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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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学園生活-スクールライフ-

憎しみが災いを呼ぶ。アニエスに対して自分はそう言った。
その言葉通りなら、自分の周りの不幸や災いも、才を持ちながら結果を残せなかった、不甲斐ない自分に対しての憎しみを抱いていたかもしれない。
コルベールと自分は、よく似ている気がした。
かつての自分が抱いたような、誰かのための夢。それはアニエスがこの場の刃を収めたことをきっかけに、この先の未来も続くだろう。自分がとやかく言えないとわかっていても、それを潰されたくなかったし、どことなく恩人の一人である副隊長と似たあの女が復讐に逸るばかりになるのを避けたくなった。だからアニエスを説得したのだ。
だが、自分は…
ザ・ワンを仕留める武器を結局作れず、TLTでより強力な兵器を開発してもそれが仇となった。ビーストにそれらを奪われ罪もない人たちを死なせ、さらには自分をずっと支えてきた少女さえも死なせ…。
ウルトラマンの力を得て異世界に来ても同じだった。村の皆を危険に追いやり、…そして、ついにはこの魔法学院にまで、闇の巨人の蛮行を許した。コルベールは、元は自分がメンヌヴィルと決着をつけなくてはならないと言ったが、シュウにとってそんなことは問題ではなかった。
アスカは終わったなんて言うなと言ってくれた。けど、アスカもまた自分のために…

…結局、自分がそうなっているとしか思えない。
自分が恐れていたこと…自分が『平和を脅かす存在』になっている、としか思えなくなっていた。
現に、奴との…メンヌヴィル=メフィストとの戦いで、奴の手でリシュとアニエスが攻撃されかけたときの自分の感情に呼応して、呼び覚まされそうになった。
『恐ろしい何か』が…俺の中にいる。
今回より以前にも、思えば『それ』は目覚めようとしていた。
最初は、ウエストウッド村を襲撃されたときだ。二度目は、アルビオン脱出時にてメンヌヴィルとの二度目の戦いを繰り広げたとき。そのときは、奴が幻影の愛梨を粉々にしたのを目の当たりにして、より鮮明に現れた。
そして今回は3度…いや、もはや回数なんてどうでもいい……『そうなること』自体が許されるべきことではないのだから。
この先も自分は、戦わなければならない。あの内戦地で散っていった人達や、愛梨たちを死なせた報いを、戦いを通してその身に受けなければならない。
けど、戦って行くうちに…自分が自分でなくなったら?償いの姿勢さえも消えて、ただ戦いの中で血を求める修羅となったら?メンヌヴィルの言うとおりの…血に植えた存在
そうなってしまったら、まさに元も子もない。償うつもりが、また多くの罪を重ねることとなる。もし次にまた、同じようなことが起こったら…。

俺はどうしたらいいんだ…

どうすれば、こんなことにならずに済んだ…?

俺は…結局なんのために、戦っているんだ?

誰か…教えてくれ…………


「ならば俺が真実を教えてやろう」
「!」
暗い空間の中でただ一人たたずんでいたシュウの耳に、不気味な声が語りかけてくる。
周囲を見渡すと、闇の中からあの男…メンヌヴィルがシュウの前に姿を現す。
「どんなに光でその身を覆ったところで…真実は変わらん。貴様も、コルベールも…一度汚れついた血の臭いは決して落ちることはない。それはいずれ、世界を飲み込む闇と同じように、お前をあるべき姿へと導く」
それを聞いてシュウは目を細める。いい加減この男の顔を見るのは嫌だった。
「あるべき姿…?貴様みたいに、自分以外の命を好き放題蹂躙する姿が、俺の正しい姿だとでも言うのか?」
「そうだ」
「一緒にするなと…言ったはずだ」
メンヌヴィルの言葉に、シュウは言い切るが、それでも奴は不吉な話を続ける。
「逃げようと思っているようだが、逃れる術などない。お前の闇は、もうすぐ目覚めのときを迎える。もうわかっているだろう?俺との戦いで、すでにお前の中の闇が目覚めているのがな」
「…黙れ」
うつむき、顔に影を作りながらシュウは口をつぐむように言う。すると、メンヌヴィルの姿が次第に闇の中へ溶け込み、消えていく。
「覚えていろ…ウルト…ラ…マン……貴様も……いずれ落ちるぞ…俺たちと同じ闇に…な…先に地獄で待っているぞ…」
「黙れええええええええ!!」
いい加減に…イラつく口を閉ざせ!その言葉が心の中でとどろき、シュウは腰に下げていたブラストショットを消えかけているメンヌヴィルに構わず撃ち抜いた。銃口から放たれた光の弾丸はメンヌヴィルを完全に消し去る。
彼が消えたのを確認し、大声を出しすぎて大きく息を吐くシュウ。考えたくも無かった。あいつと同じようになるのだけは。自分が平和を乱す存在になることだけは…絶対に認めたくない。
…しかし、シュウの身にここで異変が起こる。

ズキン!

突然頭の中に、割れるような強い頭痛と耳鳴りが走り出した。
「ううっぐ…!!?」
あまりに突然の激痛に彼は頭を抱え、闇の中でただ一人もだえ苦しんだ。
「が、ッああ…がぐ…ぅ…うわああああああああああああああ!!!!」
狂ったように叫ぶ彼の開かれた瞳孔の中に、ある景色が浮かぶ。


森の中、銃撃の嵐に散る人々


爆発の中で砕ける少女と、絶望の絶叫をあげる男


血で穢れきった夜の病棟


炎の中心で誰かが立っていた場所に広がる血溜まり


血で汚れきった手


そして、雨でできた水溜りに映った…



黒く染まった巨人の顔を




「シュウ!いい加減起きろって!」
「ッ…!」
突然耳に入ってきた大声が、シュウの耳に入った。あまりに耳元でうるさく聞こえたが、その直前にシュウははっと目を開けて起き上がる。
「ここは…」
起き上がったシュウは寝ぼけ眼をこすりながら周囲を観察する。テーブルの上のペットボトルやカップ、ペンシルバルーンの動物、熊とパンダの着ぐるみ。天井からぶら下がっているハンガーと服。少し散らかし気味の部屋の風景に、見覚えがあった。
「楽屋…?」
そこは、シュウがかつて住み込みのアルバイトをしていた、遊園地の楽屋だった。
自分の顔を覗き込んできた、人懐っこそうな青年。彼にも覚えがあった。
「…憐?」
「どうしたんだよシュウ。まだ寝ぼけてんの?」
「…何で俺、ここに…?」
「なんでって、俺たち、ここで一緒にルームシェアしてるだろ?ハリスが貸してくれてるこの部屋でさ」
憐の説明を聞いたが、違和感が自分の中にあった。おかしい、自分は確か……さっきまで、自分はこことはまったく別の場所にいたはずだ。
…あれ?
彼はそこでさらに妙な感覚を覚える。確かに、その『別の場所』にいたような感覚はある。憐とこうして会うはずが無い。けど、その場所がどこで、どんな場所なのか…思い出せない。
夢でも見たのだろうか?それにしても、ずいぶんと現実感がある。さっきまで何かとんでもないことをしていたはずなのだが、そのときの記憶が突然ぷつりと切れてる。
「にしてもお前が俺より寝過ごすなんて珍しいじゃん。雪でも降ったりして?」
憐が笑みを見せながら冗談を飛ばしてくる。しかしシュウは、無言のまま立ち上がる。
「…あ、もしかして…怒ってる?」
「別に…それより今何時だ?」
「時間?…ってああああ!!!やっべ!早く準備しないと!!」
「…もう開園時間だったのか?」
妙に慌てた様子の憐。窓から差し込む外の日差しの状況を見て、自分たちが働いているこの遊園地がそろそろ開園時間を迎えるのかと予想したシュウ。しかし、憐の口から次に飛んできた言葉は…シュウの予想を超えたものだった。

「ちげーよ!学校だよ!」

「…は?」





「おっせーぞ二人とも!!」
気がつけば、シュウは憐とともに制服に着替えて登校していた。ビルが立ち並ぶ秋葉原の電気街を横切り、少し人気が薄くなった通学路の市街地を歩きながら、二人は先に待っていた尾白と合流した。
「悪い悪い!珍しくシュウのやつが寝坊してさ!」
「シュウが、寝坊?珍しいな。憐ならなんとなくわかるけどさ」
「憐ならってなんだよ、憐ならって!それじゃ俺がいっつも寝坊してるみたいじゃん?」
目を丸くする尾白に、憐は軽くけなされたことに抗議する。
互いに文句を言い合いながらも、当たり前のように平和な日々を過ごす。シュウは二人のやり取りを見ながら、心が不思議と穏やかに感じた。ずっと長いこと感じてなかったような気がする。彼らのこんなくだらないやり取りだって、毎日聞いていたはずなのに。ごく最近までしんどすぎる仕事に励むあまり、彼らの会話に癒しを感じていた。ずっと自分にくくりつけられていた鉄球が、いつの間にか消えたような感じだ。
だが、違和感を感じた理由はそれだけじゃない。追試常習犯の尾白ならまだしも、憐と自分は、そもそも高校レベルの勉学などとっくにマスターしていたはずだ。なのに、日本の学校にこうして通っているのはおかしい。
「…なぁ、憐」
「ん?どったの?」
名前を呼ばれた憐が振り返ってきた。
「遺伝子暗号が3種類の塩基で構成されている理由は覚えているか?」
「ん~?そりゃ、たんぱく質を作るアミノ酸の数が20種類あるからだろ?アデニン、グアニン、シトシン、シミンの4つの中から2つの塩素を使って組み合わせてみても4の2乗で16通りだからアミノ酸の数に対応できなくて…
…って、なんでそんなこと聞くの?」
「いや…その…俺と憐は、少なくとも高校で出る履修科目の課程は把握してるはずじゃ…」
さっき脳裏に浮かんだ疑問を憐に明かしたところで、尾白が二人の間に割って入ってきた。
「なぁ…お前ら、何を話してんだよ」
「何って…記憶力の確認?」
「何で疑問系なんだよ。んなわけのわからないことじゃなくて、何か面白い話でもしようぜ。うちの学校にいるかわい子ちゃんたちの話とかさ」
「尾白そればっかじゃん…」
「言えてる…」
無理やり欲望まみれの話題を立ち上げてきた尾白に、もう聞き飽きたとばかりに憐がため息を漏らす。
「バッカだなぁ憐君は。俺たちはまだ高校生。青春を謳歌してる年頃なんだぜ。女の子の話で盛り上がらなくてどうすんだよ!」
ちっちっち、とアメリカ人の古臭いジェスチャーを示しながら、ちょうど歩道橋を駆け上る。
「そんなんじゃ…あ、あれうちの生徒?」
ふと、そこまで言いかけたところで、尾白は歩道橋の上に、誰か二人の人物が立っているのを見かけた。
「…みたいだな」
尾白に対し、シュウが答える。少しでも目の前のことに頭を切り替えようとしていた。
「あ~、なんか見たことあるぞあの二人。確か、2年の平賀ってやつと佐々木さんだな」
「佐々木、佐々木…あぁ!!思い出した!
2年女子の中でも『メイドにしたい女子ランキング1位』、佐々木シエスタ!俺、超好みなんだよ~」
憐から名前を聞いて、尾白が飛び付くように声をあげた。シュウもシエスタと、彼女の前に立っている平賀という男子生徒を見る。初めて見る顔のはずだ。だが、前から見たことがあるような気がする。いつぞや、どこかで肩を並べて戦った戦友のような…いや、何を考えているんだ。変な夢でも見て、頭がおかしくなったのか?
「おやおや黒崎君、なんであの子の方を見てたのかなぁ?もしかして、ついにお前もそういうの興味出た?でもだめだね。あの子は俺のターゲットなんだからな」
「別にそういう訳じゃないが…」
背後から乗っかるように、尾白がシュウの肩に腕を乗せてくる。からかいつつも、シエスタを自分の彼女にする算段でも立てているのか。
しかし、その目論見は発動前に崩れ去っていたことを、次に憐の口から明かされた事実に思い知ることになった。
「あれ、確かあの子平賀のことが好きだって聞いたけど?」
「何!?」
ぎょっとして憐に対して目を見開く尾白は、再びシエスタたちの方に視線を向けなおす。シュウも同じようにシエスタの姿を確認すると、シエスタの平賀を見る目は明らかに熱を帯びていた。疑いようの無い恋する乙女の目である。しかも耳を済ませると…
「サイトさん、私たち…この街でずっと一緒に過ごしてきたんですよね」
「あ、ああ…そうだよな。親父たちの縁で、小学校も中学校も、高校だって同じだったもんな。
でも、シエスタは俺なんかが幼馴染で良かったのか?」
「サイトさんだから良かったんです!」
「うお!?き、急にどうしたんだよ、そんな大声…」
「す、すみません…でも私、おじいちゃんとサイトさんのご両親のご縁がきっかけで、サイトさんが幼馴染で本当に良かったって思うんです。
だからこれからも一緒ですよね?大人になっても、ずっと…」
もう疑う余地なしである。尾白が絶望の声を漏らす。
「くっそぉ…またか!また先客つきだったのか…!!この前も好みのお姉さん見つけたのに『お姉さんこれからデートなの♪』ってよぉ…」
「どうでもいいだろそんなこと。それより早く学校行くぞ」
無残なほどにばっさりと切り捨てて歩道橋を上り始めたシュウ。不満に思った尾白は、彼を追いながら階段を駆け上ってきた。
「お前は自分の友の恋路を応援するという気概も無いのか!?」
「ない」
「…お前に聞いた俺が馬鹿だったぜ…」
彼が相当淡白な一面が目立つことを改めて自覚し項垂れた尾白。すると、憐が急に二人を後ろから腕を引っ張って引き止めてきた。
「二人とも、ちょっとちょっと」
さらには頭を押さえつけて身を屈めさせてきた。いきなりなんなのだと思った二人だが、平賀とシエスタの姿を見て納得する。
ちょうどいい雰囲気が二人の間に漂っていた。顔が近く、今すぐにでもキスしてしまいそうなほどに顔が近い。
「あぁ…そういうことか」
「邪魔したら悪いし、回り道しようぜ?」
「くっそ…いっそ爆発しちまえばいいのに」
平賀とシエスタに遠まわしな気遣いをしてくれる憐とは裏腹に、尾白はねたましげに二人を…いや、平賀を睨み付ける。彼女ができないことからの妬みがひしひしと感じる。
憐のいうとおり邪魔をするのも悪い。自分もそれに乗って回り道をして登校しようと思った時だった。
「あああもう!遅刻よ遅刻――――!」
「る、ルイズ!そんなに急いだら危ないよ~!!」
まるで特急列車のような勢いで、シュウたちに向かって、セーラー服を着た一人の少女が突進してきたのだ。
「うお!?」
三人は驚きこそしたがいち早く反応して避けた。
「ああもうルイズったら、また…!!」
もう一人の金髪の少女も後に続いて歩道橋を駆け上って彼女の元に急いだ。ふと、すれ違いざまにシュウは少女の顔を見た。
「…!」
正直、柄にもなく目を奪われてしまった。白く艶のある肌に黄金の頭髪、あどけない顔…いずれもが美しいと思わせるものだった。
「おぉ、あの子もすげぇ…特に一部」
尾白も見とれていたらしい。無理も無い、シエスタとルイズも女性としての美貌はあるが、それ以上の衝撃をシュウたちに与えた。別に彼でなくても、あの少女の美しさに気をとられない男はほぼ皆無と考えるべきかもしれない。
…が、尾白が彼女の、『一回り大き目の一箇所』をやたら凝視していたのに気づいたシュウは……ムカッときたので彼の頭に拳骨を落とした。
ガツッ!!
「痛ってぇ!?なんで殴るんだよ!?」
「…あ、ごめん。つい…」
「ついってなんだよ、ついって!?」
はっきりとした理由も無く殴られたことに尾白は不満を露にする。
それはそうと、さっきまで平賀とシエスタの二人は自分達のことに気をとられていたせいか、反応に遅れた平賀と、階段をかけ上った少女がぶつかってしまう。激突した衝撃で平賀と少女は歩道橋の上で勢いよく尻餅をついた。
「っつ…!」
「大丈夫ですか、サイトさん!?」
シエスタがすぐに平賀…サイトのもとに駆け寄ってくる。サイトは軽く「あぁ…」と返事して、制服についた砂を叩き落としながら立ち上がった。
「いったーい…」
「だ、大丈夫ルイズ?」
さっき尻餅をついた桃髪の少女の元に、もう一人長い金髪の少女も遅れてやってきて彼女を起こした。
「んもう!あんた、そこに突っ立ってたら邪魔じゃない!道を開けなさいよ!」
立ち上がるや否や、ルイズと呼ばれた少女はサイトに向かって、酷い文句を叩いてきた。これを聞いてサイトも腹を立てる。
「な、なんだよお前!お前こそこんなとこで体当たりかましやがって!下に落ちたらどうすんだよ!お前こそ立ち止まって、一言言えばいいじゃねぇか!」
「紳士たるもの女性が来たのなら、言われなくても道を開けなさいよ!」
「なぁにが紳士だ!そうやって自分は悪くないって言うような奴に垂れる気遣いはねぇよ!」
「何ですってぇ!?」
朝から喧しい。鬱陶しいことこの上ない。確かにあそこで突っ立っているサイトとシエスタは通行の邪魔ではあるが、特に少女の方は口にした言葉からして遅刻している上に自分からぶつかってきておいて理不尽なものだ。
「うわぁ、あの子もすげぇかわいいのに、めちゃくちゃなこといってんぞ」
尾白は美貌こそ認めたものの、桃髪の少女に対して苦手意識を感じたようだ。
「ルイズ、またそうやってつっかかるんだから!しかも会ったばかりの人に!」
一触即発な展開を起こしたルイズにどこかうんざりしたような様子を見せつつも、金髪の少女は桃髪の少女に注意を入れた。
「て、テファ!?だ、だって…こいつ道の真ん中に突っ立ってて…」
付き添いの彼女から注意を受けたのが予想外だったのか、それとも注意を食らって頭が少し冷静になり始めたのか、ルイズは慌てて言い訳してしまうが、それが通じる相手ではなかった。
「子供みたいなこと言って…そもそも遅刻しそうになったのは寝坊したルイズでしょ?それを関係ないこの人に当たるなんて…」
「うぅ…」
「ほら、見ろよ。お前の友達の方がしっかりわかってるじゃないか。お前なんかと違って見た目だけじゃないみたいだし」
「あんたねぇ!!」
サイトも顎で『テファ』と呼ばれた少女を指しながら、ルイズにざまぁみろとばかりに言い返すが、意地っ張りな性格もあってルイズも怒鳴り返してしまう。
…もういい加減にしてほしかった。朝っぱらからずっとギャーギャー喚かれ我慢ならなくなったシュウは、ついに自ら彼らに近づいて声をかけた。
「……おい、もういいだろ。ここでグダグダ無駄口叩いてたら本当に遅刻するぞ」
それを聞いたとたん、ルイズが真っ先に自分たちの状況に気がつく。
「そうだった!こんなことしてる場合じゃなかった!!急がないと!!」
「あ、おい!」
まるで嵐のような勢いで、ルイズはサイトの声を無視して走り去ってしまった。
「すごい子でしたね…」
シエスタが呆気にとられたように言う。
「ったく、謝りもしないで勝手に行きやがって…あんなにかわいいのにもったいないな」
サイトはルイズからの謝罪も来なかったことに不満を漏らす。そんな彼にテファと呼ばれた少女は頭を下げてきた。
「す、すみません…あの子気が立ちやすくて…」
「いや、君が謝ることじゃないって。それより、俺たちも行こうぜ。俺、今度遅刻したらグラウンド走らされるんだったし…」
だったらあのガキのふざけた言葉なんて無視しろよ、とシュウは思った。
「そうだ、俺たちも急がないと!シュウ、尾白!早く行こうぜ!」
「お、おい憐!置いてくなよ!」
サイトの言葉を聞いてか、憐も突然駆け出していく。尾白はそれを必死になって追いかけ始めるのだった。


かろうじて、遅刻は免れた。あと少しで門が閉まろうとしたところで、サイトやシュウたちは門を通ることができた。
しかし、遅刻ギリギリ間に合ったとはいえ、門番をしていた先生からは怒られてしまったが。
「まったく、平賀君。君はいったいどれだけ遅刻すれば気が済むんだ?常習犯として3年でも有名になってきているんだぞ?ちゃんと毎朝、目覚ましのアラームを設定して、起きられるようにしないと」
そう言ってきたのは、この日の門番だった若い男の先生だった。優しそうな顔を浮かべ、女子からの人気も高そうだ。
「で、でも『孤門』先生。俺、どうしても朝に弱くて…」
毎朝起こしてくれるシエスタにも言われていることだ。できれば自分で目を覚ましてくれ、と。だがどうしても好きなゲームをするあまり夜更かしし、朝に弱くなってしまっていたサイトであった。
「言い訳しない、何度も佐々木さんが起こしに来れるわけじゃないんだぞ?社会人になってからそのままだと、同僚に迷惑かけて大変なことになりかねないんだから」
「す、すみません…」
言い訳して回避しようとしたが、『孤門』先生はそんなことで許そうとしなかった。この程度の言い訳を許したら、あらゆるみっともない弁明を通すことになる。
「佐々木さんも、あまり無理をしないこと。君まで遅刻になる理由はないんだから」
「いえ、いいんですよ孤門先生。自分で好きでやっていることですし、それにサイトさんを起こすと、やっと今日が始まるんだって思えますから」
「けど、黒崎君やウエストウッドさんまで遅刻なんて珍しいな。たまに遅刻する千樹君と尾白君ならわかるけど」
「もう~孤門、そりゃないだろ?俺まで遅刻の常習犯みたいになっちゃうじゃん」
「こら。ここでは『孤門先生』と呼ぶ」
「は~い、孤門先生♪」
「やれやれ…」
シエスタの、なんだか良妻のような心構えと、憐のいつも通りの明るい様子に、孤門は諦めたように笑みを混じらせたため息を漏らした。
憐と孤門は生徒と教員の関係でもあるが、それ以前に年の離れた友人同士でもある。たまにこうして、生徒と教師の枠を超えて砕けた会話を取り合うこともある。
「それはそうと、早く教室に行きなよ。後10分で朝礼の時間だ」
孤門はそう言って門を閉め、職員室の方へと向かっていった。
「そうだ!この前の数学のプリントやってねぇ!」
「後で私が見せますから、すぐに教室に行きましょう!」
「あ!俺も生物の宿題プリント忘れてた!憐、あとで教えて!」
「尾白って、ほんとこういうのに関して世話が焼けるのな…今日の昼飯の奢り、忘れるなよ?」
サイトや憐たちもまた急いで教室へ直行した。
あわただしい。そう思った中、シュウは考える。
…やはり何かおかしい気がする。普通なようで、普通じゃない。自分の日常は、こんな平凡さに満ちていたようには思えなかった。シュウは、自分の中にある違和感をぬぐえないままだった。けど…今の自分の記憶では、当たり前の光景のはずでもある。何かが矛盾している。そんな気がしてならない。それがなんなのか、あるはずなのに認識できない。
いや、そんなことより俺も急ぐべきか…そう思ってシュウもかばんを担いで歩き出した。
「あの…」
ふと、シュウの後ろから話しかけてきた声が聞こえた。振り返ると、まだそこにテファと名乗った少女が立っている。
「君、まだいたのか?てっきり急いだのかと思ったのだが…」
「いえ、何か考え込んでいるみたいだったから気になったんですけど…」
さっきの顔を見られていたのか。自分でも言うのもなんだが、ポーカーフェイスを保つほうだと思っていたが、表情で気づかれてしまったのか。
「…それで、何か用か?」
「あ、えっと…」
用件を問われ、テファは一瞬口ごもるが、改めてシユウの方を見て、いいにくそうにしつつも質問をかけてきた。
「失礼ですけど、どこかでお会いしてませんか?」
俺と、彼女がどこかで?とりあえず記憶の糸をたどってみるが、シュウは首を捻った。
「?…いや、今日会うのが初めてだと思うぞ」
「そうですか…すみません、変なこと聞いて」
「シュウ!」
テファが謝ったところで、また新たな声が彼の耳に入る。思わず振り返ると、長い青い髪の同学年の少女が、シュウを待っていたのかそこに立っていた。
「今日あなたと日直の仕事する予定だったでしょ?こんな時に遅刻だなんて」
彼女から言われてみて、シュウは思い出す。確かにこの日は、日直を言い渡されていた気がする。
「すまない。すぐに行こう……



『愛梨』」



とりあえずシュウは、目の前にいる『青い髪』の彼女…『愛梨』に向けて謝罪した。
「わかっているならいいの。次は遅刻しないように、ね?」
「わかっているさ。二度も三度もやらかしてたまるかよ」
愛梨は幼い頃からずっと一緒だった、いわゆる幼馴染だ。サイトにとってのシエスタのような存在ともいえる。
…一緒、だった…か?…そのはずだ。一瞬、何か考えたくもない悪い予感がしたが、気のせいだろう。
「よろしい。…あら、そちらの彼女は?2年生?」
愛梨は、シュウの近くにテファが立っていることに気が付いてそちらに視線を向けた。
「あ、はい…2年のティファニア・ウエストウッドといいます」
ふと、シュウは愛梨とテファの名前を聞いて、そして顔を見て何かを感じ取った。なぜだ、彼女たちを見ていると…奇妙な気分になる。
(…なんだ、胸が苦しい?)
よくわからない。なぜか彼女らを見ていると、胸が張り裂けそうな痛みが走る。だがその正体がわからない。
今朝から、いったいなんなのだ?よくわからない正体不明の違和感ばかりが自分に襲いくる。
(ワケわからん…)
何一つそのとについて予想さえもつかず、それが苛立ちを湧き上がらせる。

「わからなくて、いいんじゃない?」

その言葉が耳に入ったところで、シュウは頭の中が突然グラッと揺れた。

「あなたは、なにもわからなくても…いいんだよ?」


なんだ…誰の声だ?それに、意識が…遠のいて…………

……………


もう学校に入る時間だというのに、目の前が真っ暗になっていく。このタイミングで眠ってしまうという、学生にあるまじき状況に逆らおうとしたが、それでも襲ってくる睡魔に耐えきれず、シュウはそのまま意識を手放してしまった。







暗闇に満ちた、黒部ダムの湖の湖底に存在する基地『フォートレスフリーダム』。スペースビーストの驚異から地球を守る組織『TLTーJ』の者たちの活動拠点である。
そこのある一室、部屋の扉に『CIC』と刻まれた個人用コンピュータールームにいる若者、吉良沢優がナイトレイダーたちに指示を下す。
だが今、その部屋にいるのは彼ではなかった。
正面のコンピューターの画面に、名前に年齢、性別など、ある一人のプロフィールらしき情報が表示されていた。
そこでキーボードを叩き続けているのは、外見から見て二十歳手前の若い少女だった。
「そんな…」
画面に映るある人物のプロフィールに、その人物のサーモグラフィーが表示される。だがそこで解析されていたのは体温などではなかった。

『侵食率 70%』

「この短期間で一気にこの数値、いくらなんでも早すぎる……」
彼女は思わずそのように呟いた。明らかに目の前の数値に対して焦りを感じているのが見てとれた。
「このままだと、『あいつ』が目覚めてしまう…」
彼女は、さっき見た数値を映している画面から、その向こうの壁にあるモニターに目を移した。
モニターに映るのは、分厚い鉄の大扉。扉からは、わずかに赤い稲妻が漏れ出ていた。彼女はその赤い稲妻を睨み付け、再びキーボードを叩き始める。
そのたびにディスプレイに無数のプログラムが、高速再生された映画のエンドロールのように流れていく。だが、すぐに異常が起きた。彼女の操作するコンピュータが煙を放ち、そしてバチっと漏電を起こした。
「きゃ!」
思わず悲鳴を上げる少女。画面を改めてみると、『ERROR』の赤い文字が浮かび上がっていた。
「次、もし覚醒したら…今度こそ彼は…そんなこと絶対に…!」
ここで怯んでいるわけにいかない。椅子に座った彼女は再びコンピュータにプログラムを打ち込もうとした、その時だった。

「お困りみたいね?」

「…!」
声に反応して、彼女は回転椅子を即座に反転させた。入り口がいつの間にか開かれている。そしてそこの影から姿を隠した立ち位置で、女性と思われる何者かがいる。
「誰?ここには私以外存在しないはず…」
キーを打っていた少女は、入り口の影に隠れる女に突き刺さるような視線を送る。
「そんなことどうでもいいんじゃない?それよりもあれ」
入口の影から伸ばしてきたそのしなやかな指で、その女は、少女が睨みつけていたモニターに映る扉の赤い稲妻を指さしていた。
「今にも暴走しそうね…いったい何が封じられているの?」
「…あなたには関係ない」
少女は、影に隠れている女に敵意を剥き出すような思い口調で突っ返すが、女は口を止めない。
「無駄な努力をいつまでも必死こいて続ける様、頑張り屋さんなのね。でも、もうわかっているんじゃないの?
少なくとも私が様子を見てから何か月も同じことをしている。でも、あなたは結局何も結果を残せていない」
「黙って…」
「もうわかっているでしょ?そもそもあなたの力は、日に日に消耗するだけ…これ以上彼の闇を封じ続ければ、力を使い果たしてあなたが消えるわよ?」
「うるさい!」
少女は大きな物音でかき消すためか、デスクをバン!と殴った。
女は全く物怖じすることなく少女に言った。
「じゃああなたにこれ以上何ができるというの?こんなところでただ闇雲に動くだけのあなたに」
事実を突きつけられたからか、少女は項垂れた。
「…私にどうしろと言うの?」
「あたしなら、あなたよりも安全で確実に生かすことができるのよ?あの中にいる奴から、確実に…
あたしの作り出す『夢』でね」
彼女が再度指をさした、赤い稲妻を纏う巨大扉。このような文字が表示されていた。

『SECTION-0』

 
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