノスに話す。
「長い間己を苦しめていた病からな」
「だから安らかな顔なのだな」
「そうだ。これが死だ」
「死は決して荒々しいだけではないのか」
「死もまた眠るということだ」
 ヒュプノスの司るだ。それと同じだというのだ。
「次の生までの間な」
「そうなるのか」
「確かに殆どの者が死を恐れている」
 死、そのものに対してだというのだ。
「そして忌み嫌っているがだ」
「実はなのか」
「それは安らぎでもあるのだ」
「私の司る眠りと同じく」
「そうでなければこの老人は永遠に苦しんでいた」
 病、それによりだ。
「そうなっていた。今もな」
「しかしそれが死によって解放された」
「そういうことになる。これでわかってくれただろうか」
「うむ、わかった」
 その通りだとだ。ヒュプノスもタナトスに頷いた。
「そういうことだな」
「ではだ。これからもだ」
 タナトスはヒュプノスにさらに話した。今度の話は。
「私はこの務めを果たす」
「人々に安らぎをもたらす為にか」
「そうしていく。では行くか」
「うむ、それではな」
 ヒュプノスはタナトスの確かな言葉に確かな声で頷いた。そうしてだ。
 二人で夜の空に戻りそこからだ。それぞれの務めを果たした。この日も。
 そしてそのことを聞いたハーデスはだ。納得した顔でこう言った。
「私は今までわかっていなかった」
「死のことをか」
「そうだ、わかっていなかった」
 こう言ったのである。従神の一人に。
「全くな。死もまた安らぎなのだな」
「そうなのですね。だからタナトス神は」
「己の務めに誇りを持っていた」
「そうだな。ではだ」
「それではタナトス神に対して」
「これからは笑顔で見送ろう。そうする」
 ハーデスも確かな声で言った。そうしてだ。
 二人が務めに出る時にだ。こうそのタナトスに笑顔で告げた。
「今日も頼むぞ」
「わかりました。では」
 タナトスも確かな笑顔で応える。そうしてだった。
 彼はヒュプノスと共に人々に死、安らぎを与えに行った。それにより多くの者が苦しみから解き放たれ安らかな休息に入った。タナトスのその力により。


安らぎ   完


                          2012・4・24 
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