普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
180 詐称者の末路
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
(……やっぱ、こうなったか…)
〝闇の魔術に対する防衛術〟の教室の控え室(?)──〝映画〟に於いてルーピンがハリーに“忍びの地図”を返還した部屋で、左右をアニーとハーマイオニーに挟まれながらの形でロックハートと対面している俺は内心で嘆息する。
事の始まりは今朝──300点というダンブルドア校長からの加点で、今年の寮対抗杯もグリフィンドールの勝利が半ば決まった日の〝闇の魔術に対する防衛術〟の授業が終わった後ロックハートに呼び出されたのだ。
―ミス・ポッター、ミス・グレンジャー、ミスター・ウィーズリーは後で私の部屋に来る事―
そう聞いた時は、ロックハートのフットワークの軽さに驚いた。……一朝一夕──どころか、数時間の内にロックハートが俺達を呼び出したのだから、アニーとハーマイオニーも驚いていた。
「……ひとまずは──そうだね、〝すばらしい〟と誉めておこう。君達は〝バジリスク〟と云う存在に逸速くに辿り着いて的確かつ迅速に対処した。……しかし私からいくつか訊きたい事がある」
「何でしょうか?」
おべっかから一転、ロックハートは真面目な顔をしたので、幾分かこういった──折衝染みた会話に慣れている俺がロックハートとの会話の矢面に立つ。
「……こちらの方でも〝バジリスク〟について調べてみたよ──なるほど、図書で読んだだけでも危険だと判る。……そこで一つだけ気になった──どうして、いの一番に〝闇の魔術に対する防衛術〟の教師である私のところに来なかったのだね? ……先にバジリスクについて調べていた君達ならバジリスクの危険性が判ったはず」
ロックハートは更にそこに「〝バジリスクの退治〟──〝闇の魔術に対する防衛術〟の教師にとっては正に〝お誂えむき〟の案件でしょう」と付け加える。……正直なところ、〝お前なんか役に立つ訳ねーだろ、ボケェ!〟──そう吐き捨てそうになるのを必死で堪えた。
……堪えられた自分を誉めてやりたいところである。
もちろんの事ながら、ロックハートにそんな事──バジリスクについて調べた事を話して、ロックハートにその功績を騙られるのも癪だったと云うのもある。……俺だけだったならまだしも、あの時はアニーとハーマイオニーも居たのだ。
故にこそ、俺はこう騙り──こう語る。
「……確かに一番最初にロックハート先生のところに向かおうとは思いましたがロックハート先生は大変お忙しいのだと──ロックハート先生のお手を煩わせる訳にはいかないと愚考し、マクゴナガル先生に報告の方をさせていただきました」
「むぅ…」
俺の虚と実──或いは本音と建前を綯い混ぜにした論言に、ロックハートは口ごもる。……実際問題、ロックハートが割りと──手紙の返信などで多忙なのは、ロックハートが〝授業(笑)〟で自慢話を混ぜられながらの話で知っている。
……右に居るアニーからの感心する様な視線を受けながらロックハートの言葉を待っていると、軈てロックハートは主に〝諦感〟を混ぜた表情で話を次に移す。そこに至るまでの表情の変遷は自然であり、ロックハートの話術の巧さが窺えた。
「……そうですか、そうですか。お気遣いいただき誠に嬉しく思います」
(……こんだけトークが巧いならこんな──詐欺みたいな事しなくても良いだろうに…)
そう、ロックハートははにかんでみせて、と白く輝く歯を俺達見せる。そして俺はロックハートのトーク術を改めて拝見して、〝もったいない〟と感じる。……〝自分の価値〟を一番理解出来ていないのは、やはり自分自身なのだと痛感。
「君達みたいな──まだ二年生の生徒が混迷としかけていた校内に光をもたらした。……それは、とてつもなく凄い事だ。それについてはこの〝ギルデロイ・ロックハート〟が太鼓判を捺そう」
「はぁ、恐悦です」
「まぁ、しかし──ダンブルドア校長先生の言うことではないが、疑問を持ってしまうのも仕方のない事だろう」
「……それなら、マクゴナガル先生のところに行ってはどうでしょう、きっとマクゴナガル先生は俺達が提出した内容を詳らかに教えてくれますよ」
そこまで言うと、ロックハートは「ちっちっちっ」と舌を鳴らしながら指を振る。それもまたいやに似合っている所作なので、地味に苛ついた。
「ウィーズリー君──いやロン、私が言いたいのは〝そういう事〟ではないのだよ。……私は君達が〝どうして〟〝どのように〟して栄誉を得たのか、君達の口から聞きたいのだよ──直截ね」
(あー…、そうくるのね…)
俺達──と云うより、俺の口が固い事に気付いたのか、ロックハートは話を直截的なそれへと変える。……ほんのり上がり掛けて俺の内心での〝ロックハート株〟がまたもや元の超低空飛行状態に。
アニーとハーマイオニーも、まだ俺達から〝事件〟の顛末について聞き出そうとするのを諦めていなかったらしい事を悟ったのか、俺に〝どうするの?〟──と、アイコンタクトを送ってきた。
俺はそれらの視線に〝俺に任せろ〟と意を籠めて一つだけ頷くと、その意を受け取ってくれたのか、アニーとハーマイオニーからは鷹揚な首肯が返ってくる。
……アニーはもちろんだとして、ハーマイオニーも俺の意を汲んでくれたのは日頃密にしていたコミュニケーションの杵柄だろう。
(……そういや、杖に干渉するには〝〝強力な杖〟が必要である〟──みたいな記述が在ったな)
話の雲行きも怪しくなってきたので、並行思考に於けるサブの思考でそんな事を思い出しながら然も所在無さげに両手を後ろに回し──俺自身をロックハートの視線からの死角として〝倉庫〟から〝アレ〟を取り出しつつロックハートに〝これまでの話〟を語り始めた。
………。
……。
…。
ロックハートへは時に──〝“トム・マールヴオロ・リドルの日記”について〟などはアニーとハーマイオニーに語ってもらい、おおよその事を主に俺が語った。
そして、ロックハートはと云うと、時に驚き、時にメモを取りつつ俺達の話に聞き入った。……ロックハートは、意外でもないが聞き上手だったので、話はすんなり終わった。
……ちなみにメモを取る理由について突っついてみたが、〝後学の為〟だとやんわりと誤魔化されたり。
閑話休題。
「……そして今朝の加点に至り…」
「私にここへ連れて来られた──と」
そう俺の言葉尻を奪ったロックハートに対して、短く「はい」と頷く。……そんな俺を見たロックハートは朗らかな笑みで何度もゆっくりと頷き──自然な所作で出した杖を俺達へと突きつける。
「ハーマイオニー・グレンジャー嬢、ロナルド・ウィーズリー君──そしてアニー・ポッター嬢。君達の働きには私としても空前絶後──大層驚かされた」
「……ロックハート先生…?」
いきなり豹変したロックハートの名前をハーマイオニーが呼ぶ。……しかしハーマイオニーには前以て──可能性として〝ロックハートの本性〟を教えてあったのでハーマイオニーはそこまで取り乱してはいない。……次はアニーが続く。
「いきなり杖を向けてきて──これは一体どういう事ですか?」
アニーの言葉に手元で杖を遊ばせながらロックハートは能面みたいな笑みを張り付けながら頷くと杖を出した理由について話しはじめる。
「……どうせ消える記憶だ。少々私の事について語ってあげよう」
………。
……。
…。
ロックハートは詐欺を鼻高々に語っていった。
……手口は〝映画〟──もしくは〝原作〟と一緒で、標的を見繕ってはその人の武勇伝を詳しく聞き出して、〝忘却術〟で武勇伝に関する記憶を消して〝はいサヨナラ〟といった具合だった様だ。
「……さて私の話はこれまでで良いだろう。……君達はよく働いてくれた──だがもう君達に用は無い。……記憶に永遠の別れをつげたまえ!」
(……来た…っ!)
予想通り、俺達の記憶を消しにかかってきたロックハート。……それを予め想定してい俺は〝STRENGTH(ストレングス)〟で強化した速度でロックハートへ杖を向けて、ロックハートが〝忘却の魔法〟を唱えきる前に、〝ロックハートの杖に〟その魔法を掛ける。
「忘却──」
(今っ!)
――“錯乱せよ(コンファンド)”
「せよ(エイト)──っ!」
これから入るであろう本の印税を皮算用していたのか──喜悦に満ちた笑みで〝忘却の魔法〟を掛けてくるロックハート。……〝錯乱の魔法〟が俺の狙い通りに働いてくれたのか俺達には特に異変は起こらなかった。
……寧ろ異変が起こったのらロックハートだった。
先ほどまで浮かべていた軽薄な笑みは息を潜めていて、その顔に浮かんでいるのはまるで迷子の様な所在無さげな顔。
「……あの──ロックハート先生…?」
さすがにロックハート様子がおかしい事に気付いたハーマイオニー。……ロックハートの口からは、アニーとハーマイオニーからしたら予想外の返答があった。
「先生? ……私が?」
「……ロン、貴方…」
「これはあれだね…」
「ああ、多分ハーマイオニーとアニーの予想通りだ。……ロックハートの杖に〝錯乱の魔法〟を掛けて〝忘却の魔法〟が逆噴射する様にした」
ハーマイオニー、アニー順で──〝俺がしでかした事〟の予想がついたのか引き気味な目付きで俺を見る。……そして俺は、ロックハートが未だに所在無さげにしている前で二人に〝俺がしでかした事〟を手短に明かす。
……すると二人は余計に引き気味な目付きで見てくる様になったが、咳払いで無理矢理に誤魔化す。
「……でもどうするの…?」
「どうするも何もゴートゥー・医務室だろ」
〝因果応報〟──それがロックハートの末路だった。
SIDE END
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