普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
178 ジニーの進退
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
マクゴナガル先生に連れられて入った──実は初めての入室だったりする校長室。
ざっと見渡せば確かに、先に〝ここを訪れたアニーとハーマイオニーが言っていた様に、ダンブルドア校長の部屋には興味深い物で溢れていた。
「見ろよ」
「すげぇぜ!」
地味にフレッドジョージも校長室へと入るのは初めてだった様で目を爛々と輝かせている。なので俺はフレッドとジョージの手が〝間違えて〟そこらの小物に伸びてしまわない様に、それとなく見張っておくことに。
……パーシーは校長室へ入った事があるのか、そこまで割りとノーリアクションだった。さすがは監督生と云うべきか。
(……ジニー…。……眠ってるだけか…)
室内を見渡せば、ジニーが長椅子に横たわっているのを発見する。
ずっと〝日記〟を保持していたせいか、多少の〝淀み〟はあれど気は流れていて──ちゃんとジニーが生きているのが判り、一旦ほっとする。今のところは眠りに就いているだけらしい。
……ジニーの気配に〝お辞儀さん〟の気持ち悪い気配がまだ紛れているので、ダンブルドア校長は、〝日記〟はまだ破壊出来ていないようだ。
「ジニー!」「ジニー!」
「ジニー!」
俺の視線を追うように、まずはフレッドとジョージがジニーが横たわっている場所を見付け、パーシーが少し遅れて双子に続き末妹の名を口にしながらジニーの近くに寄る。
しかし、当のジニーはと云うと寝息を発てているだけで、うんともすんとも言わない。……〝日記〟の件でここ最近寝不足だった可能性が高い。
……ジニーがただ眠っているだけだと云うことを、〝ジニーに何かあったのではないか〟と心配している兄達にそろそろ伝えようとした時、部屋の上部から人を落ち着かせる声音で話しかけられる。
――「案ずるでない、ジニーは寝ておるだけじゃ」
上階の柵から身を乗り出されながらのその声の主は云うまでもなく、この部屋の主──アルバス・ダンブルドアその人だった。……監督生かつ一番年上なパーシーは双子より早くその佇まいを直し、ダンブルドア校長に改めて訊ねる。
「……寝ているだけ…?」
「その通りじゃ、パーシー。どうやらジニーはここ最近よく眠れていなかったようでの」
「良かった…」
パーシーは安堵したのか、肩を撫で下ろす。フレッドやジョージを見ればパーシーと同じ様なリアクションをしていた。……俺も一応〝安心した…〟とな体をとっておく。
……しかし俺のリアクションは一瞬遅れていたようで、ダンブルドアは俺の方を向き…
「さて、さすれば〝どうしてジニーは校長室に忍び込んだのか?〟……と云う疑問に辿り着く。……その疑問の答えを知っておるのではないかね──ロナルド・ウィーズリー君」
「「「!!?」」」
(あちゃー…)
ジニーから一歩離れていた俺を、パーシー、フレッド、ジョージほぼ同じタイミングで振り返る。三人からの疑念の混じった視線さらされながら、内心──顔には出さない様に嘆息しつつ〝どこから話す〟かを思案してみる。
(〝ルシウス・マルフォイがジニーの荷物に〝日記〟を紛れ込ませているのを見ていた〟──却下だな)
まず浮かんだ案をすぐに却下。……今もなお胡乱な目で見てきている兄三人から〝どうして〝日記〟について兄に話さなかったのか?〟問われるのが分かりきっているからだ。
(……〝話さないべきところは話さない〟──だとするなら…。……うしっ)
大体話す内容も決まった俺は、言葉を選びながらゆっくりと口を開く。
「……きっとジニーは〝何か〟を探すために校長室へと忍び込んだのだと思います」
「一体何を探しに」
「校長室にまで来たんだ?」
まずは当たり障りの無いところから始めれば、当然の疑問がフレッドとジョージから投げ掛けられる。……それはパーシーもまた、判りやすく視線やらで話の続きを促してくる。
ダンブルドア校長も俺に話の続きを促している。しかしダンブルドア校長の場合はパーシーの思考停止とは違うようにも思える。……〝君なら知っているはず〟と云う言葉から類推するに〝三人に説明してあげなさい〟と云う意味合いなのだろう。
(……ったく──まぁ良いか)
「考えられるのは〝ジニーが校長室にあると確信していて〟──かつそれがジニーからしたら〝〝ダンブルドア校長の手元〟にあるのが望ましくないモノ〟。……そして、ついさっきダンブルドア校長が言った〝俺なら知っている〟と云う言葉から類推すれば──」
ごくり、と三人が唾を飲み込んだのを確認して更に続ける。
「“トム・マールヴォロ・リドルの日記”──きっとそれがジニーが校長室にまで忍び込んで探したかったモノだ」
「トム・マールヴォロ・リドル?」「トム・マールヴォロ・リドル?」
「〝トム・マールヴォロ・リドル〟…? どこかで見た覚えがあるぞ…?」
フレッドとジョージは当たり前のごとく〝お辞儀さん〟の本名を知らない様だった。しかしパーシーは〝トム・マールヴォロ・リドル〟と云う名前に琴線が触れたのか、喉奥に小骨が引っ掛かった様な表情で〝トム・マールヴォロ・リドル〟と、譫言の様に何回も口にする。
そんなパーシーをフレッドとジョージは〝気でもふれたのか?〟と見るが、パーシーは何のその。……そして5回目の〝トム・マールヴォロ・リドル〟が終わった辺りパーシーは指を鳴らす。……どうやらパーシーは思い出したらしい。
「思い出したぞ! 〝トム・マールヴォロ・リドル〟は50年前〝ホグワーツ特別功労賞〟を貰った生徒だ!」
「本当かパース!?」
「ああ」
「そんな事よく知ってるな」
「トロフィー室には何回も行ってるからね、間違いないと思う」
そう、羨ましそうな表情でパーシーはフレッドとジョージから目を逸らす。……双子からしたらトロフィー室なんて退屈極まりない場所なので、フレッドとジョージにからかわれると思ったのだろう。
「僕としては何でロンが〝トム・リドル〟を知っているのかが不思議なんだが──もしかしてロンも監督生に興味が…?」
「……俺の場合はちょっとした縁で前から知っていた〝トム・マールヴォロ・リドル〟の名前にたどり着いただけだよ」
「〝ちょっとした縁〟…? ……ともかく、トム・マールヴォロ・リドルと云う生徒は、模範的な生徒なのは間違いない」
……そこでパーシーの〝憧憬〟がありありと込められた言葉を継ぐかの様に──実は階下に降りてきていたダンブルドアが口を開く。
「そうじゃ。……確かにトムは優秀な生徒じゃった──まぁ、儂の力が至らなかったが故に悪の道に堕ちていってしまったがの」
ダンブルドア校長へと視線を向ければ、校長は鷹揚に頷く。後はダンブルドア校長が引き継ぐようだ。
(……んん…? 〝日記〟の件なら俺だけでも良かったはず──あぁ、そういう事か)
ふとそんな疑問を持つが、肩を撫で下ろしながら安堵しているパーシー、フレッド、ジョージを見てそんな疑問もあっという間に氷解する。ジニーはウィーズリー家の末妹である。……多分、ダンブルドア校長は俺達を安心させたかったのだろう。
……それから、この後俺に〝個人的に話がある〟とでも言えばダンブルドア校長からしたら一石二鳥だ。……そう考えれば、俺の口から〝日記〟について語らせたのもその伏線だった公算が高い。
「でも、なんでその〝トム・リドル〟とやらの」
「日記をジニーが持っていたんだか」
「……確かに何で…」
それにはパーシーも頭を捻らせる。……〝トム・マールヴォロ・リドル〟──50年前の優等生と、今年ホグワーツに入学したばかりの11歳かそこらの少女との共通項がどう考えても見つからないのだからパーシーの疑問も尤もである。
「……そう、じゃから〝誰が〟〝どうやって〟〝どうして〟トムの日記をジニーに渡したのか──それが問題なのじゃよ。……ある程度目星を付けられても証拠がない」
「〝〝名前を言ってはいけない例のあの人〟に親しかった人間〟〝ジニーに接触、ないしは接触出来た人間〟──でしょうか」
「その通りじゃ」
置いてきぼりなパーシー、フレッド、ジョージにも判る様に少しだけダンブルドア校長の言葉に註釈を添えてやれば、フレッドとジョージから〝待った〟がかかる。
「ちょっと待った、どうしてそこで」
「〝例のあの人〟が出てくる?」
「〝トム・マールヴォロ・リドル〟は〝ヴォルデモート卿〟なんだよ──ほら、こんな風にな」
フレッドとジョージ、パーシーに、いつぞや──前にアニーとハーマイオニーに見せた〝並べ替え(アナグラム)〟を見せてやれば、三人は驚きの表情を浮かべる。……〝トム・リドル〟に尊敬の念を懐いていたのか、特にパーシーの驚き様は一入だった。
「……そんな…っ、でも〝どうやって〟──あっ」
パーシーのその〝どうやって〟は先ほどダンブルドア校長の〝どうやって〟と重なっていた。
「……先にも儂が言った通り、それは判らぬことじゃ。……しかし、少なくともジニーが今年に〝秘密の部屋〟を開けたのは間違いないことじゃろうて」
「校長先生、ジニーはその──退学になんかなったりしません、よね…?」
「ジニーはビルに手紙が来た時から」
「ホグワーツに入学するのを楽しみしていたのに」
「そんな事になったら」
「ジニーが可哀想だ…」
三人は顔を蒼白くさせながらうちひしがれる。しかしそこで、今度はダンブルドア校長が待ったを掛ける。
「パーシー、フレッド、ジョージ、そう結論を急くでない。ジニーは退学にはならんよ。……ロンは気付いておったようじゃがの?」
「はい。俺もまず〝ジニーの退学についての可能性〟について考えましたが、ジニーが退学させられる可能性は低いと考えました」
「ほぅ、どうしてかね?」
「ジニーが〝名前を言ってはいけない例のあの人〟──もとい、ヴォルデモート卿に唆されていたのだと断言出来るからです」
「ヒュゥッ♪」「ヒュゥッ♪」
「おい、ロン」
敢えて〝ヴォルデモート〟と言い直した俺をフレッドとジョージが囃し、パーシーが怒る。
「良いのじゃよ、パーシー。……ここに居ない人間の名前を恐れるのはおかしな話じゃからな。……してロンそう断言した理由は?」
「……先の時代、ヴォルデモート卿には数多もの配下が居たのは云うまでもない事。……それはつまり、ヴォルデモート卿には人を惹き付ける何か──云うなれば〝カリスマ〟みたいなものがあったのでしょう」
「……ジニーもそれで?」
「はい。……本来なら〝疑り過ぎ〟とするところです。しかし、ことヴォルデモート卿についての事ならその〝疑り過ぎ〟でちょうど良いと、俺は考えています」
俺がそこまで意見を陳述するとダンブルドア校長は、ほぅ、と息を洩らす。
「……おお、困ったのぅ…。儂の言いたいところは全部ロンに言われてしもうたわい──たしかにヴォルデモート卿の甘言に数多くの魔女・魔法使い達がたぶらかされてしまった。……それに一年生がトムの巧みな話術によって唆されたとしても仕方のないことなのじゃよ」
「先生! それじゃあ…」
「そう、お咎め無し──とは言っても、君達の両親に叱られる事になる可能性は大いにあるがの」
「……やった!」
「やったな、フレッド!」
「ああ、お咎め無しだ!」
改めてダンブルドア校長から宣告された〝ジニーにお咎め無し〟と云う通告に、三人は有頂天となる。そしてタイミングを見計らい、ダンブルドア校長がまた口を開く。
「ジニーは儂が医務室に運んでいこう。……じゃから、今日のところはもう寮へお戻り──あぁ、儂としたことがロンと話したい事があったのを思い出した。……ロンは少々この部屋に残っておくれ」
(来たぜ、ぬるりと)
予想通り、ダンブルドア校長との面談タイムに突入した。
………。
……。
…。
マクゴナガル先生に連れられてグリフィンドール寮に戻って行くパーシー、フレッド、ジョージを見送ってから数拍。ダンブルドア校長は、まるで会話の取っ掛かりを探すように口を開く。
「……さて、ロン──君とこうやって話すのは久しぶりじゃな」
「そうですね。……クィレルの件以来になりますか」
「話に移る前に改めて礼を言わせておくれ。……此度の件で迅速かつ的確に動いてくれてありがとう」
ダンブルドア校長はそうやって頭を下げる。まず〝日記〟の事を思い浮かべるが、俺はダンブルドア校長に〝〝日記〟を壊してくれ〟言っただけで、対外的にはそこまで関与していなかった。一瞬だけ頭を傾げて、ふと思い至る。
「バジリスクの事ですか? あ、頭を上げてください」
「……そうじゃ。君達のお陰で50年前のように死者を出さずに済んだ」
「……大人しく受けとっておきましょうか」
「……ありがとう──ところで、話を戻そう。……して〝日記〟についてじゃが…」
「……恐らく、〝日記〟を破壊しない限りジニーは〝日記〟から解放されないでしょう」
「儂もそれは考えた。……しかし一通りの呪文は試したがついぞ破壊出来なんだ」
「……〝〝闇の魔術〟に属する呪文〟は?」
そう訊けばダンブルドア校長は眉根を寄せる。
「む…」
「きっとあの〝日記〟は闇に属する魔術の下で作られたマジック・アイテムです。……それも強力な…」
「……〝〝闇〟には〝闇〟を〟──と云うわけじゃな?」
「はい」
「……儂も判ってはいたのじゃ。……結局のところ〝そこ〟に行き着くのだと──よし、ジニーは後々マダム・ポンフリーのところに行かしておくからロンも今日のところは寮にお戻り」
「判りました」
ダンブルドア校長に一瞥して校長室から出た。
SIDE END
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