Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#35 光の王都バチカル
~光の王都 バチカル~
船旅も終わり、目的地へ到着した。
ここは、ルークの故郷、光の王都バチカル。
一行は、船を下りると直ぐに出迎えが着ていた事に気付いた。
「この度は、無事のご帰国おめでとうございます、キムラスカ・ランバルディア王国軍第一師団長 ゴールドバーグです」
先頭に立つ男がそう挨拶をし、そして、もう1人も一歩前にでて敬礼を。
「セシル少将であります」
女性将校と師団長の出迎え。
それを間近で見てみると、ルークと言う人物がどれ程重要なのか、どれ程の位を持つ者なのかがよく判る。……でも、旅先でも態度だけ見ても、王様っぽい、と思ってしまうから尚更だ。
「…ん? なんだよ?」
気がつくと、ルークを凝視していたアル。
「あっ…あはははは………、な、なんでもないよ? 初めて来たとこだから、ちょっぴり緊張しちゃってさ」
当然ながら、アルは思っていても、直接そんなことを言える訳もなく笑って誤魔化した。
他のメンバーはアルが何を言いたかったのかが大体判っていた様で、同じく笑っていた。ルーク自身は訳わからない様子だったが、とりあえず良しとしたのだろう。訝しむ様な顔はしなかった。
「?? まぁいいや、……ご苦労。皆はオレが城へ連れて行く。いいな」
ルークは、ゴールドバーグとセシルに向き直って言った。
「承知しました」
2人はもう一度一礼をすると、そのまま 全員で港からバチカル内部へと向かっていくのだった。
光の王都バチカル。
王都内は、これまでに見た事が無い程広く……恐ろしいまでに高所。ロープウェイを使って上って行く景色はまさに圧巻の一言だった。
ロープウェイの窓から、下を見てみると建物だらけで隙間なんか、全くない。とも思えてしまう。
「すっごい街! 縦長だよ~~!」
「凄いですのっ! チーグルの森の何倍もあるですのっ!!」
アニスとミュウも、インパクトがあり過ぎて、思いっきりはしゃいでいた。
それは、物凄く判る、とうんうん頷いてるのはアルだ。
「あはははっ! 確かにそうだね。うーん、アクゼリュスの何倍もありそうだなこりゃ。流石王都」
アルも、ミュウ風に表現してみた。
アクゼリュスの皆に、何だか失礼な言い方の様な気もするけれど……、また、今度。必ず 謝りに行くから、とアルは笑っていた。
「アルさんの家よりもなんばいもあるんですの?」
ぴゅ~~、と飛んでくるのはミュウだ。
「あはは。そうだね。やっぱり 王都と比べたら、何処もそうじゃないかな? えーあー……うん。力いっぱい言うのは…ちょっと申し訳ないけどね?」
アルは苦笑いしながらミュウを撫でる。ミュウも気持ちよさそうに目を瞑っていた。
そんな騒がしい、賑やかな周囲とは対照的に、ルークの表情はそこまで変わってなかった。……戻ってきた、と言うのにも関わらず。
「ちっとも帰ってきた気がしねーや………」
何処か、寂しそうに、そう呟いていたのだ。
それを横で聞いていたガイは、ルークの肩に手を置いた。
「そうか……。ルークは、記憶を失ってからは外にはでてなかったからなぁ」
同情するガイ。
ガイだからこその言葉だろう。長く苦楽を共にしてきた間柄だから。
そんな時ティアが言った。
「大丈夫、覚えていなくてもこれから知ればいいのよ。まだまだ、沢山時間はあるんだから」
「………だね」
過去よりも今を、そして 未来を。
ティアの言葉を横で、聞いていたアルは 強く同調した。ルークの境遇は、アル自身にも当てはまる事だから。
そんな時だ。アニスが、嫌~な顔をして、ティアの顔を覗き込んだ。
「ふーん、ティアってば な~んかやさしくな~い?」
何処か悪戯心がその表情に現れているのはよく判る。この中でも付き合いはそこまで長くないアル自身も、よーく理解できているつもりだ。
「え………?」
ティアは、何を言われているのか、いまいち理解出来てなかった様で、きょとんとしていた。
そんなやり取りが、何処か面白い。
「あっ、そっか。 これが所謂……、ええっと… そうだ、母性本能をくすぐられたって……って事で でいいのかな? ティアは」
「ん~、その通りです。100点満点の回答ですねぇアル」
「あはははっ、やっぱりっ?」
アルとジェイドが笑いながらやり取りをしていると。
「何でそうなるのよ! そんなことないわよ!」
ティアが慌てて否定していた。何処か 顔を赤らめながら。
そして、ヴァンはそんな妹をじっと見ていたのだった。
~バチカル城~
無事に、城にまで到着し、後はルークに任せるだけなのだが、王との謁見の間への扉の騎士封鎖していた。
「ただいま大詠師モースが謁見中です。暫くお待ちください」
その一言で、場の空気が変わった、
「大詠師…モースが…?」
ヴァンも同様だった。表情が更に険しくなっていく。
唯一違うのはルーク。
ルークはと言うと、心底面倒くさそうな表情をしていた。
「……はぁ、叔父上に変な事吹き込まれる前に入ろうぜ」
ルークはそのまま謁見の間へと入ろうと足を進めた。
騎士達は、入室を止めようとするけど。
『どけっ!』の一言であっさり解決。ルークを止められるだけの権限を持ち合わせてる訳ではないから、止めようがない。
「いやぁ…素晴らしいですねぇ」
ジェイドは、ただただ笑っていた。何処か悪意のある様な笑みだけど、それはご愛敬。
「あ、あはははは………、随分な力技だね…、ルークだけしかできないよ」
「はっはっは。アル、それを言うなら権力技、でしょう?」
「って、それはただ漢字の読みを変えただけじゃん……」
苦笑しているアルと、いつも通りの表情のジェイド。ルークは聞いてなかったから、騒ぐ事は無かった。
とりあえず、その恩恵の元、全員で謁見の間へ入っていったのだった。
謁見の間では、騎士の言う通り 大詠師モースが話をしていた。その声を聞いて改めて表情を硬くするティア。
「……マルクト帝国は、首都グランコクマの防衛を強化しております。エンゲーブを補給拠点として「待てよおっさん!!」ッ!!」
最後まで言わせる事はせず、ルークが割って入っていった。
「おおぉ…… ルーク! よく無事に戻ってくれた……」
謁見に割り込むなど、無礼極まりない事なのだが、相手が相手、状況が状況だった為、特に問題視しない様子。逆に、無事に帰ってきてくれた事を安心していたのは、キムラスカ国王であるインゴベルト六世だ。
そんな時、インゴベルトは、ルークだけでなくもう1人に注目した。
「これはこれは…導師イオン」
それは、現在不在とされていた導師イオンだった。
イオンがいないが為、この場には モースが来ていた状況だった為、イオンの登場は想定外。驚くのは無理もない。
「ご無沙汰しております陛下」
イオンが前に出て挨拶をすると、あからさまな態度をとるのは モース。
「おっあっ…ああ! お探ししておりましたぞ!」
「モース、話しは後にしましょう」
イオンは、毅然とモースにそう言う。話に入らせない様にする為、直ぐには無しを進めた。
「陛下。こちらがピオニー九世陛下の名代……ジェイド・カーティス大佐です」
イオンがジェイドの事を告げると、ジェイドは一歩前へ出て跪いた。
「我が君主より……、偉大なるインゴベルト六世陛下に親書を預かって参りました…」
ジェイドがそう言うと、アニスが新書を取り出して、陛下の側近に手渡した。
そこで、すかさずルークが声を荒げながら言う。
「叔父上! モースが言ってることは、全くの出鱈目だからな!」
突然の事に、モースはまた 戸惑いを隠せられなかった……が、今回ばかりは黙ってばかりはいられない様だ。
「なっ! 何を言うか!! 私はマルクトの脅威を陛下に「うるせぇ!!」っっ!」
ルークは、モースに最後まで言わせず、更に前へ出た。
「お前は、戦争を起こそうとしているだろーが!! そんな事、させっか!!」
息を荒くさせているルークを落ち着かせようとヴァンがその肩に手をかけた
「ルーク、おちつけ……」
ヴァンだからこそ、出来る事だ。信頼できる師匠だから、ルークの心に響き、余裕を生む事が出来た。だからこそ、詰めかかろうとしていたルークは、歩を止めて、落ち着く事が出来たのだ。
インゴベルトもルークを諫める様に静かに、それでいてはっきりと言った。
「こうして親書が届いたのだ…。それを無視はせぬ…」
親書を確認すると、はっきりと約束をしてくれた。王が……、キムラスカの頂点が…。
「頼むぜ…叔父上」
そして、安堵感が辺りを包みこぬような感覚が走る。
―――これで…きっと………。
―――皆が、助かる……。
「ルーク…ありがとう 貴方のおかげです……」
イオンはルークに礼を言った。
その隣にいたアルも同じく。
「オレからも…、……ありがとう、ルーク。これで……アクゼリュスが、皆が、……助かる…、んだね……? うん。うんっ。ほんとに、ほんとにありがとう! ルークっ!」
まだ、完全に安心できる訳ではない。町を蝕んでいるものは、まだ猛威を振るっているのだから。
だけど、間違いなく大きな一歩だから。……だからこそ、アルの目には、光るものがあった。
だけど、流れる事はなく、どうにか堪えた。……何故なら、本当に救えた時にお預けだ。
――愛する人たちと、交わすまでは。
「まーな! 本気出せばこんなもんだよ」
ルークは、何処か照れ臭そうにしていた。その時にジェイドは、こんな時にもジェイド。
「流石の七光りです!」
「いちいち癇に障るやつだな!!」
ルークが怒るのも無理は無いだろう。
「まっ…まぁーまぁー。ほら、ジェイドってさ。こう言うキャラじゃん? ねっ? 落ち着いて」
ルークをなだめるのはアル… 構図は相変わらずだ。いつまでも変わらなそうだ、と思ってしまう程、スムーズだった。
「これは失礼……。ですが、実際助かりましたよ」
ジェイドも、今回ばかりは本当にそう思っていたみたいだ。目的を達成できたのはルークの助力があっての事だったから。
そしてルークはと言うと。
「これで…戦争は起きなくなるのか?」
それを確認したかった。
ルーク自身は認めないだろうけれど、……アルの希望に満ちた顔がゆがむのは、あまり見たくない、とこの時、思っていたから。
「これから検討が始まるだろう」
その問いに、ヴァンが答えた。
それに安心した様で、ルークは。
「そうか…それじゃあオレは母上のところへ行って来る。心配しているだろうからな」
次に心配をしている所へと、足を進めた。
「(そっか。そうだよね。ルークは文字通り、どころか見た通り、本当に飛ばされたんだった。心配するよね……。親だったら、きっと)」
そうアルが思ってると、その隣では空気を読まない少女が手を上げた。
「はーい! アニスちゃんルーク様のお家見てみたぁ~いですぅ~♡」
手を上げて、そのままルークに引っ付くのは、そう当然アニスである。
「なら 私たちも……ご一緒しましょう。」
ジェイドもそう言った。ルークのおかげだから、お礼もしたい、と言う気持ちが正直ある。だからこそ、反対をする者はいなかった。……アニスの様にがっつくのは ちょっとアレだけど。
「はぁ…。別に、普通の家だぞ?」
ルークがそう言った。自分の家に来る事には反対はしてないみたいだ。
「………普通の家、ねぇ~……?」
ルークの言葉にアニスがそう呟いていた。
胡散臭そうな表情。だけど、今回ばかりは アニスの気持ちはこの場の全員がよく理解していた。
~ルーク邸~
ルークの家、はバチカル城の直ぐ横に位置している。
だから、時間はかかる事なく直ぐに到着した。
「さっ! ここがそうだ」
ガイが案内をしたが、それに答える者は、いなかった。
「きゃうわ~~すっごい…」
「た、確かに…」
普通、と言う言葉は、アルはあまり使わない。
何故なら、この世界の事そこまで知っている訳じゃないからだ。常識である、と言う事は教科書を見ただけで、自分の目で耳で、実際に知っていった訳じゃないから。
だけど、これが普通なのか、どうか。……それは判る。
ルークの家は、凄くでかいし。バチカルの町の中でも間違いなく城を除いたら一番だ。
と言う訳で、ルークにはとりあえず、普通の意味を調べて100回書き取りだ、と言いたい。いや、言うべきだと思える。と言うのが、アルの気持ち。
「………あの、アル?」
「え、どーしたの? ティア」
「あなた、頭で考えてる、って思ってるみたいだけど…… 全部、声に出てるわよ?」
ティアがため息をだしながらそう言った。
「……ええっ!?」
ルークがじと~~っと、睨んでいるのがよく判る。それが、ティアの言っている言葉が真実だ、と言う事を物語っていた。
因みに、ルーク以外は、ただただ笑っていた。
その後、ルークは気を取り直して、自分の家の扉を開けた。
「ルーク……」
玄関先に、男が立っていた。
「父上、ただいま帰りました……」
その男が、ルークの父親。ファブレ公爵だった。
「ルーク……。 それに、グランツ謡将も無事で何よりだ」
「ご心配をおかけしました…」
ヴァンも頭を下げた。
そして、続いて視線を向けたのはガイ。
「ガイもご苦労だったな」
ガイも、ヴァン同様に頭を下げた。
「使者の方々もどうかごゆるりと……」
そう言うと、先ほど会ったセシル少将がやってきた。
「公爵様、国王がお待ちです」
「ああ…」
そう言うとバチカル城の方へと向かっていった。
公爵は、家から出ていく際に、ティアになにやら耳打ちしていた。
そして ティアは……、何かを訊いた後、顔を俯かせながら謝罪をしていた。
恐らく、ルークを飛ばしてしまった原因であるティアを、責めたのだろう。1人息子にそんなことをしたのだ、ルークが目的ではなかったとしても、そう簡単に納得できるものじゃない。不法侵入をした挙句にだから。
「ティア……」
アルはそんなティアを見ていた。
今、ティアにかける言葉が全く見つからなかった。そんな時だ。
「ルーーークーーー!!」
女性の声が聞えてきた。
「「「「ん?」」」」
「げっ!!」
1人だけ反応が違うのは、ルークである。
皆がそちらを見ると、ドレスを着た金髪の女性が駆け寄ってきた。
「まぁ! なんですのルーク! その態度は! 私がどんなに心配していたか!」
金髪の女性はどうやらご立腹だ。邪見にされてしまえば仕方がない、とも言えるが、その女性の事を何も知らないから、何とも言えない、と言うのが心情だった。。
すると、フォローにガイが入る。
「やっ やあ ナタリア姫 ルーク様は照れているんですよ!」
しっかりとフォローをするのだが、彼女にとっては逆効果だった。
特にガイにとっては、である。
「ガイ! 貴方も貴方ですわ!」
そう言うと、どんどん詰め寄ってくる。つまりどうなるのか、一目瞭然だ。
「ありゃりゃ… ガイ大丈夫かな?」
「女性恐怖症だもんねぇ…」
アルとアニスが苦笑いをしていた。どうなるのか、大体想像がつくから。
その間に…距離を殆ど詰めた女性……ナタリアは。
「ルークを探しに行く前に私のところへ寄るようにと伝えて置いたでしょう!」
一気に接近して、ガイに顔を近づけた。
「うっ わっい がっ …… ひええええ!!! はっ はい!!」
ガイはと言うと、持ち前の持病? の女性恐怖症があって、柱の裏に凄いスピードで逃走した。
「何故逃げるの!!」
「ご存知でしょう!!」
ガイにとっては仕方がない事だ。……確かに初めての女性だったら、失礼に値すると思うけれど。
ナタリアは、軽くため息をした後。
「少しは慣れなさい…私がルークと結婚したら お前は私の使用人にもなるのですよ?」
そう言う。……でも、ガイは『無理です!!』と、口では言ってないけれど、必死にふるふると顔を横へと振った。
「無理です!!」
いや、しっかりと口で叫んだ。
「いや、ガイ? ガイの気持ちは……判るんだけどね。でも あまり……力いっぱいそう言うもんじゃないと思うんだ。女性に対して、さ…?」
アルがそれなりにツッコミを入れるんだが、それでもガイにはハードルが高すぎる様だ。
「し、仕方ないだろーーー!!」
ガイは、ただただ震えていた。
ルークの家にいる以上、ナタリアとの付き合いも、ガイは長いだろう。そんな彼女でもガイは逃げてしまうんだから、……無理なんだろう。きっと。
因みに、女性陣の反応は違った。
「え、結婚?」
「なにいってんだろ~」
ティアは普通に疑問に思っただけだが、アニスは違った。『頭だいじょーぶ?』って言わんばかりの反応だった。ルークに玉の輿を狙ってるアニスだったからこそ、だろう。
でも、次のガイの言葉を訊いて……、驚く事になる。
「ナタリア姫は ルーク様の婚約者なんだよ!」
「えっ」
「え゙え゙っっ!!」
「みゅあっ!!」
驚きの声を上げるのは、主にアニスとミュウ。
因みに、ミュウも声を、いや 悲鳴? を上げてしまったのは、アニスの腕に抱かれていた為。凄く力の入った腕のせい、である。
「ルーク!!」
ルークは照れているのか、或いは面倒くさいのか、……いや、その両方だろう。 変な顔をしていた。
でも、呼ばれて無視する事なく しっかりと反応はしていた。、
「なっ! なんだ!!」
「一刻も早くおば様のところへ!」
「母上がどうかしたのか!?」
ルークも心配なのだろう、慌てて聞き返す。
「貴方がいなくなった後…病で倒れておられるのよ…私はそのお見舞いできていましたの… 早くお顔を見せて差し上げて!」
「っっ……!! 判った!!」
そう言うと、ルークは慌てて。一言だけ言いその場から走って向かった。
それを聞き… 再びティアが顔を暗くした。
「ティア……」
ティアの表情から、気持ちを察したアルは、ティアの肩に手を置いた。
「その、ルークのお母さんの事、気になるんだったらさ…。 ティアも会ってきて直接謝ればいいんじゃないかな? ルークも……、ずっとティアと旅してたから、絶対に悪いようには言わないと思うし。 何より、ティアは悪気があって、ルークを巻き込んだわけじゃないんだからさ。ちゃんと謝れば…許してもらえるよきっと。……それに、それで 元気になる事だってあると思うんだ。安心感、からかな」
「アル……」
そして ガイも同じ気持ちだった様だ。
「アルの言うとおりだと思うぜ? 奥様は心配性だから、本人が直接謝れば……。きっと心配が1つなくなると思うしさ」
2人の言葉を訊いて、俯かせていた顔を、ティアは上げた。
「そう、ね……。私も、言ってくるわ」
ティアもルーク同様、走って向かった。
背中を見送った後、ガイは笑った。
「相変わらず、アルはやさしいねぇ」
ガイがそう言う。
「あはは……。 ほら、あんなに暗い顔されちゃ仕方ないよ。暗い顔なんて、ティアには似合わない、って思うし。 ……それに、ずっと、ここに来る前から気にしていただろうしさ。ティアは」
アルも笑いながらそう返した。
「そうですね……。ボクもそう思います」
イオンも感じていたようだ。
この件はティアじゃないと、解決できない事だから。……乗り越えなきゃならない事だから。
ルークは、母親の寝室の前に来ると、一呼吸した後、扉をノックをした。
中から、返事が返ってきたのを確認するとルークは直ぐに扉を開けた、
「母上! ただいま帰りました…」
母親の側まで、ルークは近付いた。安心をさせる為に。
「おぉ……。ルーク、本当にルークなのね…」
ルークは、母親の目線になるように跪いた。
「母上…」
「母は…心配しておりました……。無事で、良かった……」
ルークの無事を間近で確認でき、安心していたその時だ。
「奥様っ!」
1人の女性が入ってきたのを確認した。その女性は顔を俯かせていた。そして、見知った者だった。
「奥様……、お許しください…」
ティアは、声を震わせながら、謝罪をすると共に、2,3歩近付いていった。
「ティア…!」
ルークは、突然の事に驚いていた。
ティアがついてきた事に気付いてなかったから。
「貴方がヴァンの妹の…?」
母親はルークとは対照的に落ち着いていた。ルークが行方不明になった元凶とも言えるティアを目の前にして、ただ……慈愛の表情で、ティアを見ていた。
「はい………」
ティアは、跪いた。許しを乞う様に。
「おっ、おい!!」
ルークは、止めようと。そこまでしなくて良い、と止めようとしたが、ティアはそのまま続けた。
「私が……、兄を討ち倒さんとした為…、ご子息を巻き込んでしまいました」
ティアの告白を聞いて、母親の表情は少しだけ更に柔らかくなった。
「そう……。では今回のことは…よからぬ者の仕業ではなかったのですね…?」
母親にとって大切な事はその一点だった。
ルークが無事で帰ってきてくれている、
そして、巻き込んだ張本人も自分の前で許しを請うている。間違いないのは確実だが、本人の口からそれが聞きたかったのだ。
ティアは、その問いに直ぐに、答えた。
「はい…。ローレライとユリアの名にかけて………」
「ありがとう…でもティアさん…実の兄を討とうなどと考えるのはおやめなさい……。血縁同士戦うのは悲しい事です」
確かに、ルークの事に関しては安心はしていた。……でも、ティアの行為に心配をしているようだ。
ティアは、それを聞いて、ルークの母親は本当に心やさしい人なのだと。改めて思った。そう――母親は、皆……同じだ。
「お言葉…ありがたく承りました……」
ティアはその後再び謝罪をして、ルークと共に部屋を後にした。
2人が、部屋を出た後。
「…なぁ」
ルークは、ティアに話しかけた。言いたい事があったから。
「何?」
「あんま気にすんなよ。母上が倒れたのは元から体が弱いだけだから…」
顔を若干赤くさせながら、足早に先に進む。そんなルークを見てティアは、表情を変える事が出来た。
暗い表情が、少しだけ、明るくなった。
「ありがとう……」
だからこそ、ルークにそう言ったのだった。
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