魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第79話「決死の時間稼ぎ」
前書き
決着...着かなかったよ...。(´・ω・`)
もう少し戦いは続きます。...あれ?オリキャラばっか戦ってる?
=out side=
「エイミィ、結界の解析は?」
「まだです!この結界、解析しきれないようにするためか、先程術式が書き換えられました!」
アースラにて、リンディの言葉にエイミィが解析のためのキーボードを叩きながら答える。
「っ...優輝達が助けに入ったのに、どうしてまだ...!」
アリシアもまた、結界の解析のために奔走している。
「....助けに、入った...?」
そして、そこでふと気づく。
「エイミィさん!」
「どうしたの!?」
「あの結界、もしかして侵入自体はできるかもしれない!」
そう。優輝達はなんの抵抗もなく結界に入った。
それ自体はアースラでも観測している。
...つまり、結界に入る事自体は普通に可能なのだ。
「気づかなかった...!優輝君たちが入れるなら...!...艦長!」
「...ええ。...行けるわね?プレシア。」
「分かったわ。」
入れると分かれば、リンディはプレシアへと声を掛ける。
「結界内に入れば、通信は断絶される。こちらでも結界の解析を急いでいるけど、そちらで決着が着くまでに解析しきれるかわからないわ。そして、あちらにはアースラに干渉する事も可能にしている。...投入できるのは貴女だけよ。それでもいいかしら?」
「当然よ。...フェイトもあそこにいるのだから、母親である私が黙って見ている訳にはいかないわ。」
そう言ってプレシアは魔力を滾らせる。
...フェイトが心配が故に、抑えきれなくなっているのだ。
「では、行ってちょうだい。」
「ええ。」
短く返事をし、プレシアは転送ポートへと向かった。
=奏side=
「ぁ...!」
響く魔法の炸裂音に、声が漏れる。
あの圧倒的な魔力は、おそらく偽物の方。
「優輝...!このままだと...!」
クロノが危機感を感じている。
...私も同じだった。なんとなく、優輝さん達がピンチになっていると分かった。
「.....!」
「奏ちゃん....?」
なのはが声を掛けてくるが、それが耳に入らない。
気が付けば、ユーノやリニスが張っている防御魔法の傍まで来ていた。
「(優輝さん....。)」
かつて、私に生きる希望を見せ、そして私に心臓を託して逝ってしまった人。
そして、魅了されていた私を救ってくれた私の恩人。
その人が今、危機に陥っている。
『奏...頼む。』
「っ....!」
....だからこそ、今度は私が助けると、覚悟した。
優輝さんから、合図の念話が来る。それと同時に、私は防御魔法の外に出る。
「奏!?何を...!」
「...優輝さんが危ない。だから、私が助けに行く。」
ユーノの言葉に、私はそう答える。
...優輝さんが私に伝えた指示は、一緒にいたユーノ達以外知らない。例え知っていたユーノでも本当にするとは思えない事だ。だから驚くのも仕方ない。
でも、それでも制止の声を無視して私は飛んだ。あの人の下へ。
辿り着いた時には、既に絶体絶命だった。
優輝さんは気絶。椿さんも満身創痍で戦闘不能。
ユニゾンが解けた葵さんしか戦える人はいなかった。
そして、偽物はトドメを刺すための剣を創造して三人に向けていた。
...それを見た私は、容赦なく横からハンドソニックで斬りかかった。
ギィイイン!!
「っ....!なに...!?」
「させない...!私が、相手になるわ...!」
何故か増えている偽物の片方が驚く。
あの優輝さんやユニゾンした椿さんを圧倒していた事から、力で勝てるはずがないと判断。すぐに私は飛び退く。
「...オリジナルにすら劣る奏が、なぜここにいる?」
「......。」
挑発染みた言葉で、私に話しかけてくる。
多分、魅了されていた時の私ならあっさりと引っ掛かっていたと思う。
「『...葵さん。援護を頼みます。』」
『....了解。』
...動きは見える。何故かは分からないけど、今はそれがありがたい。
後は...偽物の動きを掻い潜って一撃を与えるだけ...!
「っ....!」
宙を蹴り、一度離した間合いを一気に近づける。
対して、斬りかかられる方の偽物も、もう一人の方も一切動揺していない。
...大したことがないと思われているのだろう。
ギィイイン!!
「くっ....!」
「軽い上に単調だ。...受け流すまでもない!」
―――“Delay”
受け止められ、放たれた反撃を高速移動で躱す。
...見える。そして、対処ができる。だから...!
―――トクン...。
「(速く....!)」
〈“Delay”〉
微かに耳を打つ鼓動の音と共に、再び高速移動で斬りかかる。
―――トクン...。
「(もっと、早く...!)」
「うん....?」
〈“Delay”〉
さらに重ね掛けし、速度を高める。
まだ...まだよ...!まだ、足りない...!
―――トクン...。
ッ、キィン!
「(速く、早く....!)」
〈“Delay”〉
見える。理解できる。偽物の動きが。
でも、まだ私の動きはそこの領域に立っていない。
だから...。
―――トクン...。
「(反則を犯してでも、その領域に立つ...!)」
〈“Delay”、“Delay”、“Delay”〉
エンジェルハートが何度も同じ魔法を発動させる。
魔力結晶を一つ犠牲にし、一気に私は加速する。
「なっ...!?」
ッ、ギギギギギギギギギィン!!
普段の私からは想像できない程の高速な連撃を、偽物は全て防ぎきる。
...いや、動揺からか、少し掠っている...!
「っ、はぁ...っ!」
少し間合いを離し、息を短く吐く。
...正直、ここまでのパワーアップは私自身予想外ではある。
「(優輝さん...!)」
でも、きっと優輝さんのおかげだと私は思う。
この胸の鼓動が鳴る度、はっきりとわかってくるから。
「どこに、これほどまでの力を...!」
「....!」
私の力に驚いたらしい偽物二人が、同時に武器を創造してくる。
でも....。
「させないよ!!」
葵さんが割って入り、魔力で作り出したレイピアを当て、自身も斬りかかって叩き落しにかかる。魔力を全開で使っている事から、片方も抑えるつもりでいるみたい。
「(今....!)」
〈“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”〉
加速し、加速し、加速する。
飛んでくる剣を潜り抜け、片方の偽物の妨害も避け、狙いを定めた方の偽物に肉迫する。
「っ....!」
「っ、ぁっ!!」
〈“Forzando”〉
迎撃に振るわれた剣を、滑らすようにハンドソニックの片方の刃で受けつつ回り込む。
そして、もう片方の刃で切り裂いた。
突然の速さに意表を突かれたのか、その偽物はあっさりと攻撃を喰らって消えた。
「(...幻影...?...違う、分身ね...!)」
一瞬だけ見えたジュエルシードは、瞬時にもう片方の偽物に吸収される。
...緋雪だって分身魔法が使えたのだから、何もおかしくはない。
「...まさか、不意を突いたとはいえ、片方を倒すとは...。」
「...葵さん。」
微かに驚いて言う偽物を睨みつつ、必死に妨害してボロボロになった葵さんに声を掛ける。
「...っ、ぁ...まったく...、優ちゃんも優ちゃんなら、奏ちゃんも奏ちゃんだね...。どっちも無茶な注文ばっかり...。...訳はまだ詳しく知らないけど、ユニゾンするよ。」
「え....?」
“ユニゾン”。それはユニゾンデバイスと融合する事...なんだけど...。
葵さんは椿さんとしかユニゾンしてなかったはず...。
そう疑問に思う私だけど、それに構わず葵さんは私に入り込んだ。
「っ....!」
〈....へぇ...本当、優ちゃんの言った通り。相性いいんだね。〉
私の中から葵さんの声がする。
...ユニゾンは、あまりにもあっさりと成功した。
私の体から先程までなかった力が漲り、今まで知覚できていなかった“霊力”も自分から感じる事ができた。
「っ!」
ギィイイン!!
咄嗟に繰り出された剣を、ハンドソニックで挟むように受け止める。
そう、今この場で驚いている暇はない。すぐにでも動かないと...!
「...エンジェルハート。ついてこれる?」
〈...お任せください。〉
私のデバイスに声を掛けると、頼もしい返事が返ってくる。
彼女は、私が魅了されている間もずっと支えてきてくれた。
なら、私も相応の信頼をして、この戦いを切り抜ける...!
「(相手は優輝さんの偽物。罠に罠を重ねて相手を追い詰める用意周到な戦法を当然のように使う...。おまけに、ジュエルシード二つを核にしているから、一度に展開される魔力弾や武器の量は...。)」
戦力を改めて確認する私の視界に、多数の武器群と魔力弾が映る。
「(尋常じゃない...!)」
瞬間、奏は動き出す。
―――トクン
「(速く....。)」
〈“Delay”〉
その場から飛び退くように動き、包囲する魔力弾と武器の一部を紙一重で避ける。
―――トクン
「(鋭く...!)」
そして、避けきれないものはハンドソニックで弾き、包囲を抜ける。
けど、それだけで終わるはずがなく、先程までの場所に放たれていた攻撃が全て私の方向へと向き、新たに放たれる。
―――トクン
「(避けきれない...なら!)」
〈“Howling”〉
ハンドソニックの刃を合わせ、衝撃波を発生させる。
すると、呆気ないと思えるほど迫りくる武器群は撃墜され、魔力弾も半分が霧散した。
...今までの私だったら、気づけない突破口だっただろう。
〈“Delay”、“Delay”、“Delay”〉
「ふっ...!」
「っ...!」
ギギギギギギギギギィイン!
武器が弾け飛んだ所を一気に駆け抜け、偽物に斬りかかる。
ただ斬りかかるだけでは受け流されるため、攻撃の瞬間にディレイを使う。
攻撃のタイミング、位置をずらすその戦法は、上手く偽物の導王流を封じた。
「確かに...厄介だな...!」
「.....!」
一瞬で展開される、数えるのも億劫な量の武器群。
一部には魔力弾も混じっている上、少し見えたけど砲撃魔法を放つ魔法陣もあった。
「だが、これはどう捌く...!」
「っ....エンジェルハート!」
〈“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”...!〉
魔力結晶が次々と消費されていく。
私の魔法は確かに比較的消費魔力量が低い。
だけど、ここまで連発すればさすがに消費魔力量が桁違いになる。
...そのために、優輝さんは私に魔力結晶を託していた。
魔力さえあれば、偽物と渡り合えると分かっていたから。
「ぁあっ...!」
宙を蹴り、駆け抜ける。
ハウリングを使って武器群を落としても、すぐにまた私に向かってくる。
迫りくる魔力弾を躱し、偽物の直接攻撃も受け止めた瞬間に移動して受け流す。
砲撃魔法は放たれた直後に接近して魔法陣を破壊し、再び迫る剣を叩き落す。
「はっ、はっ、はっ...!」
魔力の心配はほとんどない。体への負担も、私の魔法の場合そこまでではない。
だけど、思考能力は疲弊と共に低下する。このままではすぐに落とされるかもしれない。
「(なら、一点突破...!)」
魔力結晶を10個取り出す。...その魔力量は、AAAランクに匹敵する。
その全ての魔力を、私は一つの魔法につぎ込んだ。
「っ、ぁ、ああっ!!」
〈“Delay”〉
まずは間合いを詰め、偽物に肉迫する。
武器群と魔力弾も一時的にハウリングと散弾のように放った魔力弾で相殺する。
「っ、まさか...!?」
「.....!!」
〈“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”、“Delay”〉
―――音が、消えた。
...いや、正確には知覚できなくなったのだろう。
刃を振るい、当たる瞬間に位置をずらし、すぐさま移動する。そしてまた斬りかかる。
それを、まさに一息の間に連発すれば、それどころじゃなくなってしまう。
だけど、その効果は絶大だった。
「っ、ぐ、くっ...がっ、がはっ...!?」
偽物も身体強化を最大限まで使っていたのか、拮抗する。
だけど、途中から私が押し始め、一撃、二撃、三撃と決まった。
...でも、それは急所とかを狙う事もない、デタラメな太刀筋。ただ受け流されないために放った攻撃だったため、どれも致命傷には程遠かった。
「ぁ、ぁあっ!」
「っ!」
放たれた魔力の衝撃波に、急いで私は間合いを取る。
...あまりに怒涛の連撃だったからか、先程放たれていた武器群は全て地面に落ちていた。
「まさか...ここまで、とは....!」
「っ、ぁ....ぐ...!?」
間合いを離し、一息つく間があったのがいけなかったのだろうか。
私は体に鋭い痛みを感じ、重ね掛けていたディレイが解けてしまう。
〈凄い...けど、このままだと...!奏ちゃん!〉
「っ、体、が....。」
異常なまでの魔法行使だったため、反動が今ここで来てしまった。
体が上手く動かせず、痛みも凄まじい。
「(でも....!)」
動かせない訳じゃない。我慢できない訳じゃない。
優輝さんは今まで何度もこんな痛みを味わっていた。
例え、どれほどボロボロになっても諦めたりはしなかった。
だから、私も諦める訳には...!
「っ...!」
「だけど、ここまでみたいだな。」
下から、さっきまで地面に刺さっていた武器群が迫る。
それに対し、私は咄嗟にハンドソニックを振るおうとして...。
「“ディバイン...バスター”!!」
...桃色の砲撃に、全て薙ぎ払われた。
=out side=
―――奏が偽物に挑みかかった頃...
「奏ちゃん!?」
なのはの声が響く。
当たり前だ。本来なら勝てると思えない...実際、なのは達でも負けた相手に、一人で戦いに行ってしまったのだから。
「奏...まさか、優輝の策が...。」
「そうなのか...!?だが、しかし...!」
無謀なのに挑む。その事にユーノがふと呟く。
“策がある”。そんな言葉にクロノは驚くも、それでも危険だと思った。
「....そういえば、奏は魔力結晶を結構持っていた。...それも、僕ら全員の魔力を全快させる程の。」
「あれは...優輝のものなのよね?なぜ、あの子が...。」
ユーノが思い出したように呟き、優香が疑問を抱く。
「...ここに来るまでに、優輝が奏に託していたんです。...“切り札”を使うまでの時間を稼げるように。」
「けど...神夜君でさえ勝てないんだよ!?奏ちゃんだけじゃあ...!」
奏は神夜に強さで劣る。それは周知の事実だった。だから、なのはは危険だと言う。
...しかし、それは“魅了がかかっていた”時の事だ。
以前、この場ではクロノ以外覚えていない事だが、優輝と緋雪の戦いを妨害させないための足止めの戦いで、椿が奏にある事を言っていた。
―――“....貴女は、もっと強くなれるはずでしょうに。”...と。
それは、魅了が掛かっているが故に、成長の妨げになっていた事を表していた。
「....何かが違ったんだ。」
「...何?」
ユーノの呟きにクロノが聞き返す。
「僕らが戦った暴走体は、闇の書の時のリインフォースだったんだ。...そして、奏は一度吸収されてしまったんだ。」
「っ、そこまで再現しているのか...。でも、脱出したんだな?」
「当然。そうでなきゃ、ここにはいないよ。...でも、奏の雰囲気が少し違ったんだ。」
それは、魅了されていた時と、されていない時の違い...とはまた違った。
「...奏自身、何か策があるのかもしれない。」
実際には、策があるという程でもなかった。
だが、魅了が解けると共に、奏は心残りなどもなくなっていた。
さらには、優輝の心臓を前世で持っていたからか、優輝の影響を強く受けて奏は偽物の動きが理解できるほど急激に成長している。魅了による妨げの反動もあるため、急成長はしばらくすれば収まるだろうが...。
それが、雰囲気が少し違った原因だった。
ちなみに、この場の全員どころか、優輝や奏すらも気づいていないが、奏の急成長の原因には優輝の能力の一つ“共に歩む道”が関係している。
共に歩む...つまり、互いに成長を促進させているのだ。
「でも...それでも...!」
「...心配なのは、わかるが...。」
なのはの言葉に、クロノは奏が飛び立った方向に視線を向ける。
そこには、いくつもの剣と魔力弾が飛び交い、その合間を潜り抜ける奏の姿があった。
「...移動魔法の連発による加速...。でも、あれじゃあ消費魔力が...!」
「...そうか!そのために優輝はあの子に魔力の結晶を...!」
優香と光輝が、奏のしている事に気づく。
移動魔法の異常なまでの重ね掛け。それによって偽物と渡り合っていたのだ。
「けど、長くはもたないぞ。あれは...!」
「....くっ、優輝と念話が繋がらない...!」
光輝の焦った呟きに、クロノが優輝と念話を繋げようとする。
気絶しているため、繋がらないのだ。
「椿ちゃんには...?」
「...椿は、魔法が使えないんです。だから、念話も通じない...。葵がいてくれれば...!」
クロノ達は、葵がこの場に来ている事を知らない。
だから、念話を繋げようとする事もなかった。
「奏ちゃん!!」
「っ、なのは、待て!」
我慢ならなくなったなのはは、奏を追いかけるようにユーノの防御魔法から出る。
「光輝!」
「分かった!」
優香の呼びかけに、光輝がなのはを連れ戻しに飛び出す。
「待って!...守りは僕とリニスさんで担当する。皆は、優輝達が“切り札”を使うまで奏の時間稼ぎの援護を!」
「ユーノ!?...だが...!」
ユーノの言葉にクロノは驚く。
...それはつまり、気絶している者達の守りを薄くするのと同義だからだ。
「偽物の気は完全に優輝達や奏に向いている。...守るくらい、やってみせるさ...!僕が得意な事なんて、そういう事ぐらいだからね...!」
「っ......。」
クロノは考える。奏に任せるか、守りを捨てて助けに行くか。
...いや、考えるまでもなかった。
「...どの道、何かに賭けなければ負ける...。なら、少しでも“勝てる”と思える方に...!...ユーノ、リニスさん....頼んだ。」
「...任せて。」
「守るだけしかできないのも悔しいですが....そちらの方が確実ですしね。」
ユーノとリニスの言葉を聞き、クロノは安心して守りを任せた。
「...行きますよ。優香さん。」
「...わかったわ。...二人とも、気を付けて。」
そして、クロノと優香も奏のいる所へ飛び立った。
「なのは...?」
「奏ちゃん、助けに来たよ...!」
奏は、助けに来たなのはに対して驚く。...あまりにも無茶だったからだ。
...尤も、奏の今の行為も相当無茶ではあるが。
「邪魔が入ったか...。だが!」
「っ....!」
ギィイイン!
偽物は瞬時に奏との間合いを詰め、斬りかかる事で吹き飛ばす。
奏は咄嗟に攻撃を防いだものの、吹き飛ばされ、さらに追撃の武器群が迫る。
その武器群は、なのはも対象としており、なのはでは捌ききれない量だった。
「撃ち落としきれない...!」
〈させ...ないっ!〉
そこで、葵が自身の魔力を使い、レイピアを創り出す。
そのまま射出し、なのはが撃ち落としきれなかった武器群を相殺する。
「っ....!ガードスキル...!」
〈“Delay”〉
奏自身も、反動で痛む体を抑えつつ、そこから飛び退くように避ける。
「っ、ぐ....!?」
しかし、上手く体が動かず、咄嗟にハンドソニックの刃で凌ごうとして...。
「“ソニックエッジ”!」
横合いから飛んできた斬撃によって武器群は撃ち落とされた。
「なのはちゃん!離脱を...!」
「させない!」
光輝がなのはを庇うように立ち、離脱しようとするが、偽物はそれを逃がさない。
一瞬で展開される対処不可な量の武器群。さらに少し遅れて魔力弾も展開される。
「“トワイライトバスター”!」
「“ブレイズカノン”!」
光輝となのはに向けて放たれたそれらは、二つの砲撃魔法によって打ち消される。
そのまま偽物へと突き進むが、偽物は姿を暗まして躱してしまう。
「光輝!離脱はなしよ!ここで足止めする!」
「っ、了解...!」
優香が光輝の隣に並び立つ。クロノはその背後に立ち、偽物を探す。
「下だ!」
「はぁっ!」
「なっ...!?」
クロノが魔法では探知できないと思い、肉眼で探して偽物を見つける。
しかし、見つけた瞬間に偽物は短距離転移で上に回り込み、クロノに斬りかかった。
「させ、ない...!」
「奏...!?」
ギィイン!
それに割り込むように奏が偽物に斬りかかり、刃が当たった瞬間に回り込む。
受け流されないように攻撃を当たる瞬間をずらして何とか偽物を止める。
〈『不用意に直接攻撃はしないで!努めて受け流されないように!』〉
「その声は...葵!?」
全員に響き渡る念話に、クロノが驚く。
だが、すぐに気を引き締めなおし、奏を狙うように展開されていた魔力弾を相殺する。
「生きてたのか...!」
〈『どこかの誰かさんが散々ボロボロにしてくれたけどね!今は奏ちゃんとユニゾン中!優ちゃんは気絶してて、今かやちゃんが起こして“切り札”を使うから、それまで時間を稼いで!』〉
「突っ込みどころは多いが...了解!」
クロノは優香と光輝に目配せをし、魔力弾を展開する。
「『なのはと僕は魔力弾の相殺。...生憎、偽物と接近戦をやり合えるのは今の奏しかいない。優香さんと光輝さんは遊撃!上手くフォローしてくれ!』」
指示を飛ばし、背後から迫っていた魔力弾を相殺する。
「ここが正念場だ!!」
「....っ、は...!」
なのはとクロノの魔力弾で偽物の武器群と魔力弾の大部分を相殺し、残ったものは優香と光輝が処理をする。
奏も必死に偽物に食らいつくが、偽物は嘲笑うように一笑する。
「っ、ぐっ....!」
「奏ちゃん!」
偽物は鍔迫り合っていた奏を押し、吹き飛ばす。
クロノ達に剣や魔力弾をばらまいた後、すぐに奏に追撃を放つ。
「っ...!」
〈“Delay”〉
間一髪、その一撃は躱す。だが、続けて放たれる攻撃は躱せない。
「“ソニックエッジ”!」
「“レストリクトウィップ”!」
そこへ、武器群と魔力弾を切り抜けてきた光輝の斬撃と優香のバインドが迫る。
斬撃はあっさりと受け流されたが、鞭の如きバインドは受け流しきれずに腕を拘束した。
「“創造”....。」
「っ....!」
だが、拘束されていないもう片方の手を掲げ、武器群を創造する。
それを差し向けられた奏達は、必死にそれを防ぎ...。
「“ブレイズカノン”!」
「ちっ...!」
その間に追いついてきたクロノの砲撃魔法が残りの武器群と偽物を薙ぎ払う。
尤も、偽物には回避されたが。
「...シュート!」
「はっ!」
追撃になのはの魔力弾が放たれるが、それらは全て切り裂かれてしまう。
「....この、方角だったな?」
「っ...!ユーノ!!」
「間に、合わない....!」
無造作に放たれる砲撃魔法。誰も狙ってなかったが故に、一瞬見向きもしなかったそれは、いつの間にか近くに寄っていた、ユーノ達が皆を守る場所に向けられていた。
相殺するのも間に合わないそれは...。
「“チェーンバインド”!!」
ユーノが放ったバインドに絡め取られ勢いをなくし、多重展開された障壁で防がれた。
「っ....!」
「さすがだユーノ...!」
ユーノの頑丈なバインドだからこそできた芸当に、クロノは感心する。
「なら....!」
「っ、させ...!」
〈ダメ!全員下がって!〉
何かをしようとする偽物を止めようとする奏。
しかし、葵の鋭い警告を聞き、全員が咄嗟に飛び退く。
「爆ぜろ。」
―――“模倣:セイント・エクスプロージョン”
瞬間、偽物を中心に大爆発が起きた。
「っ....!」
「『全員、無事か!?』」
全員が咄嗟に防禦魔法を張り、クロノが念話で無事を確認する。
「『な、何とか...。』」
「『こっちも防いだよ。クロノ。』」
「『...同じく。』」
なのはとクロノ、優香と光輝、奏と葵で協力して防御魔法を張り、ユーノも少し離れた位置だったため、全員防ぎきれたようだ。
...だが....。
「...これは、どうする?」
「っ....しまった....!」
...防御に集中していたがため、偽物への警戒が薄れてしまっていた。
偽物は巨大な魔法陣を作り、今にもそれをユーノに向けて撃ちだそうとしていた。
「(あれは....防ぎきれない...!)」
込められた魔力量を感じ、ユーノはそう思わざるを得なかった。
それでも防ごうと魔力を滾らせ....。
「...“サンダーレイジ”。」
偽物に対し、紫の雷が降り注いだ。
「ぐっ....!」
―――“Twilight Spark”
咄嗟に用意していた砲撃魔法を放ち、雷を相殺する。
「...待たせたわね。」
「プレシアさん!」
雷を放った人物は、プレシアだった。
「アリシアの言った通り、侵入するだけなら簡単ね。...でも、状況は...。」
「芳しくありません。優輝達が“切り札”を使うまでの時間稼ぎですが...。」
クロノの言葉が終わる前に、プレシアはある方向へ砲撃魔法を放つ。
なんとそこには姿を暗ましていた偽物がおり、偽物は咄嗟に躱す。
「ちっ...!電気か...!」
「ええ。普通の探知では発見できないから、静電気レベルにまで弱めた電気を張り巡らしてあるの。これなら例え彼の偽物でも...!」
「くっ....!」
雷が落ちる。それを偽物は防御魔法で逸らす。
「厄介な。...とりあえず、接近戦ができる奴から落とす...!」
「っ....!」
それでもまだ、偽物は優勢だった。
さらに、懸念を減らすために偽物はなのは達の魔力弾の合間を縫って奏に接近する。
「させ...!」
「全員、邪魔だ!!」
―――“Sternschnuppen”
他の皆がそれを阻止しようとするも、巨大な魔力弾が降り注ぎ、その対処に追われる。
「奏....!」
「くっ....!」
ギギギギィイン!
一人で対処しなければいけない状況に追い込まれた奏は、必死に攻撃を防ぐ。
だが、先の魔法の反動で動きが鈍った奏では、防ぎきれず...。
ギィイイン!
「あ.....。」
刃が大きく弾かれ、無防備になってしまう。
「まず、一人...!」
そして、奏目がけて偽物の剣が突き出される。
「.....させないよ。....よく頑張った、奏。」
....が、その剣の一撃は、腕を掴まれる事で止められた。
「....優輝、さん....?」
「....ここからは、任せて。」
そこには、まさに神とも思える神々しさを持つ、少女がいた。
後書き
Forzando…アタックスキルの一つ。接近戦用の魔法で、攻撃のインパクト時に発動する。斬撃、打撃、刺突のどれにも対応し、瞬間の威力を高める。なお、この魔法は単発仕様で、連撃用の魔法が他にもある。由来は音楽用語のフォルツァンド(特に強く)から。
Howling…Angel Beats!のガードスキルの一つ。ハンドソニックの刃を合わせて共鳴させ、超音波のような攻撃を放つ。超音波なため、投擲武器はもちろん、魔力弾などの術式を乱す事もできる。だが、味方がいる時はあまり使えない。
Sternschnuppen…ドイツ語で“流星群”。文字通り流星群の如く巨大な魔力弾を降らせる魔法。一つ一つの魔力弾の威力はなのはのディバインバスター並。
....ようやく次回、偽物との決着が着きます...。長かった...。
奏が超パワーアップしてますが、それは今回限りです。
今回のは反動を考慮せずに、さらには優輝と再会した影響でテンションが上がっていたからこそできた戦闘ですので。
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