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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第48話『深雪』

 
前書き
急いで書いたので、地の文が少なくて台詞で誤魔化してます。というか、地の文が思い付かない。というか、期限ギリギリだから急いだといえない。 

 
身体に刻まれた、恐怖の感覚。それに苛まれ、絶望の感情に身体が席巻される。
様々な感覚が錯乱し、許容範囲を超えた脳は考えることを放棄した。


──これが、『死』か。


次第に周りの音が静まっていき、いよいよ独りになった気がした。でも、それを「寂しい」と感じる機能はとうに消えている。
眩しかったはずなのに、寒かったはずなのに、煩かったはずなのに、怖かったはずなのに、その感覚も遠い彼方へ消えていった。

まだ、思い残すことはたくさんある。
それなのに逆らえないのが、運命の強制力だ。


・・・そうだな。せめて最期に、無事だけでも確認したかったな。



ユヅキ────






目を開けた途端、五感が一気に呼び戻される。
今、外で寝ているのだろうか。固い感触を背中に感じつつも、視界に広がる曇天を仰ぐ。
次第に意識が覚醒していき、ふと右手の違和感に気づいた。


──仄かに温かい。


ちらりと右手の様子を窺うと、誰かが両手で握っている。


──誰だろう。


視点を上にずらし、両手の主を確認しようとする。

そしてその顔を見た瞬間、例えようのない安堵感を得た。


「ユヅキ…?」

「…ハルト! 起きたの?!」


銀髪を揺らし、必死の表情でこちらを見つめるユヅキ。その蒼色の瞳は涙で潤んでおり、晴登の目覚めを心底喜んでいるようだった。


「ハルト……良かった、ハルト…!」

「ちょっ!?」


涙腺が耐えきれなくなったのか、大粒の涙と共にユヅキが抱きついてくる。
慌てて外そうとするも、遠慮なしに強く抱きつかれているため、中々引き剥がせない。

……仕方ない。照れくさいが、こちらとしてもユヅキの無事は喜ばしい訳だし、甘んじて抱きつかれることにしよう。


しかし、その様子を穏やかに見つめる人物が・・・


「いやぁ良かったねぇー」

「うぉっ!!……って、何であなたが?!」

「“あなた”じゃなくて“ミライ”だよ。いやぁ、たまたまユヅキと会ったものだから、行動を共にしていたんだよ。それにしても……ふふ、眼福眼福」

「あ、これは違うんです!!」


ミライが言っている意味がわかり、またユヅキを外そうとする。が、ユヅキはミライの発言すら聞いていなかったのか、泣き声を上げながら晴登から一切離れようとしないので、結局は不可能だった。


「う……」

「いいじゃないか、そんなに嫌がらなくたって。彼女だって必死だったんだよ。大体男なんだから、それくらい嬉しいものだろ? 羨ましいくらいだ」

「いや、普通に恥ずかしいですけど……」


晴登は俯き、頬を掻きながら答える。
それを見て、ミライは再びニコリと微笑んだ。晴登も苦笑いで返す。


「…ところで、体調はどうだい? 傷の調子とか」

「傷?・・・って、治ってる!?」


突然の話題転換に戸惑いつつも、晴登は自分の現状に気づき驚愕。
なんと大怪我を負っていた左腕と左脚が、綺麗サッパリ傷を消していたのだ。もちろん、痛みだってない。


「どうして…?」

「僕の魔法で治したんだよ。あのままだったら、ユヅキが卒倒しそうだったからね」

「え、あ、ありがとうございます!」

「いいよ、気にしないで。その代わりといってはなんだが、1つ訊いていいかい?」

「…? どうぞ」


急な真面目な顔つきになるミライ。
晴登はその表情に疑問を抱き、とりあえずという気持ちで聞いてみる。


「君の傷痕はウォルエナにつけられたみたいだけど・・・それ以外に、ウォルエナが原因じゃないと思われる怪我があったんだ。それについて、詳しく聞かせてくれないか?」


それを聞いて、晴登はハッとする。そして、脳裏に銀髪の少年が浮かんだ。
ユヅキとの再会の喜びで忘れかけていたが、あいつが全ての元凶である。姉であるユヅキを捜し、そして世界征服を企んでいるのだ。

確か、最後に攻撃を喰らって・・・


「──っ!!」

「ハルト!?」


突如、恐怖の感覚が再び甦る。
何も見えなくて、何も聞こえなくて、何も分からない。五感を全て消し去られて、世界に孤立したような感覚。
それを思い出すと同時に、晴登は激しく震えた。


「そうだ、あの時…俺は、死んだはずじゃ…」


死んだ経験なんてないが、あの時に自分は確実に死んだと思っていた。それなのに、なぜ今こうして生きているのだろうか。


「・・・いや、君はユヅキに助けられたんだよ」

「え…?」







「中々進展しないね」


ミライはポツリと呟き、やれやれと首を振った。
晴登の安否が未だに分からないため、ユヅキの様子も芳しくない。


「一度大通りに出てみようか」

「はい」


ユヅキはミライの提案に素直に従い、後ろをついていく。
ちなみに、今の場所は大通りのすぐ横にある道。路地裏ほどひっそりはしていないが、大通りほど賑やかでもない。
まあ、人どころかウォルエナも見当たらないから、不気味な話だ。


「……ん?」

「どうしました?」

「何か…巨大な魔力が近づいてくる…! 大通りには出るな!」


大通りに出る間際、彼は叫んだ。
腕の制止を受け、ユヅキはその動きを止める。


──その正面、轟音と共に激浪の様な吹雪が流れていった。


「え、何、今の!?」

「まだ来るぞ、下がれ!」


吹雪は依然止まず、大通りは白く覆われていた。
大地を揺らすほどの勢いと肌にしみるような寒さを感じながら、ユヅキはその吹雪をじっと見つめる。

これは間違いなく人為的なものだ。
しかし、こんな猛吹雪を魔法で放とうものなら、並の人間ではすぐに魔力が枯渇するだろう。というか、そもそも放てないはずだ。


「まさか…黒幕…!?」

「ウォルエナを防ぐためだけなら、ここまではしない。この街に敵意を持つ奴の仕業……ありえる話だ」


ミライの表情が変わるのを、ユヅキは見た。
憎しみを、怒りを、殺意を。それらを抱く彼の顔は、本来の綺麗さを失っていた。

ユヅキはもう一度吹雪を見た。
ごうごうと音を立てながら、断続的に流れている。
こんなのに巻き込まれたらひとたまりもないだろう。


「……あれ?」


その時、ユヅキの眼は何かを捉えた。
白く濁る雪の中、微かに影が見える。それには顔があり四肢があり、つまるところ人間の形をしていた。


「ミライさん、あそこに人が!」

「何!? どこだ?!」

「…ボク、行ってきます!」

「あ、ユヅキ!」


ユヅキは無我夢中で吹雪に飛び込んだ。その瞬間、全てから隔絶された気がした。視界は一面白色で塞がれ、当然鼓膜は役に立たず周りの音が一切聴こえない。
自分と、そして目の前の人影が唯一の存在。ユヅキは流れながらも、必死にうっすらと見える人影に手を伸ばした。


「よし…」


そして、しっかりと手を掴んだ。
冷たく冷えきっていたが、僅かに温もりはあった。





「・・・ユヅキ!」

「……っはぁ! はぁ…大丈夫…です」

「何て無茶を…。君が氷属性に耐性があるからまだ良かったが……」


吹雪から脱出し、その後ミライとどうにか合流する。
彼の言う通り、自分には氷属性の耐性がある。それを踏まえて飛び込んだはずなのだが……かなりキツい。

しかし、今はそんなことを気には留めていられない。
ユヅキは自分が手を握っている人物を一瞥すると、静かにミライに伝えた。


「…それよりもミライさん、これ」

「な…!?」

「やっと、会えたのに……こんなの酷いよ…」


ユヅキが握っていたのは、満身創痍で死体の様にピクリとも動かない晴登の右手だった。
しかも吹雪に流されていたせいか、服や肌が一部凍り付いている。
その悲惨な姿を見て、さすがにミライも絶句していた。


「どうしよう……」

「…ユヅキ、ハルトをこっちに。僕が治す」

「治すって…?」

「僕が使う魔法は治癒の効果があるんだ。それで何とか傷を塞いでみる」


その言葉に、ユヅキは希望を取り戻した。顔を輝かせてミライに頼み込む。


「ぜひ、お願いします!」

「言われなくとも」


ミライは自信満々に言い、己の力を最大限費やして晴登の治療に掛かった。







「・・・という訳だ。君の傷を治したのは僕だが、そもそも君を助けたのはユヅキなんだ」

「そうだったのか…。ユヅキ、ありがとう」

「気にしないでよ。無事で本当に良かった」

「…う、うん。ごめん、心配かけて」


晴登が礼を言うと、ユヅキは笑顔で応える。
そのあまりの眩しさに、晴登はたまらず目を逸らした。


「ところでハルト、さっきの話の続きだが、君が戦った人物のことについて聞かせてほしい。いたんだろ? 君に敵対したのが」

「……はい」


晴登は落ち着いて返事をする。
不思議と、もう心は騒がなくなっていた。思い出しても平気そうだ。


「そうか。僕の見解では、その人物がこの王都の一件の黒幕だと思うんだが……そこのところは分かるかい?」

「ある程度は。俺が会ったのは銀髪の少年でした。ただの避難民と思って接していたんですけど、どうもそうとは思えない発言ばっかで…」

「例えば?」

「『大陸の王になる』とか、『ウォルエナの主人』とか、『ユヅキを捜す』とか・・・」

「え、ボクを捜してるの!?」


自分の名前が突然出てきたことに、驚きを隠せないユヅキ。それはミライも同じであり、冷静な表情が崩れていた。


「その少年とユヅキとの関係は…?」

「…ユヅキの、弟だって言ってました」

「「え!?」」


2人の驚きが重なる。そして2人は顔を見合わせ、何やら目でやり取りをしていた。


「……もう少し、詳しく聞かせてくれるかい?」

「詳しくといっても、俺が聞けたのはこのくらいです…」

「そうか…」


ミライは腕を組み、思考に身を投じる。
その彼の表情は困惑の色が多く、口を開くまでに少々時間を要した。


「…ユヅキ」

「はい…」

「君に弟はいるのか…?」

「え…?」


晴登はミライの質問に驚きを示す。
それもそのはず、「本当はユヅキに弟はいない」という線は疑ってもいなかったからだ。
しかしミライの真剣な表情を見て、水を差す気にはならなかった。


「……いません」


そしてその答えを聞いた時、晴登の思考は混濁していった。


「嘘…だろ!?」

「嘘じゃないよ、ハルト。ボクの家族は母さんと父さんだけ。弟なんて見たことも聞いたこともないよ」

「どういうことだ…? ハルト、そいつは間違いなく『ユヅキの弟』と言ったのか?」

「はい。……あ、でも、少し引っ掛かることが」

「ん?」


晴登は記憶を掘り起こし、疑問になっていたことを思い出す。


「あいつ……自分のことを『鬼族』って言ってました。もしユヅキがあいつの姉なら、ユヅキも鬼ってことですよね? でもユヅキは鬼なんかじゃないから・・・」


「止めて、ハルト」


「……え?」


ミライの突然の制止に、晴登は戸惑う。
しかしそれ以上に、ミライは更に困惑しているようで、頭を抱えていた。


「これは、本当にどうなってるんだ…?」

「え、何がですか?」

「いや、何というかだな…」


1人だけ話についていけない、一種の孤独感。
それを感じながらも、晴登はユヅキとミライに問う。
しかし、2人の表情は決して明るいものではなく、2人とも理解が追いついていないのだとわかった。

しかし、その静寂を貫く言葉が1つ。


「・・・ハルト、驚かないで聞いてほしいんだけど…」


晴登は視線をユヅキに向け、次の言葉を待つ。
彼女は微かに逡巡を見せたが、決心したように言った。


「ハルトが言ったことは事実だよ。ボクは鬼の血を引いている」

「……は?」

「だから多分ハルトが見た人物は、ボクと直接関係があるかは別として、ボクの故郷の人だと思う」


衝撃の告白に、目を見開く晴登。驚かずにこれを聞くなんて、正直無理がある。もう何が何だか、正誤が渾然していて理解が不可能だ。

ユヅキが鬼? そんな素振りは一度も見せていない。ただの人間の少女なはずだ。
それに鬼は、アイツの言う通りなら最強の種族なのだ。でもこの3日間で何度かピンチがあったが、ユヅキが鬼の様に強かったから切り抜けられた場面は、正直一度もなかったと思う。


「ユヅキが鬼…? 何の冗談だ?」

「ううん、ハルト。冗談じゃない。ただボクが、鬼であることを隠しているだけ。別にハルトが嫌いとか、そんな理由じゃないんだよ。鬼族は珍しいから、ボクの身を守るためなんだ」


詳しく説明されたところで、晴登の気は晴れない。
ユヅキもこうなることは分かっていたのか、特に二の句は継がなかった。

でもその真剣な眼差しに、晴登は信じざるを得なかった。


「ハルト、ユヅキが鬼という事実はひとまず、呑み込んでくれさえすれば良い。それより、僕に1つ考えがあるんだが・・・できれば、君たちの協力を煽りたい」

「何ですか?」


晴登はミライの言う通り、ユヅキのことはとりあえず、という気持ちで理解した。
それよりも、ミライの提案に奇妙な雰囲気を感じる。

晴登が聞き返すと、彼は突飛なことを語った。


「さっきからの話でわかると思うが、僕たちには情報が足りない。黒幕に目処はついたが、そいつがユヅキとどういう関係なのかも不明瞭だ。だから僕は情報を得るために、あることをしたい」

「あること…?」

「そう。それは・・・」







「全く、余計な時間を過ごしてしまった」


ウォルエナを意に介さず、大通りを歩く1人の少年。
彼は銀髪を掻きながら、苛立ちを露わにしている。


「好き放題言って・・・人の命なんて、ボクと比べれば小さいものだよ。それなのに小動物の分際で、ボクに楯突くなんて……」


彼が言っているのは、数十分前に出会った、自分よりも少し年上の少年のことである。
大怪我を負っても、立ち向かってくるその姿は“果敢”そのものであったが、結局はどこかに飛ばしてやった。
まぁそこそこに威力を込めたから、死んでいるかもしれない。


「いいよいいよ、あんな奴は死んで。王に逆らうとどうなるか、思い知らせただけだし」


人の死が関わるのに、彼はあくまで冷静だった。
全ては自分が中心。そう考える少年にとっては、人間の死はちっぽけなものである。


「……ん?」


突然、嗅覚が何かを捉える。
というのも、鬼族は嗅覚が人よりも断然に優れており、敵の察知も早いというもの。今回もそれであった。


「敵意を感じる…。誰だ…?」


歩きを止め、辺りを見回してみる。
しかし、前後は消失点が見えるほどの大通りが伸びるだけで、大した変化はない。


「…所詮、隠れているだけか」


少年はそう結論づけると、再び歩み始めた。
するとその瞬間、背後に影が現れる。


「…っ!」

妖精散弾(フェアリーレイン)!!」


目の前が眩い光に包まれる。
少年はそれから逃れようと目を閉じようとしたが、危険を感じて本能的に先に吹雪を放った。
白い光が眩い光を侵食し、やがて相手に到達する。しかし相手は臆することなく、それを回避して事なきを得た。

その時ようやく、少年は相手の顔を見る。


「…誰だ、キミは?」

「僕はミライ。君に訊きたいことがあるんだけど、時間を頂けるかな?」


青年はニッと笑いながら、そう言った。

 
 

 
後書き
下手くそな文章だから、お詫びにほんのちょっぴり長く書いてみました(800文字くらい)。・・・え? 下手なら長く書いたら逆効果? そ、そんなことある訳ないじゃないですか…!(;д; )
いやまぁ実際、かなり書きにくかったですね…。

さて、そんなことはさておき。
二月に入って、受験まであと僅かとなりました。なのでここから1ヶ月くらい、更新が今回ぐらいのスピードになるかと思います。
忘れた頃に更新、みたいなスタンスになりますが、どうかよろしくお願いします読んでください。

記念すべき“本編50話”が目前に迫っています。
きっと何も無いのが目に見えますが、いつもより少しだけ気合いを入れて書くと思います。

それでは、また次回で会いましょう! 
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