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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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大泥棒が鎮守府にやって来る~会食編・その3~

「チェイサーにビールを下さい」

 出来立てアツアツのかに玉に悶絶していた加賀の注文だ。あまり日本酒でチェイサーを頼む事はないが、まぁいいだろう。

 元々チェイサーというのは、ウィスキー等のアルコール度数が高く舌を麻痺させてしまう酒の後を追うように飲む水の事で、味覚のリセットやアルコールによる肝臓への負担軽減等の目的がある。まぁ、今飲んでいる酒よりも度数が低ければチェイサーの意味は果たせるので、ビールでも問題はない。ウィスキーのチェイサーならビールもメジャーではある。

『ウチの連中の場合、チェイサーに託つけて飲みたいだけだからなぁ……』

 苦笑混じりによく冷えたビールを加賀に手渡してやると、グビグビと一息にジョッキの半分を干してしまった。やはりどこの加賀も酒は強いのが多いらしいな。

 さて、真打ちルパン提督と秘書艦殿は後回しにするとして、お次は日向の注文だ。確か芋焼酎に魚だったか?魚の方はちょうど下拵えをしておいた奴があるから『アレ』にしよう。芋焼酎は……『山ねこ』にするか。白ぶどうのような芳醇な香りと軽やかな甘味は、『アレ』にも合うハズだ。さて、そろそろアレ……『鰹の塩たたき』の仕込みに入ろうか。室内で藁焼きは危ないから、今回はフライパンでのやり方を紹介しよう。

《フライパンで焼く!鰹の塩たたき》※分量2人分

・鰹(刺身用):1本

・生姜(すり下ろし):1個分

・日本酒:適量

・にんにく:1個

・玉ねぎ:1個

・小ネギ:3~4本

・茗荷:2~3個

・塩:適量

・レモン:1個


 まずは鰹の下拵え。生姜を丸々1個すり下ろし、鰹にすりこむ。日本酒を適量入れ、鰹を漬け込んで30分冷蔵庫で寝かせる。

 お次は薬味の準備。玉ねぎはスライスして水にさらし、小ネギは小口切り、茗荷は千切り。にんにくは芽を取り除いてスライスしておく。

 フライパンに食用油を熱し、 煙が出るくらいまで熱したら火を止め、そこに漬け込んでおいた鰹を入れ、20秒程焼いたらフライパンから出す。

 大皿に玉ねぎを敷き詰め、1cm位の厚さに切った鰹を乗せ、薬味を散らしたら塩を振る。塩は食塩よりも天日塩や岩塩等のいい塩を使おう。

「ハイお待ち、『鰹の塩たたき』と『山ねこ』のロックだ」

「ありがとう……頂きます」

 日向も物静かにだが、よく食べるしよく飲むタイプだ。まだほんのりと暖かい鰹を一切れ薬味と共につまみ上げ、一口で口の中へ放り込む。シャクリ、シャクリと玉ねぎが歯応えと辛味を出しているそこに、フルーティーな甘味を誇る『山ねこ』を流す。

「うん……うまい」

 加賀と同じ位ポーカーフェイスである事が多い日向だが、口元が綻んでいる。喜んで貰えたようでなによりだ。




 さぁ、いよいよメインディッシュ……ルパン提督と秘書艦の龍田の番だ。まずはやはり、あのカクテルだろうな。

「さんざん待たしてくれちゃってぇ、期待してるぜ~?」

「ま、期待に添えるように全力でやるさ」

 軽くそんな言葉を交わしながら、俺はシェイカーの準備に移る。氷を入れたシェイカーに、ウォッカ、アリーゼ、オレンジジュースを20mlずつ。2人分なので40mlずつ入れ、シェイクする。

「へーぇ、ホントにカクテルも作れるんだな」

「何だよ、疑ってたのか?」

 まぁ、ルパン一味にゃ一度も作って無かったしな。疑われても仕方無いか。シェイクした物をフルート型のシャンパングラスに注ぎ、スパークリングワインを適量。仕上げにカットオレンジやマラスキーノチェリー等を飾れば完成。

「まずは挨拶代わりの一杯、『ルパン』だ」

 2人分のグラスを差し出してやると、愉快そうにその香りを楽しむルパン。

「ウチのじい様をイメージしたカクテルだったか?んじゃま一口……くぁ~、甘いなぁこりゃ!」

「……ホント、甘くて男を口説いてる時の誰かさんみたい~♪」

「オイオイ、そりゃないぜ龍田ちゃ~ん!」



 軽妙な夫婦漫才?を繰り広げている所に、ルパンと龍田用に準備しておいた料理を出してやる。

「ハイよ、『ハムカツ4種盛り』。ソースはお好みでね」

 皿の上には千切りキャベツにくし切りにしたトマト。それにちょっとの練りからし。主役のハムカツは丸い形のが2つ、半円に折り畳まれて何か挟んであるのが2つ。まぁ4つの内3つは何かしら挟んであるからそれぞれ味が違う。

「……中身は?」

「オイオイ、それを言ったら食べる楽しみが無くなるってモンだろ」

 ルパンの質問をのらりくらりとかわす。食えないような物は入ってないから安心しろ。これ以上聞いても答えないと判断したのか、丸い方のハムカツをつまみ上げて、かぶりつくルパン。

「く~これこれ、ハムカツって言やぁ薄っぺらいハムに分厚い衣だよなぁ」

 そう、一枚は何の変哲もない昔ながらのハムカツだ。いい分厚いハムもあるにはあったんだが、たまにはこういうジャンキーなのもいいだろう。薄っぺらいからな、ボリュームを出す為に小麦粉と卵、水を混ぜたバッター液とパン粉を2往復させて、普通のカツやフライよりも倍の厚みの衣にしてある。

 中身が解らないから、全体にソースをかけるのではなく一口かじってみてからソースをかける事にしたらしい。ルパンが先程かじったハムカツにどぼどぼとソースをかける。黒く染まったハムカツを、再びガブリ。

「く~!これまた懐かしい味だこと」

 そう言ってハムカツにかじりつきながら、グラスを干すルパン。やはり甘口のカクテルはハムカツには合わなかったのだろう。飲み干したのを見計らって、予め注いでおいたビールを差し出す。

「ほらよ、ハムカツ食うならカクテルよりこっちだろ」

 そう言ってジョッキに注いだビールを出してやる。他の連中も一杯目はとっくに飲み干してお代わりしてるからな、問題はない。

「気が利くじゃねぇの」

「そりゃ、一応ここのマスターだからな」

「ちょっとぉ、私の意見はぁ?」

 おっと、ルパンとの会話が弾みすぎて龍田の事がほったらかしになっていた。

「いやいや、すまんすまん。無視してるつもりは無かったんだがね」

「でもぉ、ホントに美味しいわぁコレ。こっちの丸いのはハムでチーズを挟んであるのよね?」

「お、ご名答。ハムチーズカツってやつさ。定番だけど、美味いだろ?」

 ハムの塩気と蕩けるチーズの旨味。そこにソースの辛味がプラスされてご飯のおかずとしてもビールのアテとしても絶妙だ。

「こっちの半円の奴は……ポテトサラダか」

「もうひとつの方は海老とアボカドが入ってるわ~」

 意外とハムカツはアレンジが利く。ハム自体が何にでも合うから、レパートリーは増やしやすいんだ。今別の物を作ってるから、レシピは後々な。




「そら、こいつはサービスだ」

 そう言ってルパン一行に追加の料理を出してやる。

「『レバーペースト』に『ガーリックトースト』だ」

「こりゃまた……随分とスタミナが付きそうなメニューだな?」

 早速ガーリックトーストにレバーペーストを載せた次元が聞いてきた。

「ん?お前らの艦娘を見ててな。大分疲れが溜まっている様だったから、スタミナ補給にな」

 大方錬度を上げるのに無茶な出撃をしたとか、過酷な事務処理をやらされたとか、そんな所だろう。高速修復剤だとか入渠で損傷は治っても、身体に蓄積される疲労までは完全に取りきれない。そういうのは食事や普段の生活の中で抜いていくしかないからな。ルパン一行に堪能してもらっている間に、レシピを載せておこう。 
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