真田十勇士
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巻ノ七十三 離れる人心その八
「止めてくれたが。それを言ってもな」
「仕方がないと」
「そうなる、何とかしたいが」
しかしというのだ。
「難しいことじゃ」
「そうなりますか」
「どうしたものか、わしは泰平のことを考えておるがな」
「ですか」
「御主はわしのことは気にするな」
大谷は幸村には微笑んでこう言った。
「お父上、源三郎殿の言う通りにな」
「真田家の者として」
「動き生きよ、よいな」
「では」
「その様にな、わしはな」
大谷はというと、彼はまた言った。
「泰平を考えておるがそれでも今はな」
「太閤様のことを」
「今度太閤様がわしの領地に来られる」
「では」
「思い切ったもてなしをさせてもらう」
笑みを浮かべてだ、大谷は幸村に話した。
「実はこれから領地に戻りな」
「その用意を」
「するつもりじゃ、百万石でも出来ぬ様な」
「おもてなしをですか」
「してみせる、これでも銭は貯めておいた」
「その銭を使い」
「そしてな」
それだけのもてなしをするというのだ。
「絶対にな」
「太閤様にですな」
「喜んで頂く」
強い、確かな声での言葉だった。
「わしもな」
「百万石のもてなしですか」
「そうじゃ」
「それはまた」
「ははは、わしは高々十万石じゃがな」
それが大谷だ、唐入りの動きを見て秀吉は百万の兵を与え存分に動かせさせたいとも言ったが石高はそうしたものなのだ。
「しかしな」
「それでもですか」
「やってみせる」
「百万石の宴を」
「是非な」
「それはまた」
「大きいな」
自分でもわかっていての言葉だった。
「そうであるな」
「お言葉ですが」
「それをしてみせる」
まさにという言葉だった。
「必ずな」
「そうされますか」
「そのうえで太閤様に喜んで頂く」
頭巾の中の片目がここでにっと笑った。
「そうする」
「それでは」
「うむ、わしも励むぞ」
笑って言ってだ、大谷は自分の領地で秀吉をもてなす用意をした。そして秀吉が来た時にまさにだった。
百万石の大名でも驚くだけのもてなしをした、このもてなしにはだ。
秀吉も驚いてだ、大谷に思わず問うた。
「刑部、これはじゃ」
「はい、何か」
「あまりにもじゃ」
それこそというのだ。
「贅が過ぎるのではないか」
「いえ、太閤様へのもてなしなので」
「わしのか」
「天下様へのです」
だからこそというのだ。
「これ位はです」
「何でもないか」
「はい」
まさにというのだ。
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