非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第46話『白鬼』
──鬼族。
それは、額に凛々しく生える角を特徴とする、竜族などの様に魔獣の上位に位置する種族。
単なる戦であれば、鬼族に勝る者はほとんどいない。肉体においても魔法においても、鬼族は優秀だからだ。
きょうび、純血の鬼族は存在しないと考えられているが、たとえ少しでも鬼の血を引くのであれば、ベースが人間だろうと驚異的な力を得る。
そして古来より、鬼族は様々な属性の魔法を使用している。
だから昔の人々は、属性を“色”に準えることで鬼族を分類した。
火の属性であれば『赤』、水の属性であれば『青』・・・というように。
『白』もその1つで、氷属性を意味した。
鬼族の造り出す氷は、ただの氷と比較すると強度や品質など、あらゆる面で秀でている。
戦闘においても生活においても、鬼の氷は重宝していた。
鬼族の特徴は他にもある。
それは『髪色』だ。これは、昔の人々が鬼を色で準えた理由にもなっている。
原理は不明だが、鬼族の髪色は使う魔法の属性によって異なり、しかもそれは準えた色と同色。いや、同色だからこそ準えられたのだ。
「・・・だから、白鬼の話が有名である北の街出身で、氷属性の魔法を操り、銀・・・もとい、白髪の君は白鬼だと、僕は推測したんだ」
「……悔しいけど、全くその通りです」
観念したように項垂れるユヅキ。今まで、自分の正体に気づいたのは彼が初めてだ。
そもそも、北の街で白鬼が有名だなんて情報、普通に生活していては知り得ないはず。
彼の情報網、そして魔眼ゆえの観察力が、事実を見抜いたといったところか。
「さて、自白も得られたことだけど・・・別に僕は探偵ごっこがしたかった訳じゃないよ。君が白鬼であること、それをまずは確認したかった。そしてそれが判明した後に君に問うのは、『なぜ王都を襲撃したのか』だ」
饒舌に言葉を並べていく青年。
彼はさも当然の事を言うように語っているが、ユヅキにしてみれば不本意な点が1つある。
「すみませんが、何度も言う通りボクはそんなことはしていません。ボクが白鬼であることは認めますが、襲撃に関しては全く身に覚えがありません」
「魔力の質が一緒だという証拠があってもかい?」
そう言われると、中々反論がしにくい。
ユヅキはしばし逡巡を見せたが、すぐさま取り繕った。
「・・・気になったんですが、それってホントにボクと同じですか? 誰か似た人って可能性も…?」
「視た感じは全く一緒だよ。・・・でも、強いて言えば、親族なら君と魔力の質が似ているかもしれないな。……君が否認するというなら、誰か家族にこんなことをしそうな人はいないかい?」
青年の質問の急な変化に、ユヅキはまたも困惑する。
確かに自分は違う、やっていない。でも、家族を疑われるというのも心外だ。
昔の話だが、お父さんもお母さんもそんな人じゃなかったはず。親戚はあまり知らないから何とも言えないけど・・・
「たぶん…いないです」
「…困った答えだな。素直に言ってもらわないと、僕は誰に復讐すればいいのかわからないよ」
「え、復讐…?」
「当たり前さ。故郷をこんなにされたんだ、復讐しないと気が済まないね」
そうか。先々から感じていた、彼の怒りの原因はそこだったのか。……イメージ的には、そんな物騒なことをする人とは思えないけど。
「…ボクか、その周りが犯人だと言うんですね」
「ああ、そうさ。百歩譲っても、犯人は君の親族だ」
ユヅキはその説に対して、落胆の色を隠せない。
自分が犯人ではないのは確実だが、自分の身内がこんな惨状を招いたのかと思うと、とても悔やみきれないものがある。
一体、誰がこんなことを・・・
「…時に、以前君と一緒にいた少年はどうしたんだい? 彼は無事なのか?」
「ハルトですか? いえ、実は今はぐれてて・・・それで手掛かりがないか、ここに来たんです」
「なるほど…。いくら魔法が使えても、彼1人は危険だね。街の人々は外には出られないようだし、彼も王都内にいるだろう。僕も捜すのを協力するよ」
「いいんですか!?」
まさに願ったり叶ったりな提案。
ユヅキは表情を輝かせながら、その申し出を受け入れる。
しかし青年は、「ただ1つ」と前置きを入れ、
「僕が君に協力するのは、真犯人を探すためだ。証拠が有ると言っても、君が10割犯人だと示せるものじゃなかったからね。君と一緒に行動していると、何か掴めそうな気がするよ」
青年はバツが悪そうにそう言った。
どうやら、ユヅキにキツい当たり方をしたのを反省しているようだ。
だが当の本人はそれを気にせず、増援に歓喜し続けるだけだが。
「それじゃあ、よろしくお願いします!」
「…あぁこちらこそ」
状況は変わらないが、晴れて和解した二人だった。
*
「残念だよ」
「がぁっ…!?」
予期せぬ一発を喰らい、石造りの通路に頭から突っ込んでしまう。
横腹で何かが肉を抉る衝撃を、痛覚を通して電撃となって身体中に伝わった。
「な……にが…?!」
口から溢れてくる血を拭いながら、晴登は横腹の様子を窺う。
・・・現状は、見ただけでも気持ち悪くなるくらいの大怪我だった。擦り傷を通り越して、皮膚が剥ぎ取られている。ドンドンと服に血が染みてきた。
晴登は何とか首だけを動かし、怪我の要因を探した。飛来物、それだけはわかっている。
すると、自分の進行方向に、先端が血に塗れた1本の氷柱が落ちているのが見えた。
「氷…? ユヅキ…か…?」
その氷を見て、図らずもユヅキの姿が思い起こされる。が、ユヅキがこんなことをするとは思えない。
犯人は、ユヅキとは違う、氷の魔法使いだ。
「誰だ…?!」
声を絞り出しながら、後ろを振り向く。
──するとそこには、肩にかかるくらいの銀髪をした、少年が立っていた。
「おや? まだ生きているのか。狙いが甘かったかな」
まだ声変わりのしていない、高い声が耳に入る。だがそれも彼の身長を鑑みれば、妥当といえよう。恐らく晴登よりは歳下である。
小学生ぐらいとあってか、顔の造りに可愛げがある。蒼い眼に白い肌という点を合わせると、もはや西洋の人形が擬人化したのではないかと疑うほどだ。
「誰だ、お前は…?」
「おいおい、無理に喋ると傷が痛むだろ? 大人しくしてた方がいいと思うよ」
だが、彼の大人びている言い方や嘲笑に、その評価は崩れ去っていく。というか、むしろ「いけ好かない」という評価を贈りたいくらい。
それだけ『嫌な奴オーラ』を出している彼だが、自分を傷つけた犯人は彼で間違いなさそうだ。
とすると、人を傷つけておいて、なぜここまでのうのうとしていられるのか。そこは疑問でならない。
それにしても、なぜ彼はこの地獄にまだ身を置いているのだろうか。彼だって、逃げなきゃいけない状況には変わりないはずなのに・・・
「でも、細かい…ことはいい。悪いが、邪魔…しないでくれるか? 行かなきゃ…いけないんだ」
「へぇ。避難する訳でもないのに?」
「っ…」
何とか関わり合いを避けようとしてみるも、どうにも逃がしてくれなそうな雰囲気。
かといって強行突破しようにも、傷のせいで上手く身体を動かせない。それに息を整える時間も要る。
晴登は寝転がったままはマズいと思い、とりあえず座る体勢に移行しようとした、その刹那、
「まぁいいよ。どうせ君はここで死ぬんだし。あぁ残念だね」
「は…? 何言って・・・」
晴登はそこで言動を止める。否、止めるしかなかった。
──頬に冷たい刺激と温かい液体が流れるのを感じる。そしてそれは、かすり傷の様にヒリヒリと痛みを伴い始めた。
「何の…つもりだ?」
「強さを誇示してるのさ。獲物が抵抗しないようにね」
「何で、俺を狙う…?」
「別に標的は君と決まっている訳じゃないよ。けど、君みたいな奴は標的だ」
「何言ってるのかわかんねぇよ…」
晴登は未だに痛みの信号を送り続ける脳で、必死に思考を巡らしてみる。
まず、奴の正体。怪しい、というのはもっともだが、どうも危険な感じがする。王都から逃げているようには見えないし、もしかしてウォルエナの襲撃と何か関係があるのか?
「うん? ヒントがあれば、何もかも理解できそうだと言わんばかりの表情だね。ヒント、あげようか?」
「わかってんなら、答えを教えろ…」
「はぁ、せっかちだねぇ。でも、特別に教えてあげよう。そうしたら素直に死んでくれるかな?」
「物騒だな…。そこで、『はい』って言う奴は普通いないだろ…」
周りの惨状とはギャップしかない少年の態度。それなのに、さっきから何1つ、彼についての理解が進まない。
それでも眩む視界を気力で保ち、晴登は言葉を紡ぐ。
「大体…お前は何で逃げない? 危ないのは、お前も一緒じゃないのか?」
そう言うと、彼はニッコリと微笑んだ。
普通なら可愛いはずのその表情も、晴登には焦燥感を煽ってくるものでしかない。場違いすぎるのだ。
その後の彼の言葉も、驚愕に尽きるが。
「ボクが危ない訳がない。だって、ウォルエナはボクの飼い犬だもの」
「は…!?」
「ボクが主人で、アイツらは下僕。この街への襲撃も、全部ボクが仕組んだんだよ?」
「おい、待てよ……嘘だろ」
晴登は告げられた事実に絶句する。
このウォルエナの襲撃が誰かによるものだなんて、想像すらしていなかった。
だが思い起こせば、おかしい点ばかりだ。
ウォルエナが王都に襲撃した時点で既に違和感だが、時間差で攻めてくるなんて、いくらなんでも獣にしては賢すぎる。
これが人為的だというのなら・・・辻褄が合う。
この少年が、諸悪の根源なのだ。
「お前のせいで…王都が大変なことに、なってるんだぞ…!」
「それはわかってるよ。まぁこの街は無駄に広いから、皆殺しにするのにはもう少し時間がかかりそうだね」
「お前…!」
彼の言葉を聞いていると、腹立たしさが幾分にも増していく。絶対に許してなるものか。
こんなのに関わってる時間は無いが、その鼻っ柱をぶん殴らないと気が済まない。
「ユヅキを、探さなきゃいけないってのに…」
「…! 今、何て言った?」
「あ? だから、ユヅキを探さなきゃって…」
『ユヅキ』というワードに、少年が驚いたような反応を見せる。
ユヅキを知っているということだろうか? こんな殺戮者とユヅキにどんな関わりが・・・
「お前、ユヅキを…知ってるのか?」
有力かは分からないが、ユヅキについて知っているなら何でもいい。
晴登は、若干焦り気味に問い詰めた。
すると・・・
「・・・あぁ、もちろん知ってるさ。何せボクのただ1人の“姉”だからね」
「は…?」
少々の間を置いて放たれた予想外の答えに、開いた口が塞がらない。
今アイツは“姉”といっただろうか、ユヅキのことを。
「あ、そうだ、君の言うユヅキという娘は白髪かい?」
「そう…だが…」
「だったら間違いないな。ボクの姉のユヅキだ」
あり得ない、とは言い切れない。彼の容姿との共通点も多いからだ。
そもそも、ユヅキの両親については一度訊いたが、兄弟については触れてなかった。
隠したつもりはないだろうが、これは予想外の展開である。
「…でも、弟が…ユヅキに何の用なんだ? 捜すにしても、たくさんのウォルエナ連れて襲撃は大掛かり過ぎるだろ…?」
「いやいや、この広さだ。あれくらいの数は当然。命令は『ボクの姉以外を喰らえ』だから、人がドンドン減ってすぐに見つかる予定だったんだけど・・・」
「…おい、待てよ。それもお前の命令だった…のか?」
「あぁ」
王都を襲撃する。てっきり、命令はそれだけだと思っていたのだが、まさか殺戮命令まで出していたとは。
・・・ユヅキ以外を殺すということは、ユヅキのみを王都に残すこと。もしかしなくても、あいつの目的はユヅキを見つけることだろう。
とすると、王都の人々はそんなことのために、今も逃げ回っているというのか? 喰われた人だっているのに……。
・・・何にせよ、皆殺しをしようって奴にユヅキは渡さない。あいつは・・・敵だ。
「よーくわかった…。つまり俺は、ここでへばってちゃ…いけない訳だ」
口元の血を拭いながら、晴登は立ち上がる。傷の痛みにはもう慣れた。まだ体力は戻ってきていないが、時間が惜しい。今は付け焼き刃で闘うしかないだろう。
ユヅキは救わなきゃいけないし、あいつは倒さなきゃならない。やることが多すぎてぶっ倒れそうだ。
「へぇ、まだ立てたのか」
「お前を野放しにはできねぇよ…」
自分がやる必要がある訳ではない。それこそアランヒルデやらに任せれば、この場を上手く切り抜けられるだろう。
でも、今は晴登しかいない。晴登しか、あいつを止められないのだ。あいつを止めれば、きっと全部が終わるはず。だから、
「ユヅキはお前には渡さねぇ。俺がここで、片付けてやる!!」
再び拳を握り、晴登は高らかに叫んだ。
後書き
おい、これって中学生の話だよな!?(焦)
ファンタジー突っ走りすぎて、何がしたいのか解らなくなってきました(笑)
あれ、俺はこんなことをしようとか考えてたっけな…?
………まぁ、細かいことはいいでしょう。
取り敢えず、ラスボス戦ということで次回からよろしくです。
戦闘シーンには自信があったりなかったりしますので、期待はしない方が吉。
それでは、また次回で会いましょう!
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